閑話休題30『息子達の男子会』
新参の僕がナレーションでもいい物なのだろうか? 初めまして。インドホシガメ型魔物のコンゴウです。父であるクロの眷属として最近生まれました。頼りになる長兄と頼りにならない2人の兄に誘われ、今日は長兄のタケミカヅチ兄さんのお城にお呼ばれです。
嵐龍のタケミカヅチ兄さんの飛行速度はとても速く、僕と2人の兄を背に乗せてもククルカルナ大砂漠の真ん中からも数分で到着。長兄のタケミカヅチ兄さんは5人のお嫁さんが居て、皆さん綺麗な龍だ。キャラも濃い。初っ端からアポロン兄さんとシェイド兄さんがお嫁さん2人に拿捕されましたが、さすがに今日は男だけの話し合いなので、残念がるお嫁さんズはシャットアウトして食事開始です。
配膳のメイドさんはずっと居るけど、数に含まれないよね?
このセンテン高地はここに所属する科学者のエリーカさんによって魔改造されてかなりの高所にある。だけどめちゃくちゃ居心地がいい。魔道具様様だね。実はこの兄弟の集まりは何度もしているらしい。最初はシェイド兄さんがタケミカヅチ兄さんへ嫁増加回避の方法を事前に聴きたいという事だったのだけど……。美味しい料理も出るし、どうせなら皆で集まろう! ……となって、最近生まれた僕もお呼ばれ。お父さんが呼ばれないのは何故か聞いたけど、お父さんは既に諦めて虚無の境地に居るから。という深遠な表現の言葉を頂いた。そうだね。お父さんのお嫁さんって、なんでかいつの間にやら増えてるもんね。
「コンゴウの調子はどうだ? 大変そうならウチの組から数人手配するぞ!」
「大丈夫やって、コンゴウは俺らより優秀やで。ジオ姉の話やと、このまま砂漠が落ち着くようなら東の荒野開拓に出してもええって言うてたしな~」
「ジオねーちゃんがか……。あの人はなんだかんだ言って辛口だもんな。あの人がそういうなら本もんだよ」
シェイド兄さんとアポロン兄さんの言う『ジオ姉』とか『ジオねーちゃん』とは、僕が今お世話になっているジオゼルグ姉さんのことだ。砂漠の支配者で、最近はククルカルナ大砂漠の全域を急激に縄張りへ組み込んで、他の魔物の勢力を根こそぎ収奪している。僕が強い魔物を追いやるからと姉さんは言うが、姉さんは僕がおらずともとても強いから、いずれ達成していたと思う。
本題からは逸れて居るけど、タケミカヅチ兄さんも魔境の開拓の話へ会話の舵を切る。
今は僕らの生みの親でクロ一家の家長のお父さんも縄張り拡張よりも、縄張りの中を充実させることに重点を置いているので、まだまだ先の話になるだろうという。僕は別にこのまま魔物でもいいと思っているしね。お父さんや兄さん達の嫁さん騒動を見ていると、魔物のままの方が平和な気もするからだ。僕の甲羅はダイヤモンドでできている。表面が風化すると、時折ポロっと落ちるんだけど、そのダイヤモンドが僕の分体になり、その区域の音声を拾えたり、視界共有ができてからはそうやって情報を得ている。
僕はお父さんのように慌ただしい生活は肌に合わないし、タケミカヅチ兄さんのように飄々と躱すことも難しい。シェイド兄さんはたぶん何だかんだとハーレムになるだろう。アポロン兄さんはエルフの女性を多数囲って酒池肉林らしいので論外。
「まぁ、コンゴウはしたいよーにしたらいいさ。協力が必要ならいつでも俺達は協力すっから」
「せやのー。俺も助けて欲しい時は言うさかい、たのんだで~」
調子のいい双子の兄2人はタケミカヅチ兄さんに窘められることが多い。
タケミカヅチ兄さんが生まれてからアポロン兄さん、シェイド兄さんが生まれるまでが全員姉さんだから肩身が狭かったんだろうとはお父さんから聞いている。タケミカヅチ兄さんはお父さんと同じく面倒見がよく、お調子者の2人と比べると妻帯者の貫禄がある気がした。一応アポロン兄さんもアルテミス姉さんと婚姻関係なんだけど……。性格の違いだと思いたい。
美味しい料理を食べつつやはり、縄張りや魔境関連の話が出尽くしたところで近隣の情勢へと話が移る。ここの話は僕も聞き逃せない。僕の能力は防御に特化しているので、前線で防御するために行くかもしれないからだ。ただ、行くとしたら南方のアルジャレド通商連合国だけど。タケミカヅチ兄さんの話だと最近縄張りを勝ち取って、大領主になったユミル姉さんの魔境と隣接している人間の国から変な臭いがするらしい。異臭じゃないよ? きな臭いってやつだね。でも北方は僕では難しい。まだ飛竜形態のハムシーンだから環境適用の外套を流用できたけど、僕は亀だからそういう装備は使い難くて、環境が合わない。
対して南方の方面も人間との兼ね合いだけど、魔境という最大の防御とイオ姉さんという魔人が居る点。環境の合致から僕が配備されるならあそこだからだ。
「やろな~。もしくは俺んとこやろ。一応こっちも隣接はしとるからな~」
「なら俺んとこもだぜ? めっちゃ少しだけど」
「んなことで張り合うなって。どのみち正面はイオのとこだからな。攻めやすさから言ってイオのとこだろう。海からって話もあるが、険悪な島国がある中でわざわざ海からくるかね~?」
「それは解らへんよ? 人間は時々わけわからんことしよるからのー」
「確かに、意外性って言えば聞こえはいいんだろうけどな……。傍から見れば奇行にしか見えねーもんな」
我が家で一番奇行を起こす兄さんがそれを言いますか……。
それも個性と言えば個性だけどね。タケミカヅチ兄さんも少し呆れている。魔物の僕からすればシェイド兄さんの縄張りにしても、イオ姉さんの縄張りにしても、アポロン兄さんの縄張りでも直ぐに移動できる。スルト姉さんからコツを教えてもらって魔素を集約し、後方に放つことで空をすっ飛んでいけることが解った。砂漠なんて魔物も少ないから飛行訓練くらいしかすること無くて、見回りついでに飛行しながら魔物を轢き殺す技も習得できた。
そのおかげでレベルも100を超えてるから、縄張りを得るだけで魔人化は行けるかもね。……もしくは何かしらのことで迷宮の位階が上がれば、僕も直ぐに魔人化できる気もする。
一緒に生まれたハムシーンともたまに会って話しているけど、あっちもレベリングはしているので縄張りを得れば直ぐにでも魔人化すると思う。僕はジオゼルグ姉さんの奥、真東か東北東方面に縄張りを拡げるだろう。ハムシーンは全く手の入っていないお父さんの縄張りのお隣にある荒野にある魔境がいいと目を付けている。兄さん達はなんやかんやと言ってくれるけれど、まだまだ先だろう。実際に人間の地方が大荒れだもん。お父さんがまた動くかもしれないし。
「そういえばコンゴウはおやじの技はガードできるのか?」
「兄さん。何をアホなこと言ってるの? 無理に決まってるじゃないか」
「そうなん? コンゴウでも無理なんか~……」
「だと思うぜー。俺、目の前でアレを見たけどよ~。アレで威力を最大限下げた攻撃なんだと。魔境を6つ平地にする攻撃がだぜ?」
「おうふ……」
「ありえへんて~」
ホントにね。でも言わせてもらうけど、僕の防御は兄さん達の攻撃も防御できるかは怪しい。兄さん達は魔人化している。今の僕の力量と兄さん達の力量はまさに雲泥の差。今の僕では無理だと思う。仮に魔人化したとしても僕の防御で一撃守れても、アポロン兄さんなら連射してくるだろう。シェイド兄さんならそもそもバックアタックしてくるでしょ? 隠密特化だし。極めつけはタケミカヅチ兄さんだ。タケミカヅチ兄さんの攻撃は僕みたいな鉱石系の魔物には天敵中の天敵なんだ。風で研磨され、電熱で熱されて脆くされたら溜まったもんじゃない。
まぁ、僕はこのクロ一家でゆったりと過ごしていければ文句はない。その内、僕にも何かの転機はあるだろうし。