第6話:おかず争奪戦
休み時間になると、李凛が未来ちゃんに駆け寄っていた。どちらも、とても楽しそうに話している。あんなに仲が良かった友達と再会できたんだから…。
そう思っていると、陽泉が僕の方に近付いてきて尋ねた。
「知ってたのか?」
「えっ?」
「峰水が来てたことだよ」
「うん、昨日ばったり会って…」
「運命的な再会ってやつか…?」
また茶化してきた。確かに今朝の夢からしたらそうなのかもしれない…。
そのように考えて言葉につまっていたら陽泉が続けた。
「否定は無し…。ほうほう、脈アリとみた。お前もなかなか頑張ってるねー」
「そっ、そんなんじゃないって…」
慌てて否定したことがかえって裏目に出た気がした。陽泉の茶化すような目は変わらない。そんなところに救いが来た。
「それにしても驚いた。まさか2回目…いや3回目の引っ越しとはね…」
永遠が歩きながらこちらに語りかけている。
そう、未来ちゃんはもともとこの町の人間ではない。今から1年程前にこの町に越してきたのだ。その時も、彼女は浜辺で海を眺めていた。
この間、そして今朝の夢のように…。
(…夢?あっ、そうだ)
一応未来ちゃんに夢のことを訊いてみようかな。と、思っていると未来ちゃんとその体に抱きついたままの李凛がこちらの3人に近づいてきた。
「久しぶりだな、峰水。それにしてもいつの間に…」
「ホントビックリしたよね〜…。」
陽泉に李凛が続き、未来ちゃんが話し始めた。
「お父さんがこっちへの転勤の希望を出したらしくて…。結局お騒がせしちゃってごめんなさい」
実に申し訳なさそうだった。
「別に謝らなくてもいいよ。」
「そうそう、それに…とっても喜んでる人が居るみたいだしねぇ…?」
僕の後に続いた李凛がふざけ半分な目でこっちを見てる…。
(やっぱり、僕のことなのだろうか…)
よくよく見ると陽泉や永遠も同じような目で見てる。なんと威圧的で異様な光景だろうか…。
(否定できないけど。完全にからかわれてる……)
「ふふっ、ありがと」
なんでかわかんないけど未来ちゃんにお礼まで言われちゃってるし…。
(完全に居心地の悪い空間になってるなここ…)
「あっ…そ、そうだ。歓迎会しようよ。どこかで…」
ごまかしながらも出した意見は我ながら名案だった。
「おっ、良いねそれ。じゃあ…どこにしようか……」
陽泉が賛同してくれた。なんとか話題変換は成功に至った。
「じゃあ、あたしんとこはどう…?」
永遠が提案してきた。永遠の家では明るい雰囲気のカフェをしている。みんなが集まって騒ぐにはうってつけだ。…なんだか僕らが行くとファミレスみたいな雰囲気になっちゃうけど…。
たまに永遠も手伝ってるって言ってたっけな…。
永遠の提案に李凛は1番に乗ってきた。
「じゃあ、そうしようよ!未来は大丈夫…?」
「うん、いつ…?」
「今日もどうせテスト前で…昼休み挟んで1限で終わるでしょ…?じゃあ、放課後ってことで」
こういう時の李凛の決定は早い…。それになぜだか大抵全体での決定事項になってしまう。実際のところ、このグループの主導権を握っているのは彼女なのかもしれない……。
「月夜く〜ん」
(まさかまたか…………)
昼休みになると、未来ちゃんはいつもワクワクした表情でこちらにかけてきた。ちょうど今のように……。
李凛も素早く続いてくる…。狙いは僕の弁当だ。
(またもハイエナ達の餌食に…)
未来ちゃんも李凛も机をくっつけてくると、僕が弁当の包みを解くのをガン見……。蓋を開けると、2人とも玉子焼きやらタコさんウィンナーやらを物欲しそうに見つめてくる……。
「あの…そんなに見られると食べづらいんですけど……」
「別に月夜を見てるわけじゃないから大丈夫だってッ」
「そぉだよぉ。月夜くん意識しすぎだよッ!!」
(男子としてはそれなりに傷つく言葉だな…)
なにしろ2人とも、僕を見るならまだちょっと嬉しさもあるけど……僕よりも弁当の存在の方が大きいようだ…。
そして、2人の視線を気にしながら箸で玉子焼きをつまむと……。
「あ!食べちゃうのぉ…?」
未来ちゃんが悲しそうな眼差しと声で訴えてくる…。その攻撃はけっこう効くぞ……。こんな時の未来ちゃんに勝てるほど僕は非道にはなれない……仕方ない…諦めるか。
「た、食べたいの…?」
僕がそう質問すると……ぶんぶん。
めちゃめちゃ嬉しそうに首を縦に振りまくってるし…。大好物を前にした子供みたいだ…。
「じゃあ…いいよ…食べても……」
「ほんとッ!?」
「う…う、うん……」
「ありがと〜ッ」
当然のごとく持っていかれたわけで…。そんなやりとりをしていると、もう1匹のハイエナも動き出す…。
「ねぇねぇ、あたしも食べたいなぁ〜」
李凛の猫なで声が僕の耳に響く…。まぁ言うとは思っていたんだけどね……。
「ど、どうしても…食べ…たい?」
「食べないと死んじゃう〜」
(んなわけあるか)
でも女の子のこういう時の態度には絶対的に男は弱い…。僕も例外ではないようで……。
(これも諦めるか…)
こんな考えが浮かぶ。
「じ、じゃあ…どうぞ……」
「ありがとッ!!」
2人とも満面の笑みで玉子焼きを口に運ぶ。
「あ〜んッ。…ん…んんッ」
(あ〜あ、めちゃめちゃ幸せそうだな……)
「おいしいぃ〜…」
「おいし〜…」
(あ〜あ、2人でハモるし…。おいしいって言ってくれるのは嬉しいんだけどね…)
よくよく見ると、未来ちゃんは何やら満足したような顔で天を仰いでる。
「ど、どうしたの…?」
尋ねても聞こえていないのか、答えないままパクパクと口を動かしている。
「お嫁さんに…欲しい……」
「はい…?」
「なっ、なんでもない……」
(未来ちゃん、何か言ってた気がするけど…気のせいかな……?)
「お嫁さんって…」
李凛が笑いながら呟いた。僕には何のことだかわからなかったけど。
僕もそろそろ食べようとしたとき。
「ひとつじゃ物足りないよぉ…」
あぁ、そうきたか…。 未来ちゃんの猫なで声にも当然弱い。
「じゃあ…どうぞ……」
「えッ!良いのッ!!」
「はい…」
「ありがとぉッ!月夜くん優しいッ」
(催促したのはそっちだけどね…)
ようやく嵐が過ぎたのも束の間…こんなやりとりを横で見ていた李凛が黙って見ているわけもなく……。
「いいなぁ未来は…。あたしも食べたい…」
「あからさまに催促してるね…」
「だって、だってぇ……」
それにしても演技下手だな…。李凛は普段から強気なため、泣きまねなどの弱気な部分の演技は苦手だ。それは自他共に認めることだけど…李凛は何度もその手を使ってくる。
(まぁ…いつもその光景を哀れに思って、結局僕の方が折れちゃうんだけどね……)
今回も同じだ…僕が折れる……。でも…。
(もともと4つあったんだよな…)
4−3=1…ってことは、今日の僕への玉子焼きはナシ…か。
(はぁ〜…)
「未来ばっかりずるいよ…」
「そうだよ、李凜ちゃんがかわいそうだよ」
なんで未来ちゃんまで李凛の味方してんのかな…。
「わかったよ、わかりました…。あげます、どうぞお食べ下さい……」
「なんか感情こもってな〜い…。そんなに不本意なんだ……」
「い、いや…そんなことは……。ほら、いらないなら僕が食べるよッ」
「食べます〜!!」
最初から素直にもらえばいいのに……。とは思いつつ…なんか振り回されてばっかりだな、僕も……。自分のそんな様子に呆れる…。
そして、僕らはどうせ明日は休みだし…ということで……お泊まり会を兼ねての歓迎会をするため、僕らは放課後に永遠宅へと向かった……。
ですが…男女交えての歓迎会やお泊まり会には……必ずと言っていいほどの展開が待ち受けてくださってるようで…………
今回も月夜は女の子への甘さを遺憾なく発揮してます…。
作者もなんとなく心当たりがあることなので少し恥ずかしいんですけどね…。
*次回予告*
とうとう歓迎会編へ突入!!今回は永遠と!?李凛と!?…なまぬるい恋愛劇がある模様……
ちなみにまだ本格的な恋愛はあまりありませんが…そろそろあるのかな…?まぁゆっくりゆっくり行く予定です…
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