第46話:警告
放課後、僕と陽泉は一緒に帰り道を歩いていた。李凛は「先に帰る」と言って早々に学校を出ていた。でも、僕らとしてもどこか他に遊ぶ場所にアテもないわけで…結局は観籍道場に来ていた。
僕は結構心配だった。公道だとしてもあまり人の通らない田舎町だ。子供1人で歩いていて、もしかしたら危険なことに巻き込まれるかもしれないと、以前から思っていたのだった。小学5年生のくせに…。
そして、その心配は濃くなってしまった。観籍道場についても、李凛の姿がないからだ。李凛の父親に行方を尋ねても、
「まだ帰ってきていない」という…。
もう一度確認すると、こんな田舎町だ。途中で遊ぶ楽しい寄り道先なんてないはずだ。そんな事実を抱えた町での出来事に、不安な気持ちが消えることはなかった。
でも、だから何ができるというわけでもなく、
「とりあえず落ちつけよ」という陽泉の言葉に従うしかなく、とりあえずは道場でくつろいでいた。
「そぉんなに心配かぁ…?」
床にあぐらで座って背中をのけぞらせ、後ろの方に手を広げてついている…いかにもだらしない格好の陽泉が言ってきた。
「それはそうだよ、先に帰るって言ってたのにいないんだもん…」
彼女の口から直接に聞いた言葉が頭の中に響いていた。確かに心配のし過ぎに当たるかもしれないけど、彼女の横にいつもいた僕としては、幼馴染みが行方をくらましたことに一抹の不安を覚えたもので…。
「こんな歳から親特有の心配性が芽生えちまってるわけ?」
「そんなこと言ったって…心配なものは心配だよ」
どちらかというと大人な考えなのかもしれない、けど…親特有の心配な心をこの歳で悟ってる陽泉も結構な大人なんじゃないか…?
「ま、親心なのか…恋心なのか…」
またからかってきた。そこはまだまだ子供みたいだな…。そんなこと言ったら高校生まで子供な考えは変わらないままなんだけど…。
「……まぁそれはいいとして…」
僕もこの頃には陽泉のこんな言葉に対する対処法が身に付いていた…。まぁ、単に無視した話の進行に持っていくだけだけど。
「え〜、月夜君ひどすぎ〜…」
陽泉もこの頃にはこんな切り返しも身につけていたわけで…僕より一枚上手なのは今も昔も変わらないようだった。
「月夜君って呼ばないでよ……」
「そうは言うけどな、李凛だってついこの間まで月夜のこと君付けで呼んでただろうが」
「う…それは言わないで……」
小学生の後半ともなると、君付けやちゃん付けをする男女というのも珍しくなってくるもので…この頃には周りの目が気になり始めて遂にやめてしまった。
でも以前から一緒に帰っていたのは変わらずだったので、今回の“李凛失踪事件”(少々誇張表現)は僕なりに心配の増す出来事に違いはなかった。
「まぁ、そのうち戻ってくるとは思うけど…こうして喋ってるのもなんだかヒマだな…」
「家に来る…?」
「お、いいねそれ…じゃあ行こうか」
そう思って観籍道場を出ることにした僕たちは、門をくぐった先に、なかなか奇妙な光景を見た。
スライド式の門をくぐると、その門の横には茂みがある。その茂みに向かって李凛が蹲っていたのだった。
「り、李凛…?」
僕の呼ぶ声に驚いたのか、李凛は体をびくつかせて、おそるおそるといった感じで僕たちの方を振り返ってきた。
「つ、月夜…?陽泉も……」
態度同様、おそるおそる…いや、むしろ動揺にも似た口調でそう呟きかけてきた。
「どうしたんだ…そんなに驚いちまって?」
陽泉も李凛の不穏な態度に気付いたのか、少々心配も混じったような口調で呼びかけた。
「いや、な、ななななんでもないよ…?」
完全に動揺街道まっしぐらな声で言われても説得力ないんですけど…。そんな言葉と共に、呆れからの冷や汗が浮かんできた僕たちをよそに、李凛はその場を一歩も動こうとしないどころか、僕らの方に体を向けることすらしないまま僕らの動向を探っているようだった。
「どうしたの李凛…?」
僕がそんな心配な声をあげても彼女は「べべべ別になんでもないよッ」と声を裏返らせながら、僕らを避けているような仕草をとっていた。
あまりに李凛の態度がおかしいと思った僕と陽泉が近付くと、李凛は体を明後日の方向に向けたまま、何かを隠すように腕を巻いていた。
「何か隠してるのか…?」
そんな李凛の行動に、陽泉のドストレートな質問が展開された。どんどん近付いていく僕たちに、更に警戒心を高める彼女が焦ったように声を大にする。
「だ、だから…なんでもないって言ってるでしょッ」
それでも李凛は蹲った体勢を崩さない。
やがて僕と陽泉は背中を向ける李凛の真後ろまで来ていた。それでも李凛の懐に隠されたであろう何かは見えなかった…。
そんな、いかにも怪しい行動をとる李凛を…僕は心配な目で、陽泉は何かを疑ってるような目で見つめ続けた。
そんな視線を浴びて焦りがマックスに達したのか、李凛は少々声を荒げるように言い放った。
「も、もうッ、いい加減にしてよえっちッ!」
何がえっちだ…。僕と陽泉はそんなツッコミを覚えて、一気にテンションの下がったように目を細めた。すると…りきんだ弾みなのか、李凛の懐に隠されていたものが、“ぴょん”というかわいらしい効果音と共に彼女の体から跳ね出た。
「お、おいそいつ…」
陽泉は李凛の体から跳び出た動物を見てさすがに驚いたようだった。
李凛がさっきまで必死に隠していた動物…それは野ウサギだった。李凛から解放された後、野ウサギはこれからどうすればいいのかがわからないのか、じっとおとなしくして僕たちの方を見ていた。
「李凛、どうしたのその子…?」
「いやね、偶然見かけたんだ。ぴょんぴょん跳ねてると思ったら道路の真ん中で止まってじっとしてたから…轢かれたら危ないなぁと思ってここまで連れて来ちゃいました……」
結構かわいいところもあるんだな…李凛も。
そんな風に思ってしまう行動だった。言われ方としては本人も嬉しくないかもしれないけど、まぁ普段から強気なためこんな一面はなかなか見られない。そう思ってしまうのも仕方ないかもしれない。
「それにしても、かわいいね…」
僕が野ウサギの前にかがみ込んで背中を撫でてやると、野ウサギは目をつぶっていかにも気持ちよさそうにしていた。“もっと撫でて〜”と甘えているようで更にかわいい。
「で、どうするんだ…そのウサギ?」
陽泉は未だ突っ立ったままで腕組みをしていた。そんな陽泉の質問に、李凛は悩みながら答えた。
「考えてなかったけど、飼うつもりはないよ。せっかく自然の世界で生きていたんだもん。急に周りの環境が変わっちゃったらびっくりしちゃうだろうから」
「そんなの、お前はもうやっちゃってんじゃねえかよ…」
「え…?」
「もともとお前が見つけた辺りで暮らしてたんだ。そこからこんなところまで連れてこられて、環境はもう変わってるって言ったんだ。結構体も大きいし、子供と引き離された結果にでもなってたらどうするんだよ…」
陽泉は冷静な判断で李凛に警告していた。普段の気分屋からは想像のできないくらいの冷静な判断だ。陽泉のそんな落ち着きぶりに少々面食らったのか、李凛はどうしていいかわからずに戸惑っていた。
そんな彼女に、僕は私見を述べることにした。
「僕も陽泉に賛成だよ…。道路にいたのは危なかったんだから、李凛の判断は正しいけど…もしこのまま自然に帰すのなら、最初に連れてきた場所の近くの茂みにでも帰した方がいいよ」
僕らの意見に同意してくれたのか、渋々ではあるものの…李凛は了承して連れてきたという場所に行って、そこから自然に帰すことにした。
歩くとそれほどの距離でもなかったにしても、ウサギにとっては結構な距離になるのかもしれないと思った。といっても、野ウサギの活動範囲なんてこの頃の僕らにわかるわけもないけれど…。
「道路に飛び出したりなんかしたらダメだからね…?」
李凛はそんな優しい言葉をかけてウサギを放した。ウサギはどんどん僕たちから遠ざかっていき、一度ぴたっと止まってこちらの方を見たものの、すぐに向き直って茂みの向こうに消えていった。
まぁその後、うっかり話しちゃった日和ちゃんに…“ずるい”とか“日和とも遊んで”とかいろいろ非難されたけど…。結局今日一日はこの子を放っておいてしまっていたな。
それにしても、いろいろ非難された中で“月夜ちゃんの浮気者ー”というのだけはまったく理解できなかったけど…どうしてあんな事言われたんだろう………。
“ちゃんと埋め合わせするから”…なんて都合のいい言い訳みたいなことまで言っちゃったけど…これでよかったんだろうか?
日和ちゃん完全スルーで展開しました46話でした。
次回は登場するんで心配ありませんよ。
*次回予告*
田舎町での楽しい時間…。
降りかかる不幸…。
時間は戻らない…。
悲しみは………消えない。
感想、評価、意見、訂正…1人1つといわずどんどんくれていいですよ!!