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第59話:ライトコマンド?


 恐怖と戦慄のボードゲーム“コマンド双六”。それは傍若無人のボード本体がプレイヤーに命令を下す。プレイするだけで、常人には耐えられないほどの危機が襲う…いわゆる、コマンド双六自体が罰ゲームといった内容のものだ。


 僕らはそのゲームの恐ろしさを知り、しかし途中でも投げ出すことは許されない。「早く終わらせる」それしか道はありえない、狂気のゲームだった。






 危機感、疲労感、絶望感…………。


 未だ命令は1つ。陽泉のみが5マスしか進んでいないこの状況下でのローテンション……。しかもあのポッキーゲームがレベル3だという事実。これ以上のレベルが出ないことを願って進めるしかないと思うばかりで、未だ疲れきった表情で李凛がルーレットに手を伸ばす。


「い、いくよ……」


 李凛の確認に、生唾を飲みながらうなずく4人。本来、楽しむために創られた遊びというのが“ゲーム”だということを忘れ、今僕らの心にはこの双六を終わらせることしか頭になかった。


 李凛の指がルーレット中央のつまみをはじく。カラカラと回り、止まった数字は…2。


「李凛…お前、終わらせる気あるのか?」


 陽泉がげっそりしたような顔で李凛を見つめて言った。そんな反応に李凛はムッときたようで、陽泉に言い返すことにしていた。


「う、うるさい!これはどうにもできないでしょッ」


 ぶつぶつ言いながらコマを2マス進める。そして僕らは再びクジを引くことになる。全員が番号を確認すると、李凛が若干震えながらもマスのシールを剥がす。いよいよ…次の命令が盤によって下される。




“5番、2番、3番でわさび入りロシアンシュークリーム”


「ろ、ロシアンシュークリーム、ッて……」


「あるの?こんなの……」


 李凛と僕が次々とげんなりした声を上げる。あるかどうかの確認というよりも、シュークリームなんかないからやらないという方向で…と言ってる感じだ。どうやら顔色を見るに、この命令の対象は僕と李凛と陽泉のようだ。


「こ、こんなもん買ったっけかな〜……?」


 陽泉がおどけた様子で斜め上を見上げる。どうやら李凛と僕の考えに乗ってくる作戦で、命令回避を狙っているようだった。


「とぼけるな。お前自身が買ったんだろ?この怪しいパッケージ」


 陽泉の持ってきた買い物袋を、なにやらごそごそやっていた永遠が、言葉に相違なく怪しいパッケージ…表面に大きく“ドキドキ!わさび&シュークリーム”の文字が表記されたお菓子の袋を持っている。


「「そッ、そんなの売ってるわけ!?」」


 そんな感じで軽く僕らのツッコミが炸裂したところで、さっきより確かにレベルは下がったようだった。まぁ僕の運の良さ、わさびの辛さという問題視される部分は無視すればの話なのだが……。


 僕、李凛、陽泉のそれぞれが1つのシュークリームを手に取り、それぞれが緊張の面持ちで手元のお菓子を見つめる。


「いいな、“いっせーのーで!!”で一斉に口に入れるぞ」


「「うん」」


 陽泉が僕らに真剣な眼差しを投げかける中、「うん」と声を合わせて僕と李凛は身構える。そして、陽泉の口から合図がされる。


「いっせーのーでッ!!」


 一斉にシュークリームを口の中に放り込む。そして3人が沈黙した。僕の口の中、さくさくとした適度な硬さのシュー生地が割れ、中からはとろりとした感触。問題はその味だ。知っている……わさびの辛さは、数秒おいてからが一番ピークな事を。


 そして━━


「「おいしい!!」」


 僕と李凛がそんな感嘆の声を上げると、未だ押し黙っている陽泉が急に絶叫しだして飛び上がった。


「うッ、うぎゃぁぁぁぁぁぁ!!」


 陽泉はそのまま絶叫しながらキッチンの方へと全力疾走。嵐が過ぎ去ったように沈黙したその場からは…一同のある言葉が行き交った。


「「「「か、かわいそうに……」」」」






「よ、よ〜し…次は峰水だな……」


「だ大丈夫なのか…陽泉?」


「う、うるせ〜よ……」


 いつもいがみ合ってる永遠にさえ心配されるほどに、陽泉の顔はやつれきっていた。本当に大丈夫なのだろうか……。相当辛かったな、あれ…。


「い、いくよ……」


 今までに1度も命令の下っていない強運の持ち主、未来ちゃんがルーレットを回す。あまりこないというのもなんだか、これから大きな大きな報復があるんじゃないかという気がして…他人事ながら心配だった。


 止まった数字は…6。大きな数字が出たという安堵感と、更なる命令への不安感が一同を包んだ。コマを進め、今まで通り番号を決める。そして命令が下った━━。


“2番が4番をお姫様だっこし、玄関の扉前で5分立つ”


 な、なッ!ななななんですかこれはぁッ!?


「「う、うそぉ〜……」」


「「あ……」」


 驚愕の声を上げ、そしてお互いを確認した2人……。それは僕と未来ちゃんだった。ちなみに僕の番号は2番。ということはつまり…僕が、未来ちゃんのことをお姫様だっこというわけであって……。


 僕と未来ちゃんは見つめ合い、お互いに覚悟が決まるのを待った。それほど時間はかからなかったけど。でも、李凛や陽泉、永遠もいる中でするのはちょっと恥ずかしいものがあった。2人きりならどうというわけでも……いや、そういう問題じゃないですよね……。


「がんばれ〜」


 応援するでもなく、冷やかすでもなく、ただ冷えきったような声で陽泉が言ってきた。その目には…逆に羨ましいようなニュアンスも含まれていた気がした。


 たぶん心の中では『このハッピー野郎!!』とでも思っているのだろうな。当事者の緊張感も知らないで……。


 まぁそんなことも今はどうでもよく、僕と同じように緊張感で満たされているであろう未来ちゃんの準備を待つことが先決だろうと思った。


 あれ…?気のせいかな?未来ちゃんが小刻みに震えているような気がしますけど。え…緊張?それとも……震えるという、僕のお姫様だっこへの無言の抵抗?やばい、なんだか軽くショックです……。くじけそう…………。






「よし、どうぞッ」


 自分の胸の前で両手を握って構える未来ちゃんが言った。どうやら覚悟はできたようだけど…なんだか嫌がるようなその態度がきがかりで……心に大ダメージを受けながらも彼女の方に近づいていった……。





今回の命令は比較的軽い方でしたね。


まぁ、陽泉からしたらたまったもんじゃないでしょうけど……。




*次回予告*

月夜と未来へ下された命令…明らかに、男にとっては嬉しいハプニングの予感……。


月夜の運命と理性やいかに!?

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