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第68話:嘘

 永遠と正式に知り合い、おしゃべりを楽しみ、永遠が初めて笑顔を見せてから数日が経っていた。彼女は、僕がそれまで思っていた印象とはだいぶかけ離れた子だった。


 今までは、いつも誰とも話さない姿を見て、「根暗」だとか「いじめに遭っているのかも」だとか、少なくともマイナスに走るようなイメージを持ってしまっていた。


 でも違う、彼女は少し世間と馴染むのが苦手なだけだった。積極的に話し出すことができない、気がついたら相手を前に黙り込んでしまっている。それが彼女の性格だった。直そうと試みたのか、思い起こしてみれば、いつか積極的に話しかけているところを見たような気がした。


 けれども話し出すタイミングがあやふやだったり、極端に声が小さかったり、酷ければ頭の中で言葉がぐちゃぐちゃになってしまって上手く声に表せていなかったりしていたこともあった気がした。


 今考えてみると、僕はそんな彼女の姿を何度か見たことがあったのだ。でも僕は、あまり気にすることがなかった。


 僕の通っていた小学校は、地方とはいえ一クラスの人数が多かった。そして、田舎の小学校にしては珍しかったが、クラス替えがあったのだ。何故か、李凛とは違うクラスになったことはなく、陽泉とも知り合ってからは同じクラスになっていた。


 しかし、永遠とは同じクラスになったこと自体が今年になって初めてだった。


 言い訳になるのかも知れないが、僕は今年のこのクラスになるまで永遠の存在を知らなかった。


 しかし、永遠がの本来の女の子らしい性格や、今までに努力してきたことは、全て陽泉が話してくれたことだった。


 不思議なことに、あんなに周囲と不協和音を奏でていた永遠が、何故か陽泉にはわずか数日で自分自身のことを話したという。どんな魔法を使ったのかはわからないが、この時改めて僕は陽泉の“能力”に気付かされた。


「俺って凄いだろ!?」


 永遠から彼女自身のことを聞きだして僕らに知らせた後、陽泉は誇らしげに胸を張った。言い方はどうあれ、僕は素直に凄いと思えた。


 彼の“能力”、それは――心の奥深いところから来る真の優しさだった。


 僕には、それがないわけじゃない。そして、李凛にも備わっているものだ。他人のためなら自分のことそっちのけで心配してあげられることは、僕ら3人の特殊能力であるくらいのお節介さだ。


 しかし、陽泉のはその優しさを見せること自体が“能力”だった。普段が陽気で人をからかうような態度をとる陽泉だからこそ、その優しさは際立っていたのだ。


 相手を心配する陽泉は、何か大事件があったときのように鋭い目をする。この間李凛愛用の櫛が無くなったときも、彼は誰よりも必死に探していた。


 彼の眼差しは真剣そのもので、まるで人格が変わったかのようにあちこち見回していた。結果、その一番頑張っていた陽泉が櫛を見つけ、僕は彼を見直してしまった。「お礼は?」とか言わなければ特に良かったのだけれど……。




「ところでさぁ……」


 そんな李凛の話題変換で、僕は我に返った。少々回想に浸りすぎていたかも知れない。


 今は昼休み。僕と李凛と陽泉、そして永遠は、いつも(ここ最近)のごとく談笑をしていた。数日前までは、昼休み中、周囲に人の影など寄りつきもしなかった永遠の机……。今ではこうして毎日のように仲間が集まってくる。


 永遠も、勝手に近づいてくる僕たちに、次第に心を打ち明けるようになってきていた。それは、彼女にとっても、そして僕たちにとっても大きな一歩だった。


 そんな思いに未だふけっていた僕は、李凛が続けた言葉に完全に思考を変換した。今はとにかく、仲間と過ごす時間を大切にしたい気分だった。


「永遠のその傷もだいぶ治ってきたよねぇ……」


「ん、まぁね。これくらいは軽い程度だから、ほんの数日で治っちゃうよ」


 そんな一昔前のスポ根マンガのような台詞を言いながら、永遠は怪我のしていた右腕を軽くあげた。そこには、まだ青あざが少しばかり残っていたのだが、包帯はすっかりとれていた。


「転んだんだって?」


 陽泉は、怪我のことを永遠に尋ねていた。確かに、僕も学校帰りの道で転んでしまったということを聞いていた。


「うん、ちょっとね……」


 陽泉の問いに、永遠は少し歯切れの悪い返事で返していた。その態度を見てしまった僕は、先生たちが話していた矛盾の話を思い出してしまった。


 そう。怪我を負ったあの日、永遠は確かに彼女のお父さんと帰って行ったはずだ。でも、先生たちの話ではあの日は彼女1人が帰ったのだと言うことだった。僕は、そのことがあの日からずっと頭に残っていた。


「本当に転んだだけなの……?」


 僕の疑問は、いつの間にか声に出てしまっていた。その声は、我ながら冷たく暗かった。その口調は質問だったが、完全に疑っている口調だった。


 本当は違うんじゃないか? 何かを隠してるんじゃないか?


 そんな思いが、いつの間にか込められていた。悪気があったわけじゃなかったけど、僕のそんな言葉に、彼女自身は驚いた表情の後、黙り込んでしまった。


 李凛や陽泉は少し不穏な空気になったこの場に不安を感じているようだった。そして、この空気をつくり出した雰囲気である僕に、2人ともちらちらと視線をうろうろさせた。


 僕も僕で、そんな空気を作るつもりはなかったために、慌てて言葉を補っていった。


「あ、いや……け、結構な怪我に見えたからさ……。転んだだけじゃなくて、もしかしたら階段からでも……とかさ。そ、そういう意味だよ?」


 戸惑いながらも、僕は必死に続けた。さっきの暗い口調の僕から、また今違った雰囲気の言葉が出たことに驚きながら、陽泉も李凛もちょっぴり安堵したようだった。


 しかし、永遠はというと……。


「あぁ、そういう意味ね……」


 僕の言葉を聞き入れてくれはしたけど、不穏な雰囲気が拭いきれなかったのか、愛想笑いで返されてしまった。


 そこからなんとか空気を持ち直そうとするも、大笑いにもいかず……なんだか微妙な感じになってしまっていた……。




 放課後、僕は保健係の集まりがあるということで、少し学校に残ってから帰ることになった。用事を終えると、李凛も陽泉も永遠も宣言通りに帰ってしまっていた。


 ――僕も帰ろう。


 なんだかボーッとしたいような気分になり、僕は海の方へと向かった。海岸でのんびりとしようかな。


 そう思って、僕は海へと向かった。




 穏やかなさざ波の音……同時に僕へと香ってくる潮風。少しざらざらとした砂浜の上は、歩きづらいながらも、しっかり地面を踏みしめられてなんだか爽快な歩き心地だった。そんな悪戯に絡みついてくる砂に四苦八苦しながら歩いていると、向こうの浜に座り込んでいる女の子の姿が見えた。


「? 永遠……?」


 僕は、その女の子に向かって声をかけてみた。思った通り、そこに座り込んでいた子は永遠その人だった。僕はすぐに近くまで寄って行った。


「あの、隣……いいかな?」


「うん……」


 僕は、いや……僕らは少し緊張気味な態度で海を眺めていた。なんせ永遠と2人きりで話すなんて、今まで無かったことだ。こんな時、僕は何を話していいのかわからない……。




「なんでわかったの……?」


「え……?」


「あたしのこの怪我が、転んでできたものじゃないって…………いつから知ってたの?」


 やはり。いきなり話しかけてきた永遠は、昼に僕が言ったことを引きずっているようだった。そして、転んでできたものじゃないと自分から言った。僕は、先日保健室で立ち聞きしてしまったことを永遠に話した。


「あの日、永遠は校門でお父さんが来るのを待ってた。それで、お父さんと一緒に帰る所もずっと見てたんだ……。けど、先生たちはその日は永遠が1人で帰ったようなことを言ってたんだ。だから……なんだかおかしいなと思って…………昼にあんなこと聞いたんだけど」


「そっか……じゃあ、墓穴掘っちゃったかな。結局、月夜にごまかすなんてできないと思ってたし……逆に清々しいと思うよ」


「僕にはばれたくなかったってこと?」


「なんだか、なんでも筒抜けですよって感じだよ、月夜は……。妙に落ち着いてるし、本当に同い年?」


「失礼だね……。でも、なんで嘘ついてたの?」


 僕が、改めて彼女の嘘について尋ねてみると……彼女の顔が、どんどん深刻になっていくのがわかった。思い詰めているような顔つきで……彼女は話の繋がりを無視したように、自分の意志を伝えてきた。


「あたしは……素直になればいいって言われたってできないよ」


「え……?」


「本当の自分が何かもわからないのに、自分に正直に生きることなんて……あたしにはできないよ。自分を偽れば、あたしが今のあたしでいられるなら……。偽ることで……幸せになれるのなら……あたしは、嘘くらいいくらでもつくよ」


 僕は、彼女の言っている意味がわからなかった。


 自分を偽る。僕は、そんな思いとは無縁な生活を送ってきた。李凛とは正直な心で向き合えたし、陽泉には、自分の心の内を叫ぶことでまたここまで親友になれることができた。


 自分を偽ることで、幸せになれる――?




 僕は、その時初めて気付いた。永遠の心の闇は……既に彼女自身を蝕み始めているということに…………。





永遠の心はついに本当の姿を現すのか!?



はっきり言うと、私自身も先の展開が読めません!!(一番あってはいけないことですけど……)


アクセス数が以前よりますます増えてきた事に感謝し、今日も今日とてこの作品のことしか考えていない私を、『GL』共々よろしくです!!




*次回予告*

永遠の持つ闇、偽りの心、悲しい嘘……


その背後に蠢く暗い真実とは……?

永遠の怪我の原因、それがついに明かされる…………。




感想、評価、訂正、意見……何でもいいです!いつでもいいです!いくらでもいいです!


待ってます!!

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