異世界に魂だけ召喚されたようです。
――幼い頃の夢を見た。
弟、父、母と私を含めた家族四人。そして仲の良かった幼馴染みの家族と、動物園に行った時の夢だ。
夢の中では、私は当時の幼い姿をしているらしく、視線が低かった。
幼馴染みの男の子と二人で、あっちこっちふらふらする弟を追いかけ。
お昼になる頃、大人達がどこでご飯にするか話をするために一瞬目を離した隙に、不審人物が現れた。
悲鳴が聞こえたのでそちらを向くと、ナイフを持った男が走って来るのが見え。
とっさに弟をかばい、背中を向ける。
衝撃と痛みが背中に走り。
気が付けば病院のベッドにいた。
何日入院したかは忘れたが、退院した時には幼馴染みの家族は引っ越していた。
私が目の前で襲われたショックで、幼馴染みが体調を崩したらしく、母方の実家で療養するとのことだった。
両親には弟をかばったことを褒められた。
……今にして思えば、私の怪我の心配をされなかった気がする。
そう考えると、何故今まで気にしなかったのか不思議なくらい、違和感があった。
普段は特に何事もなく、普通の生活をしているのに、何かにつけ弟に優先順位が発生していた。
しかし、『お姉ちゃんなんだから我慢しなさい』というようなアレではない。
というか、何故か私自身も弟を優先していたのだ。
それが普通だと、当然のことなのだと、疑問にも思わなかった。
ならば、何故、今、急におかしいと思いだしたのか。
きっかけは何だ、と考えながら。
閉じていた瞼を開けた、はずだったのだが。
……私は、見知らぬ場所で、横たわっているらしい。
起き上がろうとしても、身体が動かない。
視線は……動く。
薄暗いが室内らしく、天井は遠いが、横に見える壁は石のようなもので出来ている気がする。
「――なんだ、これは」
部屋には人がいたらしく、男性の声がした。
聞き覚えはない。
「『陣』に間違いはないはず……」
「ふむ、どうやら範囲指定が曖昧になっているようだね」
「!? 誰だ――ぐぁっ」
二人目の男性の声に、一人目が反応したかと思うと、悲鳴と何かがぶつかる鈍い音がした。
「『女神』に『異世界』か。……そもそもどれだけの数、異世界が存在していると思うんだい?」
まあ、それはそれとして。
と、二人目の男性の声と共に、金属音がした。
「いくら『教会』の人間とはいえ、この国で禁止されている召喚行為の現行犯だからね。拘束させてもらうよ」
一人目の男性のものらしき呻き声が聞こえた。
……というか異世界とか召喚とか言っていた気がするのですが気のせいですかね。
「――犯人を確保したので、入っても大丈夫ですよ」
二人目の男性が誰かに言う。
「――まったく、厄介な事をしてくれる……」
部屋に入ってきたのか、三人目であろう男性の声。が、途中で止まった。
「……なんだアレは」
「不完全な召喚により連れてこられた異世界人、の魂ですね」
二人目の言い方がおかしい。
「魂だけなら、元の世界に返せたりはしないのか?」
「うーん、知ってる場所なら出来るかもしれないけれど……ちょっとごめんね」
話しながら、二人目がこちらに何かしたらしい。
「……」
「どうだ?」
「……とりあえず、この部屋から出てから説明しましょうか」
「その陣はどうする」
「悪用されないように解体します。彼女のような人間がまた喚び出されないとは限らない」
「『彼女』……。『女神教』は異世界から『聖女』を連れてくるつもりだったのか」
「近い感じみたいだね。――悪いけど、君には少し眠っていてもらうよ」
二人の会話の途中で、そんな声と共に意識が途切れた。
二人目の話し方が敬語とタメ口混じりなのは仕様です。