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別の所に問題が出る

 何だろう。今日は凄く寝起きがいい。そして、家の中が静かな気がする。それもそうだ。僕と娘3人。ブラックナイト号以外は居ないらしいからだ。……どうしたんだろうか? まぁ、僕は僕で仕事があるので、三人を連れて執務室へ向かった。


 ~=~


 そこには妊娠者含めた全員が集められていた。『王祖の迷宮』謁見の間を会議室代わりに使い、そこでは40人から70人近くに膨れ上がった『お嫁さん会議』が緊急招集されていた。仕事にとりつかれたような面々も居るが、彼女らも仕事よりもこちらを重要視する。この国ではクロという存在が最重要だからだ。

 彼女らも半ば理解している。クロをここにつなぎとめる供物のような立ち位置であると。

 『水源の迷宮』で一緒に一晩を過ごした妻達は危機感を覚えたという。なんでか解らないがクロの様子が少し変わって来ていたことは、皆が感じていた事ではあるのだが……。何かが決め手になり、彼の行動に開き直りのような物が見受けられ始めたからだ。その最初の被害に遭った数名は、途中で意識を失えども何度もたたき起こされ、その度に死に目を見たという。肉体の疲弊という概念の薄いはずの精霊族すらボロボロにされたという、恐ろしい事実がその会議で共有された。

 その場に居る全員に戦慄が走ると共に、セリアナに視線が集中する。こういう変化に関しては一番関係しているのはセリアナの場合が多いからだ。彼女は何を思ってか、彼と関係を持つ女性を増やすことに好意的で、意図的に増やす。また、本人は妊娠中の為不参加ではあるが、ヨルムンガンドにその手の薬品の生産を依頼し、いろいろな方面に手を広げていた。


「お母様、また何かされました?」

「いいえ~。こういう変化が起きるようなことはした覚えはないわね~。近々手数は増えるとは思うけれど」

「今度は誰が来るんです?」

「リヴァイアサンの一族から10名くらいかしら。今回はグレーゾーンね。あの子達、あちらの財務がお小遣いの支払い拒否している中をツケで飲んでたみたいなのよ。極めつけは人化解除で施設を破壊したらしくて。その弁償が一番の理由」


 そして、セリアナが真剣な表情になる。これはセリアナが一度も話してこなかったことだ。セリアナは娘が魔人と結婚するという事実を聞いたとき、『絶対にうまくいかない』と考えた。現状、魔人の様々な能力に周囲の種族の全員が圧倒され、私生活中、夫婦生活、職務、緊急時の多くの場でクロの力の差を目の当たりにしてきた。

 セリアナの行動原理はそのほとんどが娘のためだ。

 エリアナが願うクロとの幸せな生活を実現するために、セリアナは大きなリスクを背負おうことも厭わないという覚悟がある。その為にいろいろな面でクロに働いてもらい、クロの実力と汎用性を見て来た。その中で社交性や万能性に関して、彼は問題をクリアしてきた。しかし、セリアナにはまだ大きな懸念があったのだ。

 この『お嫁さん会議』を立ち上げる理由にもなった理由である。

 生き物であるが故に切っても切れない概念。次代への継承、繁殖である。特に重要視しているのはエリアナとクロの遺伝子を受け継ぐ子供の事だ。その為の布石として、自身も身をささげ、クロが本当に伝承通りの存在なのかを確かめた。


「半ば皆を利用したことになることは謝るけれど……。このお話について私は一度も強要したことはないわ。それしか手段が無かった子達は除くけど。……私もそれで妊娠してるし」


 魔人。魔素から起因した人型の超越生物。妖精から派生する者と、魔物から派生する者が居ることは確認が取れている。その魔人、クロのまだ残る懸念。現状でもこれだけの数で挑んで返り討ちになる生物。クロは妖精からの派生ではない。魔物からの派生である。つまり、野生動物の習性の残りがあるわけで……。彼がなんの生物がモデルなのかすらわからない。それがどういう条件かが気になる。

 『繁殖期』の存在だ。

 その言葉を聞いた獣人族の会議参加者がビクリと体を震わせる。獣人族は人の肉体ベースにモデルの種個性を乗せた生物だ。そのモデル毎に必ず来る繁殖期という物がある。例外はない事もないが、多くの獣人族には繁殖期という概念があるのだ。また、龍族の一部にも四季がしっかりとした地域に住む龍族にはあるモデルが居る。その繁殖期というワードと結び付けた時、全員の顔が青ざめた。

 別に無体な扱いをされている訳ではない彼女らだが、相手が魔人であるため相手をすることに四苦八苦していた。最初はそれを望んでいた彼女らであるが、全員が一度はこの感想を抱く。『思っていたのと違う……』と。その上、同じ魔人であるツェーヴェやヴュッカなどが初期から言っていたことが正しいと解った。クロは魔人としても飛びぬけて異常な存在であることが。

 この人数で未だにそういう衝動が弱い彼相手にボロボロである。種族関係なく、全戦力を持ってしても繁殖期に入った場合は厳しいかもしれない。廃人とまではいかないが、精神に異常をきたすメンバーが出ても何らおかしくないとさえ思われた。


「セリアナさんの思惑は解りました。確かに、身を護るために人を増やすのは前提条件というのもわかりましたが……。いろいろ手段を用意して若い子に相手をさせるのは何故ですか?」

「それは彼に不信感を抱かせない事。徐々にそういうことも少なくしていくつもり。彼も今は消極的だから」

「今はとは?」

「は~……実はね?」


 今度はカレッサとメリアに視線が集中した。確かにクロは真面目だ。宣言通りに自分の妻を平等に扱い、依怙贔屓をしない。それが彼の負担となっていることは全員知っていた。しかし、……絶対数を増やさねば本当にいつか死人が出るのでは? という強迫観念が無くもなかったのは事実。

 クロの箍が外れた時にどうなるかを考えている面々。いろいろな想像があちこちで飛び交ったことだろう。その中で彼の性格をしっかりと繁栄した想像ができたメンバーは数名だった。クロはあまり大きく手を広げることは好まない。問題が発生するごとにそうせざるを得ないから拡大しているに過ぎないのだ。その上で彼は小ぢんまりとし、自身の身の丈の範囲で、取り回しのいい生活を好む。彼の工房がその性格を見せる。けして広くない彼の工房は彼の手が届く範囲に、必要な道具がある様にカスタムされている。

 その彼に現在の状況は、確かに彼の言う通りに『過剰』気味。丁寧に扱いながら相手をするとなると『手に余る』と彼は感じていたのだ。カレッサの言うように妻毎に扱って欲しい度合いは違う。『自身だけを見て欲しく束縛して欲しい』というような者も居れば、『今のようにときおり会って濃密に関わること』を好む者も居る。個人で好みは異なる。メリアのように自主規制ワード満載の下世話な言い分は置いといて、カレッサがいう事は最もで、彼にも気軽に接してもらえればいいのは以前から感じていた。


「なんだけど……そうなんだけどね? このタイミングで彼が開き直ってそういう事を全力でやり出したら……。本当に身が持たない気がするの。特に体が慣れてない種族的に若い子が」


 どちらの言い分も納得できた。その上で、自分達の今後が荒波に揉まれるような状況にあることに、考える力の弱い者も追いついてきた。クロの性格上、好んで妻を増やすことは稀だと思う。これまでもクロの妻となった女性は、クロの考え方とは別でその時々の状況に合わせて増えた。彼がNO!!と言わないことも加速させ、物凄い勢いで彼が囲う? 彼を囲う? 女性は増えている。その上でクロは嫌がらないし拒絶もしない。加えて彼は一度囲った者を逃がさないように抱擁してくれる。女性側もその雰囲気を気に入り、離れて行かない。

 彼が好色なら……問題が無くもないけれど、問題は減るのである。

 セリアナが危惧しているのは、確かにエリアナの事が大きいけれど、その全てがという訳ではない。彼女だってちゃんとここに居る全員の身を案じている。今のところ、変な性癖に目覚める子女以外は居ない。外部の奴隷制のように薬剤投与や無体な扱いで廃人と化したり、実験動物のように扱われることもないのだけれども。彼の場合は無自覚に体力と精力が果てしない。その時の記憶が本当にないようで、クロは朝になると死屍累々の寝室を見て驚くような、呆れるような表情をしているとハーマが報告していた。最近は慣れて来て、『そういう物だ』と考えているが女性陣からすると『普通じゃこんなことは起きえない』と言いたい事だろう。


「カレッサの言いたいことも理解できるけれど、特に年上の皆は不安じゃないかしら? 貴女達が護るのよ? 年下の妹嫁を」

「う、うむ……それはまぁ当たり前じゃの」

「メリアは新しい性癖に目覚めてるから問題ないでしょ? だから、今の内に積極的に慣れておかないと、彼が本格的に繁殖期になった時が怖いのよ。確か獣人のモデルによってはお互いに気絶するまで止まらない種族とかもいるんでしょ?」

「いますね。九尾がそうです。男女ともに好色な者が多いのと、そういう本能を持っていますから」

「そういう事よ。だから、できる限り、無理のない程度にクロちゃんの所へ行って慣れておくことを推奨するわ。死にたくなかったら、同族の(イケニエ)候補を増やすこともね? 一番は愛人さんを容認させることだろうけど。そっちは望み薄なのよね~……」


 その日からクロの寝室へ種族的に若い妻が数多く訪れるようになった。……が、時を同じくしてクロの方も変化をしている。彼は学ぶことをするのだ。そして、彼は飲み込むことがとてもはやい。カレッサに言われた『気軽に生きる』という言葉に、ガイガルトから送られた『楽しく生きろ』という言葉が重なり、彼は爬虫類生を楽しもうと努力を始めたのだ。

 その傾向が出始めてからの最初の被害者は白龍王ブランジェリアだ。調子に乗って拡げた新たな縄張りで撃墜された。次は彼が本格的に着手した魔境『氷姫の国』での蹂躙。ユミルの縄張りでユミルによる蹂躙を推奨したこと。そして、死人は未だ出ていないが、死に体の様相で職場に出勤するようになった若い妻達……。セリアナは誰にも見られていない執務室で大きなため息を吐いた。……この先の苦難が続く自身の道を想像し、密かに十字を切る。


「私も、夜に寝室で死なないように、何か策を考えておきましょうか……」



 ~=~


・成長記録→経過

クロ

オス 生後155日~160日

主人 エリアナ・ファンテール

身長130㎝

全長17㎝……身長12㎝

取得称号

~省略~


取得スキル

~省略~


 ~=~

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