異世界に召喚された、原因があるようです。
コルネリオさんの質問に返す形で、私の事情聴取が始まった。
「君の名前は?」
「楡木柚菜です」
「年齢は」
「18です」
「住んでいた場所は」
「地球という惑星にある日本という島国です」
等々。
しかしこんな説明で大丈夫だろうか?
地球とか、惑星の概念がこの世界に存在するかも分からないのだけれど。
異世界の人間に理解できるような説明の仕方ができないので不安になるも、コルネリオさんは確認するように頷いて、先程見た木板上の紙に何か記入しているので大丈夫だと思いたい。
「――こちらからの質問はこれくらいかな。……では、君にしなければならない大事な話がある」
一息ついて紅茶(みたいなお茶)を飲んでいると、記入を終えたコルネリオさんが向き直った。
「既にこの世界が君の住んでいる世界とは違うと気付いていると思う」
その言葉に私は頷く。
何度かファンタジーな単語を聞いているし、見知らぬ場所にいるのだから、現実として受け入れるしかない。
「それで、だ。……君は魂だけこの世界に召喚された。今は私が作った擬似人形に君の魂を固定している状態だ」
「人形……」
道理で違和感があるわけだ。
無意識に動けはするが、不意に動かし方を意識して逆に不自然な動きになるような、そんな不思議な感覚がある。
「人形といっても構造は人間と変わりがないようにしている。だからきちんと五感があるはずだよ。少し普通の人間より丈夫ではあるけれどね」
確かに。そうでなければお茶やお菓子など出しはしないだろう。
違和感があっても、暫くすれば馴染むだろうとコルネリオさんは言う。
「そしてここが問題でね……申し訳ないが私は君の召喚される直前の記憶を覗かせてもらった」
コルネリオさんの眉が下がり、本当に申し訳なさそうな表情に見える。
「君は――事故に遭っていた。そのことを覚えているかい?」
事故。
言われて思い出す。
「あ、――っ!!」
私は弟と二人で買い物に出かけていた。
そこに運転を誤ったらしきトラックが迫ってきたのだ。
隣を歩いていた弟を逃がそうと、人が集まる場所へ突き飛ばして。
――それから、弟はどうなった?
「來斗――弟は、どうなりました!?」
勢いこんで聞く私に、何故かコルネリオさんは目を細めた。
「……君の意識が途切れる直前、通路側にいた人が男の子を支えていた。無事でいると思うよ」
その男の子とやらの特徴を聞き、弟であると確信する。
無事で良かったとホッとした。
「……気になるのは、それだけかい?」
小さくコルネリオさんが呟いた。
私のことについて、だろうか?
「話を戻そうか。君はどうやらトラックに刎ねられて、亡くなる直前に召喚されたらしい。肉体と魂が乖離する瞬間、機能を失った肉体はそのままに魂だけを呼び出したものと思われる」
「それは、つまり――」
「……君はあちらの世界では死んでいる。幽霊と同じ存在だということだ」
死んだ。
私が。
「君には選択肢が二つある」
実感が湧かず思考が停止しそうになったが、コルネリオさんの声に引き戻される。
「一つはこのまま日本に帰ること。ただし、肉体は既に存在しないので君はそのまま天に召されるだろう」
帰ったところで、時間が戻る訳ではないらしい。
「もう一つはこのままこの世界で擬似人形の身体で生きること。ただし、それはあくまで偽物だ。人間と同じ構造ではあるが、どこに欠陥があるか分からない。元々試作品から改良したものだったからね」
この身体は、コルネリオさんが長い年月をかけて集めた稀少な材料で作られているらしい。
また同じモノを作るにはかなりの時間がかかるとのことである。
「普通の召喚ではなかったから、器が必要だった。魂を固定する物がなかったら、君はこの世界で消滅していたかもしれない」
それは、良かったのか悪かったのか。
「それで、君はどうするか決められそうかい?」
「……いきなり言われましても……」
日本に戻れば即昇天。
こちらで生きるにしても問題あり。
死ぬよりは生きていたいけれども、そもそも運命をねじ曲げて良いモノか。
「君を召喚したのはこちらの世界の人間だ。君が生きることを選んでもそれはこちらが責任を取ることだから、君が気に病む必要はない。むしろこちらから責任を取らせて欲しいと言うべきなんだ」
コルネリオさんが真剣な表情で言う。
思った以上に重いんですけど。
「ただ、召喚を指示した、本来責任を取らせる相手が厄介な立場でね。できれば君に関わらせたくはない」
いえむしろ関わらなくていいです勘弁してください。
召喚の目的が私でないことは確かだろう。しかし召喚者が犯罪者として捕まったらしきあの流れからして、私が恨まれていないとは限らない。




