閑話休題3『迷宮住まいのお嬢様』
私はエリアナ! エリアナ・ファンテールです。10歳です。
何故か父上にいきなり辺境の領地に行けと言われ、メイドのリリアと一緒に馬車に乗せられました。そこに到着する前に盗賊に襲われ、リリアと御者が戦いましたが私は恐怖か眩暈を起こし、気を失っていたようです。
いつの間にか洞窟の中に天蓋付きの豪華なベッドがあるという…チグハグな場所で寝ていました。
リリアはとっても綺麗だけど、なんでか怖いお姉様とお話をしているようなので、邪魔しては悪いと思って少し中を見学させてもらって居ます。不思議な洞窟ですね。とても濃い魔素が張り詰めているのですけど、少しも苦しくありません。それに、リリアやお姉様以外にも気配があります。強い魔素を孕んで吐く、……魔物でしょうか?
「か、可愛い」
私はその生物を見て一目で心を奪われました。可愛いのです。人のようにベッドに入って寝ていますが大きさは……大きくみても5㎝程。私の掌の上ですやすや寝ています。お腹の辺りが呼吸に合わせて上下し、ダランと後ろに伸ばす両手足がキュート。たまに、尻尾をクルクル動かすのも愛らしさに拍車をかけます。
すると、どうしたのでしょうか? 目が開き、何度か瞬きをしたのちに、動かなくなってしまいました。呼吸はしていますから死んではいないようですけど……。
心配になったので、リリアとお姉様のところに連れて行きました。……申し訳ない事をしましたね。いきなり私が手の上に載せていたので驚いてしまったようです。そうですよね。私も寝ているまに別の場所に動かされたら驚きます。
ツェーヴェさんと言うらしいです。この洞窟に長く生活している魔導士様とのことで、私も時間を見て魔法を習いたいと思います。それ以外の時間は、リリアと一緒にご本の整理をしたり、掃除のお手伝いです。
「今日もごはんが美味しいかったですね。リリ」
「そうですね。お屋敷にいらした頃よりも調子が良いのではありませんか?」
「そうね。ここは楽しいわ」
どこから用意したのかわからないけれど、ツェーヴェさんがご自分のベッドと同じものをもう一つ用意してくれました。広さ的には問題ないらしいのですけど、リリアは使用人としてもっと質素な物を……なんて言ってます。
ツェーヴェさんは『一緒に寝た方がいいと思うわよ?』と言ってくれました。
実は寂しかったんです。優しくしてくれるのはリリアだけ……。家族の中で私だけのけ者にされているようであのお屋敷には二度と帰りたくありません。ここは環境的には野趣にあふれていますけど、公都の邸宅などよりも暖かくて、優しさにあふれていて……。とても幸せなのです。それでも寂しさは拭いきれませんでした。それも、リリアが居るから大丈夫。最近ではツェーヴェさんも一緒ですからとても楽しいです。
ただ、残念なこともあります。
ここはツェーヴェさんの収集物と生活空間を一つにまとめた、そこそこ深い洞窟です。そこにはもう一人の住民が居ましたよね? そう、私が出会った初日に無礼を働いてしまったクロさんです。彼は見た目に幼いのでどうしても『クロ』と呼んでしまいますが、彼は私達4人の食料調達を担ってくれている重要な存在です……。ですが、私は彼ともっと触れ合いたいのです。
「やはり、外は危険なのですか?」
「えぇ、リリアくらいの実力だとあまり遠くへは行かない方がいいわ。クロか私が居るならいいけれど、それもできるだけ頻度は低い方がいいと思う。野獣は意外と狡猾なの。人が考えているよりもね」
洞窟の中だけでは息が詰まるので、時たま入口くらいまでなら許可を取って出ることもあります。けれど、それより外へは行ってはいけないとツェーヴェさんから厳しく言われていました。
そんなある日、リリアが面白い物を見つけたらしいので、私も物見をしに行きます。そこには大きな扉がありました。これが面白い物? ……と、最初は落胆もありましたが、直後、私の体が光に包まれ、扉の開錠音が響きました。また、私が扉に触れると対して力も入れていないのに、独りでに大扉は全開になりました。中には黄金の玉座と、篝火……奥に白く光る巨大な球体があります。それ以外は特にありません。しかし、クロさんが調べる為でしょうか、玉座周りを軽快に飛び跳ね、観察しています。か、可愛い♡
そうやってクロさんを観察していると、私の頭の中に何かの声が響き渡りました。女性だと思うのですけど、何故か感情のこもらないその声に恐れが強まります。
そうとも知らずにリリアから玉座に座るように促され、私は恐る恐る私には大きすぎる玉座によじ登り、座りました。
「驚いたわ~」
「リリア様、おめでとうございます!」
おそらく、私以外にも先ほどの無機質な女性の声が聞こえたのでしょう。私は、この迷宮の主として認められたらしいです。
玉座の大きさも私の基準になったのか、縮んで座り心地が良いです。そのひじ掛けに手を乗せると、何やら半透明な板が現れました。よくわかりませんが、たくさんの絵が並んでいます。その絵の左下隅に数字が表示され、半透明の板全体の左下隅に何やら物凄い桁の数字が並んでいました。……何なのでしょうね? 説明のようなものがどこかに記されていないか、半透明な板の絵をどんどん下げてみますが、ありませんね……。その途中、クロさんが私の肩の上に飛び乗り、何やら絵の中の1つを指定して『これ、これをやって』と言ってきました。…………あれ? 今、クロさんの声が聞こえたような?
それからいろいろ試行錯誤した結果、いろいろなことが判りました。
半透明の板は一枚ではなく数枚あり、私が求めていた説明書もちゃんとありましたし……。至れり尽くせりな迷宮です事……。呆れ半分ながらも、私はクロさんが示してくれた指針を元に、迷宮に私の領地を作ることを決めました。可愛い生物やカッコいい鎧を配置して、堅牢なお城と、便利な生活空間。もちろん、4人で生活できるように整えています。この後に誰か来ることも考えてありますよ?
「う~……。リリ、かえして~!!」
「エリアナ様……。迷宮製作は一日半時までとお約束したしましたよね?」
「や~だ~! 皆のお家はしっかりつくるの~!!」
リリアはちょろいので、ちょっと泣きを入れるだけで大丈夫。問題はツェーヴェさんです。ツェーヴェさんは……クロさんにメスの視線を向けています。私のクロさんに……。ジェラシーです。
最近知ったのですけど、ツェーヴェさんは魔人でした。しかもかなり高位の魔人で、この森の主『蛟』という龍種に類する存在だと解りました。……どうやって知ったのかって? 私が迷宮の主になった日に、いろいろ探している時に私の状態を知れる盤面を見つけたんです。その中に、クロさんとツェーヴェさんが、私の従魔になったとの表記があったんですよね……。あの時は玉座からずり落ちてしまいましたとも。『蛟』とはこのファンテール王国の中に昔から伝説上の存在として知られる、雨の守護龍ですから。
一部の村落では信仰の対象とされ、本国の中央神殿でも神を支える神獣として扱われる程の存在です。それが従魔? ちょっとどう接していいか改めて考え直すべきかと思いましたが……。ツェーヴェさんは私個人がどんな者であろうとも、そもそも小さなことを気にするような存在ではありませんから。……それでも、クロさんの存在は気になります。彼は私のスキルでさえもその存在が看破できない存在。つまり、蛟さんよりも高位の存在です。……ともなれば、魔人化することも確実ですよね? ふふふ。いつか、私の婿にせねばなりません。アレだけチャーミングなのです。人の姿も絶対可愛らしいはずですから!!
この私の選択は後にファンテール王国を揺らがす危機を覆すことにつながるとは、私当人すら考えの及ばない遥か彼方の出来事でした。私が、新たに王祖となる。そして、ファンテール女王国の誕生を決定づける一つの要因になるのですよ。マジで……。
~=~
・記録
エリアナ・ファンテール
女性 10歳
取得称号
・迷宮主 ・迷宮製作の天才 ・迷宮の幼領主 ・古代の王家の末裔 ・クロ大好き ・蛟の主 ・クロの主
身長130㎝
人族
従魔 ・クロ LV.……(???族) ・ツェーヴェLV.322(水蛇の魔人族 蛟)
取得スキル
+舞踏 +社交 +迷宮製作(限定スキル) +築城 +内政




