第3話:帰路
僕、緘森月夜は引っ越したはずの友人、峰水未来との再会を果たした。これから、一生忘れることのできない思い出となる……この遥かな海で。
「ねぇ…」
帰り道で、隣を歩いていた未来ちゃんが話しかけてきた。「何…?」と問うと。
「もうすぐ、夏休みなんだよね…」
「そうだね」
と返す僕は思った。
(期末試験が今にも始まりそうな時期に引っ越してくるなんて…ちょっと可哀想だな)
だが、そんな思いもすぐに消えた…。
彼女の成績は知ってる。全教科とも学年トップクラスのテストの出来映えだ。彼女自身は勉強なんて嫌いだと言っていたためあまり学習はしていないのだろうけど…………じゃあ天才の部類じゃないか!?とツッコミをいれたくなる気持ちになって仕方がない…。
僕はというと……まぁ上の下ってところだろうか。悪くはないけど何か微妙な立ち位置を強いられる。家では家事もしなきゃいけないし勉強もでいろいろ立て込む…。
(そういえば、未来ちゃんの家庭の話は聞いたこと無いなぁ…)
いろいろと考える隣で未来ちゃんは大きなため息をついた。
「どしたの…?」
そんな僕の問いに落胆する彼女が答えた。
「だってせっかくこっちに帰ってきたのに夏休みじゃあまりみんなと会えなくなっちゃうんだもん…」
「そうでもないよ。みんないつもみたいに道場に顔出すだろうし…」
“観籍道場”…観籍神社の敷地内にある僕らが通ってる道場だ。主に剣術と弓術の道場として使っている。門下生は僕、李凛、陽泉、永遠だ。みんなつまずくことはあるにしろ頑張っている。
師範は李凛の父親で、神社の方よりも道場の方に顔を出すことが多い。神に仕える神主がそんな武闘派でいいんだろうか……?その武術の腕はほんとにサムライといえる…。
それに、剣道ではない……剣術……メンやコテなどがあるわけではなく、相手を完全に降参させればいいというなんとも分かりやすくて危険なルールだ。僕と陽泉は何回死にかけたか…いや、マジで……。
結局師範の強さな尋常じゃないため勝てたためしがない。そんなことを考えたまさにその時、未来ちゃんから質問がとんできた。
「師範さんには勝てたの…?」
そんなワクワクした目で見られても…あんな化け物に勝てるわけが……。僕は肩をすぼめながら首を横に振った。
「月夜くんは充分強いと思うけどなぁ…」
「あの人が尋常じゃないんだよ…………」
「でも、前よりは強くなってるよね」
「どうかな…」
(あと半年死ぬ気で頑張れば勝てる気がしないでもない…ような…あるような…)
「次は絶対勝てるよ」
根拠もない励ましだとはわかっていても最恐の敵に挑む僕にはそう信じてもらえることがなによりも心強かった。
僕の闘志の炎は激しくはなく、もしかしたら大きくもないのかもしれないけど、間違いなく静かに強く灯っているのを感じた。
「じゃあ、私こっちだから…」
しばらく歩き、分かれ道が見えた地点で未来ちゃんが言った。
「あ、そうだったね。明日から学校来れるの?」
僕がそう問うと彼女は嬉しそうに答えた。
「うん、また同じクラスに転入していきます」
「そっか、またよろしく」
「うん、じゃあまたね」
そう言って未来ちゃんは自分の家に続く道をかけていった。
(ちっちゃな女の子みたいだな…)
僕はそんな落ち着いた雰囲気がありながらも、ちょっと喋るとどこかいたいけな少女をその場で見送り、すっかり暗くなった帰路を歩み始めた。
「ただいま……」
誰もいない家にただ投げやりな声を放る。両親の姿さえもない…。
今頃2人ともどうしてるだろうか…。中学生の頃から手紙をもらうだけでもうほとんど会ってはいない。
師範が泊まっても構わないと言ってくれたけど、なにしろ立派に思春期をまっとうしてる僕としては…同級生の女の子と(家族はいるものの)ひとつ屋根の下とはいただけない気がして丁重にお断りさせていただいた……。
師範のことだ…僕と李凛のドギマギした生活を見て楽しむ気でいるに決まっている。
「さて、夕飯は何にしようかな」
ぶっちゃけると料理が出来るのは僕の自慢だ。中学で自炊を始めてはや4年。今ではすっかり慣れて、みんなに振る舞っても満足してお帰りいただけるほどだ。
(…まぁなんでもいいから作るか……)
その日はとっとと食べて風呂に入り、眠ることにした。今日はなぜだかぐっすり眠れるような高揚感で満ちていた。
闇、闇、闇………
(また夢か…)
いつもいつも不思議な感覚…。辺りは何も見えない真っ暗闇なのに、地に足がついているのかどうかもわからないのに…自分の体はしっかり存在していて、闇の中にぽつんと浮かんでいる。
何も見えない…どこも動かせない…。
(こんな不自由な世界で、僕は何がしたいんだろう…?)
(ここは…死後の世界だろうか…?)
(それとも僕の命ではなく、世界自体が終わってしまったんだろうか…?)
そんな虚なしい疑問ばかり抱いてしまい、心の中までどんどん暗くなっていってしまった。せめてこの前みたいにあの子が現れてくれでもしたら少しは心も安まるだろうけど。
…と、思っていると、目の前にぽつんといってんの光が点った。そしてみるみるうちにその光が広まり、始め白かったその光がだんだんオレンジ色にも似た黄金色に染まっていった。
遂に光で満たされた世界に、その子はその子は現れた…。うっとりするほどサラサラで長くしなやかな黒髪の少女…。それはこの前の夢にも現れた。
それに…もっと最近にも出逢ったような気がして……。そう、あの時もこんな黄金色の世界で…君はそんな風に波打ち際に突っ立っていて…。
僕達は…また、出逢ってしまった………。
いろいろ長くつらつら書きすぎて未だ1日しか過ぎていません。
結局前話の次回予告通りにもいってませんし…
*次回予告*
再び出逢ってしまった夢の少女…。その少女との出逢いの意味とは…?
次回、ますます謎の深まる展開に…!!
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