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選択肢はないようです。

「いきなり選択を迫ってすまないね」


 コルネリオさんは言う。


「ゆっくり考えてほしいところなんだけれど、召喚者の立場と上に報告する関係とで、君の扱いをどうするか早急に決めておかなくてはいけないんだ」

「私の扱い、ですか」

「この国では異世界の人間を召喚することは禁止されている。特殊な事情でもない限り、異世界の人間が召喚されたということは表沙汰にはしたくない」

「……? この国以外で召喚された場合は問題ないんですか?」


 言い回しに引っかかり、私は尋ねた。


「問題ない、というより召喚するための魔法陣を扱える国が限られているので問題の起こしようがない、というのが正しいかな」


 説明によると、召喚には大量の魔力が必要で、この国周辺の大気中に含まれる魔力(別の国では魔素、またはマナとも呼ばれるらしい)の量が多いことを利用してあの召喚者は魔法陣とやらを起動したらしい。

 普通の土地ではそこまで魔力はないらしく、故に召喚できる国が限られている、とのことである。


「君が帰るというなら、召喚された魂が魔力に耐えきれず消滅した、とでも報告すれば陣の動作不良による失敗として処理できる」


 肉体が存在しないのならば、消えたところでどうとでもごまかせる、と言われて、何とも言えない気分になった。


 ――それは、わざわざ私を帰そうとしなくとも、本来ならばそのまま魂を消滅させれば証拠は残らないということで。


 つまりは私などその程度の存在ということだ。


 擬似人形に魂を固定したのは事情聴取のため。


 ならば、擬似人形ごと()()隠滅ができるのではないだろうか。


 そのことに目の前の人が気付いていないわけがない。


「……師匠」


 私が考えたことに気付いたのだろう、弟子が声をかけた。


「え? ……いや、別にいきなり消すとかはしないよ? 君がこちらで生きるなら全面的に援助もするし」


 だから警戒しないでほしいとコルネリオさんは私に言う。


 ……いきなりでなければ消されたりする可能性はあるんですかね。

 などとは聞けない。


「……つまり……選択肢はないんですね」


 どちらにせよ『人』として生きられない。


 元々死ぬ所を召喚されたのだから当然といえば当然なのだが。


 異世界に魂だけ召喚さ(よば)れて、人形の身体に憑依転生とか。

 夢なら覚めてほしいものである。


「関わった以上、簡単に放り出しはしないよ。とりあえずは私の弟子として生活してもらうことになるけどね」


 遠い目になりかけたところをコルネリオさんに引き戻される。


「弟子、ですか?」


 そういえば確か魔導師団の団長と副長とかなんとか言っていたような。


「これからこの国の国王陛下に報告するため君を連れて行くことになっているからね。設定としては辺境の更に辺境から親を亡くしてやってきた、見習い魔法使いということにしようと思っているんだけど、どうかな?」


 どうかな?

 と聞かれたが、その前に国王陛下に会うとか聞いてないんですけど。


「あ、あの、今から、ですか?」

「いや、丁度昼時だから、お互い昼食を終えた辺りに会う予定かな。早くても二時間後くらいか」


 早いのか遅いのか全く分からない。


 混乱していると、何処からか鈴の音がした。


「頼んでいた昼食が届いたようだ。行儀が悪いけど、あとは食べながら話そうか」


 弟子が部屋から出て行った直後、何処から取り出したのか、白いカーディガンのようなものをコルネリオさんは渡してきた。


「その姿のままではアルフィリオに怒られてしまうからね」


 私は病院患者が着るようなワンピースのようなものを着ていたわけだが、そんなに怒るような変な衣装ではないと思う。

 あれか、実はこの世界の室内着みたいなもので、着の身着のままで徘徊するような感じなのか。

 怒られるのは勘弁なので、素直に羽織ることにする。以外と厚手で暖かい。


 扉は右側にノブが付いていて、コルネリオさんが先に出て扉を押さえてくれた。なんという紳士。

 礼を言って扉をくぐると、そこは先程いた部屋より広い空間になっていた。

 中央寄りに広いテーブルが設置されていて、こちらから反対側の奥にまた扉があり、弟子はそこから料理を載せたカートを引き寄せていた。 


 ……ん?


 よくよく見ると、扉の向こうに誰かいる。

 メイド服のようなものを着た女性である。

 ふと、視線が合い――睨まれた。

 何故だ。


「……もう用はないので帰っていただいて結構ですよ」


 弟子が振り返り、メイドさんに告げた。

 メイドさんは何か言おうと口を開いたが。


「お戻りください」


 と弟子が再度言い、問答無用で扉を閉めた。


「アルフィリオ、あの態度はどうかと思うよ」

「あれくらいしなければ付け上がります」

「君一人ならまだ良かったんだろうけどね」


 ちら、とコルネリオさんが私を見た。

 話の流れからとても嫌な予感がする。


「まあ、何かあったらそれ相応の対処はするから。それより冷めないうちに食べようか」

「そうですね」


 さらりと流され、師弟が準備したテーブルに促され席に着く。


 サラダだとかスープだとか色々用意されていた。


「マナーは気にしなくていいから、食べられるものだけ食べるといいよ」


 必要なことは後から学べばいいとコルネリオさんが言うけれど。


 ……マナーが必要な生活がこれから始まるのだろうかと思うと、この先不安しか感じない。

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