説明を受けましょう③
過去話はこれにて終了です。
――先輩ことアルフィリオさんが五歳の時、魔力の多さに制御が利かず、暴走を起こしたことにより、彼はコルネリオさんに預けられることになった。
今住んでいる場所よりもティダリアの方が魔力が多く、暴走してもコルネリオさんが対応できるため、二人は暫く修練した後ティダリアに行くことにした。
ちなみにあの散々な目に遭った国は、友人夫婦が亡くなった時に城の召喚装置を壊してきたので、今では瘴気が充満し、人が住めなくなり廃墟と化していた。
ティダリアの近くまで来たある日。途中の村で、コルネリオさんは変わり果てたティダリアの話を聞く。
ティダリアは城塞を王城と改め、コルネリオさんの血族、その子孫が住むようになった。
人口が増えたため城下町を作り、金銭的・技術的な面による貴族や平民等の身分が自然と生まれ、城の内外に建物を増やしていった。
王となった人間は、十年前までは気性の穏やかな人物だったそうだ。
――因みにコルネリオさんが王の息子である現陛下……ややこしいのでアルフレートさんと呼ばせてもらおう……心の中で。
まあ、とにかく。
アルフレートさんの名付けをしたのもその辺りで、最後に会った時も不自然な所はなかったと、アルフレートさんに証言していた。
貴族の話も平民の話も全部聞こうとするようなまるで王に向いていない性格だったが、妻の支えにより、息子と三人、可も無く不可も無く過ごしていたらしい。
そんなある日。
数年前に山向こうの国、と言うよりは傭兵が集まって出来た土地があり、それがティダリアにちょっかいを出してきた。
何度か小競り合いが続き、王に応援の要請が来るようになった。
応援を送るも、その後音沙汰がなくなり、様子を見に別の人間を送るもそちらからの連絡も途絶えた。
そこで王は自ら確認しに出向くことにした。
元魔術師としての腕はあるが接近戦には向かないので、まずは遠くから窺うだけだと家族を説得し、山へ向かった。
それから二週間後。
王は帰って来た。
しかし、以前の王とはまるで性格が変わり果てた状態で。
王は帰って来るなり軍事関係へ力を入れるように命令した。
逆らう者は即座に切り捨てた。
以前は王妃以外愛さないと公言していた王が、後宮を造り女性を侍らせるようになった。
抵抗する者は殺し、精神を病んだ女は飽きたとばかりに城の男に下げ渡した。
そのうちに子供が産まれたが、育てる前に王は手をかけた。
曰く、成長したら自分を殺す可能性がある。不穏の芽は早めに摘んでおくに限るのだと。
もしかしたら、いつか自分の息子も殺されてしまうのではないかと考えた王妃は、息子であるアルフレートさんと、ジークフリートさんを身籠もっていた仲の良かった令嬢を、自分の侍女に託し、遠くへ逃げるように言った。さすがに他の女性に声をかける余裕はなかったらしい。
アルフレートさんは残るつもりだったが、二人を頼むと言われ、逆らえなかった。
それからとある村に辿り着き、ジークフリートさんが産まれたが、令嬢は今までとは違う生活によるストレスと出産後の体調不良により亡くなった。
侍女は村の人間と結婚し、アルフレートさんとジークフリートさんの成長を見守った。
村に住んで数年後、王が王妃を処刑したという噂が流れた。
自分達を逃がしたために犠牲になったのだと思ったアルフレートさんは、確認しにティダリア城に入れないか考えた。
しかし当時城の内外にいる王の血が流れている人間は、捕らえられ、処刑されるようになっていた。
理由は子供に手をかけた時同様、王の座を狙う輩が現れるかも知れないからだそうだ。
そうなると、アルフレートさんが姿を見せたらすぐに殺されてしまう可能性がある。
下手をするとジークフリートさんまで見付かってしまうかもしれない。
まだ幼い義弟を独りにはしたくないと悩んでいたその時に、コルネリオさんが弟子を連れて現れたのだそうだ。
話を聞き、コルネリオさんは弟子を村に預けジークフリートさんと共に留守番させることにして、アルフレートさんと城へ向かうことにした。
ティダリアに着いた二人が見たのは、住人と騎士が戦う姿だった。
傷付いた住人が多かったが、代わりに騎士の姿は少なく、この戦いは長く続いていたのだと察した。
近くの住人を治療しながら、何があったかコルネリオさんが訪ねると。
王妃が亡くなった後から、王の代わりに城に残っていた重鎮達が好き勝手をし始めたのだと言う。
以前は王の機嫌を損ねないように表沙汰にしていなかったが、王が城の一室に引き籠もるようになってから箍が外れたらしい。
危うく殺されそうになりながらも逃げて情報を城下の者に伝えた人物が、有志を募って城を制圧せんと動き出し、少しずつ兵力を削いでいる所であると説明された。
その人物に会えないか尋ねると、丁度彼が何事かと近付いてきた。
彼は、アルフレートさんの幼馴染みでもあるロベルトさんだった。
当時の宰相であったロベルトさんの父親は、王に進言したことを理由に処刑されていた。
互いに無事を喜びつつ、状況を確認し。
ロベルトさんはアルフレートさんが城に忍び込めるように囮となることにした。
城塞であった時の名残である隠し通路から城に入り、人気の無い廊下を渡り辿り着いたのは、かつて王妃が住んでいた部屋だった。
中には憔悴した姿の王が、床に座り込んでいた。
――ああ。
その姿を見て、コルネリオさんは告げた。
――王は、呪われている。
と。
恐らく山へ向かった際に掛けられたであろうその呪いは、対象者の意思とは真逆の行動を強制的に取らせるものであったらしい。
呪いは強力で、『魔王』と称されるコルネリオさん位の術者でなければ解除できない状態だったそうだ。
呪いを解除したコルネリオさんに、王は自分を殺してくれるように頼んだ。
自分が生き長らえるのは民衆が納得しないだろう。
況して、自分の犯した罪に耐えきれない、と。
――ならば。暴君として、愚王として、民衆の前で処刑されて下さい。
――これから先、同じ事が繰り返されないように。
そんなアルフレートさんの言葉に逆らうことなく、王は処刑を受け入れた。
「――まあ、そんな理由で最初は王の息子だから跡は継がない方がいいし継げないって言ったんだけどな。子供として責任取れだの何だの言われて今のこの状況なワケだ。ある意味囮だな、前国王に呪いを掛けた相手に対する」
陛下はあっさりと言った。
「犯人は未だに見付かっていない。山に確認をしに行ったコルネリオからは、『ティダリアの兵士と傭兵と思われる人間の死体らしきものが大量にあった』と言われたが、それ以外は何の情報も掴めていない」
ただし、と陛下は付け加えた。
「コルネリオが何らかの情報を得ているのは確かだろうな」
「……そう、なんですか?」
「知っていたとしても教えないのは、簡単には手を出せない相手だからという可能性がある。下手に動くと逆にコルネリオの足手纏いになるだろうから、自重するように」
「……え。……あ、はい、分かりました」
自重しないように見えたのだろうか。
いやまあ、自分では分からないから否定はしないけれども。
「自重するのは兄貴の方だろうが」
「いやいや、一日中承認の判を押すだけの仕事しかしないんだよ? 机に縛りつけられてるんだよ? 城の中だけでもいいからちょっとくらい自由にさせてよー」
「その皺寄せがこっちに来るんだよ!」
……あれ?
こんな光景前にも見た気がするんだけど。
止めるべきか悩んでいると、扉が叩かれた。
ピタリ、と二人の動きが止まる。
「誰だ」
騎士団長が誰何する。
「ロベルトです。入室してもよろしいでしょうか?」
ロベルトさんだった。
用心なのか、騎士団長が扉を少し開けて確認して、それからロベルトさんを迎え入れた。
……ロベルトさんは茶色の髪と瞳を持つ、見た目は普通のお兄さんである。
とてもクーデターを起こすような人間には見えないが、宰相の息子なだけはある……のかもしれない。
「陛下、お時間です」
「あー、もうそんな時間か」
「では、今回の説明はここまでですね」
今回は、と言うことは次回も説明会があるようだ。
……できれば、やっぱり上の立場の人からの説明は勘弁していただきたいのですが……。
「じゃあなユーナ。また時間が空いたら他の話をしてやろう」
「……いや、なんであんたが仕切るんですか陛下」
「だから自重しろっつっただろうが」
――そんな形で、陛下からの説明は終わった。




