クロ親子の蹂躙劇場
ほいほい、いつも元気なクロです。最近は出張ばかりなので夜は早く寝られるので元気がみなぎってますよ~。
今日はブラックナイト号に乗り、隣をハムシーンが飛んでその上にユミルが居るという少数精鋭で行く。最初はユミルの縄張りは中規模1個でいいかと考えた。しかし、大きな問題が見つかったんだ。この凍土の大地にはいくつも等間隔に、似たような規模の魔境が並んでいることが解った。いくつかは相手からコンタクトがあり、氷龍の眷属の縄張りとわかったので触れない。彼らも特に敵対の意志もなかったので。
問題は僕らのレベルの魔物が居ないので、魔素がとても濃い。
これは近い内に大暴走が乱発されて凍土が荒れ果てるぞ。龍族には早々に報告と忠告を行い。避難を推奨。どのみち氷龍姫ニヴェリエーラが転居したので、そちらに移るという者が大多数だった。少数派はその親、氷鎧龍ガイガルトの忠臣とそれだけ。今、彼らとその話をしている。なんでここまで荒れているのかを聞かねばならない。
「お初にお目にかかる。氷鎧龍ガイガルト殿。僕は……」
「知っておるよ。若き龍よ。クロ殿だな。ワシの………何代下かは解らぬが血族の娘が貴殿の子に嫁いだと言うのは聞き及んでおる。寛大な措置に感謝いたす」
「いえ、それは僕の息子による考えです。僕は何も関与していません」
「くッくッくッ……。謙虚なことよ。貴殿が知りたいのはここが荒れている理由であろう?」
「えぇ、ここまで魔境が分離し、荒れるというのはおかしい。何か理由が無ければ起きません」
大きく頷く氷の大古龍は住処の奥にある1頭の龍の遺骸を見せてくれた。奥さんとのこと。最近亡くなったらしい。ここはガイガルトさんとこの奥さんが魔素を吸収する二大巨頭で、縄張りを荒らす魔物が弱いまま活性も起きなかった。しかし、奥さんが亡くなり、ガイガルトさんも老いるに従い力が弱まっている。その結果がこれとのこと。
古龍とは言えどその血が濃くなれば歪む。氷龍は環境が適合しなければ生きるのが難しい龍族であるため、簡単な転居の選択もできなかった。その上、ガイガルトさんの場合はここに魂を降ろした奥さんの近くで、自らもこの凍土に還りたいという。なので一族の一部を移住させ、どうしても残るという忠臣のみを残しているというのだ。多人種国家の『凍土の国』がこの近隣にある。大暴走が巻き起これば僕の縄張りにも大きな被害が出る。なら、やるべきことは決まっていた。
僕の隣にいるユミルが氷のガントレットを作り出し、『ゴインッ』と音を響かせながら拳を打ち付け大きく叫ぶ。
自分にこの広大な魔境をくれと。奥さんと一緒に眠りたいのは構わないけれど、周りを巻き込むならそれは看過できない。その前にユミルが周辺の魔境を収奪し、大暴走の全長を全て摘み取ってやると。
「ほう……。おぬしの名は?」
「ユミル。おとーさんが言うには氷世の魔人の名をもらったって言ってた」
「ふふふ。良いだろう。もうワシには縄張りに執着する意味はない。この穴蔵で、亡き妻と共に静かに凍土に沈めればそれでよい」
「解った。じゃ、ちょっと外うるさくなるけど許してね」
「それくらい構わんよ。やれると言うなら止めもせん」
僕が何を言うともなく、ユミルは外に出て行って周囲の魔素を一挙に吸い込んで行く。これがユミルが強い理由か。超特化型の特性に合わせて、ここは氷系の魔素に満ちた魔境。雑味が出やすい複雑な環境での戦闘とは違い、ほぼ純粋な氷の魔素を吸える。暴走さえしなければ特に問題ない。……というか、魔人が暴走なんて世界を飲み込むとかしなければないと思うけど。
僕が考え事をしていると、ユミルの魔素吸収が終わったようだ。
彼女のガントレットから氷の翼とピックアンカーが多数展開される。忠臣の龍はガイガルトさんの洞窟に全員いる。他の龍は避難したね。僕が頷くと、ユミルの両手の前に物凄い魔素の集束が始まる。その膨大な魔素が集約され、密度が増すにつれてハムシーンの表情に恐れが増す。なので僕が抱きしめ、ユミルの真後ろに逃げ込んだ。それを合図にユミルから爆発的な魔素放出が起きる。それも放射状に。
一応『凍土の国』の方向は外してくれているが、これはたまげたね。氷の魔境ギリギリまでぶっといレーザーがまさに焼き払った。一度ユミルが取り込んだ魔素で、ユミルの領域だと主張するような方法だ。同系統の魔素で雑味がほとんどないからできる芸当だよ。それに氷の魔境以外へは被害が出ない。魔境の境界は急激に魔素の特性が変わるため空間が歪んでいる。それ以上は同じ魔素を集約したあのレーザーは通らないようだ。
「やったね~……。これはユミルにしかできないよ」
「ふふぃ~……。疲れた~」
「そりゃ疲れるよ。あんな無茶な方法よく思いついたね」
「おとーさんの技を参考にした。これで焼き払えば全部まっさらアタイの領域ってわけ」
という事は森や地形が変わらなかったのは斜め上の事象だった訳か。ユミルの中では全てを氷の魔素で焼き払うつもりでいたんだろう。魔素は魔物や魔人に大きく影響を出すからね。あんな高密度の魔力をぶつけられたら溶けちゃうよ。魔人でもひとたまりもないんじゃないかな?
ぞろぞろとガイガルトの忠臣さんが出て来た。そりゃあんな轟音と濃い魔素の波動が起こればビビりもする。わかり易く狼狽し、僕に問うてくる。今何をしたのかと。
なので僕は自慢の娘が氷の魔素を超圧縮したレーザーで、魔物だけ焼き払ったと伝える。厳密にはユミル個人の魔素流脈だから、ユミルと全く同系統の存在が居れば生き残るんだけどね。そんなことはあり得ないので、今の一瞬でこれまで跋扈していた魔物は溶けた。
それを報告するためか、忠臣さんの1人が中へどたどたと走って行く。人化しないのだろうか? 数秒すると、先程の忠臣さんが首だけ出してこちらへ来て欲しいと言うので、ユミルにも目配せした……。先に『てててててー』って感じに走って行っちゃったな。僕もハムシーンと歩いて先ほどの氷窟の中へ行く。ガイガルトさんがユミルに平伏してた。うん。まぁ、あんなことされちゃうとね。力の差は明らかだから。ユミルはどういうわけか解らず戸惑っている。
「頭を上げてください。娘もやりにくいでしょうし」
「むぅ……そうか? 構わぬならいいが」
「後方もこの調子で制圧するよ。でも疲れたから今日は寝るね」
「その方がよかろう。幼い身であれだけの魔素吸入。驚いたものよ」
僕とガイガルトさんで奥さんの死についてを話した。なんでも『凍土の国』の近くで何やら攻撃を受けたとのこと。ガイガルトさんに許可をもらい。奥さんの遺骸に刺さっていた剣の刃を引き抜いた。……聖剣の刃だ。
これはちょっと見逃せないかもしれない。もしかしたら、『凍土の国』でも何か良くないことが起こっているかも。その折れた柄側もガイガルトさんが保管していたので、説明した。これは聖剣の残骸。これをどうしてガイガルトさんの奥さん襲撃に使ったのかは解らないが、これは国家に伝わる宝剣のような物。もしかしたら国家の根幹の部分が腐っていて、ここの魔素を何かに利用したくて奥さんやガイガルトさんを狙った可能性がある。
確か『凍土の国』は複数の迷宮を抱える本当の意味の迷宮都市だ。僕らの迷宮内に作られた都市は迷宮都市とは本来言わない。迷宮を管理し、巨万の富を抱える都市こそ迷宮都市なのだ。『凍土の国』は3つの迷宮に囲まれた冒険者を多く抱える大国家。規模としてはかなり小さいが、人口や歴史だけで見ればファンテール王国やグランデール獣人国と比べても遜色ない大国。喧嘩を売られなければいいが……。
「ガイガルト殿。仇討ちのお気持ちはありますか?」
「いいや。ワシも妻も長く生き過ぎた。これはそのワシらの運命なのだろう」
「解りました。それならば僕らも無理に攻撃はしません。しかし、貴方やユミルが襲われるようなら、僕は全力で報復します」
「……貴殿は、どのような力を持っている?」
「? それはどういう意味ですか?」
「いや、人間の言葉では『固有スキル』と言えばいいのか? 貴殿は、もしや『黒き焔』を操るのではないか?」
「よくわかりましたね」
このガイガルトさんは神代龍族の中でも最長老。この世界を神が創造せし時より生きているという大老龍だ。その龍がとても強い恐怖を表情に見せ、僕を見つめる。そして、おそらく僕のことが解った最初の瞬間だったと思う。ガイガルトさんを含め、ここに居るのは平均年齢が十万歳以上の超お年寄り軍団。知恵袋としてはこれほどの者は無いというくらいのご歴々だ。
……特徴として、こういう龍というかお年寄りの話は回りくどくて長い。
周りのお年寄りが既に数人寝てるし。ユミルとハムシーンは環境適応の外套に包まれて2人でスヤスヤ寝ている。最終的に起きているのは僕とガイガルトさんだけになった。それが解るとガイガルトさんはようやく首を回して声を殺しながら教えてくれる。僕のこの力は間違いなく『黒龍王』の力だと。しかし、黒龍の一族は数千年前に神により消し去られたはずだと言う。
その理由は詳しくは伝わっていない。しかし、黒龍の一族は神によりその力を求められ、望んでこの世界から消えたと言われていると。
ガイガルトさんは再び元の声量に戻し、注意というか……僕の力を使う場面は考えるようにと言う。この世界に昼と夜があるように黒龍と白竜がこの世界には存在し、世界を守っていた。龍はこの世界の頂上生物だ。場合によっては神を誅する役割を賜った存在でもある。
「クロ殿。貴殿はこの世界の神に求められたのかもしれぬ。この世界は黒龍が絶えてより歪み始めた。そこに再び貴殿が生まれ落ちたともなれば、新たな世界の変動が始まっておるのやもしれぬ」
「……」
「ワシがこの世を去った後、妻の躯とワシの躯を使っても構わぬ。貴殿にはこの先を歩まねばならんからな。その重責ある若人の糧となれるなら我ら夫婦も本望。くれぐれも、忘れることなきように、この世界で楽しく生きてくれ」
そう言うとガイガルトさんは最初のように眠る体勢に入る。まだまだ亡くなるような魔素の燃え方はしてないと思うけど……。まぁ、ユミルには注意しておかなくちゃね。とりあえず、僕もなりふり構わずここは強力な防衛施設を用意しておこう。
~=~
・成長記録→経過
クロ
オス 生後155日~160日
主人 エリアナ・ファンテール
身長130㎝
全長17㎝……身長12㎝
取得称号
~省略~
取得スキル
~省略~