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閑話休題23『龍族の生態と年齢における差異』

 その日、『王祖の迷宮』のとある人物の部屋に数人のメンバーが集まり歓談していた。そこにはまだ種族の概念ではうら若く、これから龍生のセカンドステージを歩もうという人物達だ。部屋の主はラピスラズリ。そこにピオン、アリアドネ、アグニアス、ステン、クリス、レイ、ライト、ブライト、フィオ、カーム、マーリン。全員まだ結婚適齢に入ったばかりの、人間族でいう夢見る少女達だ。

 まだ年齢と実力から古龍と言うには若い彼女ら。800歳から1500歳のかなり若い龍である。その力はさすがに古龍族の娘達であるが故に強くはあるが、未熟も未熟で今回婚姻を結んだクロの存在に焦がれ、中てられているのは言うまでもなかった。目に♡が映り込んでいる。

 しかもクロは既に実績もある。多くの魔素溜まりを領有し、人間との共存、眷属の数。すべてにおいて彼女らには憧れの対象となり、本来の目的である繁殖相手としてもとても有望だった。この『魔の森』の主。狂犬ツェーヴェを娶り、既に孕ませている。龍族の問題としてその存在の大きさ故に子を残すのも一筋縄とはいかないこと。クロはそれをいとも簡単に解決する程の内在魔素と魔力変換効率を持つ、最高の伴侶なのだ。


「最初は鍛冶ができればよかったけど……なんというか、クロ、いい」

「そうですね。あの狂犬を手懐けて完全に制御している実力もいいです」

「それに美味しい物の知識も凄い。食料生産もする働き者」

「甲斐性という意味ではこれ程のお方はなかなかお目にかかれないでしょう。王であるはずなのにそれを傘に着ないのも好感を持てます」

「子供を大切にするのが某は最も気に入った。我々との子も大切にしてくれるであろう」


 この部屋に集まる少女達の中でクロの評価は凄まじく高い。しかし、この少女達はまだまだ彼のことでも知らない部分が多いのだ。特に彼の仕事や私生活についてよく知らないことが多く、夢見がちな若い龍達はこうやって妄想を膨らめ、未来の暖かい家庭、夢を拡げることに余念がない。実はこの行動は長命で娯楽の少ない龍族にはありがちな行為だった。現実との齟齬に気づくのはおおよそ3000歳くらいから。最初にタケミカヅチの所に来たマダム達くらいからなのだ。

 その頃から縄張りの外部を気にするようになり、娯楽を求めて各地を飛び回るようになる。その頃には子龍も一人で過ごせるので手がかからないと言うのもあるが。

 ここに集まる龍の乙女達は、妄想を楽しむ絶長期と言ってもいい。本当なら1500歳から2000歳で結婚し繁殖することの多い古龍種だが、この乙女達はそれにしても若い為、その傾向は特に顕著。種族的にそういう傾向があるので仕方のない事だ。長命な分だけ精神の成長も幅広く。個体により変化が大きい。その上でここにいるのは人間社会で言う令嬢や姫である。俗世との繋がりは薄く、娯楽ともかけ離れている。


「ですが、年長の皆さんは来ないんですね?」

「あ~、あちらはあちらで話すことがあるのだと思いますよ。なんせ平均年齢が10000歳を超えてますからね」

「そうだな。それにリヴァイアサンのメリアさん以外は未婚だし」

「それもそうですね。大古龍でも結婚していないと何かしら考えることがあるのでしょう」


 おそらくこの乙女達が考えているような深遠な考えはないだろうと思う。夢見がちな龍乙女達のガールズトークは今日も白熱し、この先に訪れる一時の苦難など想像の埒外と言ったところなのだろう。この数日後、他の種族の子女と同様にこの乙女達もある意味洗礼に似た物を受けることとなる。いずれは先達のように乗り越えることとなるが、それもまだまだ先のことであった。


 ~=~


 一方その頃。全員の仕事の休日を合わせ、『水源の迷宮』で集結するのは大古龍と言われる年長の龍族が軒を連ねる集団だった。魔人より昇華した古龍族に匹敵する龍もいるため、肩身が狭そうではあるが。ただ、龍族は力が全て。10000も年を数えれば、誰もその力を測り違う程に驕ってもいない。

 ここにいるのは主催のリヴァイアサンのメリアはもちろん、40000歳の大古龍で星龍コスモ、煌龍ジュネ、時空龍ディア、死屍龍キアント=ミア、毒龍ベラドンナ。比較的年齢としては高めの層ではあるがディア、キアント=ミア、ベラドンナはまだ2000歳そこらで結婚適齢ど真ん中だ。なので大古龍のメンバーと加えると困惑は濃い。なんでここに呼ばれたのかが解らないから。

 そこに少し遅れて2人のメンバーが来る。

 来たのは狂犬『(ツェーヴェ)』とヴュッカである。この2人は土地持ちとなり、位階進化で龍族へ昇華している。ディアと共通の存在。しかし、この2人には先に名が挙がったメンバーとは大きく違う部分がある。

 大ジョッキを振り上げて昼間から出来上がっているメリアを呆れながら見るツェーヴェと楽し気に変事を返すヴュッカ。この2人もメリアが呼んだ。ここに呼んだ理由は一つしかない。龍族の繁殖における条件が整っている年齢層の龍を集めて『夜の事情』を聴くためだ。酒を口に含んでいたディア、キアント=ミア、ベラドンナが噎せる。


「そんなことを聞くために真昼間の酒場に呼ばれたの?」

「まぁまぁいいではないか……。持つ者には持たぬ者の悩みは解らぬ者じゃぞ?」

「はぁ……。それだと昼から猥談になっちゃうけど。他はいいの?」


 食い気味に頷くのはジュネ。ジュネは初期からクロに興味深々だった。かなりクロを気に入っており、事ある毎にくっつきに行くくらいには気に入っている。それに追従するのはコスモ。コスモは族滅して久しい星龍の末裔。自分の伴侶として相応しい存在がやっと現れたので、是が非でも物にしたいという感じだ。

 既に十数人の娘が居るメリアは、単にこのメンバーで猥談を楽しみたいという感じ。ツェーヴェは呆れているが、メリアの内面を知っているので溜息しか出ない。たまにこの2人は語らう事がある。

 メリアはこう見えて割と恥ずかしがりだ。気を許した者でもないとこういった話はしない。その証拠にここは高級酒場のVIP専用個室。セキュリティ管理が堅く、他にこの中での会話が漏れることもない。ツェーヴェの溜息はそこまでして聞きたいことが猥談。しかも、もう何人も大きな娘の居る母親がだ。

 ただ、ツェーヴェもこの新興国家の象徴である存在と子を残す意味、その上である程度相手の夜の性格を知っておきたいと言うのはツェーヴェにも解らなくもなかった。事実、ツェーヴェやヴュッカはそれで一度酷い目に遭っているのであるから。


「いいけど、こればかりは聴いたとしても信じられるかは微妙よ? 龍族だったとしてもおかしな話だから」

「ですです~。私もアレには驚きました……。ホントに死ぬかと思いましたし」


 最初に噎せた三人は驚きすぎて言葉も出なかった。口の周りにエールの泡がついたまま顔を見合わせている。あの『蛟』が前置きをする話。それもこんな人でもするような一定の年齢に達すれば一度はするような猥談で? ……と。ツェーヴェはその三人の反応を見て正直に順を置いて話すことにした。

 それから比較的年長の龍族6人は顔を赤くするやら青くするやら……。とても忙しく表情を変え、ツェーヴェやヴュッカが体験したことを事細かに語られ、生唾を飲む。いい年齢の大人が8人も集まり昼間から酒を飲みながら始めた会話は夕刻まで続いた。その後、いずれ訪れるその時を各々の心持で待ち受け……自分達よりも若い乙女達の前で、悲惨な目に遭わされることとなる。これは立場のある男性へ嫁いだ全員が持つ義務ではあろうが……。彼女らの場合はまた事情が異なっただろう。『思っていたのと違う……』。と思ったに違いない。

 

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