魔境の開拓者クロ一家
僕やタケミカヅチがちょっと調子に乗って、切り立った塔のような山が連続して続く地形を作り出した。その塔のような雲を裂く山々にはあちこちから龍族が押し寄せ、臣従の挨拶をした後に住み着くという流れで、既に凄いことになっている。どこから情報が漏れたのか知らないけど、僕がここを焼きはらって整地したとほとんどの龍が知っていた。また、白龍王ブランジェリアを撃墜したことまで知っていた……。
調査したところ、情報元はメリアだったと判明。
別に僕がどうこう言う事はなかったが、『王祖の迷宮』付近で取っ組み合いの喧嘩を始めた。なので僕が両龍をボコってお仕置きし、数日間お仕置き部屋へ投げ込んでおいた。あそこは数日間、反省文を書かせ、お経のようにエリアナ女王国の国法を音読させる部屋だ。僕としては拷問よりもきつい。不真面目だと、あの部屋からでられないので、いずれ発狂するんじゃないかな?
「数日で凄いことになったね~」
「おう、これもとーちゃんのおかげだぜ。気前よく迷宮核を提供してくれたからなっ!」
「まぁ、タケミカヅチの縄張りだからね。これからもよろしく頼むよ」
「はははっ! 期待に応えられるように頑張るぜっ!!」
あっちこっちにいろんな色合いの龍族が居る。縄張りを捨てて来たのではなく、ここは出張所の扱いだ。ここの設営は嫁入りさせようとする龍族の攻勢を抑える意味もある。……タケミカヅチだけではなく、他の兄弟のお見合いもいったん完全にシャットアウトしたのだ。
お見合いを行う場合でも、一定条件を満たさないとその段階まで至れないように言ってある。
まず、各人との面識。一度は顔を合わせておかなくてはいけない。2つ目に親族との挨拶。もっと言うならその両親との相互的な親交だね。最後にこれは龍族限定だけど、タケミカヅチが組織する龍族の部隊で一定以上の実力を持つこと。龍族以外の場合は僕の奥さんからの許可が必須。これ無くしては僕含め、僕の眷属の男性との婚姻は認められないとした。
それとようやく来たのが僕の娘達との婚姻のお話だ。全て叶わなかったけど。
これに関しては期待していたほどの立候補者が居ない。……その理由をセリアナさんに尋ねたところ。『勝てるかどうかは別にして、クロちゃんに挑む度胸の無い子に私達の娘は上げないわ~』。……とのこと。その次の条件もなかなか鬼な条件だった。僕の妻全員からの承認。最後にようやっと本人との交友状況が一定以上という事だ。娘達の婚姻に関しては僕よりも奥さん達の方がとっても厳しかった。まず、最初の条件が鬼すぎて、立候補者がほとんど現れないのだ。『娘さんをくださいッ!』をリアルでやれないヤツには娘はやらんってことか……。そう考えたら理解できるかもな。
「いやいやとーちゃんよ。そんな悠長なこと言ってると、スル姉とかヨル姉は婚期逃すんじゃね~の?」
「魔人はほとんど寿命はないから問題ないと思うよ」
「ま~、そうだけどさ? とーちゃんは見たくねーの? 新しい孫」
「いや? そんなすぐに見たいということはないね。急いでもいい事ないし。焦らない焦らない」
「やれやれ……ねーちゃん達の結婚はいつになるやら」
実際にスルトやヨルムンガンドは自分の趣味に生きている感じがあり、男性との交友と言うよりは職場付き合いばかりだ。ゲンブもその気配が濃いし、ジオゼルグに関しては男っ気がゼロである。イオも全く考えていないらしいので、今のところ僕の娘は誰一人として浮いた話が無いのだ。
僕から聞くのも憚られるので、僕からは尋ねることはない。そういうデリケートな話をするのも早い?気がするので。
僕やタケミカヅチが早すぎるだけだからね。アポロンのアレはまたケースが異なるし、シェイドはまだ未婚を貫いている。というよりはシェイドも仕事が命のような感じで、あまり結婚に興味がないと言っていた。その逆にアポロンは僕が決めたルールをちゃんと守る女の子はオールオッケーという。凄まじい節操なしなのでこれもまた少し違うだろう。まぁ、娘達が早く結婚して欲しいと僕が思う頃には言えるようになるだろうから、僕も心の隅に置いておけばいいと思う。
今はタケミカヅチと彼の新たな縄張りを見て回り楽しんでいる。外観は緑豊かな大自然だ。高い山々が聳え立ち大きな河が流れ、数多の龍が飛び交う幻想郷。ここがたったの3日でできたというのだから恐ろしいよね? これが迷宮核の効果だ。あと、エリアナの気前のいいポイント譲渡。エリアナも何だかんだと『かーちゃん』呼びをするタケミカヅチを気に入っている。僕の所に顔を出すのと一緒にエリアナの所へもお土産付きで会っていると言うし。かわいい子というにはかなりごついが、エリアナも休息に成長する息子をずっと見守っていたのだ。テュポーンとの正式な結婚を境に少し関係が変わっていたようにも見えたが、それでもエリアナにとってタケミカヅチは特別なんだろう。
~=~
タケミカヅチの縄張りを見回り終えると、僕はブラックナイト号と共に吹雪の中へ突入する。これは魔境特有の急激な気象変化だ。僕とブラックナイト号の視界の下では、この魔境の魔素をかなり広範囲から吸収し、猛吹雪を巻き起こすユミルが居る。その横には少し寒そうだが、先に渡しておいた環境適応の外套を着込んだハムシーンがお利口さんに座っている。
風の魔法はハムシーンの物か。ユミルの氷結魔法は氷の大地に適応した、寒冷地の魔物すら凍死させるものだ。アレは恐ろしいね。
おっと、ハムシーンが僕に気づいた。やはり風系の方が気配察知は上手いようだ。ユミルが楽しそうに両腕を振って来る。かわいいが、チョコンとしているから雪の中に埋もれている。だから手しか見えないよ?
爆とブラックナイト号が着陸し、雪の深い森の中で早い再会を喜び合う。水を得た魚という表現が最も当てはまると思うけど、ユミルは本当に楽しそうである。これ以上なく嬉しそうだ。僕らの本拠地『王祖の迷宮』はどちらかと言うと南方で暖かい場所にある。魔境の影響でもあるが、近くに砂漠や荒野が多く、湿度の高い湿原や湖もある環境。温暖であるため、ユミルには居心地の悪い場所だったのだと思う。
「おー、おとーさーん!!」
「数日ぶりです、お父様」
「ユミルにハムシーン。ユミルは元気が爆発しているね。ハムシーンはちょっと寒いか?」
「そりゃ~、やっとこさ自分のホームグラウンドで戦えるんだもの!! これ程嬉しいことはないわ!!」
「お、おう」
「ユミル姉様はここに来てよりずっとこの調子です。大物を誘い出すためにこうして吹雪を起こし、待ち構えています」
「ほほう」
単に様子を見に来たつもりだったけど、ユミルは物凄い速さでこの『凍土の魔境』の一部を奪取しつつあるようだ。何度も縄張り奪取を繰り返しているせいか、僕にはなんとなく魔境をどのくらい縄張りにできているか解るんだけどね。ユミルのヤツは僕がタケミカヅチと『龍の領域』を作っている間に8割方の範囲を我が物としていた。
ハムシーンの話では張り切っていることもあるけど、ユミルは単一属性の超特化型である。同族性の敵にすら氷魔法でダメージを通せる力を持っているのだ。元から相当強い。それこそ、僕の『黒焔(弱)』に近似する威力のブレスを吐き出しまくったそうな。ここも最初はこんなに雪深くなかった土地で、ユミルのブレスで瞬間凍結。生物的機能を無理やり停止させていく。
ふ~む。発揮する場が無かっただけだもんな。
力が強いと言うなら、僕が少し様子を見なければいけない。力が強い事は単純にいい事という訳ではないからね。それは僕が一番理解している。ユミルがその辺を理解しているかは判断できないが、それを理解しているかも話してみて確かめる必要がある。
ん? 来たんじゃない? この辺りで一番大きな魔素吸入と気配。気配を隠す気が無いという事は強いと自覚している証拠だ。それに体が大きければ隠す必要もなし。どうせ見つかるんだから。
「ふ~ん。グランアイスエイプかしら? それともノーマルのアイスコング?」
「ユミルも解析は持ってるから、意識してしっかり確認してごらん」
「は~い」
ユミルが解析スキルで解析し、ブリザードコングという大猿の魔物に相対す。大きさは15mぐらいか? 対するユミルはまだ10㎝に満たない。最初に彼女が予想した猿系魔物の一体、アイスコングの最上位形態がブリザードコングという事らしいよ。デカいクセに素早いというのはよくあることで、雪に埋もれているユミルに拳が飛んで来るが……、うん。僕の娘だね。いい感じに豪快で規格外だ。
ユミルは雪に埋もれているけど、コングの拳を普通に受け止めて何をしたのか突っ返す。体勢を崩すことはなかったが、ブリザードコングは直後に数百mの距離を吹っ飛ばされる。まだ経験の浅いハムシーンはポカンとしていたが、僕には見えた。ユミルってかなりのパワーキャラっぽい。タイプ的にはゲンブに近い気もする。ただし、直線的な攻撃軌道ではなく、その小さな体を利用して幹を蹴りつけ跳ね飛びながら適格に拳をぶつけているね。一撃の威力も申し分ない。弟たちに追い抜かれて焦ってはいたが、ユミルの実力が最大限に発揮できる場所となればこれだけ強いのだ。
たぶん、この環境なら相性的に悪いはずのアポロンにも殴り勝つと思う……。
よく見ると拳に氷のガントレットが造形されている。ブリザードコングはぼろ雑巾のようになるまで殴りつけられた末に事切れた。僕は魔石だけ取り出して両手を合わせておく……。さすがにあそこまでやられては哀れだ。
あっ、ユミルが人化した。スルトに似ているフニフニ尻尾が残っているが、服にほとんど隠れている。白色ベースに青いレースとバラの花の意匠が派手なボリュームのあるドレス姿。靴もそれクリスタルだよね? 冷たくない? ティアラもそれ永久氷石でしょ? 僕はあんまり派手な服は好きじゃないからね。僕の奥さんの中に派手な服……誰かいたっけ? 氷が使えて派手な服? メリアくらいだけど……。
「おとーさん!! みてみてー!」
「おー、ド派手だな~」
「えへへ~、良いでしょ~」
「うんうん。ここって迷宮はあるのかい?」
「たぶんない。ここは中規模魔境の中で大きい方だから。迷宮核の精製は最低でも大規模であるか、中規模でも余程いい主がついてないとダメだし」
ほ~。それなら、3人で一度周囲の探索をし、よさげなところに迷宮核を設置してユミルの家を作っておこうかね。これで当面は安心できるし。
~=~
・成長記録→経過
クロ
オス 生後150日~155日
主人 エリアナ・ファンテール
身長130㎝
全長17㎝……身長12㎝
取得称号
~省略~
取得スキル
~省略~
~=~
・記録
ユミル
メス 生後50日程~55日
主人 エリアナ・ファンテール
取得称号
・女王の従魔 ・孤高のレオパ ・迷宮出身者 ・クロの娘 ・拳闘士 ・氷凛の戦姫
ブリザードゲッコー族 モデル=レオパードゲッコー
位階進化#→ニフル
身長 120㎝
全長12㎝……身長8㎝
取得スキル
+氷結魔法(特級) +風魔法(上級) +魔法攻撃効率化 +絶対零度アブソリュート・ゼロ(固有スキル) +拳闘術 +築城 +彫刻 +鼓舞