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第35話:観籍李凛の憂鬱

 観籍神社の境内の正面から裏に回り、ちょうど正面の反対側に当たるところにたつ一本の桜木…。


 見事だ…。御神木ではないが、ここまで育っている桜はこの近くでもそうはない。大きくて、立派な神社であるこの建物より頭ひとつ越している。


 そして―――


「ま〜たサボリか、たすく…?」


 桜の枝に座るひとつの影…。あれはいつも剣術の稽古をサボる亮だ。桜の花…いや、どちらかと言えば白百合のような白すぎる無造作な髪。細長いその長身は器用に片足を立てて、その膝に肘をのせ小説を読んでいる。


 高い高いところに座っているため、首を大きく傾けて問いかける。どうやら聞こえてくれたようで、彼は小説から俺に眼を移して答えてくれた。


「神守さん!!」


 少年のようにキラキラした眼でこちらを見ながら叫ぶと、結構な高さだというのに飛び降りて難なく着地した。それよか、どうやって上ったんだか…。縮めた両足を伸ばし、スラッとしたその体で俺に近寄ってくる。


「すいません!!今日だけは見逃してください聖壇さんには…この事、内緒にしておいてください!!ちょっと、魔が差したというか…」


 そうやって両手を合わせ、一生のお願いのように懇願してくる彼は、本当に叱られている子供のようだ。


「いや、俺は別にお前をとがめに来たわけでも、連れ戻しに来たわけでもない」


「え…?」


「安心しろ。俺もサボリだッ」


 そうニカッとして言ってやると、亮は瞳にいっそう輝きを持たせて喜んだ。




(あらら…再び夢の世界って事………)


 その光景が夢だと気付くのに、僕は暫くかかった。なんだか一人称まで変わってしまっていた気がする…。


 僕は不思議な感覚に陥っていた。なんだか夢の世界の自分と意識が混同してきたような気がする。まさか、夢と現実がつながっちゃったりなんてことは…ないよねいくらなんでも。


 とにかく、僕は目の前の男性の顔に見覚えがあった。長身で細身、無造作に広がる白髪の男性の名前は…諸葛亮だった気がする。


 なぜその人が神守からたすくと呼ばれているのかはわからない。彼らの関係もわからない。わかるとすれば…あの高いところから平気で着地できるほどの運動神経。彼がただ者じゃないことはわかる。




 神守と亮は海辺へと来ていた。そこは、なんだか見覚えのあるようなないような場所…。僕が知ってる海は、浜辺から陸地の方にだいぶ行った場所にコンクリートの土手や階段があって…いや、コンクリートこそないものの、ここは僕の知っている風景にそっくりだ。


 浜辺に座り込んだ神守と亮は、のんびりと海や空を見ていた。何も話すことなく、何も考えることなく…ただボーッと景色を眺めているだけ。


「なぁ亮…」


「なんです?」


「お前、俺たちの使命に付き合わなくてもいいんだぞ?」


「え…?」


(使命…。そう言えば前にも宝水って人とそんな話をしてたな)


「俺たちと違ってお前にはどこでどう生きるかの選択の余地がある…。いくら俺に…」


「なに言ってるんです、神守さんらしくない…。それに、俺の命は神守さんに救われたからこそここにあるんです。それを、今更他のどこかに行って暮らすなんてできませんよッ!」


 ニコッと笑って言う彼の表情は、感謝や決意を秘めているように見えた。神守はそれ以上何も言おうとはしなくなった…。それだけ聞いて満足したようだ。2人でそんな会話をしていると…


「くぉらー!神守ッ!!亮ッッ!!またこんなとこでサボってやがったかァッ!!」


「やべ、逃げるぞ亮ッ!」


「あぁッ、待ってくださいよ神守さんッ!!」


 逃げる2人…追いかける聖壇…。こんな平和で微笑ましい光景がいつまでも続く。この時のみんなは、少なくともそう思っていたのかもしれない………




「う…ん?眩しい………」


 目を開けると、朝の光が容赦なく窓から僕に降り注いできた。目が痛い…。


 体を起こしてみると、その光景には違和感があった。


「僕の…部屋?」


 そこはまぎれもなく自分の部屋。机や、椅子や、カーペットや…その他全て僕の部屋のものと一致している。それはいつも起きて始めに見る光景だ。でも、おかしい…。昨日は自宅では寝なかったはずだ…。僕は…確か…。


 昨日の自分を振り返ろうとしたとき、体を起こした僕の布団の中で、何かうごめく気配がした。なんだろうと思ってシーツをめくってみると…


「う〜…んッ………」


 気持ちよさそうに眠る未来ちゃんの姿…。まぁ…これはなんの違和感もないか…確かに僕らは一緒に寝たはずだもんな…。けど、なんでだろう…。なんで僕は自分の部屋なんかに?


 理由の究明をするために頭をひねってみると部屋のドアに“コンコンッ”とノックの音と共に声が響いた。


「月夜ー。起きてるー?」


 ヤバイッ!!李凛だ…。


 未来ちゃんと一緒にベッドに入ってるとこなんか見られたら変な勘違いを受けるに決まってる!!まずい、どうしよう…とりあえず出るか。


 そう思って僕は未来ちゃんが起きないようにそーっとベッドから出た。


「ま〜だ起きてないの…ってあれ?」


「うわっ!?」


 “ガチャッ”という音と共に李凛は僕の部屋に入ってくる。それに驚いた僕は咄嗟とっさに未来ちゃんにシーツを被せた。


「なんだ、起きてるなら起きてるってちゃんと返事してくれてもいいじゃない…」


「あ、あはは…。そうだね、ごめん…」


 李凛はいつもの通りな感じで話している。どうやら未来ちゃんの姿は見られなかったようだ。そんな彼女に僕は、渇いた笑いで相槌を打つ事しかできなかった。


「あ、そうだ月夜。それよりさ、今日はみんなで―――」


 と、李凛の言葉はそこで止まった。気がつくと、彼女の意識が向いているのは僕を通り過ぎたその向こう…僕の背後だった。


 李凛は驚いたように目を真ん丸にしている。僕はもしやと思い勢いよく振り返った。


「う〜ん…おはよぉ月夜くん………」


 まだ夢でも見ているかのようなふらふらとした声とよろよろとした足取りで僕たちに近付いてくる未来ちゃん…。目をこすりながら歩くその姿は、こんな状況ならばかわいいとさえ思ってしまうんだろうけど…今はそれどころじゃない!!


「ふ〜ん…そうなんだ…」


 未来ちゃんを見る僕の頭の後ろから殺気立ったような声が聞こえる…。急いで振り返ると、般若のように後ろが怒気のオーラでいっぱいの李凛が居た。言うまでもなく僕は怯えてます…。大の男が女の子に恐れを成してます…。


「そう言う関係だったんだぁ…月夜ってそんな男だッたんだぁッ!!」


「い、いや、李凛…誤解だよッ。こっここここれは違うん………!!」


「うるさいバカッ!!変態!!もう知らないッ!!」


“バタンッッッッッ!!”


 ろくなフォローもできないまま彼女は勢いよく部屋を飛び出していった。


「…?どうしたの月夜くん…?」


 まだ頭の中がしっかりしてないのか、未だに状況が把握できてない未来ちゃんを尻目に…僕はただただため息をつくしかできなかった………。




 李凛は観籍神社の境内へと続く階段を一気に駆け上がり、境内右側にある神楽殿に手をつきながら息を整えていた。そこは李凛が舞を舞う場所だ。夏休み中に開かれる夏祭りには、彼女がここで舞うことになる。大勢の観客に見守られながら…。


 だが、今李凛の胸中にあるのは先ほどの光景…。


「まさか…未来とあんな事になってるなんて………」


 信じたくはない。でも見てしまった。そんな複雑な心境に翻弄される李凛は、さっき勢いよく上ってきた神社の階段の方を振り返る。


「追いかけても来てくれないんだね………」


 そんな落胆の一言を漏らして、神楽殿を背中にうずくまった。


「なんで、なんでよ…なんであたしじゃダメなの……?」


 半ばベソをかいたような声でうめく。


 李凛は月夜が好きだ…。月夜は陽泉からそのことを聞いていた。だが、実際に彼女自身が彼に想いを伝えたかと言われればそうではなく…早い者勝ちと言ってしまえば言葉は悪いが、実際そうなのだと…このとき彼女は思った。


「おい、泣いてるのか…?」


 頭上からそんな声が聞こえた。李凛が面を上げてみると、そこには自分よりもいくつか年上の男性が立っていた。


 チャラチャラしたようなガラの悪そうな男が3人…。李凛は涙をひと拭いした後、すぐにそこを立ち去ろうとした。


「なんでもないですから…」


「ちょっと待てよ…」


 1人の男が、そう言って彼女の腕を掴んだ。それがなんだか気にくわなかった李凛が振り払うと、また掴んでくる。


「なんですかッ!!」


 遂にいらいらが頂点をつき、李凛は彼らに怒鳴った。すると腕を掴んできた男を先頭に、3人の男たちが皆一様に気味の悪い笑みを浮かべている…。先頭の男が笑ったまま呟いた。


「遊ぼうぜ…俺たちと」





 “た、助けてッ!!”



 ―――彼女は恐怖して、声を出すこともままならなかった…




遂に書いてしまったこんな展開…。

この話には合わないと思っていたお約束のパターンですが、急遽予定変更で加えてみました。

ちなみに、賛否両論覚悟ですんで……。


*次回予告*

ピンチの李凛!!

そして茂みに連れ込まれ…少年誌では書けない事に!!

…なんて事になるかどうか、私にはわかりません。ただひとつだけ、月夜を信じてください。


感想、評価、訂正、意見などなど下さい。いい加減寂しいですよ…?

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