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魔物と魔人側の事情

 エリアナは幼い分だけリリアさんよりも順応するのが早かった。というか、エリアナの屈託のない性格と僕やツェーヴェを恐れないところが凄く大きい。リリアさんは年齢の分と僕やツェーヴェの戦闘力を理解しているからね。畏怖という感覚は抜けなくて、少し距離があるように感じる。

 ただ、エリアナもリリアさんも僕用の衣服を作る計画を、隠れてしているのは知ってますから。せめて僕の好みは聞いて? これでもオスなんで、フリル満載のパーティードレス風とか、高原の貴婦人風とか……女性物の乗馬服風とかは止めて……。

 最近ではツェーヴェも加わり楽しんでいる感じがある。手遅れになる前に軌道修正の意味も込めて、全身フル装備で少し狩りにでも行こうかな? 一狩り行こうぜ!!


(ツェーヴェ、僕の新装備をちょっと試してくる)

「え!? 私も見たい!! 一緒に行くわ~!!」


 ツェーヴェは魔道具オタクだ。魔道具の何が好きなのか知らないけど、使えもしない魔道具を白金貨とかを使って買って来ることもある。どこにそんな資金があるのか知らないけど、彼女のポケットマネーだからいいよ。うん。

 この穴蔵のルールで、僕とツェーヴェは外出時、中に居るリリアさんに教えるという物がある。2人はこの『魔の森』の魔物に襲撃されてしまうとひとたまりもないので、許可のある者しか出入りできない迷宮の中に籠ってもらう必要があるからだ。リリアさんに教えて、エリアナと一緒に奥へ入っていったのを確認した。僕とツェーヴェは久しぶりに2人で外出する。まずはこの『外套』から試す。僕は繁みに飛び込み、ツェーヴェに問う。(今、僕の気配が察知できる?)とね。

 ツェーヴェは顎が外れていた……蛇だけに。この『隠密外套(ギリーコート)』は錬金術の『付与』により、『気配遮断』、『光学迷彩』、『環境投影』の3つが使えるようになっている。魔力依存であるから時間制限はあるけど、充填式魔石を採用しているから魔素の薄い場所でもそこそこ使える。


「闇討ちし放題ね」

(それがそうでもなくてさ。動いちゃうと気配遮断は察知されやすいみたいなんだよ。特に気配に敏感な奴には、あと体温と魔素の変動は隠せなくてね)

「ふ~ん。でも、よっぽどよ? そんな能力持ちの魔物も人間も」


 それもそうなんだけどね。準備しておくに越したことはないよ。

 この外套はサブポーチの役割もしている。僕は人間みたいに腰巻とか肩帯とかは使えない。背中に甲殻と棘があるからね。その分、外套の中と僕のお腹に付けている前掛けにたくさん装備を用意した。人間の文化圏での暗殺者とかアサシンとかがモデル。……外套を着ているから、もうまた別の職業な気もするけど。

 最初は背中の魔法の鞄に入れようかと考えたんだけど、魔法の鞄から取り出すのって少しのタイムラグがあるんだ。だから急な攻撃に見舞われた際の対策として、外套の中に手投げ弾系の各種アイテム、鉄製の投げナイフ、吹き矢、socomMk109(ハンドガン)、弾倉(マガジン)。これでよっぽど大丈夫。


「そうね、人間程度ならその銃さえあれば弾け飛ぶでしょうね」

(あの矢のことまだ気にしてるの?)

「そりゃそうよ~……。私、何百年生きてきて、あの時ほど命の危機を感じた事なかったもの」


 大げさな……。ツェーヴェが人間の姿の時は知らないが、蛇形態の彼女の鱗はミスリルと同程度の硬度を持ち、弾力性も金属よりあるから簡単に穴は開かない。

 街へ行くときは背嚢(リュックサック)のが良いんだろうけど、今は山歩き。今は登山鞄(バックパック)を背負っている。中は基本的な野営道具と、食料、調理道具、採掘/採集道具、中型、大型武器類が入っている。何が入っているかはお楽しみ。もちろん僕は全部把握してるけど、楽しみはあとの方がいいでしょ?

 ……なーんて言っていたら標的(ターゲット)が来た。僕もこの森に生まれて約35日。もうすぐ40日くらいになる。いろいろ細かく覚えてられない状況にあったから、これくらいって感じだけど。過ごした時間でだんだんいろいろな野生下を生き延びるためのスキルが芽を出している。気配察知がいい例で、この森…特にツェーヴェの縄張りを侵害する『(アホ)』の気配は鋭敏に感じられる。だって、ツェーヴェの縄張りはとるに足らない魔物を除き、魔物は存在できない。何故かって? 絶対的強者(ツェーヴェ)の気配が強いからに決まってるじゃないか。


(それじゃ、アイツを撃墜するね。明日のごはんだよ)

「へ~。嵐鷲(ガルダリオン)ね。どこから来たのかしら。この辺りでは見かけない魔物だけど」


 嵐鷲(ガルダリオン)は人間達の間ではかなりの危険度らしい。なんせ、風魔法で空から切り裂いてくる上に、かなりの高高度を飛んでいるから。撃墜するのも至難の業なのに、一方的に攻撃してくるから厄介極まりない魔物として有名なのだそうな。アイツを人間が狩るときは、中級魔法以上の魔法で撃墜し、落としたところをタコ殴りにするらしい。そのタコ殴り中も注意が必要で、地上に落ちても高危険度の魔獣。反撃を受けると痛い目に遭う。その鋭い爪を体に受ければ真っ二つ。様々な風魔法も使って来るから油断はできない。

 だけど、僕には関係ない。身長6㎝。森の中で一番高い木に登り、嵐鷲が狙い易い角度へ入るのを待つ。この距離だと、いくら気配察知が得意な風魔法を使う嵐鷲でも、直前まで察知するのは無理だろう。

 その嵐鷲はツェーヴェが見ている前で、眼球を撃ち貫かれ墜落。その段階で死んだ。

 僕の作ったPSG-44(スナイパーライフル)で目を撃ち貫いた。この銃は火薬を使う銃ではない。魔法銃だ。弱点としては遠距離を狙撃するため、それだけの距離を飛ばすだけの魔力を抽出されるから、気軽に撃てる銃ではない。また、魔力弾倉に充填できる魔力量にも限界があるし、時間もかかるからね。ここぞという時にしか使えないのですよ。


「い、今なにしたの?!」

(この銃を使ったんだよ。魔素を超圧縮した純然たる魔力の弾を撃てる銃。発砲音も廃熱も噴煙もないから凄く強いけど、魔力消費が非常に悪いね)

「必殺武器見たいな物じゃない……」

(あ、いや、一発放つまでに20秒くらい必要だからそうでもない。近距離では長いから取り回し悪いし)


 呆れの深まるツェーヴェを無視し、僕は撃墜した嵐鷲を回収。その先に、次なる標的を発見。……というか、これは問題じゃないかな?

 ツェーヴェも苦虫を嚙み潰したように、もっのすっご~い苦々し気な表情。これは魔物の事情だからね。仕方のない事だ。よくある……とまでは言えないけど、たまにあることなんだよ。野生動物もそうだけど、魔物も何かを糧に生きている。動物なら栄養、僕ら魔物、魔人は魔素とね。それで、食べ物がなくなったり、魔素が枯渇したらどうなると思う? その周囲の生態系が崩壊して、食い合うか、転居を始める。そういう状況になるのは確かに稀なんだけど、無いことはない。

 問題はそれが指向性を持って動く群れを作る魔物であった事。人間文化では『大暴走(スタンピード)』という。今回来たのは魔蟻の群れ。しかも、軍隊魔蟻。人間の国なら絶望不可避な状況だ。実はこの軍隊魔蟻、この『魔の森』の北東へ視点を向けた更に奥の土地に営巣地(コロニー)がひしめいている。こっちに来るのは珍しいし、ツェーヴェ曰く時期らしいから、新しい独裁女王蟻が生まれて分巣した若手がこっちに流れて来たのだろう。……て行ってる。今回の軍隊魔蟻の『大暴走』はその二要素の複合。大食らいな軍隊魔蟻は小、中規模の魔素溜まりを食いつぶしながら、この理想郷を目指したのだろう。……ここが魔境とも知らずに。


(今度はこれ)

「それは?」

(MG-90機関銃。ベースはMG-42っていう機関銃だけど、それを魔道機関で補強した魔道機関銃。秒間1000発のトレント樹脂弾を打ち出せる対多数用の殲滅兵器。……これも魔素効率が非常に悪いのが難点かな? だから……)


 MG-90の二脚についている線を地面に差し込む。ホントはこれはあんまりよくないんだけどね……。これをやると、周りの野生植物に回るはずの魔素を吸っちゃうから。けど、食いつぶされるよりマシだよね?

 低木の上に飛び乗り、高さを合わせ、ウ~ッ! ファイアーッ!!

 サイズも僕基準だからそもそも僕にしか使えないけど、威力と反動も半端じゃない。肉体強化している僕でも抑えてある程度の位置を狙うので精一杯。瞬く間に軍隊魔蟻の群れがつぶれていく。というか、何が起きたかもわかんないんじゃないかな? トレント樹脂弾の怖いところはここ。トレントって魔素を急激に流し込まれると急成長するんだよね。樹脂もその性質を持つ。その性質を利用して、弾頭と薬莢の間にスペーサーがあってそこに入っているトレント樹脂が外に飛び出す。弾頭には加速の魔法が掛かって飛び出してるから、トレントの樹脂も加速しながら、鋲みたいになって標的に着弾。意外と堅いから、単体は弱い軍隊魔蟻では一溜りもない。


「本当に呆れたわ~……」

(え~? この場合は褒めてよ)

「貴方以外のどこに災害級生物の暴走を単騎で食い止める魔物が居るっていうのよ~……」

(ツェーヴェならできるでしょ?)

「できは……するけど……。やるなら森ごとよ」


 『魔の森』の主、(ツェーヴェ)は僕を見て、物凄く変な表情をしていた。30日近く一緒にいるけど、この表情は初めて見た。まぁ、何が言いたいかはだいたい想像できるけど。ツェーヴェは僕の戦果を呆れながら眺めやり、魔法の鞄の中に軍隊魔蟻を放り込む作業は手伝ってくれた。たぶん、嵐鷲がこっちに来たのも、この軍隊魔蟻が関係しているだろう。他の生物も巻き込まれているのか、ツェーヴェの縄張りの外縁に居るトレント共が騒がしい。……いつでも対応はできるけど、面倒な事この上ないな。

 ツェーヴェと共に僕は穴蔵に帰って来た。

 気は重いが、我が主にお出かけの延期を伝えねばならない。ツェーヴェの縄張り内が比較的安全とは言っても、それは絶対安全とは違う。ある程度戦えるリリアさんクラスが数人で、何とか生きて出られるレベルだ。エリアナは森歩きにも慣れてないし、リリアさんも戦闘もできるメイドさんだから歩けるだけ。完璧ではない。危険過ぎる賭けはしないに越したことはない。


「ブーっ!!」


 案の定我が主はむくれた。仕方なく、僕が身を呈してご機嫌取りをしたよ。まさかゴシック感あふれるドレスを着る羽目になるとは……とほほ。


 ~=~


・成長記録→経過

クロ 

オス 生後35日程~40日

主人 エリアナ・ファンテール

取得称号

・森の管理担当代理 ・蛇娘のお気に入り ・稀代の鍛冶師 ・稀代の魔道具師 ・開発王 ・お嬢様の従魔 ・森の救済者 ・迷宮の家令 ・侍従長のお墨付き ・天才錬金術師? ・ポケットinボディガード

???族

全長10㎝……身長6㎝

取得スキル

+身体強化

+匠(+開発者 +名工 +上級錬金術 +装飾)

+狙撃

+狩人(+弓術 +解体術)

+行商人(+交渉 +詐術 +観察)

NEW +隠密 +完全気配遮断 +鼓舞

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