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閑話休題22『エルフという種族+追加』

 ヨルムンガンドは最近カレッサの工房に増えたハイエルフ3人とエルフ10数人に見覚えがあった。このメンバーは数日前に妹の迷宮に喧嘩を売った連中ではないか……? と、首をかしげている。その中で新たに工房に加わったハイエルフよエルフはヨルムンガンドの存在に大いにビビり、縮こまっている。

 ここの工房長兼エルフ族の代表のカレッサに懐き、何やら楽し気に会話をしつつ懐から取り出した薬瓶を手渡していた。

 このハイエルフとエルフの素性は、ここの代表のカレッサが請け負う事となっている。その理由は単純でこの場に居るハイエルフの三人全員が、カレッサの血筋の者だったから。もっと詳しく言うなら、カレッサの妹の何代か下った子孫。カレッサとは異なり、そこそこの実力で美人だったカレッサの妹は、見事にその務めを果たして王族の子孫を繋いだ。ここに居るのはその中でも優秀な戦士と斥候、弓士とのこと。三人揃ってボコボコにされて惨めな状態で、カレッサからの容赦ない尋問を受けて……慈悲として命だけは助けられた。


「遅いぞ~。もっと魔力をしっかりと練らんか~。そんなことではどれだけここに居ても対価なんぞ払えんぞ~?」

「そ、そんなこといったって……」

「口答えとはいい度胸じゃの~。クラリッサの子孫じゃろうからあまり期待はしておらなんだが、この程度ではのう……。今からでも遅くはないぞ? 娼婦として体でしはら……」

「ヒッ!」

「そ、それだけは……死んでも嫌」


 カレッサの妹、クラリッサというハイエルフは良くも悪くも平凡だった。容姿はハイエルフであるが故に整ってはいたが、それ以外の才能は中の中。悪くはないが良くもなく……。正直、王族としては本来なら落第点。そのクラリッサが姉にコンプレックスを持つことは言うまでもない。姉を追い出したのもそのクラリッサなのだが、こちらも良くも悪くも鷹揚な性格のカレッサは、特に悪感情を抱かずに外界生活を楽しんでさえいた。

 そして、何の交わりかそのクラリッサの子孫がここに居る。ちなみに、ここに居るのはカレッサと弟子以外のエルフは犯罪労働者という身分だ。このエリアナ女王国では奴隷制度は違法。その代わりに犯罪者にはその犯した罪に応じて労役が求められる。それはどんな罪でも同じ。例えば、セリアナがエリアナのおやつを盗み食いした場合は窃盗となる。セリアナはエリアナのおやつ代分は働かねばならないのだ。エリアナのおやつは意外と高級なので、セリアナはそれから3日分くらい無給労働した。

 本題に戻ろう。この労役ハイエルフとエルフ達には、それこそ国家予算並の納金が求められている。

 通常の労働では彼女らの為の衣食住や家屋の整備代金で保釈金すら出ないので、同族のカレッサに預けられて身柄の権利もカレッサの裁量一つでどうにでもなるようにされているのだ。


「じゃがのう……。おぬしらはそれで魔道具が正常に動くとでも思うてか?」

「え?」

「これでいいんじゃ……」

「教えてもらった通りにしたぞ」

「は~……ヨル、すまぬが見せてやっておくれ。お前なら完璧にこなすじゃろ」

「うん。解った」


 労役ハイエルフとエルフは目の前で完璧に作業をこなし、ランプ型の魔道具を作り上げたヨルムンガンドの手際と技術に亜然。同時にカレッサが性能の差を見せつける為に、試運転を行う。幸いこのタイプの魔道具は解体して組み直せば問題ないが、魔道具によってはその場で壊れる物もある。その類を壊した場合も彼女らの納入する代金が増えるのだ。

 いくらハイエルフとエルフが長命でも金額が金額故に、早めに返せる高額な商品の魔道具をチョイスしたセリアナ。同時にカレッサならうまく使うだろうと……、考えていたのだが……。

 結論……使えない。半日でカレッサはいくつかの考えを巡らせた。迷宮が産出する富と、いきなりの宣戦布告という部分からこの労役は法外な金額が……。それを納金するにはそれなりの手段に限られる。もっとも手っ取り早いのが娼婦になり日雇いで支払う方法。この国では管理されている娼館。この国では娼婦は公務員扱いだ。厳選に厳選を重ねた……ある意味ド変態が集結したエリート集団である。消して金銭に困った女性の行きつく場所ではない。

 この労役メンバーがそれでもいいと言うなら、すぐにでも返せると思う。エルフ、特にハイエルフはそれだけでプレミアだから。他は……。


「う~む。おぬしらは自分の置かれた状況が理解できとるか?」

「……」

「あまりにも残酷ゆえ、この先は言わなんだが残りの手段は過酷じゃぞ?」


 それから数日間、カレッサの代わりにヨルムンガンドが観察してメモした。エルフという種族がどういう種族かは以前から気になっていたのだ。自分が母と仰ぐカレッサがいかにできた存在だったかを、ヨルムンガンドは理解した。そのレポートを読んだカレッサが最終手段へ着手することとなる。

 まず、カレッサが提案したのは『臨床被験者(モルモット)』だ。

 ヨルムンガンドの各種薬剤を摂取して、その効果や副反応、副作用などを確認するごく初期の作業である。動物実験をエルフで行う訳だ。倫理的にグレーであるが、比較的安全の確約がある薬品に限るとは言われていた。しかし、ここに居るのはヨルムンガンドの薬剤によってその人格や尊厳などを完全に破壊された存在だ。その時のことは固く記憶の底に封印した程。全員が即拒否。

 次が魔境の森でとある人物と共に狩りを行う事。

 最初はホッと胸をなでおろした労役メンバーだが、鍛冶部門、調薬部門、錬金部門からのお願いリストを持参したクロを見て……、再び女性として死んだ。もう、お嫁にいけないらしい。それでもリストにしか目に行かないクロの読み上げを聞いたハイエルフ三人は……、全力で土下座した。リストの最初の一体目が『地竜』だった。


「だから言ったじゃろ? サクッと体を売った方が命も尊厳も無事だったと思うぞえ?」

「うぅ……も、もう、遅い。私、お嫁にはいけません」

「こんな辱めを受けて……くッ、殺せ」

「よよよ……。許されるのであれば、こんな場所に行かせた女王を道ずれに……」

「うむうむ。そうじゃろうな~」

「へ?」

「ヒッ!」

「はへッ?!」


 邪悪な笑みを湛えたカレッサから、現在の女王の名前、クラリッサの名が出た時の言葉にその場の全員が飛びついた。カレッサの提案?は本来、一族を大切にする誇りある種族のエルフに有るまじき反応だった。それを提案されたエリアナも邪悪な笑みが映り込み、ケラケラと暗い笑い声をあげる。

 それから主要なメンバーが集められ、今回捕らえたエルフとハイエルフを出汁にした報復が始まる。

 やるときは徹底的に……。これがエリアナの信条。この後、エルフ王国は惨劇の場と化す。女王の戯れによりハイエルフとエルフの襲撃部隊が構成され、隣の迷宮へ攻め込み返り討ち。その報復により、結果的にエルフの国はエリアナ女王国へ併合されることとなる。この時のことをとある錬金術師がレポートしていたそのタイトルは『エルフという種族』というタイトルであった。その最後の結論が……。


「エルフは一部の特異個体を除き、アホである」


 ……であった。この文言はこの後数千年の歴史を刻むノエ・エリアナ迷宮国の中で長く繋がれる言葉となるとは、この時の労役者達は考えてすらいなかったと思われる。

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