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第63話:恋する乙女

注意*途中から月夜が参加していないお話のため、三人称になります。

どうぞご注意してお読み下さい。

 今日は学校だ。


 夏休みに入って2週間が過ぎようとしていた頃、僕らの学校では出校日というものがある。はっきり言って行きたくない。こんな暑い日々が続く中、なぜ僕たちはたくさんの生徒の熱気が一気にこもる教室という大焦熱地獄サウナへと行かなくてはならないのか……。


 補習だそうだ。


 詳しく言えば、自主参加の夏期講習というものだ。自主参加なら別に無理して参加しなくてもいいだろうと思ったら、その考えは甘いものだ。


 この学校の教諭たちは結構性根の悪いもので、“自主参加”という名目は“予定がない者は参加しろ”という半強制参加制なのだ。


 “部活なんかで忙しい人は無理しなくてもいいよ”なんていう部活入部組への天使の微笑みとは対照的に、“お前らはどうせ暇だろぅ?じゃあ参加しなきゃなぁ〜……ひっひっひ”。なんていったような裏人格さえ持っている教諭たちに、怨恨の意すら持っている生徒たちも少なくない。


「どうせ教師たちは夏休み中も学校に出勤するんだから、休んでる俺たちを妬んでこんなことしてるに決まってるぜ!!」


「そうだよ!これは言わば虐待だぞ!!」


 ひとたび学校に行ってみれば、そんな会話ばっかりが聞こえてくる。


「あながち間違いじゃないと思うぜ……」


 朝から集まっていた僕たち仲良しグループは、いつもの調子で談笑していた。そんな会話の中で、陽泉が呟きかけてきた。どうやら周りの意見に同調しているようだった。


「ほんとだよ、よりによってこんな暑い日に呼び出さなくてもいいもんなのに…」


「そう言ってもね李凛……補習の実施期日は夏休み前に告知済みだったでしょ?」


「そうは言うけどさぁ永遠〜〜〜〜」


「はいはい、女の子なんだからだらんと舌出さないでください李凛さん……」


 そんなふうに、机に突っ伏してうなだれる李凛を永遠がなだめていた。李凛が「うわぁ〜〜……」といって頭を右へ左へゆらゆらさせる度に、ぴょこぴょこと元気に外ハネした髪が揺れている。


「まるで犬だな……」


 まったくだ。陽泉がそう言うのも無理はない。


 そんな格好の李凛は、夏場に暑くてだれている犬のように見えた。あの犬耳はどんな物理的な力が働いて、毛先が浮いているようにはねるんだ?僕の疑問はそんなことばっかりになっていた。




 補習は定刻通りに始められ、終了とまでは行かないものの、結構な時間が過ぎていた。しかし――


1限・国語

2限・数学

3限・英語

4限・自習


 補習で自習ってなんですか!?監視人みたいな先生が教壇の所に座って居眠りこいてるだけじゃないか!!


 3限まではなんとかプリントを解いてるだけで、それ自体が暇潰しのようになったから良いものの……自習では自分で勉強することを見つけなければいけない、言わば自立してこれから社会に飛び立つ若者の就職活動のようなもの!!


 まさか、高校卒業のための試験の1つだったりする!?「この時間くらい乗り越えられないで社会に出るなど甘いわぁっ!!」なんて先生の言葉が今にも聞こえてきそうなほどにあたふたしていた。


 この暇な時間がどれだけ長く感じるのか……こんな事なら問題集でも余計に持ってきておくんだったな。


 そんなふうに思っていると、僕は急に斜め背後から視線を感じた。なんとなくそちらの方を振り返ってみると……案の定誰かがこちらの方を見ていた。


 席に座って、肘をついて、まるでうわの空といったような雰囲気で、しかし真っ直ぐに僕の方を向いているような気がした。


 振り向いてから何秒経っただろうか。僕は僕のことをずっと凝視している彼女の目を見ている。気がついてみれば、僕たちは見つめ合ってる形になってしまっていた。彼女自身はそんなことに気付いていないのか、僕の方を未だにボーッとした瞳で見つめ続けている。


 彼女は確か……そうだ。花畑さんだ。花畑はなばたけ 成海なるみさん。僕はさほど彼女のことを知らないけど、なんでずっと見てるんだろう?


 彼女の名前をやっと記憶の端っこから取り出してきたその時、急に花畑さんの顔色が赤くなってきたような気がした。それはもうたとえるなら……完熟したいちごくらいに赤かった。その後瞬時に、何かにびくっと驚いたふうに肩を震わせ、一気に目線を下げた。


 なんだったのだろう……?


 とんとん――


 いきなり後ろの席から肩を叩かれる感覚がした。体を少し横にずらし、首は後ろの方を見られる程度にひねってみた。後ろの席は李凛の筈だ。


 振り返ってみると、やはり彼女が僕の肩にシャーペンでノックしていた。そして、さっきの様子を見ていたのか、花畑さんの方をしゃくりながら僕の方に目を向けた。


「知り合い……?」


「ううん、知ってる程度」


「どこで知ったの?」


「クラスメイトくらい知っててあげてよ……」


 そんなひそひそ話の後、僕らはそれぞれの定位置についてそれぞれのことをした。


 それにしても……なんだったのだろう。あの間は……?




 4限も完全に終了し、この日の補習はこれで完全に放課となった。運動部系の部活動部員がいないせいか、みんなは文化部系の部活に行ったり、引き続き教室に残って仲間と談笑したり、お弁当を広げて午後からの行動を話し合ったりと……それぞれが自由に過ごしていた。


「俺らも帰ろうか」


 陽泉は僕の席に来るなり、そう告げてきた。僕は「うん」といってスクールバッグを肩に背負い込んだ。


「あ、ごめん。あたしと未来はちょっと用事あるから……」


「うん。一緒には帰れないの……ごめんね?」


 李凛と未来ちゃんが一緒に何か用事……ちょっと意外な組み合わせだな。そう言えば、調べ学習で『日蝕伝説』のことを調べてみたいって言ってたっけ。


「じゃあ、僕も手伝おうか?」


「い、いいよ月夜くん。私たちは自主的に自分達でまとめたいだからさ……ね?」


 そんなふうに言われてしまっては仕方ないと思い、僕と陽泉と永遠はそこで家路についたわけなんだけど……






――図書室――


「あったよ李凛ちゃんッ」


 峰水未来は、大量の書籍を平積みにしてどこからか探し当ててきた。それはもうタワーと言ってもいいようなものだ。


「あ、ありがとう未来。でもこんなにいっぺんに持ってこなくても……」


 呆れ気味に言う観籍李凛につっこまれながらも、未来はうきうきわくわくといったような態度で李凛に満面の笑みをたたえて見せた。


「だってだってぇッ、捜してみたらこんなにあったんだもんッ、そりゃ楽しくもなるよぉッ!」


「待ったくぅ…無理しないでね?」


「うんっ!」


 その姿は端から見れば、仲の良い女の子同士が楽しげに笑顔を浮かべている光景だった。しかし、その2人の方を不安げに見つめる人影があった。


 李凛は背中に何やら視線を感じた。殺気、ではないにしろ……というよりありえないが……その視線はただ見つめられるというよりは何か目的があって見ているという様子だった。


「誰……?」


 李凛は視線を感じた方を見て声をかけた。李凛が向くと、その先には確かに人影があった。人影は本棚に張り付き、半身を隠してこっちを見ていた。


「ひっ!?」


 人影は怯えるように驚いて、目を白黒させていた。


(さっきの月夜くんといいあのこといい……見ていることなんてなんでわかるんだろう……私、何かビームでも出してるのかな……)


 手を唇に当てながら、人影はそんな非科学的なことを真剣に考えていた。


 気付くのは人影の見方の問題ではない。なにせ相手はジュニアだが、剣道の大会で4回ずつ全国の覇者となっている2人だ。ちょっとした素人の視線を捉えることなど造作もないことなのだ。


「あれ?花畑さん……?」


 相変わらず人影を見ている李凛が、何かに気付いたように人影に声をかけた。


 本棚に隠れていた人影は、ゆっくりと、何かに怯えているように挙動不審といったような態度で2人の前へと出てきた。人影の正体は紛れもなく花畑成海だった。


 線の細い、瞳の大きい、体は女の子としての丸みをキープできている。おっとりしているような天然のような雰囲気を醸し出しているが……。見てわかるとおり、どこかおどおどしたような仕草だ。おそらくは弱気なタイプなのだろう。月夜たち仲良し5人グループにはいないタイプに、李凛も未来も少し興味津々の様子だった。


「あ、あのあの……」


 2人の視線を一身に浴びている成海は、よく知らない彼女らになんと話しかけていいのか迷ってる様子だった。


「あ、自己紹介してないねッ。私、峰水未来。よろしく」


「観籍李凛だよ、よろしくね」


「あ、う、え?あ、あのあの、えと……んと〜……は、花畑成海です!!よろしくお願いします!!」


 この子、かなり挙動不審だぁ〜……。


 李凛と未来は爽やかな笑顔をし、そんな感想を心の中で反響させていた。




 とりあえず、未来と李凛は隣並んで4人掛けテーブルの席に着き、反対側に成海が座っていた。


 脚を極端に閉じ、脇を締め、手を結び、少しばかり視線を下に落としている。まるで就職面接に来ている入社希望の若者のようだった。緊張のためか、少し震えているようにも見える。


「それで……成美ちゃんは何の用があったの?」


 未来のそんな質問に、成海はびくっと反応した。何から話していいのかわからず、しばし戸惑っている様子だった成海だったが、意を決したように落ち着いて、しかしやはり多少おどおどしながら、用件を話し始めた。


「あ、あの……緘森月夜さんのことはご存じですよねぇ……?」


「ん?あぁ、いつもみたいに一緒にいるからねぇ、そりゃ知ってるよ」


 李凛がそう答えると、成海は安心したのか不安感が募ったのか、どっちともとれないような表情になって続けた。


「あ、あのですねぇ…………」


「「……?」」


 李凛と未来は、言い淀んでいる成海の言葉に、必死に耳を傾けていた。うっかりすると聞き逃してしまいそうな感覚だったからだ。


「えっとぉ〜……うんとぉ〜……」


 未だに成海は用件を言えないでいる。そんな成海に、李凛は少しいらいらを募らせてしまったようで、ちょっと強い声で先を促した。


「まとめて話してくれない?こっちもちょっと用事があるんだけど……」


 いきなり発せられた李凛の声に、成海は更に肩をびくつかせる。成海がおどおどしているテーブルの向こう側では、表情を険しくする李凛とそれをなだめる未来がいた。


「あ、あのッ!!」


 李凛の言葉に鼓舞されたのか、成海はいっそう声を張り上げて……といっても元々が低かったのだからあまり実際大きいわけでもないが……意を決して言葉を放った。


「か、緘森さんって……誰かとお付き合いしてる人がいるんですか……?」


「「へ……?」」


 李凛と未来、成海の間には、不穏な空気が流れた。李凛と未来はゆっくりと顔を見合って、それからまた同時に成海の方を向いていた。そんな2人の脳内では、先ほどの成海の質問がリフレインしている。


 緘森さん……誰かとお付き合い……。


 それを聞いてくるということは……もしかしてこの子…………。


「「えぇ〜〜〜〜〜〜〜〜!!」」




 騒音厳禁の図書館いっぱいに響き渡る大音量で、李凛と未来の絶叫がこだました。




新キャラ登場!!

その上早くも波乱の予感!?


成海のいきなりの告白に戸惑う未来と李凛。さぁ、これから……どうなっていくのでしょうかぁ!?


(自分でもノリがウザイです……)



*次回予告*

月夜に伸びる影……それは儚くも甘酸っぱい恋心を持った乙女だった。


相談を受けた李凛は、未来は……どんな行動に出るのか!?


感想、評価、訂正、意見などなどありますたらどしどし下さい!!

正直皆さんが読んでくれてることを自覚しないと、寂しさで死んじゃうんで!!


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