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第40話:僕が守る

 全日本剣道選手権Jr.大会で、李凛はとうとう決勝戦へと向かっていた。つまり、この試合を制することができれば、李凛は、初めて全国の猛者たちと、肩を並べるのはおろか、遂に頂点にまで立つということだ。


 会場で、僕は師範の横…李凛の試合を一番間近で見られる最前線に陣取っていた。そして、観戦する人々を断つように設けられた通路から李凛が入場してきた。試合前には師範のところに来ていろいろとアドバイスをもらうんだ…。


「月夜…。お前がアドバイスしなさい」


「「え…?」」


 師範の言葉に、僕も李凛も唖然とした表情で応えてしまった。


「李凛をこの舞台まで導いたのは、俺でも他の門下生でもない…お前だろ?こういう時は、一番本人のことを知っているものの言葉をかけるのが当然だ」


「…わかりました」


 そう言って僕は李凛の方に向き直る…。そして、李凛との瞳での会話…。何を伝えたかったわけでもない、コツなんて今更何か吹き込んだってできるものでもない。ただ、一言だけ伝えたかったんだ。


「がんばれ、李凛ちゃん!」


「うんッ!」


 今思えば、何か他にも言えることがあったのかもしれない。でも、それだけでいいと思った。李凛と一緒にがんばった僕だから、根拠のない何か確信的なものがあったんだ。


 そして、李燐の決勝が始まった―――


 始まった瞬間、今までの相手とは違う動きに、李凛は焦った。開始早々、相手がメンを打ってきたのだ。…それを李凛は必死に竹刀で防いだ。


 防がれたら少し距離をとり、再び相手は打ってくる。それも、今度は李凛の竹刀を振り払おうとしてきたのだ。


“ガチッ!!”


 2人の竹刀が合わさる。必死の鍔迫り合いの末、2人とも一緒に離れた。


 そして今度は、2人とも相手にメンを打ち込もうと踏み込む…。だがお互いの竹刀がお互いの攻撃を邪魔し、2人の体が重なってしまうばかりだった。竹刀を合わせたまま場内をあちらこちらと移動し回った。


 そしてまた距離をとる…その瞬間、相手がメンを打ってきた。しかし李凛も集中状態だ。相手のメンに竹刀で応える。2人のメンはお互いの力を打ち消しあい、再び距離をとった。


 しかし、李凛は学んでいた。相手が距離をとって重心を安定させたのを確かめ、瞬時にもう一度突っ込んだのだ。


「メェンッッッ!!」


 李凛のかけ声と、面を激しく打つ音…そして、李凛の残心が僕の…いや、観戦者全員の五感を支配した。




「…しかし、なんであんなにも強くなったんだ?」


 李凛の祝勝会がお開きになり、縁側で僕と李凛と師範が並んで座る中、ポツリと師範が零した。


「師範、李凛ちゃんはもとからあの技術を持っていましたよ」


 師範の言葉には僕が答えた。僕の言葉に、2人とも疑問符を頭の上に浮かべた。こうしてみると、2人とも実によく似ている顔だった。


「李凛ちゃんに足りなかったもの…それは良き理解者でも、稽古のための時間でもない。師範の気持ちですよ」


「チョッ、月夜……」


「李凛ちゃんに足りなかったのは、全て精神的なものです。師範は、いつも李凛ちゃんには異常なほど厳しくしていましたよね…どうしてですか?」


「それは…」


 さすがの師範も、自分の気持ちをありのままにさらけ出すと緊張するそうで、月に照らされながらも少々赤くなっていた。


「それは、強くなってほしかったからだ…だが、ただ強くじゃない。精神的に強くなってほしかった。俺のキツイ言葉にも負けないくらい強く………」


「師範、それは間違った教育方法じゃないですよ…。確かに、逆境を乗り越えて強くなっていく人はいる。でも、李凛ちゃんがそうとは限りませんよ?李凛ちゃんは、他の仲間と一緒にお互いを高めあって成長していくタイプなんです…」


 そんな僕と師範の話題の中心人物は、僕らの真ん中で1人、顔を真っ赤にしてうつむいていた。でも、ちゃんと話は聞いているようで、話の切れ目切れ目で僕らの方をチラチラと見ていた。


「…そのようだな。俺には、指導者としての目が足りなかったのかもしれない」


「いえ、そんなことはありません」


「「え…?」」


 突然の僕の否定に、なぜか李凛まで疑問形の声をあげた。


「師範に足りないものは、“李凛ちゃんを愛していない気持ち”です。


 李凛ちゃんのことを愛しすぎたんですよ。人は、風船みたいなものです…。しっかり抱きかかえなければ、どこか遠くへ飛んでいく…だからといって抱きしめすぎると、簡単に割れてしまうんです。


 師範は李凛ちゃんを大切にするあまりに厳しくしすぎた。でもあまりにも風船りりんちゃん空気ぎじゅつを詰め込もうとすればするほど…簡単に壊れてしまいます。ちゃんと、芯から理解しないとダメなんですよ」


 これじゃあ、どっちが指導者なんだかわからなかった。でも、師範は僕の話を聞いてくれた。李凛を愛しすぎた分が、李凛を理解しようとがんばる力へと変わっていっている…そんな気がした。


 僕の話を聞き終わると、師範はなんだか胸のつっかえが取れたような顔をし、さっさとお風呂にいってしまった。




「ねぇ、月夜君…」


「ん…?」


「あたしが強くなったのはね…何もそんなに難しいことじゃないんだよ?」


「え…?」


「あたしは、月夜君がいたから強くなれた…それだけッ!」


 李凛は終始顔を赤くしながらも、僕の方を見て言ってくれた。


「こんな事言ったら不謹慎だけど…月夜君が襲われてるとき、“勇気を持たなきゃ”ッて思ったんだ…」


 急に神妙な面持ちになった李凛が、僕の方へと一歩詰めて続けた。


「勇気を持っていけば…月夜君と一緒にがんばってきたんだもん、こんなやつらに負けるわけないって思ったから………」


 李凛はもう一つ詰めて、僕に近付いてくる…。


「だから…」


 そう言った瞬間、遂に僕の方に限界まで近寄ってきていた李凛が、僕の顔に自分の唇を近づけ、僕の唇へとあわせた。


 目を見開いてしまった。いきなりの大胆な行動に僕は固まるしかなかった。そして、ゆっくりと唇を話した李凛は最後に言った。


「だから………ありがと」


 その時の李凛は、いつものかわいい笑顔ではなく…子供ながらに色っぽくて、どこか妖艶な雰囲気だった。でも、完全に僕は彼女の魔法にかかってしまっていた。唇の感触が未だに残る…。でも、なんだか心が癒されたようだった…。






 そしてあれから10年…。僕は彼女を抱きしめている。10年経っても変わらないような泣き声の彼女は、まだ僕への魔法を解いていないようで…僕は彼女を、ずっと強く抱きしめていたいと思っていた。


「くぅん………」


 李凛の泣き声が止み始めた頃、彼女はかわいらしく鼻を鳴らして、僕の胸から少し離れた。


「大丈夫、李凛………?」


「うん…ごめんね、ありがと…すごく、恐かったから……」


「大丈夫、どんなに怖い目にあっても…李凛は僕が守るよ」


「え…?」


 李凛の疑問形の声が僕に届く。そして、僕は10年前のことを思い出すようにして…もう一度この場で誓い直すように告げた。


「李凛は…僕が守る」


 面と向かって言う誓いは…なかなかに恥ずかしく、僕もまだまだ子供だなとも思った。李凛も同じ意見のようで、少し口元に笑みを宿して言った。


「バカ…そんな子供の頃のこと蒸し返して…。でも、嬉しいよ……」


「嬉しいって…バカなこと言われて喜ぶのもバカだよ……」


「う、うるさいなぁ。いきなり言い出したのは君なんだから、バカはそっちですよー」


 お互いにバカバカと言い合う…。本当に子供みたいなやりとりだった。でも、だからこそ僕たちなんだなとも思う。


 からかって、怒って、それでもいつの間にか仲直りして、一緒に笑い合う……。そんな子供みたいな事なんて、恥ずかしさも出てきていつまでもできるものじゃない。


 こんな関係だからこそ僕らは笑い合えてるんだ。だったら…もうこのまま子供のような会話をいつまでも続けよう。子供のような関係でいつまでもいよう…そう思えたんだ。




 その時、本殿の影から幸せそうな2人を窺う影があった…。半分柱に隠れるようにして、2人を窺う影は呟いた。


「これで、いいのです…。神守、あなたは愛すべき人を間違ってはいけません…………」




 そうして人影は、熱い南風と共に消えた。振り返りながら…腰まで伸びる長い黒髪を、風になびかせて…………




この2人は本当に6歳でしょうか…?

この1ヶ月くらいだけで、2人とも何年もの成長を遂げたように思います。

さて、過去編はこれだけではありません。この後も、また違った過去編をいつかお届けできたらと思います。


*次回予告*

眠れない…

そんな症状の時、あなたならどうしますか…?

真夜中、家の中に1人…なら、男だったらやることは1つ!!

…1つじゃないかもですけどね。


 感想、評価、訂正、意見などがあったらどんどん下さい!ゲームなどのロード時間などを駆使して是非!!あなたならできる

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