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第36話:醒めし修羅

「大丈夫、月夜くん…?」


 やっと状況を理解してくれた未来ちゃんが、居間のテーブルに座って話しかけてきた。


「うん、僕の方はね…。けど、あんなところを見たんだ…李凛が勘違いしてもおかしくないよ」


 彼女にお茶を出し、反対側に座りながら諦めるように漏らした。今すぐ行けば間に合うんだろうけど…僕にはどう説明していいかわからなかった。


 昨日豪邸に行って、2人でそこに泊まって、その上2人一緒に同じベッドで寝て、朝になって気がついたら自宅でした―なんて、ふざけた言い訳にしか聞こえない。それに、同じベッドで寝た自覚はあるわけだし…。


「追いかけなくて…よかったの?」


 未来ちゃんがどこか不安そうな声をあげる。けど、その口調は僕に質問している風ではなく、語りかけるように感じた。たぶん、返す答えがわかっているためなのだろう。


「追いかけても、説明のしようがないんじゃあ……」


「マイナス20点ッ!!」


 僕の方をビシッと指さしてそう宣言した。いきなりのテンションに僕もついて行けず、おかしな声で問い返しをするしかなかった。


「はい…?」


「女の子の気持ちがわかってないなぁ…こういうときは、ちゃんと言葉に出して説明してくれなきゃわからないものなんだよ…」


「でも、後でまた誤解を解けば………」


「女の子にとって大事なのは今なのだ!!将来―とか、あの時―とか言われたってその時のことを思って、かえって不安になっちゃうもんだよ」


 言葉に出して………そんなこと、陽泉にも言われた気がする。僕はその時にわかったつもりだったけど。やっぱり、僕はそう言うことにうといようで…。


「いらない理屈をごにょごにょ言われたって簡単には収拾つかないよ。ただ一言…“ごめん”って、ただ一言そう言えばいいんだよ…」


 彼女はいつになく真剣な眼差しで、まるで母親が子供に向かって教え込むようにそう言った。ただ、語彙が所々かわいらしかったりするところに、彼女らしいなとちょっぴり和やかに思ってしまう。


 ただ、彼女の言葉が後押しになったのは言うまでもないわけで…。僕は自分で注いだお茶をまだ熱いうちに飲み干し、居間を飛び出す。


「未来ちゃん、言ってくるよ…!」


 そう言い残して…。




 階段の前にいた。一段一段が大きいのもさることながら、驚かされるのは天へと続くかのような高さだ…。観籍神社の境内へと続く参道に行くには、この階段を上らなくてはいけない。


 まだ熱い…。『喉元過ぎれば熱さを忘れる』なんて言うけど…確かに熱自体は体に吸収されてるかもしれない。でも、舌や喉に残るヒリヒリ感はまったく落ち着かないままだ。


(そう言えば僕、猫舌だったな…)


 そんな苦しみを得た上でそれに耐える。未来ちゃんに不安な顔をさせてしまったこと、李凛の気持ちをまた察してあげられなかったことに対する…自分への戒めだと思って。


 体のあちこちをぶるぶるさせたり伸ばしたり縮めたりで、準備体操はバッチリだ。………というわけで、レディ…ゴー!!


 右、左、右、左…と、どんどん天への階段を駆け上がっていく。わかってはいたが、結構辛いものがある…。でも挫けちゃいられない!!誤解を解くまでは休んじゃいけない。…じゃないと、李凛の“今”が終わっちゃうから―


「ッはぁ…ッはぁぁ…疲れたァ〜」


 情けない声を出しながら参道へと出た。鍛えてはいるんだけどなぁ…。そう思うと、なんだかこれからトレーニングメニューを増やさなきゃいけない気がしてちょっと恐くなった。


(さて、李凛を捜さないと…)


 そう思っていると、あっけなく李凛は見つかった。…が、違和感有り。李凛の前には3人の若者が突っ立っていた。いずれも身長は陽泉よりも高い、立派な体格をしている。


(な、何やってんの………)


 僕は頭が真っ白になった。なんで李凛が手を引かれてるの?なんで李凛が嫌がってるのにおもしろそうににやけてるの?


 そんな思いが頭の中を交錯した。でも、そんな疑問に答えを出すなんて事はどうでもいい。っていうか………知るか…。


 気がつけば僕は歩き出していた。


 怒ってる?キレてる?そんなの当たり前だ。だって彼らは李凛を泣かせてるんだから…李凛が嫌がってるのに無理強いをしてるんだから………。李凛が助かればあいつらのことなんか……知るか。


 そう思って僕は歩きながら神楽殿の手前に落ちていた木の枝を取り上げた。軽く上下に先っぽを振ってみる。竹刀みたいで扱いやすいや…。




「月夜…?」


 李凛のそんな声が聞こえたような気がした。


 でも…知らない、やめてあげない……。だって、李凛を苦しませたんだもん………。


 そう思って3人の内の1人を切っ先で横に薙いだ。


「ぐはぁッ!!」


 そう言って気持ちいいくらい遠くに飛んでいく。あとの2人は仲間が吹き飛ばされたことに怯んだのか、李凛の手を離して後ずさった。目は怯えている。顔は引きつってる。もしかしたら内心はやめてくださいって100回くらい言ってるのかもしれない。…知るか。


 僕はそこから2人並んだ内の左の男に向かっていった。そして枝を、切り上げるようにして下から上に縦斬り。腹から顎の辺りまで刀痕が走った。


 そのモーションから自分の左側に枝を持って来、そこからまた、今度は右の男に横一閃。


「がはぁッ!!」


 と言って2人とも参道の石畳の上に倒れゆく。


「ひぃッ!!」


 後ろの方から情けない声が上がった。それに気付いて僕は尻もちをついたまんまのその男の方へとゆっくり歩を進める。


 その様子を、李凛は神楽殿の辺りから何も言わずに見ている。恐怖を帯びたような目はしていたが、逃げ出すようなふりは見せず、そこに黙って立っていた。


 李凛が見ている中、僕はというとゆっくり、ゆっくり一歩一歩を踏みしめて、尻もちをつく男を正面で見下した。


「わ、悪かったッ…悪かったから、見逃してくれ!!」


 上擦った声で乞うてくる男に、僕は怒りを持たせた静かな声で告げた。


「………去れ」


 男たちは僕の声のあと、ガクガク震える足に一所懸命力を込め、階段を勢いよく下りていった。




………沈黙………


 力なさげに突っ立つ僕の背後に、李凛が近付いてくるのがわかった。


「つ、月夜…?」


 どちらかというと、恐怖したような声で語りかけられた。


 僕は持っていた枝を横に放り、李凛の方に向き直った。その時には、さっきまでの怒りなんてどこかに行ったような笑顔で…とびきり最高の笑顔で振り返った。


「李凛ッ!無事でよかった」


 ニコッとする僕に彼女はようやく安堵したのか、瞳いっぱいに涙をためて僕に抱きついてきた。


「うっ、うああん…うわぁああああああん…」


 胸が、温かいもので濡れていくのを感じた…。李凛は叱られた子供みたいに大きな声で泣いた。


 そうだ、それでいい。僕はたぶん、彼女に泣かないでって言ってあげられる。けど、泣きたいときには思い切り泣いたっていいんだ。泣くのを我慢するのは、後のことを考えてすることなんだ。でも、女の子にとって大事なのは今、なんだよね…。


 僕は誰に問いかけるでもなく、心の中でそう呟いた。


 泣いてる子供を優しく包む保護者のようないつくしみの感情を持って………。



 僕の頭の中には、もう一つの大切な感情があった。


 “李凛ちゃんは僕が守ってあげる…”


 不意に思い出してしまった、そう言ってあげた日のことを…。あれは…確か、10年前の事だったかな……………






 ―――緘森月夜 6歳の春―――




“内なる修羅”解禁!!

どこのバトルものだよ…というツッコミはまぁいいとして。

近々再び、タイトルのオールリニューアルに踏み切りたいと思うので、急に変わっててもびっくりしないでねッ!ッて事で…。


*次回予告*

小学生月夜…彼を待ち受けていたものとは?

そして李凛を守ると誓ったきっかけとは!?

次回!!いよいよ新章過去編スタート!!


感想、評価、意見、訂正どんどんくれないとねぇ…もしかしたら…作者の修羅も解禁しちゃうかもよッ!なんて言ってみてもただただ虚し…。

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