第44話:素敵な廻り逢わせ
僕が見た夢…。
あれはいったいなんなのだろう…。
ただの夢?でも、僕が見たことが全て小説と一致していた。
それじゃあいったいなんなんだ…?
未来ちゃんは…僕と同じ夢を見ていたと言った。僕たちは…夢を共有していた。これは偶然?いくら偶然でもそんなことが…お互いが同じ時に、まったく同じ夢を見るなんて不自然じゃないか…?
でも彼女は知っていた。僕が話してないことまで…僕たちは、いったいなんなんだ?
「未来ちゃん…」
いつまでも膝枕をされてるのも恥ずかしかったので、とりあえず僕は彼女の膝から離れ、彼女と一緒に足を外の方にぶらぶらと投げ出して座っていた。
僕が未来ちゃんに呼びかけると、彼女は僕の隣でかわいらしく返事をした。
「さっき…あの夢のこと“前世だったと思う”って言ったよね?」
「うん…」
「どうして?」
「なんとなく」
「なッ、なんとなくって…」
確かにただの夢と言うにしては不自然な部分が多すぎる。
毎回一定して同じ人物や状況だったり。全て本人の視点で見えて…まるで実際に自分の目で見た光景のようだったり。そしてなによりも…複数人でまったく同じ夢を見たり…。
未来ちゃんは…あれを古の記憶だとでも言うのか…?
「わたしは…うん、そう思うよ。あれは前世だったって…」
「なんとなくなのに、確信してるの?」
「全部リアルに伝わってこない?見た光景、嗅いだにおい、さわった感触、感じたあたたかさまで全部…。ただの夢だったら、どことなくぼんやりしててもいいはずだよ」
「だから…前世?」
「うん、それに…あの小説がもしノンフィクションだったりしたら…もっと確実性が増すじゃない?」
彼女は心なしかウキウキしてるように感じた。まるであの夢のことが前世だったら嬉しいと言ったように…。
「な、なんだか楽しそうじゃない…?」
「それはそうだよぉ」
そうだったらしい…。
「どうして?」
「だって…前世で愛し合っていた2人が……こうしてまた同じ世界で出逢って、隣り合って座ってるんだよ?」
まぁ宇宙ができたり、人が生まれてくる事だって科学的に言ったらすごい確率らしいし…。前世と現世で出逢う事なんて言ったら、いったい何分の一の確率なんだろう…?分母の桁はどれだけ大きくなるんだろう…。
「確かにすごいね…それは…」
「でしょでしょっ!?」
なんだか今にもピョンピョン跳びはねそうなテンションで、僕に接近してきた。目がキラキラしまくってる。
そんな無邪気な彼女とは逆に、僕は“愛し合っていた”という単語に気を持っていかれ、なんだか目の前の彼女を意識してしまう。まぁ、さすがにそんな心を表には出せないけど…。
「でもどうせなら…あんな悲痛な運命じゃない方がよかったなぁ…」
未来ちゃんは、がっかりしたように頭を下げて言った。
「だから…」
がっかりしたような彼女は見たくないな…そう思っていると、いつの間にか言葉を発していた。
「だから…改めて出逢ったんじゃない?こうして…どんな使命にも縛られないままで…。“悲痛な運命を乗り越えたからこそ、来世では素敵な出逢いをしよう”って約束して…」
ロマンティスト?キザ?なんとでも言えばいいさ。(なんかキャラ変わってる気もするけど…)
僕はそう思った。あのまま…自分が殺されたり彼女が生け贄にされたりなんて…僕には絶えられないだろうから………。だから、綺麗事になるかもしれないけど…日蝕や使命なんかに縛られないこの世界で、再び出逢えて良かったと思った。
「約束は…果たされたんだね」
彼女は恥ずかしげに顔を下に向けながらも、なんだか嬉しいようで…終始笑顔を絶やさぬまま呟いた。
「うん、僕はそう思うよ」
「なんだか…嬉しい………」
そんな彼女の赤い顔が、僕には嬉しかった。
そして、彼女がまた僕と同じ世界に生まれ、こうして出逢ってくれたことに感謝したかった。
まぁあれは『前世の記憶だった』って事で強引に思いこむことにしたわけだけど…。僕は何か忘れてるような気がしてならなかった。
それがいったいなんなのかもわからない。けど、いくら考えても浮かんでこないままだった…。
「どうしたの月夜くん…?そんなに難しい顔して首なんか傾げちゃって…」
「う〜ん、なんだか…なんか忘れてる気がして………」
今日は…何日だっけ。とりあえずそんな事から思い出してみることにした…。
国民の休日?何か特別な日?誰かの誕生日ってわけでもないし…。じゃあなんだろう…。
「あ!!!!」
「ど、どうしたのいきなり……?」
いきなり出した僕の声に、当然のごとく彼女は驚いて僕の方を見てきた。そんな彼女にあまり説明もせず、僕は彼女の手を引いて立ち上がった。
「ごめん、ちょっと来てくれるかな…?」
「え…?」
彼女はどうしていいかわからないと言った感じで、とりあえずその場から立ち上がり、僕の後をついてきた。そして僕たちは家を飛び出し…あるところへ向かった。毎年のこの日には立ち寄る、あの場所へと………。
月夜たちが家を飛び出してある場所に向かったそのころ…青旦陽泉はその目的地へとすでに来ていた。
一見モノクロの風景のように見えるそこは、たくさんの石に囲まれた空間…そして、神聖でもある空間だった。
そして陽泉は、目指して歩いていたある石の前の階段を上がり、真正面にかがみ込んで目の前の石に呼びかけた。
「よう、今年も来てやったぞ…。まったく、いつもいつも世話ばっかり焼かせやがって…もうちょっと大人になれよな…。ま、無理な話か」
がっかりした風でも怒りを覚えた風でもない、穏やかで静かな声で呼びかけていた。その顔は、苦しげな微笑を浮かべていたが…いつもの陽気な陽泉とはまた違ったような、大人らしい落ち着きを持った表情だった。
彼の目の前にある石…その表面には『青旦家之墓』と堅苦しい文字で書かれていた。そう、その石とは墓石だった。
だが、陽泉の口調からしてご先祖様に話しかけているようではない…。それとは逆に、まるで自分より年齢の低い子供に呼びかけているようだった。
「はぁ…今頃は天国で待ってるのか?悪いけど俺はまだいかねーぜ?やり残したこともやりたいこともくさるほどあるんだ。それになにより…お前の分まで生きるって約束させられちまったしなぁ…同い年のやつにあんなに怒られたのは初めてだったよ」
そうやって陽泉は、昔のことを語り始めた。感傷に浸るようではあったが、今ではもう完全に吹っ切れたようだった。
そして、陽泉はまるで誰かと話しているかのように…自分で話しかけた後は、墓石の方向に耳を傾けていた。…暫くしてから、また話しかける。そんなことを繰り返していた…。
彼は幼い子供と相手をするように、優しく耳を貸し、それでも恥ずかしいと思ったのか…話しかける際には少々ぶっきらぼうな言葉遣いになっていた。
「お前がいなくなってからもう何年になる…?まだまだ子供だっつーのに…。あんまり周りの人間に迷惑をかけるもんじゃないぜ…」
陽泉には、たまに急に大人びた発言をするときがある。誰かに何かを教えるときや、他人が間違った方向に向かっていきそうなとき…そんなときは更に大人色が濃くなる。
だが、生来そんな性格だったわけではない。彼は、暫く学校などに来なかったことがあった…。それはあることが原因だった…。
そして、彼はある日から急に人が変わったように明るくなって帰ってきた。かけがえのない仲間たちのもとへと…。
急に大人びた発言をする性格になって…。
彼が“周りの人に迷惑をかけるもんじゃない”なんて言葉を言うようになったのは、他の違う人間にそう言われたからである。
それは、月夜だった。そして李凛にも同じようなことを言われた。そのときから彼は考えさせられたのだった。
…この世界を、周りの人間を、そして…自分の妹、青旦 日和の事を…………
「あれは…そう言えばかなり前のことだった気がするな………」
陽泉はそう言って昔のことを、懐かしむように思い出していった…
―――青旦陽泉、10歳―――
こうなりましたって感じです…。
満足はしていただけたでしょうか…。
次から新章スタートです。
*次回予告*
陽泉過去編!!
ただ、語りや目線は月夜で行きますんであしからず。
感想、意見、訂正、評価、文句でもいいのでいろいろ送ってみて下さい。返信してない記憶はございませんので。