新たな属国化・鬼ヶ島
僕は翌朝にハイエルフのエリックと、その直下の部下をブラックナイト号に乗せて飛び立つ。危急の要件という訳ではなく、事後通達でいいレベルの事だった。けれど、一応エリアナには報告し、僕が一度見に行って正式に代表者を連れ帰るべきだと判断したんだよ。アポロンの書状には要約するとこういったことが書かれていた。『いきなり攻め込んできたので、沖合の島国へ報復して乗っ取った』……と。頭を抱えたいが、なめられては行けない。報復まではいいんだけど……。
その島国に住んでいたのは外観は人族に近いのだけど、そのその頭部には刃のような角が一本か二本生えているという。シェイドの所に居る鬼族と繋がりがあるのかもしれないが、今は首魁を捕まえて情報を聞きだすために地下牢に入れてあるので、余裕のある時に僕に来て欲しいようだ。エリックが言うにはいきなり海上から船上で宣戦布告されたらしい。その時相手したのがエリックと数名のエルフ。たまたま浜で投げ釣りを楽しんでいたところだったんだって。
あまりにも発言が物騒なのでエリックと部下数名が弓で船を沈没させ、乗船していた戦闘員を無力化。拿捕。その後にこちらからアポロンと主戦力のハイエルフ30人で戦意の有無と目的を問いただしたところ、罵詈雑言が返って来たのでフルボッコにしたと……。
「で、こいつ等が首魁?」
「へい、大親方様! こいつらが首魁で間違いねーです!!」
「全員女性なのはどうして?」
「簡単に言いやすと、やろうは根性なくて直ぐに口を割りやして……、残りがこいつらってことでさ」
「ふ~ん。なら、ちょっと苦しくなるかもだから、僕の後ろに部下を全員寄せて」
「へ、へいッ!!」
なんか変な喋り方をするエルフだったなー。
とりあえず、いきなり攻撃してきた上でだんまりは問題なので、僕は以前に手に入れた異能で手加減を加えつつ押しつぶす。僕の魔素流出を目の前に居る10数人の女性武者と、鎧を付けていない豪奢な衣服と髪型の女性鬼を圧迫。実際に重力や空気圧が上昇した訳ではない。これはそう感じるだけだ。知性ある存在が持ちうる感情という要素を魔素に乗せ、魔素の密度を一点に集約してそこにだけ滞留させる。余りに強情だと死にかねない技ではあるが。……あ、やり過ぎた。
これはけっこう調整が難しく、圧を上げ過ぎると相手が簡単に気絶してしまう。
ちょっと足しただけだったのに、女性としてはもういろいろと終わってしまった気がするが、僕はその辺を無視して先ほどのエルフ達に告げる。
「冷や水でもぶっかけて尋問しといて。次だんまりをしたら、さっきよりもえげつないことになるって脅しとけば喋るんじゃない?」
先ほどからエルフ達が僕に畏怖や恐怖のこもった視線を向けて来る。これくらいで驚かれちゃうと困るんだけど……。僕の鍛練上では毎日リヴァイアサンや吸血鬼が頭から地面に埋まるんだから。
僕はアポロンの本妻、アルテミスの様子を見に行く。アルテミスは黒い……着物と言うらしいシャープな印象の服装だ。ワンピース? 違うな、バスローブを重厚にした感じだろうか? 凄く質感はいいし、生地も巻き帯も美しいんだけど、独特な衣装だ。似合ってるから良いけど。そのアルテミスもペコリとあいさつしてくれた後に、例の攻撃精力のことを教えてくれた。アレは『鬼ヶ島』という所に住んでいる和鬼族という種族らしい。鬼なんだ。魔人から派生した種族ではなく、島の中で継代的に力の強い人族が力を積み上げた結果の種族なんだと。その力は魔族と同じ程度で、現在のエルフやハイエルフには勝てない。
余談だが、ハイエルフの精鋭部隊はアポロンの加護を得たおかげで空を飛べる。意外と近いらしい鬼ヶ島は彼らの弓撃で制圧することですでに『太陽の迷宮』に従属する形らしい。つまりエリアナ女王国に従属する訳だね? それにあの島は魔境ではあるが小規模で、迷宮核もない。アポロンが取り込んで、現在は地下からつなげる為に深い穴を掘っているとのこと。
「だからアポロンは居ないのか」
「肯定します。アポロンはあちらの首魁を拿捕した後、食糧支援を開始するようです。あまり食料事情が良くないようで」
「ほう、まぁ、あの鬼の女性はどうする気?」
「返答しかねます……。が、私見でよろしければ」
「いいよ」
「感謝いたします。アポロンとしては彼女らは罪人とし、本拠地で厳重に管理して欲しいとのこと。内1人に希少な固有スキルを持つ者が居ます。未来視の異能とのことです」
凄い情報だな。そういう事なら確かにアポロンの手には余る。なので、エルフの尋問が行われている地下牢にアルテミスと向かう。そこでは熱血刑事と半分ぐれた若者のようなやり取りがされていた。ま、僕を見た瞬間に盛大に粗相の上で部屋の隅に後ずさる。僕はできるだけ悪い人間の顔を意識して和鬼族の女性を堕とす。情報を抜き取るために。そのまま目に♡が浮いている和鬼の女性を鉄格子の分離牢へ入れて次々行く。
最終的に最後の最期でお姫様っぽい豪華なしたての着物を着ている、少し幼さの残る毅然とした態度の和鬼と相対す。
まぁ、最初から判っていたけど、その少女は僕の氣を感じた瞬間に盛大に足元に水たまりを作り、号泣しだした。さすがのアルテミスでも哀れな者を見る目をしているが、攻撃してきた側は相手なのでどうしようもない。僕は号泣中の和鬼の少女に根気よく問いかけて理由を聞きだす。そこでようやく判明したのが、最初は貿易できたらいいな……。というようなスタンスだったのに、いつの間にか配下の施政者の中で訳の分からない侵略作戦にすり替わっていたらしい。
父親の代から仕える譜代の家臣で腐敗が横行しているのは知っていたが、こんな目に遭うようなら粛清しておけばよかったと、物騒なことを泣き叫ぶ和鬼の少女。まぁ、ハイエルフの中に真偽看破の固有スキル持ちが居るので、直ぐにわかることだろう。アポロンが率いるハイエルフが魔法で結界を張っているので逃亡も侵入もできないらしいから。
その途中でアルテミスが僕に代わり、和鬼の姫を叱り始める。
「貴女は償わねばなりません。いかに家臣が理由であろうと、それを野放しにしたのは貴女が暗愚の君だったからにほかなりません。こういう物に年齢は関係ないのですよ。そして、民を導く者は相応の責任を持たねばなりません。今、貴女は問われています。その身で償うか、ただ愚かしい傀儡の姫として死すか」
本当に究極の選択を突きつけてしまったね。もうちょっとオブラートに包んであげれなかった物だろうか? 事情としてはお隣のエルフ王国の女性王族に似ている。しかし、この子の場合は一考の余地があるので、僕が一応の助け舟を出しておいた。この子は父君が年老いた中でようやっと生まれた姫で、王位継承権のある者は彼女以外いない。まぁ、鬼ヶ島では女性に当主継承権がないので、彼女と結婚した男子が王権を持つ。
その政治闘争のごちゃごちゃや、最近エルフ王国が新興国家に吸収されたことを知った過激派がまとまりなく動いた結果なのだろう。男の有力者らしい和鬼を尋問したエルフからの報告を受けるとそういう事らしい。中にはこの子の暗殺派までいたようだ。
このような事情があってもこの子が王家の血を引く以上、王権という大きな責任を持つ権限を持ちながら国を守り切れなかった責任を取らねばならない。そこでアルテミスからの片方の提案というのが、この戦事態をなかったことにする代わりに、あの鬼ヶ島をエリアナ女王国に譲渡する。また、王権の消失と共にエリアナ女王国が宗主国となり庇護下に入る。それを拒否する場合は王家の血筋を全て殺した上で力づくの統治となってしまう。どちらがいいか……という事だ。半ば誘導尋問だけどな。
この子のお母上が病に倒れていることも情報として手に入れている。今頃ヨルムンガンドが治療していることだろう。アポロンが救援を呼んだのは僕だけではない。鬼ヶ島という島に疫病の兆しがあったのだ。その為にヨルムンガンドとゲンブを呼んだとのこと。
「ふぐっ……ぐすっ……これでも当主の端くれ。この身一つで解決するならば、どのような扱いでも受けようではないか。民の安全は保証してくれるのだな?」
「肯定します。では、我らが象徴たる黒龍様より『王祖の迷宮』にて沙汰をお受けなさい」
「煮るなり焼くなり好きにせい」
なんか、先程よりも和鬼の女性の人数が増えた。金属の格子でできた持ち運べる牢屋に全員を詰め込み、ヨルムンガンドとゲンブを乗せて『王祖の迷宮』へと帰還した。最初は驚かれたが、数珠繋ぎにされた和鬼の子女や女性の列が謁見の間に連れていかれた。
エリアナやセリアナさんと話した結果、今回問題となった継代的に育っていた腐敗の芽が出た姿だ結論付けた。その実行犯となる大臣級や管理職級の当主を鬼ヶ島の法で裁く。また、お家は取りつぶしの上で『蛇神神殿の迷宮都市』で労役囚人としてその四親等以内の血族に罰則を科す。ただし、真偽看破により判明した直接関わりの無い者は無罪放免。職はこちらで斡旋し身柄も管理する。
また、今回家の継承権はない娘ではあるが、直接関わってしまっている娘20数名。島を治める当主家の姫とその家族、同行を志願した使用人や護衛の女性衛士が計40名。彼女らは人質としてエリアナの管理下に入る。腐敗を許してしまったのは祖父の代からだろうが、それを知りながらさわりもしなかったことは問題だった。いくら女性に継承権や参政権がなくとも行動は起こせたのだ。その責任は統べる者の血を引く子女として果たさねばならない。
まぁ、殆ど恩赦で無罪放免である。お母上が病床に伏していた事や資材を擲ち、疫病の拡大を抑えようとはしていたらしい。それが評価され、罪は無し。今はセリアナさんと今後のことを親子で話している。まさかヨルムンガンドのヤツ、エリクサーを使うとは……。
「この度は寛大な処置痛み入りまする」
「桜花さん、頭を上げてください。世の中こういうことは付き物ですから」
「何事も諸行無常という事ですね。驕れるものは必ず滅ぶという事ですか」
「それはそうと、1つご相談があるのですが」
「は、はぁ……」
「それはですね。ごにょごにょごにょごにょ……」
この時の密談はそれ程大きな物ではない。しいて言うなら僕にしか問題は起きない問題だった。それだけだよ。
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・成長記録→経過
クロ
オス 生後165日~170日
主人 エリアナ・ファンテール
身長130㎝
全長17㎝……身長12㎝
取得称号
~省略~
取得スキル
~省略~
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