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魔導師団員に会うようです。

 ――かの人物が通路の向こうに姿を消したことを確認して、私はその場に座り込んだ。


 正直に言うと、腰が抜けた。


「――あれが、あの方が、エルムラート司教、ですか」


 絞り出すようにして、やっと、声が出た。


「そう。彼が現在女神教のトップにいる。できれば()()には極力近付かない方がいい」


 コルネリオさんが淡々と言う。


 二人して『あれ』呼ばわりをしているが、それはこの際置いておいて。


 こちらとしても近付きたくはない。


 だが。


 私は、エルムラート司教という人物の姿を記憶()()()()()()


 見送ったはずの、後ろ姿ですら。


 顔立ち、髪形、髪の色。何一つ。


 次に()った時に気付けるか――いや、心配せずとも()()()()で気付けるだろう。逃げられるかは自信が無いけれど。


「大丈夫かい? 顔が白くなっているけど」


 座り込んだ私に、コルネリオさんが(かが)んで視線を合わせてくる。


「……何か、あの人に対して変な感覚がありまして……」


 あの感覚を何と表現すれば良いのだろうか。

 拒否反応とは微妙に違う。

 

「逆らってはいけないような、従わなくてはいけないような、自分で身動きできない感じで」


「心酔、ではないね。身動きができないなら威圧か畏怖、といったところだろうか」


「そう、なんですか」


 心酔ではない。断言できる。

 ならば目の前の存在に対する威圧感、畏怖。それが一番近いのだろう。


 まるで、自分の中の何かを見透かされるような。

 まるで、人ではない何かと対峙しているかのような。


 色々と元の世界とは違う部分を見ていたはずなのに、エルムラートという人物だけがやけに異様だと感じてしまう。


 ――私の方が、この世界で異様な存在だというのに。


「……そこまでの状態になったのは、私が知る限り君くらいだろうけれど……」


 コルネリオさんは、立ち上がり何やら考え始めた。

 その姿をぼんやり見上げていると。


「……立てますか」


 弟子が声をかけてきた。

 そういえば座ったままだった。


「あー、すみません、今立ちます」

「……手を」

「…………どうも、ありがとう、ございます」


 手を差し出されたので、一瞬悩んだものの、その手をつかむことにする。


「師匠」

「――ん? ……ああ、すまない」


 弟子の声に、コルネリオさんは我に返ると苦笑した。


「うっかり考え事をしてしまった。司教が戻ってくる前に移動しよう」


 言って、再度歩き出す。


「今から行くのは魔導師団員が住んでいる塔なんだけどね。基本引き籠もっているか城下に遊びに行っているかだから、もしかしたら今日は全員に会えないかもしれないね」


 城に勤めている人間がそれでいいのか。


 そんな呆れた思いを気取られたらしく、


「魔導師は魔術による研究開発か、上からの指示による騎士団・魔術師団の戦闘指揮や援護が主な仕事だからね。基本は城に待機だけれど、大半は自由時間で、皆好き勝手に過ごしているんだ」

「皆、と言ってもここにいる三人を含めて八人しかいませんけどね」


 コルネリオさんの言葉に弟子が付け足す。


 思ったより少ないな魔導師団。

 ……そして戦闘指揮とか聞こえたけれど、もしかして結構偉いのか魔導師団。

 魔術師団と別にされているくらいだし特殊なのだろうとは思ったけれど。


 ……あれ。

 今さりげに自分も魔導師団員に含まれていたような。


「私は見習い扱いなのでは……」

「見習いという設定だけど、この世界の情報を知らないままいきなり生活するのは厳しいと思うよ。向こうの世界とは違ってこちらの世界、特にティダリアは大半が魔法を使って生活を送るのが普通だから。だから暫くは慣れるまで見習いというよりは魔導師団の客人、それに近い扱いになる」

「ああ、なるほど」


 確かに、いきなり放り出されるのは勘弁してもらいたい。

 しかし魔導師団、弟子とか見習いとか客人とか言われても、私には荷が勝ちすぎているような気がするのですが。


 ――話しながら歩いている内に、黒い塔が視界に入る。

 塔の周辺はかなりの広さで草木のない、土だけの広場になっているようだ。


「あれが魔導師団の住む塔だよ。周りは実験やら何やらで草木も生えない更地状態になってしまったから、今は訓練場を兼ねている。そこも含めて影響が出ないように外側には結界を張っているから、他の場所には被害は出ていないよ」


 ……コルネリオさんの説明に、何処から突っ込みを入れていいのか分からない。


 一般人な私は生きていけるだろうか。


 ――塔の前には五人、黒いローブ姿の男女がいた。


「お帰りなさい、団長、副長。そちらの方が『見習い』さんですか?」


 近付くと、青い髪の男性が声をかけてきた。


「そうだよ。名前は『ユーナ』。ユーナ、彼の名はカレム。魔道具の企画考案を担当している」

「よろしく」

「あ、はい、よろしくお願いします」


 とりあえず頭を下げた。


「その隣から順に、ルーフ・フラム・リーア・リーネ。ルーフは魔道具の作成、フラムはその改良。リーアとリーネは双子で、それぞれ魔法薬の研究開発をしている」


 ルーフさんは赤、フラムさんは黄、リーアさんとリーネさんは紫色の髪をしていた。

 双子さんは私には見分けられなそうだ。

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