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第65話:完璧な父親

―――緘森月夜 11歳―――




「すいません。わかりませ〜ん……」


 心のこもらない陽泉の声が教室に響いた。そのやる気のない態度と声があからさますぎたためか、教室のあちこちからはくすくすと微かな笑い声が漂っていた。一方先生はというと、わからないのに開き直っている陽泉に呆れ返りながら、ため息混じりに声をかけた。


「はぁ……。この間やったところの確認なんだけどね……。わかったわ。じゃあ月夜くん、後をお願いね」


 ――なんで僕が……。


 考えてみれば、6年生に上がってからはずっと陽泉が答え損なったものを補わされてる気がする。陽泉は陽泉で、反省する気持ちが一切ないようで。


「悪いな月夜。社会は基本パスなんだわ俺」


 なんて言ってるし……。


「じゃあ、隣の李凛ちゃんと相談しても構わないから……」


「あぁん、ごめんねぇ〜月夜〜。あたしも社会はわかんないのぉ〜……」


 隣の李凛はというと猫なで声で面会謝絶……。どうせ社会だけじゃなくて他の教科もパスなくせに……。そんなささやかな悪態をつきながらも、僕はため息混じりをして立ち上がって答えた。


「“本能寺の変”です」


「はい、座ってよし」


 先生のお許しの後、なんだか「おぉ〜」と言われながらも僕は座るに至った。この間習ったばかりなんだけどな……。


「さっすがですねぇ月夜“さん”」


「やっぱり月夜“君”は凄いなぁ〜……」


 正解して何故陽泉や李凛から茶化すような台詞をいわれなきゃいけないんだ……?


「ほらほらお2人さん。茶化す余裕があったら歴史的大事件の1つでも覚えなさい」


「「は〜〜い……」」


 あくまでも覚えるつもりはないようだ……まぁ、そうだろうとは思ったけど……。






「さようなら!」


「「「「「さようなら〜!!」」」」」


 元気なあいさつと共に、今日の学校の全日程が終了した。


「よし、道場行こうぜ」


 そんな陽泉の言葉に同意し、僕と李凛は共に学校を出ることにした。昇降口を出てみると、3人は校舎を出てすぐにある光景を見た。


 それは校門に背中をつけて身を任せている女の子。そこには一切おかしい点はないのだが、その女の子のことは知っていた。その子は、僕らのクラスの中でも異彩を放っていた。それは教室内での彼女の行動にあった。


 特に目立った行動はしない。そう、何も。何もしないのだ。ただ黙って席に着き、何かしているかと思えば本を読むくらい。そんな控えめな子だった。


 ショートカットの黒髪なのだが、前髪が異常なくらいに長い。目を覆い、その前髪の間からやっと目が垣間見える程度だった。それはいかにも、おとなしいようなイメージを与えていた。


「あの子、いつもああしてるよな、放課後。一体何やッてんだ?」


 陽泉はふいに口を開いた。


「親のお迎えでも待ってるんじゃない……?」


 僕は、そんな李凛の考えに賛成した。あそこで親の迎えを待つこと自体、珍しいことではない。しかし、陽泉はどうしても気になる様子で彼女の方を見つめていた。


「どうしたの?あっ、ひょっとしてあの子の事好きなんだとか言っちゃう!?」


「なッ!?バッ、バカッ!!そんなことあるかよ!!」


「そんなに顔を赤くして言ってもね、説得力無いからさ……」


「う、うるさいな月夜まで!!」


「い、いや、僕は別に疑っても茶化してもいないんだけどな……」


 完全に焦ってる……。もはや陽泉の耳のには、全てが茶化すような表現に聞こえてしまっているのかも知れない。こんなに焦っている陽泉もなかなか見られないな。


 そう思っていると校門前の女の子の所に、大人らしき1つの人影が見えた。


「お父さん!!」


 女の子は“お父さん”と呼んだその人に、サイのタックル顔負けの勢いで抱きついていった。微笑ましい親子愛が、そこにはあった気がした。


 女の子も、お父さんも、笑顔でお互いを包み込んでいた。その姿はとても嬉しそうで、とても楽しそうで、とても幸せそうだった。


「そっか、思い出した」


 一緒にその光景を見ていた李凛が、急に口を開いた。


「あの子、クラス一の仲良し親子で有名な“真札しんさつ永遠(とわ)”ちゃんじゃない……?」


「あぁ、そう言えばこの前の授業参観日に発表した作文。“私のお父さん”っていうテーマだったよね。あまりにいい作文だったから県の作文コンクールでも賞をもらったっていう……」


 そう、あの子はとても親思いで……彼女のお父さんも娘思いだと言う仲良し親子だ。今目の前に広がっている光景を見ても、それは間違いないのだろうな。


「さすがにお父さんには勝てそうにないですねぇ、陽泉さん?」


「だから違うッつの!!」


 茜空の下、逃げる李凛、追いかける陽泉、いつの間にか置いてけぼりをくらう僕……。そんな、あの親子にさえも負けないくらいの幸せそうな声が、そこには響いていた。





 ふと走りながら見上げたその紅い空は、これから始まる僕らの運命を暗示させるかのような……。


 仄暗ほのぐらく、深淵の黒に包まれ行くその空は、彼女の心の闇を具現化しているような……今思ってみると、そんな気がしてならないものがあった。




 過去編突入です!!短くなってしまってますけどすいません……。後で修正するかもです。


 とりあえず3人目ですね。もしかしたら過去編はこの3人で終わっちゃうのかも知れませんからね……。ブーイングのある方には……お応えする覚悟でございますよ。


 仲良し親子……現在の永遠を見てみてもその関係は崩れてはいないようですね。娘を意識して“エターナル”なんて名前の店を出すくらいですから(※18話参照)



*次回予告*

 完璧な父親。

 それを聞いて、どんな父親像を思い浮かべますか?料理ができる、いっぱい構ってくれる、自分のことを思ってくれる……

 たくさんを兼ね備えた父親は、完璧だと思いますか?

 あなたのことを思ってくれる父親は……どこかではなく、あなたのすぐそばにいるはずです。


次回 『殺すかもよ?』


 ご期待下さい


(なんかカッコイイッ!)



感想、評価、訂正、意見などなどたくさんお待ちしております。寂寥の念が溢れる前にお願いします……。



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