表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

15/17

説明を受けましょう②

 ――最初は集落だったが、数年もするとどこから聞いたのか、他所(よそ)の地域で迫害された人間なども訪れ、住まうようになっていた。


 村から町へ、町から更に建物が増え、人口が増え。


 その辺りから、コルネリオさんは自分の姿が若いまま、つまり歳を取らないことに気付いた。

 気味が悪いだろうと土地を離れようとしたが、住んでいた人間は気にするなと引き留めた。

 逃げ出した土地の人間よりコルネリオさんの方が人間らしいのだからと。

 その言葉に、余計に自分の人外さを思い知らされたが、自分の居場所を与えてくれた人々の恩に報いようと思った。


 たまに諍いもあったが、比較的平和に過ごしていた十年後のある日。


 コルネリオさんは、かつて離れた国から、自分が『魔王』として命を狙われていることを訪れた人間から聞かされる。


 すぐに住民の安全確保のため、コルネリオさんは城塞を造った。それが現在のティダリア城だそうだ。


 更に攻撃を防ぐため結界を張り、コルネリオさん自身は様子を見るために外へ出た。


 かなり離れた場所だが、討伐隊と(おぼ)しき集団がいた。


 昔の自分と同じだな、と思い、そこでコルネリオさんは考えた。


 ……まさか、自分と同じように大切な人間が危険な目に遭っている者がいるのではないだろうか、と。


 調べてみると、一人の魔術師の幼馴染みが丁度暴漢に襲われていた。


 助けて話を聞いた所によると。

 自分(コルネリオさん)に執着していた王女は政略からの結婚をさせられていた。

 その娘である王女が一人の魔術師を気に入り、近くにいる幼馴染みである彼女を邪魔に思っていたらしい。


 今回の魔王討伐で魔術師が城を出たのを好機とばかりに、幼馴染みに危害を加えようとしたのだろうと、彼女は話した。


 このままでは近いうちに自分の婚約者と同じ目に遭わされるだろうと思ったコルネリオさんは、自分達が住んでいる土地への移住を勧めた。

 しかし彼女は、自分には病に(おか)された父がいる、そして父は生まれ育ったこの地から離れることを望まないだろう、そんな父を一人にはできないと断った。

 殺されたら父を結局一人にしてしまうが、ここならば親しい人がいる。父が見捨てられることはないだろう、と。

 それが甘い考えだと彼女も気付いていた。王家に目を付けられた人間を進んで庇おうとする人間はそういないだろう。

 それでもこの地で果てることを望んだ。


 ならば、せめて彼女に危害を加えられないようにしよう、とコルネリオさんは考えた。


 討伐隊の元へ行き、魔術師に幼馴染みの現状を伝える。

 相手は怪しんだが、無理矢理彼女の元へ連れて行き理解させた。

 他の討伐隊の人間にも、王家から無理強いさせられていた者がいたので、コルネリオさんが保護する形で納得させた。


 次に王女のいる城へ行き、住民や自分達に手出しをしないように脅した。政略結婚した両親に対しても同様に。

 何かあった場合は城と王家を潰すとまで言われ、渋々従ったらしい。


 暫くは何もなかった。


 王女が結婚し、産まれた息子が成長するまでは。


 討伐隊にいた魔術師と結婚した幼馴染みには娘が産まれた。

 その娘に王女の息子――王子が目を付けた。


 ある時王子が誘拐され、救助を依頼されたコルネリオさんが王子を奪還した後、城に送り届ける前に出会ってしまったのだ。


 これはもしや、また同じ事が起こるのではないだろうかとコルネリオさんは危惧したが、まさにその通りだった。


 ――この世界は大気中に魔力が含まれている。

 魔力は生活している中で自然と消費されていて、生きていく上で必要なものだそうだ。

 しかし、条件は未だに不明だが十年単位で魔力が過剰に生み出される時がある。

 過剰に増えた魔力が瘴気と化し、生きるもの全てを蝕み始める。小さな動物が特に顕著で、魔獣に変化するものが出る。


 魔獣が人間を襲い、それが魔王の仕業だと噂される。


 その際、魔力を消費して魔王を倒す存在を呼び出すために作られた装置を稼働させるそうだ。

 過剰な魔力を消費すると共に『勇者』もしくは『聖女』と呼ばれる存在を召喚する。

 しかし、その召喚者の記録は残されていなかった。


 コルネリオさんは、かつて倒した『魔王』が召喚された人間だったのではないかと考えた。丁度コルネリオさんが魔王を倒した時期から十年は経っている。


 だとしたら、また誰かが召喚されるのではないか。


 そう考えて数日、魔力が急激に減少した。城で召喚術が行使されたのだ。


 呼び出されたのは十代の少女で、『聖女』と呼ばれ丁重な扱いをされていると聞き、コルネリオさんは一先ず安堵した。

 相手が同年代、しかも異性なら王子はそこまで酷い扱いをしないだろう、と。


 様子を見ることにして、コルネリオさんは一度ティダリアの城塞に異常がないか確認しに行くことにした。


 何も問題がないことを確認し、友人となっていた魔術師夫婦の家に戻ると、その娘が王子の命令で城に呼ばれたと告げられた。

 下手に逆らえないので、コルネリオさんの帰宅を待っていたのだという。


 どうやら娘は『魔王』であるコルネリオさんを倒すための人質にされたらしい。

 コルネリオさんが城内にいなかったので、ティダリアまでの案内役として連れて行かれることになり、そのまま外へ連れ出されたのだと。


 まだ相手に帰って来たことを気付かれていなかったので、気配を消して追いかけると、何故か道を外れた洞窟に入って行く。

 娘が道を誤ったのかと思ったが、先導していたのは『聖女』だった。

 途中で洞窟の主らしい魔獣が現れ、一緒にいた騎士達が聖女を下がらせ、守るように隊列を組む。友人の娘は置き去りである。

 娘は魔術師として優秀なので問題はないかと思われたが、いきなり聖女が力を放った。


 魔獣と、直線上にいる娘に対して、躊躇(ためら)い無く。


 光が洞窟に満ちる中、コルネリオさんは聖女の力に紛れるように自身の力を使い、娘を助けた。

 娘が消滅したように見えたのだろう、騎士達は動揺したが、聖女が顔を両手で覆い(うずくま)る姿を見て、そちらに気を取られたようだ。


 聖女を囲み城へ戻る集団を見て、コルネリオさんは考える。

 なるほど、どうやら聖女も大人しいだけの少女ではないらしいと。

 顔を隠す直前、彼女の口角が上がっているのが見えたのだ。

 このままでは友人の妻の二の舞になると考えたコルネリオさんは、友人夫婦と相談して娘を遠くに逃がすことにした。


 その地で娘は結婚し、産まれた孫が先輩――弟子ことアルフィリオさんなのだそうだ。 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ