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偉い人に挨拶に行くようです。

 食事から二時間後。


「着替えがないから、謁見する時はこれを着ていてもらえるかな」


 と、コルネリオさんから黒いローブを渡された。


「アルフィリオのお下がりで悪いけれど。魔導師は基本的に黒いローブを着用しているんだ」


 左胸の辺りに金色の模様がある。

 円の中心に剣があり、その剣に蔦が絡まっているような絵柄である。


「それは国の紋章を刺繍してある。『この土地で無用な戦は起こさないように』という意味が込められているものなんだ」


 では、この国は無闇に戦争を起こしてはいない、ということか。


「他の国からも離れた距離にあるから、滅多なことでは大規模な戦は起こらないよ。内乱は起こったけれどね」


 ……紋章の意味とは。


「あれはタイミングが悪かったというかなんというか……。結果的に『無用な戦』ではなかったのだろうけれど、まあ、そこそこ大変だったかな」


 内乱と言うからには、コルネリオさん含む上層部も国を鎮めるために大変だったのだろう。多分。


「召喚された君には不穏な点を知られているし、安心できるとは言えないけれど、今のティダリアは比較的平和と言えるだろうね」


 それでも念には念を入れて、一部の人間以外には今回の件は伏せておくことになっているという。


「故に、君には遠い場所に住んでいる私の知人の血縁者で、魔術師見習いとして修行に来た娘として生活してもらうことになる」


 この国で魔術師は魔導師とは別の役職になっているらしいが、今回の『魔術師見習い』とはコルネリオさんの弟子としての呼称になるらしい。

 ……正直言ってややこしい。


 というか。


「私は魔法を使えませんが」

「使えるよ。髪の色が元の世界のものとは違うだろう? それは潜在的な魔力を(あらわ)しているんだ」


 ああ、だから髪が緑色に……ってマジか。


 髪をつまんで眺めていると「時間は大丈夫なんですか」という弟子の声が聞こえた。


「そうだな、そろそろ向かうとしようか」


 言われて持ったままのローブを羽織ろうとして、気付いた。

 事故に遭ったというのに、何処にも傷があるように見えない。

 本来の肉体ではなく、擬似人形だからであろうか。


「どうかしたかい? サイズが合わないとか?」

「あ、いえ、事故に遭ったのに怪我がないのは擬似人形だからかな、とか思いまして」


 気になったので素直に言う。


「そういえば、説明していなかったか。擬似人形だから、というより、擬似人形へ移す前に傷付いていた魂を修復したんだ。それが人形へ反映されたんだよ。……干渉できる部分が限られていたから、事故より前の傷は治せなかったけど」

「……そうですか」


 その言い方は。つまり。


 私の身体に()()()()の傷があることを知られているということだ。


「魂が定着したら、向こうの世界で消せなかった傷を消すことはできるよ」

「それは……、そうですね、考えておきます。教えてもらって、その、ありがとうございます」


 記憶を覗かれたのだろう。事故の前後だけといっても、何かの拍子に過去を知られていてもおかしくはない。


 ……状況が状況なのだから、仕方が、ない。


 無理矢理納得させて、ローブを羽織る。


 そして、部屋を出て先を歩く師弟の後を追う。

 なるべく人目に付かないように、人避けをされたという通路を通り、誰にも会うことなく大きな扉の前に着いた。


「陛下は?」

「先程お着きになられました。魔導師団長様、副長様が到着次第通すようにと承っております」

「そうか。新しい弟子を取る件について、陛下に報告がある。彼女は当事者で陛下には事前に連絡してある。一緒に通らせてもらうよ」

(かしこ)まりました」


 扉の両脇に立っていた騎士らしき男性へコルネリオさんが言う。


「陛下の前まで来たら、私達と同じように動けば問題ないから」


 騎士が到着を知らせている間にコルネリオさんに言われ、緊張が少し和らぐ。本当にほんの少しだけれど。


 扉が開かれ、中に進む。


 ――と。


 背中に何かが触れた。


「失礼。埃が付いていた」

「……ありがとう、ございます」


 扉の横にいた騎士に、埃を取ってもらったようだ。申し訳ない。


 中に入ると、執務室と言えば良いのか、あらゆる意味で高そうな机が正面にあり、そこにはコルネリオさんのように金髪碧眼の男性が座っていた。

 右側には似たような風貌の青年が立っている。腰に剣のようなものを差しているので護衛だろうか。


 前にいる二人が片膝を折り項垂れるのに続いて真似る。


「礼はいいから、立って顔を上げろ」


 前の二人の様子を見ながら、ゆっくりと立ち、視線を上げる。


「ここには今、俺とジークしかいないから楽にしていいぞ」


 と、陛下がだらしなく座り直しながら、隣の男性を指して言った。


「……陛下」

「ジークハルト。『陛下』の言葉が聞けないのか? お兄ちゃん悲しいなあ」

「いきなり兄貴面すんな面倒臭え」


 兄弟らしい。

 ニヤニヤする兄に眉間に皺を寄せる弟。

 確かに金髪碧眼と顔立ちが似ているが、性格は真逆そうだ。


「そっちのお嬢さんは初めましてだな。俺はアルフレート。一応ティダリア国の国王だ。隣にいるのは弟のジークハルト。騎士団の団長をしている」


 いきなり話を振られ、挨拶をしようとしたが。


「彼女はまだ起きたばかりです。話をしたいならまず私に話を通していただかないと」


 とコルネリオさんに遮られた。


「え、何だそれ。お前は父親か」

「せめて兄と言って欲しいね」

「いやいや実年齢で言ったら確実に爺さんだろ何言ってんだ」


 ……言い合う二人に口を挟めず、他の二人に視線を向ける。

 が、それぞれ呆れた眼差しで見るだけで口を挟む様子はない。

 ……止めなくても良いのだろうか。


「あの……」

「気にしなくていい。暫くしたら終わる」


 弟子に声をかけようとしたら、先回りされた。


 どうやら日常茶飯事らしい。

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