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閑話休題28『お茶好き龍と魔人の語らい』

 初めまして。私はキアント=ミア。龍族の中でも特殊な出生をする死屍龍族です。死屍龍族は卵を瘴気渦巻く魔境『死の谷』へ生み落とし、親は子の姿を見ることはありません。なので私も親の顔は知らずに育ちました。何が私に影響したのか、私は土地持ちとなるほどの力を開花させ長い時間を生きています。

 その途中。私はとある龍に喧嘩を売ってボコボコにされてしまいました。

 その名は蛟。狂犬ツェーヴェとか通り魔龍などと呼ばれる危険な存在でした。今ではとても大人しく、とあるオスの後ろで女性らしく慎ましく佇んでいる。学術屋としては親交はあります。その程度でした。その蛟がとある日に私の住まう孤島に現れ、『見合いはどうだ?』と言うのです。ちょっとよくわからず疑問だらけでしたが、錬金術の研究中だった私はすぐにでも帰って欲しかった。その時の彼女の言葉に即答した私の欲深さに、この時だけは助けられたと感じます。


「へ~。ミアってそういう繋がりでここに来たんだ」

「そうですね。ベラドンナもそういう繋がりの私の友達です。医療系の薬関係で交友がありまして」

「龍って変な繋がりあるよね。普通は龍が錬金術師になってるなんって誰も思わないし」

「それはそうかもしれませんわね。でも、龍は基本暇です。長きを生きれば生きるほどに、趣味を持つ者だと思いますわ」


 目の前に居るのは私の現在の雇い主であり、旦那様の眷属である娘。豊山巨蛇ヨルムンガンド様です。生まれてまだ数10日の魔人とは思えない力の持ち主で、本当に油断ならない存在です。おっとりまったりとしているこの存在は、父君である『黒龍』様のご加護の中で最も危険と考えられる存在ですから。

 ヨルムンガンド様は錬金術師であり、薬師です。私と完全に職分が被ります。

 私がお見合いの理由に釣られた高級素材の山を管理している存在。別にちゃんと報告さえすれば何を使おうと『いいよ~』と言ってくれる気前の良い魔人です。しかも、友人のベラドンナと共に好待遇で雇ってくれました。……ついでにお父君のお嫁さんとしてもちゃんと推薦してくれましたし。

 このヨルムンガンド様と私には意外と共通の趣味が多い事にも驚いている。まず、お茶作りです。焙煎の浅いお茶からしっかり焙煎したお茶まで……。穀物のお茶、果物、樹皮、特殊な香料……果ては昆虫など。なんでもお茶になります。昆虫のお茶が美味しいので驚きですよね。


「ミアはここにはもう慣れた? おとうさんがどんどん作り変えるから、時々迷子さんが出るって聞いているけど」

「そうですわね……。1日過ぎると屋敷の部屋が増えているというのは驚かされましたわ」

「あ~。おとうさんはモテるからね~。ところでミアはいつおとうさんと赤ちゃん作るの?」

「……あの~さすがにそれは授かりものですから。こほん。今妊娠している方々が出産するまでは、一旦抑えるとのことです。仕事が回らなくなるそうなので」

「事務はそうかもね~。まぁ、いいや。でも、楽しみにしてるから」


 この表情に起伏の無い魔人は本当にやりにくい。見た目は本当に可愛らしいのに内側は本当に蛇だ。蛟も蛟ですけど、この巨蛇も巨蛇です。蛇の魔人は本当に解り難いのでやりにくい。趣味に興じている時は見た目相応なのに、こういう世間話の時の方が緊張させられる。龍も年齢不詳ではありますが、魔人は特にそうなのでどうしても油断できない。旦那様……クロ様は勘違いしていますが、魔人は魔人化した年齢から老化しません。例外的にスキルでそういう形態を得ることは可能ですが、魔人は魔素の吸入効率が全生物の中で断トツなので。肉体の老化は起こらないのです。

 その代わり、魔人は魔素との同調が強すぎるので他の生物とは違い魔力切れ、魔素切れで死んでしまうので注意が必要ですけど。

 目の前の魔人は最近開発したマメを焙煎した物を好んでいます。マメの炒り方で深みが違い、魔素の含ませ方でマメの味わいも異なります。ヨルムンガンド様は苦みがとても強く、とても深みのある物をお好み。お父上もそうらしい。親子ですね。

 錬金術師としてこの方はとても遠い位置に居る。そして、学者としてもこの魔人はかなりの高みに居る。私はまずこの魔人から学ばねばならない。幼く見えるが、けして侮ってはいけない存在。紅の巨蛇。豊山の魔人に逆らうのは得策ではありません。というか、私としてはここは天国なので、この魔人に逆らう意味は何一つありません。お茶も美味しいですし。


「そういえば、ミアが欲しがってたキッツい麻酔。雛型ができたよ」

「できたんですね。どうです? 実用化はできそうですか?」

「ん~ん……駄目。強すぎて龍族か魔人にでもないと使えない。強すぎる。特殊な溶液に希釈すれば常用はできるけど、希釈液に中毒性があるからやめるべき」

「やはり都合よくは行きませんか」

「うん。その代わり、副産物として面白い物はできた」


 この魔人は時折おかしなことをするので注意していないと酷い目に遭わされる。一応、無理強いはしない性格なのが幸いで、ちゃんと使用前に説明はしてくれるのですが……。以前、調子に乗ってこの国に喧嘩を売ったエルフの国が武力制圧され、王族が全員掴まりました。その王族が国家転覆の罪で罰金刑に処されて……それの支払いの為にモルモットをしているんですよ。それが副作用の強いとある薬を摂取して大変なことになりました。

 彼女に記憶がなかったことと、実験室もかなり厳重に管理されていたので女性として尊厳を失うことはありませんでしたが……。自分が検体だったと仮定すると、私は生きて居られるか不安です。次の日には首を吊りそうです。

 ヨルムンガンド様は時折そういう薬を作っているので、ちょっと油断ならないところはあります。その目的というのが……私含むお父上の妻の為という事。セリアナ様からの依頼品で、もう長らく試作を繰り返してはモルモットの痴態を観察しているらしいのですが、未だに完成の目途は立たないとのこと。ヨルムンガンド様が私の目の前に乳白色の粘度が高い薬液をおもむろに置きました。……凄く嫌な予感がします。


「さすがに1人で作るのは無理。だから、ミアには種明かししとこうかと」

「た、種明かし?」

「そう。薬は奇術や魔法じゃないから、種も仕掛けもある。この薬の錬成法を教えておかなくちゃな~と思って」


 私は蓋を開けてその薬液の臭いを手で扇ぎ、嗅ぎ取る。……これ、アレでは?

 ヨルムンガンド様はいつもの能面のように起伏の無い表情を、黒い笑みに染める。どの様に集めているのかは知らないが、これはアレだ。ヨルムンガンド様はこれを錬金術スキルの分析により、細かく振るい分け、有用な成分を抽出し利用している。それはいい。いやいや良くない。確かに、私達は夜に飲んでいることはありますけど……。

 本当はお父上様の血液が一番いいと言う。魔素の純度も高く、成分の濃さも丁度いい。それを分析、錬成すれば様々な薬剤ができる。どうにか手に入れたいけれど、さすがに本人に言っても許容してくれるとは思えないので、こういう迂遠な方法へ移行したらしい。

 いろいろ問題だらけだと思うのは自分だけかと疑問に思うのだけど。目の前の魔人は私にとある提案をしてくる。


「それね? 僕の作った避妊薬を掻い潜れるようにできる薬」

「は、はい」

「確か、ミアは欲しがってたよね? おとーさんとの子供」

「そ、そうですけど……」

「寝室に行く前にそれ飲んどくと、いろいろ決まっちゃうから記憶も無くてちょうどいいと思うけど?」


 恐ろしい。このマッドサイエンティストは誰かが首輪をつけておかねばならない。……欲望に負けてもらう私も私だとは思いますけど。

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