第7話:動物コンビ
僕達は、未来ちゃんとの再会を祝して、永遠の家で歓迎会を開くことにした。
放課後…僕らは真札家にまっしぐら……あ、途中で大量のお菓子を購入しちゃったけど…。
「こんにちは〜おじさん」
李凛が元気に扉を開け、あいさつをすると、店のカウンターに…いかにもこの明るいが少々シックな雰囲気にぴったりなダンディーなちょび髭のおじさまがグラスを拭いていた。今日もビシッとしたオールバックだこと…。
永遠の父親だ。日に日にダンディーさに磨きがかかってる気がする……。
「やぁみんな、遠慮無くやってくれて構わないよ」
顔のみならず声までもダンディーだ。渋い!まさしく大人の渋さだ…!!
なぜこの落ち着いた父親のもとで、素直じゃない性格の永遠が育ったのかが知りたいくらいだ…。
永遠の父親の言葉に真っ先に反応したのは陽泉だ。
「うっし!じゃあ騒がせてもらいま〜す!!」
「朝まで飲むぞ〜!」
「のっ、飲むの!?」
李凛の言葉があまりに衝撃的で、僕はついちょっと声が裏返りながら尋ねた。
「1回言ってみたかったんだよね、この台詞」
「びっくりしたぁ…私お酒は嗅ぐだけでもなんか弱くて……」
(男勝りの李凛とは違い、未来ちゃんらしいな…)
そんなことを思っていると、李凛がなにやら怪しげな顔になってきた……。
絶対何かたくらんでる…。陽泉も同じように思ったのか、おぞましい物を見るような目で李凛を見ている…。
「ふぅ〜ん。酔った未来ちゃんはどぉゆぅ性格になっちゃうのかなぁ〜……。あたし気になっちゃうな〜」
「どこの親父だお前は……」
どこまでもにやけ顔になる酔っぱらいみたいな李凛に、陽泉が呆れながらツッコんだ。しかし李凛は性懲りもなく続ける。
「よし!それでは料理の方は月夜に頼んだ!!」
「え…?お菓子たくさんあるのに…!?」
僕だってみんなと騒ぎたい気分なのに、厨房にこもって一人で料理はゴメンだ。
「お願い、オムライスだけでいいから作ってぇ…?」
なにやら無性に食べたいらしい…。そんなに切に願われたら……。
「仕方ない…1品だけだよ?」
「ありがと…」
僕はいやいや了承しながらも、カウンターの奥に備え付けられたダイニングキッチンばりのしっかりした厨房に向かった。
マスターに許可をもらい、使わせてもらうことにした。普段からいろいろなメニューをお客さんに出しているだけあって材料は豊富だ。
「さて…」
と、ぽつり呟くと、何か人影が見えた。手際良くエプロンを着ながらこちらの方に近付いてくる。誰かと思えば永遠だった。
「どうしたの?こっちは1人でなんとかなるから楽しんでていいよ」
永遠に向かってそう言うと、遠慮はいらないといった感じでエプロンを僕に差し出してきた。それにしても、永遠のエプロン姿…“お母さん”という雰囲気よりも“幼稚園の若い先生”といったような印象だった。…似合うことは認めます…はい……。
「ううん、月夜1人にこんなとこで料理させちゃまずいよ。それに、材料言ってくれれば探すのに時間かからないでしょ…?」
「そっか、じゃあ手伝いよろしく…!」
(しっかし…そのエプロン……)
当然ではあるが、永遠のエプロン姿なんて初めて見た…。全体的に淡い黄色と白のチェックで、中央にはかわいらしいクマさんがプリントしてあった。
僕の視線に気付いたのか、永遠は差し出してきたもう1つのエプロンで、クマさんのプリント部分を慌てて隠した。
「これは……!!その…え〜と…………」
「…?どうしてそんな慌てて隠すの…?」
「だって、変な目で見てたじゃないか…。いかにも、『お前のキャラにゃ合わねーよ』…みたいな目で……」
「そんなことないよ。女の子なんだしかわいいと思うよ…(そのエプロン)」
いつも強がってるのに弱点をつかれたような感じで慌てる永遠に、励ますような気持ちで、(自分で言うけど…)優しそうな笑顔で言った。
「なッ!?…かッ!?かわッ!?(あたしが)かわいいッ!?…………そ、そんな恥ずかしいことよく言えるなッ!?」
「…?どこが恥ずかしいのさ……?」
「じッ!じゃ自覚なしかッ!!……危険なタイプだな…………」
「人聞き悪いなぁ……」
そう僕が言うと、うつむいたまま僕にエプロンを再度…今度は殴るようなスピードで僕の胸の前に差し出した
そのエプロンを受け取り、なんとなく広げてみた…。
エプロンは白と薄っぽい青(空色っていうのかな…?)チェックで中央には……かわいらしい猫のマークがプリントしてあった。
「ネコ…」
ボソッと呟くと永遠がえばったように言い出した。心なしか顔が紅い…。
「ちゃんと月夜用に選んだんだぞッ!」
「え…?」
「月夜って、妙に猫っぽいところがあるからな…」
(そうかな…?)
確かに僕は…昼寝とひなたぼっことボーッとしてることが好きだし、かと思えば気ままに散歩するのもけっこう好きだし、牛乳は毎日飲まなきゃやる気出ないし…………。
(気がつけば猫まっしぐらじゃないか……!!)
「自覚…ある、みたいだな……」
僕の様子を見かねた永遠が語りかけてきた。僕はちょっとしたため息を吐きながらうなずいた。
まぁ、そんなわけで調理に取りかかり、永遠が手伝ってくれたおかげでチャチャッと終わった。
それにしても、永遠の料理の腕には意外だった。両親が共働きでたまに作ってるとは言ってたけど…。ちょっとできるってだけのレベルじゃない。
「それにしても料理上手いんだね永遠って…」
僕がそう言うと永遠は照れくさげに言った。
「ま、まぁこのぐらいはな。月夜には及ばないよ」
「いや、ほんとに助かったよ…おかげで早く終わったしさ」
「そりゃそうだろ、みんな盛り上がってるのに1人だけこんなとこでなんて寂しいだろ…?」
確かに…永遠が来てくれなかったらまだみんなのところには行けてないだろう…。
「あっちで盛り上がれない僕に気を遣って手伝ってくれたの…?」
割と直球に質問してみた。
「べ、別にそーゆーんじゃなくて…だからそれは、道具の場所を教えてあげようと思っただけだって…。か、勘違いしないことッ!」
明らかに動揺してる…。心配してくれてたんだ……。なんだか心の中で温かいものが広がるような感覚があった。
「ありがと…」
自分でも気付かないうちにささやかれていた言葉は、聞こえてなかったかもしれないけど…なんだかちょっと照れくさい気分だった。
「はい、お待たせしました…」
「おぉー」
「うまそーだなぁ」
3人ともほんとに楽しそうですこと…。よろしいですねぇ気楽に盛り上がれて……人に料理を任せて半ば忘れた状態でいてくれるとは……なかなか手厚い歓迎ですこと……。
改めて永遠の優しさに感謝した時間でした。
――長い夜はまだまだ続く…………
今回は永遠との物語でした。
でもさほどのイベントがあるでもなし…永遠本人は盛り上がってるようでしたが…。
この動物コンビ(猫&クマ)にはまたいつか活躍してもらいたいと思います……。
近いうちにサブタイトルのオールリニューアルを考えています。いきなり変わっても驚きの無いようにしてください。
*次回予告*
歓迎会はあっという間に過ぎ…今度はあの子といい感じ…?(にできるかなぁ…)
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