第45話:命日
僕は歩いていた。花屋さんで花を買った後、なぜか未来ちゃんの手を引いたまま墓地へ向かっていた。
けど、未来ちゃんは未だに何が何だかわかっていない様子で、僕に問いかけてきた。
「ねぇ月夜くん…どこに向かってるの?」
「墓地だよ」
感情がこもっていなかったかもしれない。暗い表情や声色をしたかったが、彼女からしたら…急に相手がそんな風になったら気分が悪いだろう…。そう思って笑顔を作ろうとしたが、そんな風にもできずじまいだった。
「誰かの命日なの…?」
上手く空気を察してくれたようで、彼女は少しトーンを下げた声で尋ねてきた。
「うん、日和ちゃんのね…」
「日和ちゃん…?」
「青旦日和…陽泉の実の妹だよ……」
「え…」
彼女は目を見開いていた。それはそうだろう…いつも楽しげに話していた仲間に妹がいて…しかもすでに死んでいるなんて…。
「彼女が死んだのは………
そう、こんな夏の暑い日だったな…。
僕は10歳だった。当然ながら同い年の李凛も陽泉も10歳なわけで…。
「おはよう李凛!」
「おはよう月夜!」
今日も元気なあいさつで一緒に登校してる2人…。僕たちはもう小学5年生になっていた。
今年の夏の剣道大会も終わり、僕と李凛は、それぞれ男子の部と女子の部で見事全国制覇していた。
結局…僕は2年生の時に欠場したため、1年生の時に優勝、そして3年生の時から続けて3連覇を果たしていた。李凛はというと、あの後も剣の腕はどんどん伸びていく一方で、2年生の時から見事4連覇を果たしていた。
考えてみれば、僕らもすでに神業の域に達していたみたいだ…。
学校に着いてみると、いきなり僕らに近付いてくる人影があった。
「よう、今日も朝から仲良く登校か…?妬けるねぇ」
人をからかうようなませた声だった。声のした方を見てみると、元気というかは落ち着いたような色素の薄い髪色をしたロン毛男…青旦陽泉がいた。
「なッ、あたしと月夜はそんなんじゃないっていつも言ってるでしょ!!」
「おーこわ。月夜、こういううるさい女はやめておいた方がいいぞ?」
そこで僕を巻き込んでくるのはやめてほしいんだけど…返答に困るから。
「陽泉がそんな風にからかわなければ李凛も怒鳴ったりはしないよ」
そう言うと必ずこう返してくる。
「へぇ〜、あくまでも李凛の味方ね。思ったよりもラブラブですことお二人さん」
「う…そういうつもりで言ったんじゃないんだけどなぁ…」
今まで李凛をからかってたと思ったら、急旋回して今度は僕をからかってくる…。彼の話術のテクニックには参っていた。今ならそうでもないかもしれないけど、この歳でこんなにマシンガンの連射ができるというのも一種の才能なのかもしれない。
陽泉と初めて会ったのは、3年生の剣道大会が終わって間もない頃だった。僕らの道場に入門してきた。
彼の剣道の才能はハンパじゃなく凄かった。陽泉はめきめきと腕を上げ、半年後にはもう李凛と肩を並べるところまでに達していた。そして、彼が剣道を始めて1年半後…僕と陽泉は、全国の決勝の舞台で向かい合っていたのだ。
まぁ、僕の連覇が揺るがなかったのは幸いだったけど…確かにきわどい勝負だった。
剣道の大会も一段落ついたと言うことで、僕たち門下生は束の間の休息に入っていた。しかし、僕らにとっての遊び場ともなると限られてるもので…。結局僕らにはこの道場しかなかった。
僕らはこの道場が好きで来ている。今日も今日とて僕らは観籍道場の門をくぐっていた。
「よしッ、行くよ月夜!」
「いつでもいいよ」
僕と李凛は神聖な剣道場のど真ん中に座って、真剣な目で向かい合っていた。
「行くよ…じゃあ………よる!」
「るびー」
「び、び……びーち!」
「ちーず」
「ず……ずこう!」
「うさぎ」
「ぎ、ぎ〜…?ぎんいろ」
「ろば」
「バカ!早すぎるよ月夜ってばぁ!!即答なんてずるいよぉっ!」
「そんなこと言われたってどうにもできないよ…」
この頃からだったな…李凛が露骨に、脳内知識に僕との間の隔たりがあることに気付いたのは…。
“ガラガラガラガラ”
そんな言い合いをしていた時、道場の入り口の引き戸が開けられた。
「まぁたヒマな遊びやってんのか…」
呆れ顔の陽泉が入ってきた。僕たちが真剣な顔になってしりとりをやるのはこれが初めてじゃない…。こんなにしりとりを本気でやるのはこの年代だからこそのものなのかもしれない。
「わぁーいたー」
急にそんな声が飛び出てきたときには驚いて目を見開いてしまった。陽泉の口からこんなに高くて幼すぎる声なんて出ないからだ。そう思って唖然として立ち上がると…。
“てけてけ”
“がしっ”
何かに自分の足を捕まえられてしまった。それがなにかはすぐに思いついてはみたものの、ぽかんとするあまりに声を出すことまではかなわなかった。
「こんにちはー月夜ちゃ〜ん!!」
元気よく下から声が聞こえてきた。見下ろしてみると、そこには陽泉と同じ…薄い色素の髪色をした女の子…青旦 日和ちゃんがいた。
「こんにちは、日和ちゃん」
「わぁーい」
「なにが“わぁーい”だアホ」
僕があいさつをすると、日和ちゃんはいつもおきまりの言葉を言っていた。それに陽泉がつっこんだようで、彼女の後頭部に向かって悪態をついた。
「むかッ、陽ちゃんは黙っててよー、今月夜ちゃんと話してるんだからー」
いつものやりとりだ。この兄妹はいつもいつもいがみ合ったり、何か言い合っていたりしてなかなか意見が合うことはない。自由奔放な妹に兄が仕方なく振り回されてあげてると言ったところだろうか…。
「まったく、なぁんで月夜にはちゃんとごあいさつできたのに、あたしにはできないのよ」
「んっとねー…李凛ちゃんは好きだけどー月夜ちゃんには勝てないからー」
そうらしい。つまり僕は彼女のお気に入りで、どちらかと言えば尊敬よりも好意の方が勝ってしまっているようだった。
なんだか、この歳でこんな年下の子から好かれるというのもあまりないわけで…僕は当時、悩みの種の1つになっていたほどだった。
こんなに小さい子…僕よりも5つくらい下だろうか?…そんな子から好かれるのに嫌な気はしない。むしろ誰かに好かれるという事実自体は嬉しいくらいだ。でも陽泉の立場からしたら、複雑なものがあったりはしないのだろうか…?
「いやーいつも助かってるよ月夜。俺の代わりにこんなやつの面倒なんか見てくれちゃってさー」
そんな心配は無用なようで…逆に清々したよ。そんなお兄ちゃんの言葉に妹さんも負けてない様子で、いつものようにお互い言いたいことを言い合っていた。
「むぅー。こんなやつって言うなー。こんな陽ちゃんより、月夜ちゃんの妹がいいー」
「俺だってお前みたいな妹のお守りはごめんだよ」
「ま、まぁまぁ2人とも……」
結局、こうやって僕が止めにかかっていつも幕を閉じる。僕が間に入らなければ一生続けてられるだろうなこの2人…なんて思ってしまうのは李凛も一緒だろうな。
「まったく、いつもいつもつまんないこと言い合って楽しい?」
「ちょっ、李凛…そんなこと言ったらまた………」
僕が咄嗟に止めにかかったが遅かった。
「「うるさい」」
兄妹2人でのダブルアタックはキツイ…。しかも、わずか4文字で唖然とするほど怒りを頂点にするシンクロ率…。さすが兄妹…か。
本当は仲が良いんだろうなこの2人。なんて思ってると、ダブルアタックをくらった李凛が、2人に怒ってくってかかっていく…それを止めに入るので精一杯で、和やかな事なんていつまでも考える事なんてできなかった。
そして、これが僕たちの日常…。
なんでもない、普通すぎるほどの小学生たちが…この後、あんな人生の転機を迎えるなんて…………誰も思っちゃいなかったろうな。
小学生の気持ちって…よく考えてみようと思ってもあまりよく考えられないものですね。
今回改めて難しさを知りました。
おかげで2倍強の時間を浪費しての更新となってしまったこと…すみません。
*次回予告*
楽しい日々…。
楽しい仲間…。
知らなかった…
こんなにあーだこーだ言い合える人がいることが…
こんなに幸せだったなんて。
感想、意見、評価、訂正などなどたくさん送って下さい。
じゃないと…本気で引きこもっちゃうかも……。
いいんですか!?
こちとら華の高校生ですよ!?
人生棒に振っちゃうかもですよ!?
食いかかりすぎましたね…………すみません。