動く迷宮の攻略
おっす、おらクロだぞ。……はい、すみません。クロです。
現在、僕とアポロンは絶賛迷宮の中で迷子中です。というのも、この迷宮は普通の迷宮じゃない。簡単に説明するなら組み木のおもちゃ。この迷宮は迷宮の意志か迷宮主の意志か知らないが、決められた範囲を動かすことができるらしく、魔人の超記憶力がある僕らでもお手上げ。それから魔素の量が尋常じゃない。これは普通の魔物だと一発で暴走するだろう。
これだけ内包している魔素量が多いならあんなアホみたいな魔物も作れるだろうし、隣の大森林を制圧しようと動くのも解る。
稀ではあるけれど、迷宮核が意志を持つことはあるのだ。今ではスルトの迷宮である『豊穣の迷宮』であるが、その前の主は核自身だったし。この感じは迷宮主の居る迷宮だとは考えにくい。迷宮主が居る迷宮だと、敵に侵入が検知された段階で対処する事後対応になりやすい。だが、直結している核が意志を持つ迷宮だと僕らが近づくだけでわかるので事前に鉱石生命系の疑似魔物を製作しておけるのだ。
ただし、この迷宮はもう詰んでいる。
その理由は僕とアポロンという通常なら考えられないような火力を持った魔人が、全力で攻略しに来ているから。今のところ僕は手を出していないが、アポロンはブレスで焼き切り、迷宮内部をボロボロにしている。それをわざと回復させて迷宮のポイント枯渇を誘発させているのだ。迷宮が強力的な侵入者を利用して伸し上がる習性があるのは解っている。しかし、攻撃目的の侵入者には現状の迷宮ポイントというコストを支払って撃退せねばならない。
「そういえば、迷宮のポイントってあれは何なんだ? おやじは知ってんの?」
「あぁ、結論から言うと大本は魔素。ただ、ちょっと特殊な形状にくっつきあった魔素だね」
「魔力とも違うのか?」
「近くはある。けど、ポイントは生き物が取り込んで一度利用した魔素結合物。魂から排出された老廃物って考え方が一番近いと思う」
「ほ~。だから生命体が入らないとポイントにならないのか」
アポロンのこの答えには少し違う点がある。迷宮の中で何等かの行動を起こすことで『迷宮ポイント』は溜まる。それこそ呼吸や歩くとかすべての行動に合わせて。しかし、その中で一番多い『迷宮ポイント』の獲得方法が迷宮による侵入者の撃退なのである。
僕やエリアナ達が住まう『王祖の迷宮』では僕らが穏健であるため、迷宮もそういう組成の構成を組まないだけ。むしろ、王祖が何かしらの調整を先にしている可能性が一番高いだろう。それにあの迷宮は中で行動する生命体の数が桁違いだ。さらに高位階の存在が居れば居るほど迷宮の収益は増す。そして、迷宮は生き物である。共生相手として認めた生物を強化することも行う。それが僕らだ。『王祖の迷宮』は迷宮同士で意思疎通ができるかは未知数だけど……。迷宮としては最先端の発展様式を得た類まれなるカリスマ迷宮なのだ。
対しましてこの迷宮に関して言うと、確かに高位階の僕らが侵入してきたまではウハウハだったはず。
それは……アポロンや僕が単なる魔人であったならば、だけども。残念ながら僕とアポロンは迷宮がダウンするまでここで持久戦ができる。アポロンや僕が提供するポイントと、アポロンの貫通力の超高い攻撃を受けて修復する修復費用で……どちらが高いと思う? どう考えても修復にかかる費用の方が高額になるだろう。エリアナの迷宮管理を横から観察しているからある程度は知っている。迷宮のカスタムはさまざまにできるが、これだけ回復能力を充実させている迷宮だ。自動回復の速度も速い。そして、自動回復などのオート機能はonとoffの切り替えができないんだよね。不便極まりない仕様だが、ここだけはどうしても変わらないらしい。やるには迷宮の仕様を根本から変えねばならないだろう。
「にしてもまだ続けるかね。しぶといね~」
「よく見てみなよ。ここ」
僕が武器のククリ刀で壁をつつくと、ボロッと崩れる。
アポロンも苦笑いしていた。ようは見掛け倒しである訳だよ。もう本格的な回復はできないので、切れないなら表面だけを回復しているという訳さ。エリアナもたまにやっている。僕は手抜き工事は嫌いなので見なかったことにしているんだよね。どこを手抜きしているかと言うと、背景とかだ。どうでもいいような景色とかの設定を緩くしたりとか。
アポロンがそこから数発撃ち込んだ攻撃で迷宮がいきなり暗転した。完全にポイントを使い切り休眠状態に入ったのだ。
この状態でポイントが回復に必要な量に達しないと、迷宮核のシステム領域のバックアップができずに死んでしまう。簡単に言うと迷宮がこれまで記憶していた記憶が思い出せなくなり、迷宮自身の力では起きられない状況になる。その状態が迷宮が死んでいる状態だ。そとから魔素を流し込めば、迷宮主の登録と再起動が同時に行われるので完全に死んではないけどね。
ま、完全に殺したかったらこういう方法を取る。迷宮主の部屋で迷宮核をぶっ壊す。
アポロンにククリ刀で円を描いて切り抜いてもらう。たぶん底までぶち抜いた。そのまま、落下傘を2人で装備し、穴に向かって落ちていく。アポロンは精神が子供なのか、目新しい物には凄く興奮する。とても楽しそうに落下してくれるのはいいんだけど、その落下傘はあんまり丈夫じゃないから下手に擦ったりすると破れるからね。……まぁ、魔人ですからね。そのまま落ちても死なないだろうけど。
「お~。ついた~」
「ついたね~。白骨が……ひ~の、ふ~の、み~の。骨格からして全部男性のエルフだね」
「よくわかるな。おやじ」
「アポロンも慣れればできるようになるよ。体の構造をしっかり学べば」
「うへ~……めんどくさいぜ~」
なんとなくわかってはいたけど、アポロンは座学は嫌いなようだ。僕も好きかと言われたら嫌いだけどね。僕とアポロンで光が灯らない迷宮核?を見つけた。何だろう。いつもの迷宮と違う。一応迷宮主の部屋もレイアウトはできるので、核の位置と玉座の位置が必ずしも一致するとは限らない。下手をすると玉座が無く、他の物がある迷宮もある。僕のオリハルコンの大樹を利用した迷宮とかね。
それで目の前の物なんだけど……。女の子だね。直系一メートルの範囲に入るように膝を抱えてた状態で宙空でクルクル回っている。意識はないようだ。
触るとめんどくさそうなんだけど、触らない訳にはいかないんだよね。なので、めんどくさいことはまだ肩にのしかかる面倒事が少ないアポロンに投げた。『えッ? マジで?』みたいな表情されたので、僕も無言で『うん。頼んだ』とサムズアップ。おそらくというか絶対に面倒事にしかならんので、僕は絶対に触りたくない。
恐る恐る暗い中で光るアポロンが、クルクル回る青白い光に包まれている少女へ、触った……。
~=~
「これはどういう状況ですか?」
「いや、僕にもさっぱり。流れでこうなったとしか」
「とーちゃん。俺にもう一度最初から説明頼む。あの女の子が迷宮核っていうのは空耳だと思うから
」
「フーム、興味深い」
「アポロンの~お嫁さん~?」
現在、迷宮攻略の応援として来てくれた数人の子供たちと、この不可思議な事態を共有している状態。
ここに来たのはゲンブ、タケミカヅチ、ヨルムンガンド、ジオゼルグである。スルトは別の要件が忙しくて動けず。イオもそれ関係で忙しいというので不参加。ユミルはそもそも氷室からあまり出てこない。妊娠組は控えてもらい、エリアナは後日に来てもらう。まだこの迷宮の周辺が危険すぎることもあるので。
共有すべきことは一つ。一言で言うなら、『女の子が迷宮核だった』。
アポロンが振れた瞬間に、もうそれは熱烈に猛烈な……はっげし~い口づけの嵐。迷宮核の話だと、迷宮主の生態データを取り込んだとのこと。加えてアポロンの主人が迷宮の所有者であることも確認し、自動的にこの迷宮はエリアナが所有する迷宮の1つに加わったそうな。もう一つおまけに、エリアナの位階が上昇したとツェーヴェから念話魔法で伝えられた。次はどんな変化が出るやら……。
おそらく、迷宮の機能向上も同時に起きているので、僕らも位階が上がるだろう。それはもう恐ろしい話ではあるが、今の問題は玉座が出現してそこに座るように言われたアポロンの膝の上でお姫様抱っこ状態の迷宮核にある。別に僕らには対して問題はないんだけど、迷宮核を連れていけないとなるとアポロンだけここに放置することになってしまう。それはできれば避けたいので、迷宮核と意思疎通を取ろうとしているのだけど……。迷宮核の言う事が解るのがアポロンだけなんだよね。
「やっぱそうなんだね。この子は位階の高い迷宮核だと」
「そうみて~だな。どうも主権限はエリアナねーちゃんにあるんだけども、直接登録されてんのは俺だけらしい」
「ヨルムンガンドの核と同じだな。それじゃ同行できるか聞いてみてくれないか?」
「おうよ!」
どうやらかなり自由度が高い迷宮核のようだ。この迷宮核がどれくらいの位階なのかは解らないが、かなり古い時代から存在していることは解る。発音や言語形態からおそらく神代語だ。メリアやコスモなどの大古龍ならわかるだろうね。通常の人間族ではその文字の存在すら知られていない形態の文字だから、迷宮核に現代語を学習してもらった方が手っ取り早いだろう。
迷宮核の言うところにはエリアナの管理する迷宮内、もしくはアポロンから半径10m以内の場所ならコストなしで存在可能。それ以外の場所に行く場合は、ポイントを一定時間当たりで消費されて活動するとのことだ。それに今は副主人であり、直接の主人登録のされているアポロンと密着して回復を図らねばならないという。そりゃそうだ。ポイント削りで勝ちをもぎ取ったのは僕らだからね。
それに最初は困惑していたアポロンだが、迷宮核の女の子はかなり可愛いのでまんざらでもない様子。印象としては眠そうな顔をしたセリアナさんって感じ。目が半開きだが、かなり大きいだろうし、色白で儚げ。薄桃色が際立つ唇に耳はエルフのように長い。髪も蛍火色に輝いている。……まぁ、当人同士がいいならいいよ。頑張れ、アポロン。絶対フラグだから。
~=~
・成長記録→経過
クロ
オス 生後145日~150日
主人 エリアナ・ファンテール
身長130㎝
全長17㎝……身長12㎝
取得称号
~省略~
取得スキル
~省略~