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第64話:食は娯楽

 暇ですねぇ……。


 僕と陽泉は、久しぶりに永遠の家(カフェ)に来ていた。そこで僕はオムライスを食べ、陽泉はミートソーススパゲッティを頬張っていた。テーブルを挟んで向かい側に座っている永遠は、陽泉の食べっぷりに、自分の目の前のホットケーキを放っておいて呆れていた。


「それにしてもよく食べるな、陽泉……」


「仕方ねえだろ。朝から久々に問題なんか解かせられて、頭の中の糖使いきっちまったよ。あ、小倉トースト追加ぁ!!」


 更に食事の量を増やそうとする陽泉の矛盾に気付き、永遠が指摘しだした。


「あんたは補習中もずっと寝てたでしょ……。どこで体内の糖分を使う要素がありましたか?」


「う゛!!いや、あのだな……睡眠によって脳内にイメージされる夢っていうのはな、本人がいかに気持ちよく眠っていても、そこには想像力という非科学的な力が働いているわけで……体内である力が働くということはだな、それすなわち糖を使う原因になるわけでな…………」


「やかましい」


「すいません…………」


 陽泉無念……。


 まぁ、陽泉は前から女性の尻に敷かれるタイプみたいだし。かく言う僕もさして違いはないような気がするけど……。なにせ李凛にあれこれ言われてのせられたこと、行動させられたことなんてごまんとある。


 そういえば李凛は今頃、未来ちゃんとレポートのために調べ学習をしてるんだったな……。放っておいていいんだろうか。以前の永遠みたいに、模造紙にでかでかとまとめてくるんだろうか……。


 永遠といい、李凛や未来ちゃんといい、僕も陽泉も女性陣には迷惑かけてばかりだな。僕らも少しは役立てるようにがんばらないといけないな。


 なんだかんだでみんなに頼りまくってる僕は、今更になって自分の行動力のなさに反省させられた。


「はい、どうぞ。ご注文の小倉トーストだよ」


 僕が心の中で小さな決意を固めたその時、永遠の父(マスター)がご注文の品を持って現れた。そして、陽泉の目の前に差し出すと、陽泉は瞳を輝かせて今日2回目の昼食……いや、デザートを食べ始めた。


「いっただっきま〜〜す!!」


 うわぁ……がっつりいきますねぇ……。


「陽泉……。あんた、どれだけ食べれば気が済むの……?」


「これでもまだ足りねえけどな!!」


「親指立てて言われてもねぇ……」


 僕も呆れるレベルへと突入してきたな。いつもこんな感じだっただろうか。そういえば未来ちゃんの歓迎会でも、陽泉の分のオムライスは少し大盛りにした気がする。そういえば、僕もなんだかんだ言ってオムライス好きだな。


 陽泉は特別に食い意地を張ってるというわけでもないけど、食べることに関しては少し一線を越えたこだわりがあるのかも知れない。そういえば以前、「食することは人間のの娯楽の1つだ!!」とか言ってたっけ。


 その時も確か親指をビシッと立てていた気がする。成長という概念はないのかこの男には……。確かに美味しい食は、人間の喜びの1つなのかも知れないけど。そんなことを考えて、ちょっぴり頭が痛くなった。


 陽泉の無茶な発言は今になって発現したものじゃないと改めて思うと……今まで接してこられたことが奇跡に近いものにも思えたから。


「それにしても……」


 僕が頭を抱えていると、そんな僕を永遠が、話題変換という手段で救ってくれた。


「陽泉、今日はちゃんと財布を持ってきたんだろうなぁ……」


 そんな永遠の脅しにも似た口調に、僕も陽泉も怯んだ。いきなりドスのきいた声を上げたため、陽泉は持っていたトーストを皿の上に落としてしまった。


 端から聞けば、李凛が陽泉をカツアゲしているような状況なのだと思うのだろうな。でも、僕は違った。今までの陽泉の経歴を考えれば造作もないことだった。


「い、いや……。今回は、払うって……」


「いつもそう言ってるじゃないか!!」


 李凛は借金取り立てに来た、闇金融会社の社員のようだった。まぁ、ある意味そうなんだけどね……。


 以前……というか、何度か僕らはここに来ている。永遠はいらないとは言うけれど、僕らは訪れて食事をする度に毎回食事代を払ってきた。でも陽泉だけは違った。


 1回目は、永遠と僕たちが払うか払わないかで言い合っていたときに逃走――


 2回目は、僕らが払う順番に並んでいるときに逃走――


 3回目は、先に陽泉を払わせようとすると、「トイレ行ってくるわ」と言った陽泉。待っていても来ないのでドアを開けてみると窓から逃走――


 4回目は、本気で財布を忘れてきていた――


 そんな感じで一回も払った試しがないのだ。仲間みんなが払っているというのに、1人だけこのまま払わないのも、僕だけでなく李凛ちゃ未来ちゃんにだって悪い。


 そう思っているのは永遠もだ。別にお金のこと自体をとやかく言うほど、永遠は意地汚くはない。けれど、陽泉1人のせいでいろんな人が、あまり心地よくない思いをしているのだということを教えてやりたいだけなのだ。


「ほら……」


 陽泉は、財布から今までの分と思われるお金を一気に出し、永遠に差しだした。


「え……?」


 意外にあっさりと出してきた陽泉を見て、永遠は驚いていた。そんな永遠の様子をよそに、陽泉は話し始める。


「い、今ではいつも……本当に財布忘れてたんだよ。返す気はあったんだけど……なんだか俺忘れる性質タチッぽくて……」


 確かに、陽泉の気持ちは本当らしい。やけに小銭がたくさんあるわりには、すっと出してきた。おそらく財布のお札を入れる部分にいっぺんに入れていたんだろう。……ということは、すなわち最初から用意していたということだ。


「こ、これでチャラだよな……?」


「さぁてね……。今まで払わなかった分の利息もどうするか迷ってるんだけどねぇ……」


 完全に悪魔の顔になってる……。薄気味悪く笑い、その目は怪しく光り、うっすらと開けられた口からは八重歯がギラリ……。


「お、おいおい冗談じゃないぜ……」


「嘘だよッ」


「へ……?」


 怪しく笑ったと思ったら、次の瞬間には優しい笑顔に戻っていた。その豹変ぶりになのか、それとも永遠の言葉になのかはわからないが、陽泉はぽかんとして永遠の次の言葉を待っていた。


「覚えていてくれて、しかもこうしてわざわざ持ってきてくれたんだ……疑って悪かったのはあたしの方だよ……ごめん」


 永遠の謝罪に、陽泉はバツが悪そうにして、目を泳がせた先にあった小倉トーストをぱくついた。このとき改めて知ったのは、意外な陽泉のドジッぷりと、永遠の優しくて素直な心だった。李凛に伝えることができた。“永遠は「ツンデレ」ではないんじゃないか”と。




 カフェに入るときの音というと、皆はカランコロンという心地の良いベルが思い浮かぶのだろう。この店もそのべたなくくりに入っている。


 出入り口の扉を開けると共にカランコロンという心地の良い音が店内に響き、入ってきた者を歓迎してくれる。そして今、その鐘を鳴らして1人の親子連れが入ってきた。


 どうやら諏訪原さん親子のようだ。


「月夜ちゃ〜ん!!」


 僕らの方を見つけるなり、日和ちゃんがこちら(っていうか完全に僕)に向かってかけてきた。


「相変わらず月夜ちゃん大好きなんだな……」


 陽泉がぼそっと言ったのが聞こえた。それに僕がつっこむ。


「いや、日和ちゃん違いだから……。確かに瓜二つだけど……」


 今ではそんな会話が気軽にできるほどに、陽泉は精神的に成長していた。いい思い出……と言うわけではないけど、実妹への憂いは断ち切ったようだ。


 実妹を“忘れる”のではなく、自分の中に“生かす”ことで、日和ちゃんは僕らの中に存在している。


 実際に言葉を交わしたり同じ時を過ごしたりすることはできないけど、それでも僕らは、僕らの中にある日和ちゃんの魂を大切にできる。その魂を持ったまま、その子の分まで生きる。それが死んでいった者のために生き行く者のできることなのだと思ったから……。


 まぁ、今いる目の前の日和ちゃんにはそんな暗い話はしたくないわけで、僕らは笑顔で迎えた。そして後ろから日和ママさんが遅れてやってきた。


「どうもこんにちは。青旦さん、真札さん。それに…………緘森さん」


 なんだろう、僕と陽泉たちとの間にある凄い間は……。まぁ、先日……未来ちゃんとのことで気まずい雰囲気が漂ってるのは間違いないんだろうな。


「せ、先日はどうも……」


 なおも社交辞令をやめない日和ママさん。やめて!!なんか恐い!!変な誤解しないで!!


「い、いやッ、あれは……違うんですよ!?」


「だ、大丈夫ですから……私、なんとも思ってませんから……。では……私たちはあちらの方で」


 僕の必死の訴えも虚しく、日和ママさんはそんなことを言って僕らから遠ざかっていった。いや、むしろ僕個人から……実際にも精神的にも遠ざかっていった。


「おい、諏訪原さんと何かあったのかよ……?」


 茫然としていて陽泉のそんな言葉にも耳を貸す余裕なんてなかった。誰か誤解解いてくれないかな……。無理だよね、僕と未来ちゃんしかいなかったんだもんねぇ……。まぁ、いいか……。とりあえず、現実逃避することで僕は精神を安定させることに努めた。





「優しそうだねぇ……」


 諏訪原さん親子を見ていた永遠が、しみじみとそう言った。頬杖をついている姿は、どこか西洋の貴婦人かとでも思ってしまった。美しいってことかな…?


 いや、李凛にしても、永遠にしても、未来ちゃんも……僕や陽泉の周りにいる女の子はなぜかレベルが高い。以前から思っていたことだけど、いつも彼女たちからはどこかそれぞれ独特の美しさがあるように気がする……。


 まぁ、今更振り返ることでもないのかも知れないけど。それより、このままだと永遠の話を無視してしまうところだ。


「思い出してるのか……?」


 ふいに聞いたのは陽泉だった。


「まぁね……」


 永遠と陽泉は、頭の中で昔のことを振り返っていたようだった。永遠が歩んできた悲痛な人生……。その物語は、できればこの世界中のどこでもリプレイしてほしくないものだった。




「でもね……あのことがあったから、あたしはあなたたちとこうして一緒にいることができるんだと思う。だから、今となっては感謝してるよ、あの出来事にもね。もちろん、李凛や未来とも出逢えて良かった……」






 永遠の過去……本当は誰にも思い出してほしくない。そして、誰も同じ過ちを繰り返してほしくない……。あんなことがあってはいけないんだ。


 でも、だからこそ思い出すのかも知れない。二度とあんな悲しいことを繰り返さないために……。




―――緘森月夜 11歳―――




陽泉ってこんなにずぼらでしたっけね……?


まぁいらんことに頭が働くのはさすがといったところでしょうか。


永遠と陽泉の夫婦漫才もこれからって感じです!!



*次回予告*

いよいよ永遠の過去が始まります!

繰り返してほしくないあやまち……その詳細とは!?




感想、評価、訂正などなどくれると……いや、くれないとやる気しません!

(すいません、偉そうですね……)

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