新分領の立ち上げ方
南方領の領地はほとんどの所で短い期間に農業改革が進み、まずは土を蘇らせ、魔素抜きを行い井戸水や水源の復活を推し進めたおかげで回復が見られる。これは現地の皆さんの働きとそれを長い目で支えているスルトの功績だと思う。外部では殺伐としている情勢ではあるが、この元ファンテール南方領は回復の兆しが見えてきている。各領の領地を運営する領主の皆さんや代官さんの尽力もあり、『王祖の迷宮』のセリアナさんやエリアナとも緊密に情報交換をしてよい関係を維持しているのだ。
そこでここでもそろそろ南方領として誰か女王に分権しよう。……と言う話がセリアナさんから出ているのだけど……。ここで問題が発生した。
実は南方領や北方領からは誰一人僕の妻扱いで受け入れている女性が居ないのである。最初はリリアを派遣するかと本人を交えて話あったが、リリアはエリアナの傍から離れるつもりは無いとのこと。なので、またも嫁取りフラグが一本立った。……ただ、今回は僕にとっては都合のいい展開となる。
僕を恐れてか、嫁入り志願者の挙手が一つも上がらなかったのだ。……あ、違うらしい。僕が怖いのではなく、高い身分の男性にいきなり嫁ぐと言うのが恐れ多いと言うことらしいね。セリアナさん曰く、こっちの南方の領主は最高でも子爵。王家関係の血筋に嫁ぐには最低でも伯爵くらいでないと、嫁に出すには身分が足りないのだ。それからもう一つ問題がある。領主の奥さんとは面識はあるけれど、領主の娘さんとは誰一人面識がない。……いや、そういえば1人面識ある子がいると思うのだけど。
「まさかジョゼのことをおっしゃってますか?」
「そういえばリリアは彼女と親しかったよね? どこで知り合ったの?」
「ジョゼはお兄さんが戦で亡くなるまでは、私と同じく魔法師団に所属していました。度重なるラザーク戦役にジョゼのお兄さんも参加しており、亡くなったそうです。跡継ぎのいないお家を継ぐべく、ジョゼは私よりと同時期に退役していたので、面識があったのですよ」
なんか結構壮絶な人生を歩んでたね。ジョゼフィーヌ。アホの子かと思っていたけど、軍人としてはとても優秀で指揮能力に長けていたとのこと。当時の魔法師団の中では片手の指の数も居ない女性中級士官以上の1人が、あのジョゼフィーヌとリリアだったらしい。ちなみにリリアは上級士官を退役してエリアナの侍従になったとのこと。
正直、必ず分権が必要なのかという事が僕の中では疑問なのであるけれど……。
政治に詳しい面々からはこれからは自立した領政を、中央の議会が率いる政治に切り替える必要がある。現在は僕と繋がりのある聖女ポジションである女王が治めているが、その次からは女王が任命する優秀な人材が政治を担って行く。性別も関係なくなしていく。現在は僕の性別の問題上女性しかいないけど……。ラザークがいい感じでエリアナ女王国の法を持ったまま文化を維持して自治を持つことができた。そうなると次を考えるのも当たり前のことなのだ。
いずれは融和を保ったままいろいろな州を県をと、その土地を切り盛りする人員を増やさねばならない。その雛型をどんどん増やし、新たな体制を確固とした政治体制を構築していく段階なのだ。その上で、前例を踏襲し、新たな物を飲み込んで新たな形態へと徐々に変えて行く。これが現在のエリアナ女王国の進んでいる道なのだ。
「それにこの前ルールを決めましたよね? 最低限僕と面識がなくちゃいけない訳ですけど」
「そうなのよね~。そうなると、北方に関しては誰も居ないのよ」
「どうせなら旧貴族のように、一度お誕生日パーティーとか交流サロンを開催します?」
「強制的にはダメよ。それに人間族はデリケートなの。クロちゃんが相手だと普通の子だと死んじゃうかもしれないし」
「僕は殺人鬼ではないんですけども……」
結局、セリアナさんから出た案によりジョゼフィーヌが生贄にされ、北方からも哀れな子羊が1人選ばれた。記憶にあるかどうかわからないが、僕がツェーヴェとヴュッカと共に北方の腐ったミカンに挨拶しに行った時の事。1人だけ土下座して領民を逃がそうとした領主さんが居たんだ。その人の娘さんがちょうど年ごろで、未婚。北方領主は3人生き残っている。その生き残りさん達の間ではそのお嬢さん以外に適任が居ないとのこと。既婚かまだ幼すぎるらしい。残りの未婚の子女は人族で3歳ってことだ。
完全にドナドナかと思いきや、号泣領主さんの方はすっごくのりのりでお嫁に出してくれるという。まだ、お見合いですけどね……。あそこの領主さんのは優秀な息子さんが居て、既に彼が領政を取り仕切り、回復が目覚ましい。それはセリアナさんも知っていたようだ。
問題は同じ馬車に乗せられて身震いしていたらしいジョゼフィーヌのほうだろうか? 僕に嫁入りするのがそんなに嫌なのかと不安になった物だ……。初めて思った。ちょっと不安になったもん。ついに僕が誑しみたいな悪い風評が蔓延して来てる? って。実際はツェーヴェが怖いだけみたいだった。
「お、お久しぶりにございます。クロ殿下」
「お初にお目にかかります。殿下」
「もっと気楽にしてよ。僕が疲れちゃうから。僕はあくまで象徴だしね」
ジョゼフィーヌは相変わらず現場一筋の性格で、セリアナさんが送ってくれた代官さんが大活躍とのこと。ジョゼフィーヌは仕切りやとしてはとても筋がいいのだけど、書類仕事はからきしなのでこれがベストフィットなのだとも思う。逆にジョゼフィーヌは現場の殆どの部分を取り仕切っているので、彼女1人に尋ねればおおよその状況が理解できると、代官さんもとても高く評価している。本当に器用なんだか不器用なんだか……。我が家にもその気がある娘が1人居るしね~。
対して深窓の令嬢という雰囲気のお嬢さん、ドルツェンハイム子爵家の長女、ニナリア嬢は興味深げに僕の席側に居る魔人衆を観察している。特に気に入ったらしいヨルムンガンドを見つめている。見つめられているヨルムンガンドも見つめ返しているので、不思議な空間ができあがっていた。もう、お見合いという段階ではなく、和気あいあいとした家族の会食のようになっている。
そして、セリアナさんが根回しした2人の女王就任の件に、異論がある領主が居るか? という問いかけに、全領主から異論なしの回答が来たと言う。娘の方も女王就任は関係なく嫁入りならいいけれど、女王の重責は怖いとのこと。……上昇意欲が少ないというか、野心がないというか。まあ、目の前で国が崩れていく瞬間を目の前にして、いきなり下級貴族だった領主家のお嬢を女王に推薦したところで民衆がついてくるか不安なのはわかるけど。セリアナさんも2人を助ける女官が必要なのでと南方と北方に各5人の挙手を求めた……。こっちは凄い人数いるらしい。
「そ、それでわたくし共の輿入れは本決まりなのですか?」
「そうね~。クロちゃんはNO!!とは言わない子だから。貴女達が問題ないなら本決まり。晴れて女王の仲間入りよ。女王とは言っても大きな土地を管理する統括官のような扱いではあるけど」
「……でしたら、私はぜひに」
「わ、私も!!」
という段階を踏んで人族の妻が増えた。今回は比較的僕も協力したので『貸1』にしている。セリアナさんも最近はこの貸し借りと言うのを上手く利用するようになってきたので、ちょっとやりやすい。それからセリアナさんの法制度サロンと銘打って、僕との顔合わせ会がいつかあるとのこと。どの領から何人くらい来て、どれぐらいの意欲かもわからないので、選考基準も複雑なのだという。
僕の関知するところにはないので、僕は笑顔で手を振るだけに留めるつもり。
セリアナさんからもそれでいいと言われてるし。元ファンテール領はいろいろ複雑な場所だからね。セリアナさんは元王族として、あの土地の復興には本当に注力している。エリアナにもあそこのことは触れさせない程の力の入れようだ。ツェーヴェ曰く、セリアナさんにはあの500年前の王様の日記のことがのしかかっているのだと思うと。
セリアナさんはあの王様の怨嗟の籠った日記の言葉を、ツェーヴェが読み上げる間はずっと真剣な表情だった。それ以上は個人の心の中だから見透かすことはしないけれど、王祖を受け継がなかったセリアナさんが汚名を注ぐことが、あの王様の怨嗟を打ち消すことに繋がるのだろう。……とツェーヴェは言う。いつものセリアナさんを見ているとそんな深遠な考えをしている様には見えないが、セリアナさんの本性はあっち側だからね。いつものちゃらんぽらんは擬態。彼女の本心が見え隠れするのは、彼女の瞳が揺れるほんの一瞬だ。このロリ法務長官の頭脳は本当に恐ろしい。ツェーヴェの比喩を借りるなら、未来予知でもしているようなものだと。
「そ、それでセリアナ様もご懐妊中なんですか?」
「そうね~。お相手が魔人だから、娘に苦労はさせたくなくて~……。軽い気持ちで一晩の過ちを犯したら一発で当たっちゃってこのざまよ~。でも、この子はちゃんと育てるわよ。なんたってクロちゃんとの子なんだもの~」
「魔人様との夜は本当に伝承通りなのですか?」
「そうよ~、ニナリアちゃん。最初は覚悟が居るけど、今ではそれ用のお薬とかもあるし。慣れね、慣れ」
「ひ、ひえ~」
「ふぅむ、物語のような悲恋にならないのですね。それは安心です」
僕はその手の物語を読んだことがないので、セリアナさんにざっくり聞いた。
魔人との悲恋は基本的に成人指定図書なんですね……。ちょっと自主規制ワードが多すぎるので、詳細を語れないが、とにかく多いのが寝室での悲惨な死だった。なんでそうなるのかという辺りにちょっと身に覚えがあり過ぎるので何とも言えない気分になる。ちゃんと言葉にして自主規制ワードを使わないとなると、体力差という事になるね。魔人は魔素によりあらゆる方面が飛びぬけている。それにより、他種族は対応できないのだ。それは僕の寝室でも顕在化していて、僕が起きる時にまともな状態なのは監視役のハーマさんだけ。ちなみに、ハーマさんが出動したのが一度だけある。人魚族のイレーヌがとあるプレイを懇願し、スキュラのユーリアを巻き込んで窒息死しかけてエリクサーのお世話になったとのこと。それ以降は誰もハーマさんを出動させてはいないらしい。
……翌日のこと、ジョゼフィーヌとニナリアの2人の為に出動したらしいよ。なんでだろうね。
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・成長記録→経過
クロ
オス 生後165日~170日
主人 エリアナ・ファンテール
身長130㎝
全長17㎝……身長12㎝
取得称号
~省略~
取得スキル
~省略~
~=~
NEW
ジョゼフィーヌ・ハープランド
女性 17歳
身長165㎝
人族
取得称号
・鉄人 ・現場主義 ・じっとするのは苦手
南方に古くから騎士爵として存在し、現在は男爵位の貴族の出身。どちらかと言うと軍閥でお家も武家。魔法適正が強く武芸も達者。定期的に体を動かさないと体調を崩すタイプ。軍属時代からのあだ名が『鉄人』。どういう事かは領政の運営方法から解る。
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NEW
ニナリア・ドルツェンハイム
女性 17歳
身長150㎝
人族
取得称号
・鉄血 ・飴と鞭 ・印象と真逆
北方の比較的新興の子爵家出身。文武に長けたバランス型で、扇動術と回転のいい頭を武器に伸し上がって来た。その才能は女性の立場が弱かったファンテール王国の支配下でも有名で、お見合いの申し込みは多かった。儚げで可憐な外観とは異なり、実はかなりのドS。苦悶の表情を見ることに快感を覚える。半ば二重人格レベルで切り替えが激しい。