第50話:友達
出逢いの数だけ別れがある…別れたくない者がいる…でも、その時はやってくる。
望んでもいないのに…別れたくもないのに…。
でも、運命には逆らえなかった。あの日出会ったウサギは、昨日死んでいた。それによって、1人の少女が泣いた。僕も、陽泉も悲しんだ。つい最近知ったばかりの命…でも、僕たちからしたらかけがえのない命………。
昨日李凛にお願いされて観籍家にお邪魔することになっていた。しかも、李凛にしては意外な、日和ちゃんと会いたいというものだった。
そんなわけで、僕は夏真っ盛りの朝から家の前で待ってるわけなんですけど…。
「暑いなぁ………」
朝起きてから今まで何回この台詞を口に出しただろうか…。かんかんと照らしてくる太陽は、なんとも元気そうでなによりです……。
「月夜ちゃ〜ん!!」
そうこう考えている内に日和ちゃんの声が僕の耳にこだましてきた。
“がしっ”
“よじよじ”
“ぴとっ”
「ふぅ〜」
僕の背中を占領してひと息…。以前から憩いの場所らしいけど…ま、落ち着いてくれるならいいか。
「よっ、今日もそいつの世話はお前に任せた」
「実の兄の口から出る台詞とは思えないね、それ」
「実の兄じゃなかったりしてなぁ」
「そんなこと行っちゃいけないよ…陽泉」
「月夜ちゃーん。あ、間違った…月夜お兄ちゃーん!」
この2人はまったく………息が合ってるのやら、合ってないのやら…。どこの兄妹もそうなんだろうか。
まぁそんな仲良しさんたちと一緒に、観籍家に歩を進めたわけだけど…。
「歩け歩けーッ」
背中で暴れるじゃじゃ馬…いや、乗られてるから馬は僕なのかな?まぁいいや…。とにかく彼女はやけに元気だった。どうやら引き籠もりすぎていてテンションの上げ方の調整が上手くいっていないらしい。
「うるさいぞ…まったく、なんで李凛もまたこんなやつ呼び寄せたのかねえ」
陽泉はいつものごとくぼやいているし。相変わらずこの2人は正反対の性格なんだな…。よくも同じ家庭でこうも違う性格が生まれるもんだな。
「類は友を呼ぶってやつか?」
「いや、使い方間違ってるよ陽泉…。でも、そうかもね。李凛も日和ちゃんも、似てるようなところが結構あるのかもしれない」
「ああ、例えば…普段はやけに元気なところとか、後は…好きな男の子のタイプとかな」
にんまり笑ってこっちを見てる…。陽泉は、あくまでも李凛が僕のことを好きだと思いこませたいらしい…。僕だって恋愛事には疎いタイプだけど…それくらいのことは自分でも気付ける方だ…たぶん。
李凛とは昔からの付き合いだけど…どちらかといえばいい幼馴染みという感じで僕のことを見ているだろう。かくいう僕も、彼女を急に恋人だと思えと強要されたってピンとは来ない。それとも、本当に………
「着いたぁー!!」
背中から聞こえてくる日和ちゃんの声で我に返った。気がついてみると、目の前にはこれまた…青旦家と比べても見劣りしないほどの日本家屋ですこと………。
瓦屋根…純和風な趣…立派ではあるものの…なにせ見慣れてしまっているもので。今更驚きはしなかった。
「ごめんくださーい」
「あ、来た来た」
僕が呼びかけると、李凛が真っ先に玄関へと飛び出してきた。
「よっぽど待ってたらしいな…」
李凛の様子を見て、陽泉が口に出した。そうらしい…。でも、李凛には陽泉の言葉の真意がわからないのか、頭の上に疑問符を浮かべていた。そこで、僕が李凛に向けて自分のの頬を指さした。
「待ちくたびれて寝てたんじゃない?ほっぺに袖の皺の跡が残ってるよ」
「あっ!」
そう言って彼女は恥じらって頬を隠した。真っ赤になった顔はちょっとかわいいと思ってしまった。
「日和ぱーんち!!」
「いたッ!」
急に後頭部殴打…。背中に乗った日和ちゃんからのものだと言うことは、バトルマンガさながらの、繰り出す前の技名絶叫でわかったけど…。理由がわからなかった。
「ど、どうして殴ったのさ…?」
僕がそう尋ねると、日和ちゃんはぴょんと僕から地面に着地し、僕の方を向いて言った。
「だってぇ…李凛ちゃんばっか見てるんだもん。月夜ちゃんのえっちー」
「えっちって………」
いっちょ前に嫉妬ですか…。なかなか大人な対応してくれますね。そんな風に思って、ただただ呆然としているしかなかった。
「ははは、こりゃおもしろいな」
「陽泉、笑い事じゃないよぉ…」
のんきな陽泉に僕が泣き言を言った。それもおもしろかったのか、陽泉は被せてきた。
「いや、悪い悪い…。2人の女の間で揺れ動く男っていうのがまた…」
こんな昼ドラさながらの展開を見て笑ってるなんて…。陽泉は、どちらかというとオバサンみたいなタイプだな。そんな展開が目の前で起きているということで、李凛の赤みも増す一方だった。
「早く早くぅー」
李凛の家にやっと着いたというのに…日和ちゃんがいきなり「友達と約束してるんだッ」と言っていきなり家を飛び出していった。僕らは、迷子になったらまた面倒な展開になることを事前に察知、対応に向かうことにした。
日和ちゃんを追っていくと、どんどん林の中に入っていった。こんなところ、1人で歩いたりしてるのかな…?そんな風に思いながら進んでいた。
「日和ちゃん、走ると危ないよー」
わかってくれたのか迷ったのか、日和ちゃんはぴたっと動きをやめた。そこにやっと追いついた年長組…。まさかこんなに走るなんて思ってもみなかったもんで…3人とも息が絶え絶えになっていた。
「日和ちゃん…はぁ……急に…どう、したの…?」
息を切らしながら僕が言うと、日和ちゃんは僕の方に向いてにこっとした。そうかと思うと、今度は目の前の茂みの1つ向こうにぴょんと乗り越えていった。
疲れた足にむち打ちながら、僕を含めた3人が続く…。すると、そこには不思議な光景が広がっていた。
「「「うわぁ〜〜〜………」」」
僕らは思わず声がシンクロした。
目の前には、一面黄金色のひまわりが咲き誇っていた。まるで…あれだ。“その者、青き衣を纏いて金色の野に降り立つ”………みたいな。いや、違うけど…。
とにかく感動だった。僕はこの黄金色の景色に圧倒されていた。日和ちゃんは前からこの場所を知っていたんだろうか。
「?日和ちゃん…?」
そう思って日和ちゃんの方を見ると…何かを一生懸命捜しているように首を右往左往させていた。
「あれー…?」
「どうしたの、日和ちゃん…?」
「あの子がいない…」
あの子?捜してる?…そう言えばここに来るとき“友達と約束してる”とか言ってたっけな。とすると、友達を捜してるってことかな?
「ちょっと…ここまで来たのはまさか友達と会うためだけぇ…?あーあ、なんでこんなに疲れる思いしなきゃいけないんだか…」
李凛がぼやき始めた。確かに、日和ちゃんの友達なんだから、僕たちが来たらかえってその子に迷惑かけちゃんじゃないかな、と思った。
「こんなに森の奥深くまで入ったら危ないよ…。もしお母さんにでも知られたら、その子だってこんなとこまで来られなくさせられるんじゃ……………」
僕は、不自然なところで言葉を切ってしまった。目の前の光景が、ちょっとした変化を持ったからだ。
「「あ…」」
「あ〜〜!!」
みんなも気付いたようだった。僕らの目の前のひまわり畑から、白色の小さく丸っこい物体が、ひょこっと出てきたためだった。明るい景色に負けないくらいの明るい色をしたその物体は、なおもひょこひょこと不安定さの残るふわふわ感で僕らの方に近付いてきた。
雲みたいにふわふわしたそのものを、僕たちは知っていた。どこかで見たことがあった。丸っこくて小さくて…かわいいそれは、いつか失った僕らの欠片だった……………
過去編が始まってもう何話目でしょうか…。
こうなったら作者と読者のみなさんとの意地の勝負ですよ!
こんな作者についてきてくださいお願いします。
*次回予告*
終わったこと、失ったもの…
始まったこと、得たもの…
避けられないその輪廻より月夜は何を知るのか…
感想、意見、評価、訂正箇所などなどください。作者がいじける前に…。
25話のあとがきで言ったことがまだ実現してませんよね…でもご安心ください。計画は着々と進行中ですので。