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第61話:行くぞ!…にゃ

「それで……これからどうするんですかにゃ?」


 陽泉が切り出してきた。やっぱり違和感が残るのも無理はないというかなんというか…。やっぱり変です。


 僕と未来ちゃんへの命令も無事(?)に終え、僕と永遠もルーレットを回してすでに命令をいくつかこなしていた。今の陽泉のおかしな語尾もそのおかげだ。


“『コマンド双六』終了時まで、語尾に『にゃ』をつける”


 というものだった。男にこれはキツイだろうな、話す方も聞く方も…。でも、この命令を破ったりしてしまったら……人間的、社会的にも問題な行動をとらざるをえない事態に陥ってしまう。


 僕らは、未だ恐怖と戦いながらその双六をプレイし続けていた……。


 そして、なおもルーレットの回転する音と、僕らへと下る命令の応酬は続いている。陽泉、李凛、未来ちゃん、僕、永遠がどんどんとルーレットを回すも…平凡な数字の連続で、大きな数字が出ること自体が稀なものだった。


 どんどんルーレットを回せば命令もどんどん下るもので……みんなが平等に当たるほどの使命率で、まるで人間が操っているかのように的確な公平性だった。


“体全体を使って象のマネ”


“その場で1分間、鳥になって羽ばたけ”


“みんなから少し離れた場所で、アニメソング『ド○えもん』を歌え”


 なんていうものは、まだ軽い方なのだとわかっていても…いざ実際にするとなると恥ずかしいもので。みんなの疲労は遂にピークに達していた。


「よし、あと4だ!!…………にゃ」


 そう叫んだのは陽泉だった。見てみると、確かにあと4を出せばゴールと書かれた一際大きなマスへと到達するところだった。それは、皆が望んだ光景……皆が待ち遠しくしていた光景に他ならなかった。


 この双六は、ハードな分ゴールに辿り着くまでのマスの数が少ない。その辺りはちゃんと開発業者の方々も配慮してくれたようで、感謝してもしたりないくらいだった。


 しかし、ここで安堵するのも危険なことだった。なにせこれは“コマンド双六”…。安心できない理由なんてそれだけで充分だ。普通の双六だって、ゴールの手前のマスには“振り出しに戻る”…みたいなものがつきものだ。


 もしもそれがコマンド双六だったなら……“その場でものまねを5個やってから赤ちゃん言葉になって振り出しに戻れ”みたいなものだってあるかもしれない。そんな事本当にやってしまったら…明日からみんなに、いや世間に出す顔がない。


 たった1日で人生を壊しかねない最悪のゲーム…それがこのコマンド双六なのだから。


「よし、いくぞっ!!……にゃ」


 いまいちしまらないかけ声をあげながら、陽泉は指先をルーレットのつまみ部分へとかける。集中しているのか、陽泉はしばしの沈黙をおいてから……一気にルーレットを回転させた。


“からからからから”


 ルーレットの音のみが部屋中にこだまする。そこはまるで、カジノのルーレットに全財産を賭けているかのような静寂に包まれていた。皆が緊張してルーレットの行方を見守る。


 ルーレットが回転を止めない限りどんどん高鳴っていく鼓動。まるで早鐘のように打ち付けられている脈は、もう全身へと送る血液が今にも不足するんじゃないかというくらいにどくどくと鳴らし続けた。


 それは終戦という名の最高の安堵感へと導くモールス信号のようにも感じ、更なる恐怖が待っていることの警鐘のようにも聞こえた。とにかく、最後の一秒まで油断できないルーレットだ。ゆっくりと針の下へと数字が向かう。


 ゆっくりと止まったその針の指し示した数字は…………3。




「…………くっそぉ〜〜〜!!にゃ!!」


 一同が愕然とした。陽泉もたまらず悔恨の叫び声をあげた。しかし未だ命令を忠実に守り続けるあたり……確かにまだゲームは続いているわけだからやめることは許されない。でもそれにしたって……さすがだ。


「勘弁してよ陽泉…」


「全くだよぉ……」


 李凛の気の抜けたような声に永遠が続く。未来ちゃんも同じ意見なようで…皆は一気に顔から緊張が消えて、瞳に悲しさを浮かべてうなだれていた。


「うっ、お…俺だって……こんな結果になるとは……にゃ」


 なんだか……陽泉を見ていられなくなってしまうくらいに悲惨な状況だった。これはなんともダークな雰囲気…。


 まぁ無理もないか。やっと解放されると思いきやどん底……これから下される命令の内容によってはもっと悲惨な状況になることもいなめないのだから。


 そんな暗い雰囲気を皆で感じつつ、それぞれがクジを引いて命令を待つ…。陽泉が、命令の書かれているはずのマスに貼ってあるシールに手をかけ、ぺらっと捲った。そこに書かれていた命令の内容、それは――


“5番は振り出しに戻る”


 意外と普通だけど、この双六に関しては結構地獄なのかもしれない…。また1から命令をこなしていかなければいけないことになるのだから…。そして、そのシールを捲った本人が1番顔面蒼白になっていっているのがわかった。


「ま、マジかよ……」


 陽泉はそう呟くと、ゴール前まで来ていた自分のコマを手に取り、スタート地点へと戻した。その時の陽泉は…瞳、顔色、手つき、どれをとっても悲しそうなその雰囲気は見ていて暗くなるものだった。


 陽泉への命令が下って、今度は李凛がルーレットを回す番だ。


「よし!!今やゴールに1番近いのはもうあたししかいないね……。っていうことで、ちゃちゃーと終わらせてあげましょうかッ」


 明らかに空元気からげんきだった。それでも、今の暗い雰囲気を盛り上げる事は、多少なりともできたようだった。芯のこもってない強がりだろうと、今の僕たちには何者にも勝る味方となってくれるようで心強かった。


 李凛がルーレットに手をかけて一気に回す。


“からからからから”


 さっきと一切変わらない光景。でも、さっきと違うのは…ゴールから7マス離れている李凛は、今回ではゴールできないということ。でも、そんなことはよかった。李凛がきっともう1巡でゴールしてくれる。そう信じていられたから。


 李凛の勇気ある励ましは、たとえその言葉に何の根拠も無いとしても、どこか心が安らぎ、明るくなれるものがあった。今は、僕らはそんな李凛の態度に感謝しつつも、ただルーレット一点だけを集中していた。


 ルーレットが止まる――


 3


 李凛が微笑みながらコマを進める。その笑顔は引きつることのない、爽やかで気持ちの良いものだった。なんだか楽しそうに遊んでいる少女のように純粋な笑顔だ。こちらまで笑顔にされてしまうかのようなそれに、僕はちょっぴり魅了されてしまっていた気がする。


「どうしたの月夜…?ほらッ、クジ引いて!」


 李凛が僕の顔のすぐ前にクジを持った手を差し出してきた。僕はそのクジを引き、順番を確認する。そして、命令が下る。


“1番は4マス進める”


 な!これはなんとラッキー命令!!この戦慄の世界にもこんな天使の微笑みがあったのかぁ!!そんな有頂天な気分でいた。そして、その有頂天はまだまだ続く。


「やったぁ!!」


 声を張り上げたのは李凛だった。何やら自分のクジを見てやたら喜んでいる。


 未だ喜び続ける李凛は、嬉しそうにコマをかつかつと進めていく。どうやら1番を引いたのは李凛だったようだ。あれ?待てよ…?


 さっきルーレットを回す前に李凛はゴールから7つ手前にいた。そしてルーレットを回して止まった数字は3。そこで下された命令は“4進め”…ということは……。


「上がりだぁ!!」


 李凛が思い切り大きい声で叫んだ。その声に呼応するかのように残りのメンバーも叫び声をあげた。


「「「「やったぁ!!」」」」


 やっと終わった。


 命令を全て達成し、僕らは試練に打ち勝ったんだ。長かったコマンド双六が幕を閉じた。そして僕たちは、この上ない達成感に浸ることにした。安堵からか、みんな体から力が抜けた様子でぐったりしていた。


 そこに、李凛の声が響いてきた。


「あれ?ちょっと待って…。これさ、シールになってない?」


 李凛が指さすのはゴールの大マス。確かにゴールと書いてある所はシールになっているようで、捲ることができるようになっていた。ということは…まだ最後の命令が残っているということなのだろうか……。


 一応クジを引いて、改めてそのシールを捲ってみると…。


“ゴールした者は4番の者に、なんでも命令できる”


 僕は先ほど引いたクジとその命令の内容を見比べてみる…。あれ?このクジにって、“4”って書いてあるよねぇ…。って事は。


「ふっふっふ…どうやら奴隷は月夜のようですわねぇ……」


 李凛が僕の方を見ながら不敵な笑いを零している。いや、むしろにたにたした笑顔で…しかも両目が、やっと獲物を見つけた獅子のように、ギラギラと食欲剥き出しに光っていた。な、なんとも恐ろしい光景ですこと……。


「あ、あの〜李凛?まさか、こんなやっとひと息つけるような時に無茶なお願いなんてしないよねぇ……」


 僕は引きつった笑顔を浮かべながら李凛に訴えかけた。しかし、李凛からしたらそんなことはお構いなしのようで……


「じゃあね〜…う〜ん……」


 僕の言葉など一切耳の奥には届いていない様子で…。李凛はおもちゃ売り場で買いたいものを迷っている子供のように、瞳をきらきらさせて考え事にふけっている。まずい、この展開はちょっとやっかい事になるんじゃあ……。


「じゃあね…今日一日はあたしのお世話係ってことでッ!!」


 え…?お世話係?


「あの、それって…具体的にどうすれば…………」


「じゃあさじゃあさ…これ着てよ月夜くん!!」


 僕が悩んでいる間に、未来ちゃんが何やら自分のバッグからどこかの制服らしき物体を出してきた。


「なに、これ……?」


 未来ちゃんから手渡されたもの…下地には几帳面に縦線の入ったワイシャツ、その上にはほどよく胸元が開いた黒いジャケット、スラックス調のパンツの方も黒に統一されている。そして開いた胸元にはネクタイを締める……。


 それはダークスーツのようでいて、その上で会社員スーツのようにピシッとした緊張感もしっかりと兼ね備えている衣服――


 いわゆる……執事コスってやつですか…。




 似合うかどうかは別として……恥ずかしい展開になっていきそうです…………




コマンド双六クリアー!!

いや疲れましたね、私も月夜たちも……。っというわけで…次話は執事月夜の登場です!!


執事萌えする方もしない方も楽しめればと思います。




『みてみん』との提携が決まっている中、絵には全く自信のない私ですが……

「別に書いてあげてもいいよ…。でも、勘違いしないでよね……絵を描きたいから言ってるだけで、別にあんたの作品に興味なんてないんだから!」

なんて言われる方がいるのなら、私は喜んで依頼させていただきます!!



*次回予告*

月夜が執事に!?

次話からは李凛お嬢さまと月夜執事が登場!!

月夜は李凛のお世話をこなせるか!?



感想、評価、訂正、辛口なコメントもどんどん受け付けております!!

皆さんの声も聴いてみたいので、そこのところよろしくです!

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