永遠のセツナ
「さて、と」
仕事を終えた少女は、少年の前に立って視線を合わせる。少年はいつの間にか膝を折っていたので、背の低い少女でも彼を見下す形になる。
車両を覆う炎の中。少年は血塗れの自身に目もくれず、凛とした面持ちでこちらを見る少女に黄金の瞳を向けていた。
一目では判らなかったが、少女の服装は少しだけ修道女のそれに近い。
白を基調としたワンピースは膝丈で、頭巾も被っていない。修道服に近いというだけで、特に敬虔な宗教家という訳ではないのかも知れない。
だが、細い柄により細い刃を三本伸ばした十字架の様な細槍を携えたその姿からは、あまりにも聖女然とした神聖さが感じられた。
「血が出てるのね。頭はボーッとする?」
こんな生命の危機に少女の服装の事を考える自分に、少年は少しばかり呆れる。
「俺は……死ぬのか?」
自分に降りかかる濃厚な死の香りに、目の前の少女へ問いかけてしまう。
「そうね。そのままじゃ、貴方は死ぬ。確実にね」
幼い声に反して冷静に、少女は死を宣言する。
右手で抑えている抉れた左脇腹は、止め処なく赤を吐き続ける。首筋の出血も未だ止まる気配はない。
生を諦めかけていた少年へ、少女はその細く白い手を差し伸べる。
「私と来れば助かるかも知れない。でも私の手を取れば、今までの生活を捨てて生きる事になる。それでも、貴方は私の手を取る?」
少女の手を凝視しながら、少年は自分の生と死の天秤を揺らす。だがその天秤は、彼の知らぬ内に壊れていた。
血に濡れた右の掌を見て、また少女の手に目をやる。そして右手をすっと下げ、少女と視線を交わす。周囲の炎を焼き写した様な、強い光を放つ橙色の目だ。
「俺は……どっちでもいい」
そうやって少年は自分の全てを放り投げ、意識を深い闇に沈めた。