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閑話休題24『錬金術師の綴る魔族レポート』

 これはとある錬金術師の魔人が、その永遠の命の中で戯れに綴った記録の1つである。以降これはこの世界における魔族を認知した学術書として認知されることとなった。

 その少女ヨルムンガンドは実に神出鬼没である。環境さえ整ってさえいれば自身の眷属化している植物と意識を共有し、誰にも知られずに対象を観察できるのだから。なお、倫理に欠けるこの少女はいろいろな興味のまま、探求心のままに観察を行う。

 この時の彼女は彼女の父が切り拓いていく、多くの他種族が集う領地の新参に目を付けた。それは『魔族』父が言うには組成は魔人寄り。しかし、魔人ではないというちょっと異質な来歴を持つ種族だ。今、彼女の目の前にはたくさんの角が生えた種族が勤勉な態度で学び、働いている風景が見えている。彼女の目には魔族の一種『鬼族』が見えていた。

 鬼族は体格差が大きいものの、その共通点として頭部のどこかに『角』が見られる。その角さえも大きさ、形状、組織の性質すら種族ごとに異なり、父が雑多な種族をまとめただけの括りだとすぐに彼女は理解した。この世界では鬼族を新種族と認定したのはクロが初だ。これまでは魔物と混合されて排斥されていた彼らは、クロの眷属が主となり守られる形態ができたことにより、彼らの存在が保護された。


「うんむ。鬼族は真面目。むしろ働きすぎ。社畜……。もう少し遊ばせてあげることも必要だろう。シェイドにいっとこ」


 ヨルムンガンドは詳しい分類はしなかった。それは彼女の弟のシェイドが彼らの『親』となり、眷属化している側面が大きく関わっている。クロの眷属の多くがそういう傾向にあるが、彼らは自分の縄張りや庇護下にある存在は守る。だが、それ以外には特に強い執着はない。

 例外はあるが、それでも彼女らはどちらかと言うと人間よりも魔物である。

 ヨルムンガンドは小さい鬼や大きな鬼。豚の頭部を持つ鬼、牛頭、馬頭……。他にも雑多に居る鬼族をスケッチし、その特徴をメモしながら、迷宮の疑似魔物との比較や魔獣との比較などを行う。元来学者気質であるヨルムンガンドは、ここまでが一連の作業。彼女はこのデータを集積し、自らの拠点で精査する。……精査するのはヨルムンガンドではなく、生物学者のエルフではあるが。

 ヨルムンガンドはこのように日々を過ごす。これが彼女の趣味であるからして。


「今日のお父さんの寝室には何族が来るっけ? 確か……少数の民族が固まった集団だった気がする。……見ておくか」


 ヨルムンガンドの研究心は尽きない。


 ~=~


 ヨルムンガンドはその日に観察する種族を綿密に選んで決めている訳ではない。お父さんと呼ぶクロが取るように勧める朝食の席、最後のお茶を飲みながら思いついた種族を戯れに見に行く。その程度の決め方だ。彼女の研究範囲は幅広い。その範囲は言葉ではとても言い尽くせない。何せ、彼女が一番興味を持つのは、万物の事象を破壊する『クロ』と呼ばれるお父さんの種族解明だから。他の種族の観察はあくまでその通過点。似通う点があろうがなかろうが、ヨルムンガンドは見続ける。

 今日も彼女は鬼族を見る。

 鬼族は意外と社交を重要視する種族という事も解った。特に小さな種になる毎に、集団の順位付けや仕事の細分化が細かくなり、綿密な社会性を持つことを彼女は記している。この小鬼族は鬼族の中でも特に几帳面で細かい。この時のヨルムンガンドは数人の小鬼の目の前に姿を現す。一種の戯れで彼女は錬金術を授けた。翌日には小鬼の中に錬金術の基礎を扱う者が現れだした。鬼族の可能性は広いと彼女は興味深げにレポートを整理する。


「鬼族の小さいのは戦力としていいかも。今度借りよう」


 他の鬼族も体格に合わせて仕事も行う。その仕事場の中に、鬼族以外の存在が居ることをヨルムンガンドは目ざとく見つけた。それは蜘蛛の頭部に人間の上半身の付いた『異形』と言われても差し支えない存在。魔物で言うならアラクネだが、ここでは彼らのことを『蜘蛛人(アルケニー)』と呼んでいる。

 手先が器用で種族として扱える、絹よりも高品質な各種繊維が有用。錬金術の素材としては構築術の素材としてヨルムンガンドも目を付けている。その蜘蛛人の周囲には人間の体に見えるが、関節が昆虫に似ている……翅のある種族が居る。あれは確か『軍隊蜂(アーミー・ホーネット)族』だ。蜘蛛人と共にイオの部下では一大勢力で、イオの戦闘面の部下。虫魔族は全体的に戦闘に好感が無いが、彼らと収取の虫魔族は戦闘ができる者は居る。

 今回蜘蛛人がここに来たのは物々交換の為に来たようだ。

 丁寧に包装された衣服を女性の豚鬼族の夫人が嬉しそうに広げ、蜘蛛人族の手を握っている。豚鬼族の女性が持ち出したのは良質なたんぱく源となる肉だ。豚鬼族はこの拠点では様々なことに手を出している。体格が鬼族派閥の中間であることも大きく関係しているのだろうが、様々なタスクに入り込み、自分達のできることはなんでも行う。


「豚鬼族は中でも万能。ここでは一番重要かも。でも、人族の中で馴染むには少し難有りか」


 鬼族だけでは無く、虫魔族もそうである。容貌が人とかけ離れているため、特に純粋な人族が忌避する傾向にあるようだ。この迷宮領の、特に迷宮に住まう変わり種の人族ならば問題なく受け入れている。しかし、元ファンテール王国の南方領やラザーク地方では、未だに彼らを異物と認識する方が多勢を占める。

 これまでの魔物被害という意味でも、魔物は人間を襲う事から警戒されることは正常な判断だ。見かけが似ている彼らを警戒することも、人の観点から見れば正常だろう。何故なら人族やドワーフ、エルフ、獣人種などの広い意味での人間族は弱い。魔物に対抗するには数で圧す、武器を用いる以外に手が無いのだ。レポートを記すヨルムンガンドは数多の種族を見ているので理解している。人間とは弱く儚い生物であると。なので、魔族が受け入れられるようになるのに時間がかかることも、ヨルムンガンドは十分に理解した。その観点もまとめ、お父さんの第一夫人であるエリアナ用の簡単なレポートにまとめておく。

 ヨルムンガンドはこのように様々な場所へ様々な形式の観察と、考察を合わせた書類をばらばらに送っていた。錬金術以外の彼女の仕事がこれである。


「今日のお父さんの寝室にはお母さんが来る。確か今回の薬はちょっと過激なタイプだから楽しみ。……お父さんってどのくらいまでストライクゾーンなんだろ? 魔族の女性でも行けるのかな? 興味は……ある。けど、…………聞くのはやめとこ」


 ヨルムンガンドの好奇心は尽きない。父の寝室に来る多くの妻とのことも、彼女の観察する対象である。一応。生物学上での見識である。それもレポートにまとめて彼女の研究室のある、『紅宮』に保管されているのだ。なお、さし絵付き。

 これはヨルムンガンドの予期しないことだったのだが……。

 この後、シェイドとイオの位階進化が重なるに従い、魔族の外観もより『人型』に近くなっていった。その過程も観察しているが、傾向すらわかっていない。それよりもヨルムンガンドの興味は別の所にあった。未だに種族すら割れていない父の性質についてだ。魔人だという事は解るが、彼は魔人としても規格外過ぎる。イオの策略で送り込まれた、ほぼ人の姿になっている鬼族や虫魔族の女性との間でも、繁殖が可能という事が解った。

 ヨルムンガンドは父の事に関しては全く分からなくなってしまったが、いくつかのレポートをこの時まとめた。『魔族』それは体内の魔素循環量がエルフ並みであり、人を凌駕する肉体。何より、魔物由来の組成を持つ新たな『人間種』であると。 

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