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第70話:突入

「やっぱり暗いなぁ……」


 僕は、草むらに隠れながらそんな愚痴をこぼしていた。目の前には、明かりのついた一軒の家がある。ここからは見えないけど、間違いなく「真札」と書いてあるはずだ……よね? とりあえず、永遠の家の前にいるということだ。


 海で2人きりで話したあの日から次の日、僕は永遠をストー……いや、背後から本人に気付かれないように守ってここに辿り着いた。犯罪行為…………じゃ、ない……はず。とにかく善意です。


 こうして、永遠のお父さんが暴力に興じてしまったときに備えているわけです。僕はいつでも真札家に飛び込む気満々の臨戦態勢で、それでも永遠のお父さんの過ちが起きないように願いつついた。


 草むらから顔を出してから早3時間。この時期でも暗くなる時間帯になると結構冷え込んでくるもので……。


「はっくしゅん!!」


 こんなに寒くなるんだったらジャケットの一つでも着てくるんだったな……。と後悔をしつつ、僕は明かりの灯る部屋を見つめていた。そこには2つの影があった。おそらく大きい方がお父さんで、小さい方が永遠なのだろう。


「それにしても、結構大胆なことしちゃったもんだなぁ僕も……」


「まったくだよ。頑張りすぎなんじゃねえの?」


「そうだね……」


 確かに、ここまでする必要があったのかな。でも、僕からしたらこれくらいしか浮かばないわけで、他に方法があるかどうか、陽泉にでも相談しておけば良かったかな……。って、あれ?今声がしませんでした?僕の他にもう一つ声が上がった気がするんですけど?


 そう思ってすぐ隣を見てみると……。


「うわっ!? よ、陽泉ッ!?」


 そこにはジーンズにTシャツ、その上にチェック柄の上着を羽織った陽泉がしゃがみこんでいた。し待ち月のためか、光の照らされていない彼の髪は、こんなに黒い空間でもコントラストを描くことはなかった。


「いッ、いつからいたの……?」


「ば〜か、お前が後から来たんだッつの。俺がこの草むらで待ってたら、お前が永遠をストーキングしてからここに入ったんだろ」


「じゃあ、なんでその時に言ってくれなかったのさ?」


「か、関係ないだろ……」


 何故だろう? 暗い夜でもわかるくらいに陽泉の顔が赤くなってるのがわかる。めちゃめちゃ目()らされてるし……。


 たぶん……恥ずかしかったのかな? 1人の女の子のために、こんなに遅くまで家の前で粘って……。陽泉は素直じゃない。「守ってやることが男の義務だ」なんて格好つけられるほどロマンティストじゃない。


 その上、誰かを守ってあげること自体が彼にとってはガラじゃないのだ。表面上ではあまり人のことを気遣ってるようには見せないが、心の奥部では誰よりも心配をしているケースの方が多い。


 気が強そうにしてても、恥ずかしがり屋で素直じゃない心優しい男。それが陽泉だって事は、仲間である僕らが一番知っていた。




「このまま何も起こらなければいいね……」


「そうだな……」


「それにしても、いつまでこうしてるつもり?」


「あ?」


「いや、だってこうしてても何も起こらなければ、僕たちはいつか帰らなきゃいけないし……」


 それとも、「帰るつもりはない」なんて言い出すつもりだろうか……。さすがにそれはないよな……。


「俺はいつももう少し待ってるぞ?」


 陽泉は僕の問いに答えてくれた。なるほど、ちゃんと帰るつもりではいるのか……良かった。……あれ?


「ちょっと待って。いつもってどういう事……?」


「ん? だって俺、ここでこうしてもう5日目だぞ……?」


 言ってすぐに「やべ」と言って口を手で塞いでしまった。そんなに前からしていたなんて……。よくそんな怪しい事して任意同行とかされなかったな……。


「あれ? 僕らと永遠が知り合ってから、まだそんなに日が経ってないんじゃないか? どうして知り合う前から……」


 僕らが初めて永遠と話し、初めて永遠の笑顔を見られたその日、それはたった4日前の出来事の筈だ。それより前に張り込んでたなんて……。どういう事だろう……。


 そういえば永遠と話した前の日、陽泉は休み時間になるとどこかに出かけていた。そして次の日の朝、急に永遠と親しく話していた。今考えれば、あの日に永遠と会っていたとしか考えられない。


 その上、あの日の放課後に聞こえた会話。あの時話していた女の子は、永遠と同じ事を言っていた。もしかしたら、あの時の女の子が永遠だったのかも知れない。そう考えれば、あの時の女の子と話していたのは陽泉だったのかも知れない。


 僕が考えているとおりだとしたら、全ての辻褄が合う。1日であんなに親しげになった事は、陽泉の人柄のおかげなのだろうけどね。


「あの日、陽泉はあの日の放課後……永遠と話してたんだね」


「聞いてたのか……。まぁいいけどな」


「『殺すかも知れない』とか言ってたよね……。あれって、お父さんの事……だったの?」


「あぁ、そうだよ。あいつはいざとなったら、自分の父親を殺すつもりだ。けど、そんな事があったらいけない。彼女にそんな事させたらいけない。だから、あの日からこうして見張ってるんだ。永遠が……父親を殺さないように……」


 永遠……。


 永遠のお父さん……。


 死ぬなんておおげさだと思われるのかも知れないけど、これは思ったよりも大きな話になりそうだ。


 死ぬ事なんて、考えないのが普通だ。でも……永遠が死んだら、永遠のお父さんが死んだら…………結局、死んでも誰も困らない人なんていないんじゃないか。じゃあ、誰も死なせるわけにはいかない……。




 “ガチャーン!!”


「きゃぁぁあああ!!」


「悲鳴だ!!」


「永遠か!?」


「とにかく行こう、陽泉!!」


「当然だ!!」


 僕と陽泉は、悲鳴のした家の玄関に走った。




“ガチャガチャ”


「あ、開かないよ……」


「戸締まりはしっかりしてるのかよ!!」


「と、とにかく……どうしよう。このままじゃ永遠が!?」


「わ、わわわわかってる!! お、おおお落ち着いてくれよな!!」


「陽泉もね……」


 とりあえず、こういうときにする事と言えばおきまりなわけで……。僕らは扉から少々の距離をとり……力いっぱい扉に向かってダッシュした。男2人でアタックしても、所詮は小学6年生の非力な肉体なわけで……。


 3回目のアタックを終えたときには、僕たちは扉を突き破るのをあきらめかけていた。一気に力を抜いてしまったその時……。


「……仕方ねえな」


 そう言うと、陽泉はどこからか細くて丈夫な針金を出してきた。その針金で何やら扉の鍵穴をガチャガチャし始めた。


「なッ!? ピ、ピッキングッ!? 何処でそんな技術を……」


「備えあれば憂い無しってな!」


 ……微妙に意味が違うと思うんだけどな……。


「そんなの、身につけてどうすんのさ。犯罪行為だよ?」


「ぶち破ったって不法侵入には違いないだろ?」


 そりゃそうだけど……。まぁ、永遠のみの危険を考えれば、今こうして話してる時間ももったいないくらいなんだ。早く開けられる事を願おう。


「開いた、行くぞ!!」


 僕と陽泉は飛び込んだ、永遠を救うために! そして……永遠の父さんの目を覚まさせるために!




「「永遠!!」」


 僕らが真っ直ぐ廊下を歩いて辿り着いたリビングで、大股で前傾姿勢になっている永遠の父さんと、すぐ目の前で座り込んでいる永遠がいた。


 永遠の目は明らかに恐怖と戦慄の色を帯びていた。体は震え、肩は嘘みたいに小さくなっている。




 その光景を見て思った。


 僕らは……永遠を救ってあげられるんだろうか――



いよいよ過去編もラストスパートです!


……みなさん、ストーカー行為はやめましょう。以前ストーカー行為をして逆に気味悪がられた知人がいます……。


残念な人でした…………。




*次回予告*

ついに対峙した月夜たち。

永遠の絶叫が響き、陽泉が憤怒を照らし、月夜が説得する……。


……そして……


世界が……紅に染まる…………




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