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第30話:世界で独り



───月夜くんッ!!───





 どこからか僕を呼ぶ声がする…。その声は、とても弱々しくて─とても消えそうで─とても儚かった…。




「…よくん!…月夜くんッ!!…」


 僕の黒い瞳が姿を現していく。瞼が完全に開かれた時まで、僕の頭の中は真っ白なままだった……。


「月夜くん…?」


 僕が横たわる隣で、未来ちゃんの不安そうな声がかけられる。まるで事故に遭ったかのように僕のことを労わろうとする目で…。


「未来…ちゃん……?」


 僕はというと…なぜか声を出そうとしても喉になにかが詰まっていてうまく声が出せない。そんな感覚に襲われたため、必死で呼びかける未来ちゃんの名前をやっと声に出すことしかできなかった。


 やっと声にできた僕の声は、弱々しいものになっていて…かえって未来ちゃんに不安感を募らせてしまったが目を覚ましたことも事実で、そちらの方が大きかったのか、未来ちゃんは安堵の声をあげた…。


「良かったぁ…気がついたみたいで。私が来たときからずっと(うな)されたまんまで…いくら呼んでも起きてくれなくて……私、私……心配だったんだからぁッ!!」


 自分の思いを精一杯言葉にして伝えた後、叫んでようやく起きあがった僕の懐に飛び込んできた。


 同時に柔らかい衝撃が僕の体に響いた。これで、2回目だな…。いくらされても心地よい衝撃だ。彼女の心配する気持ちが、僕の体を巻き込んだ腕から十分に伝わってくる…。


 嬉しかった…。


 さっきまで夢の中で幸せそうに笑っていた人達からもらった疎外感を、ゆっくりと解放していってくれるこの子の優しい気持ちが…。


 夢の中の彼女らは僕の仲間ではない…。


 でも、少なくともこの子は僕のことを見ていてくれる。心の奥底から僕のことを想ってくれている。自意識過剰とも言うのかもしれない。でも、僕を優しく包んでくれる彼女からは、優しさや内面的な温かさだけじゃない…僕への想いがはっきりと感じ取れた…。


 そう感じていると、いつの間にか僕も彼女の体を抱き寄せていた。彼女の温かさに応えたかったから。彼女のその優しさに感謝し、彼女自身を愛しいとまで感じてしまったから。




 …………いつまでそうしていただろう。


 僕が抱きしめた後、しばらくの時間をその体勢のまま過ごしていた。僕は動けなかった。だって、彼女が泣いてしまっていたから…。


 よっぽど酷く魘されていたんだろうか、それとも単に彼女が過剰なほどの心配性なのか…。ただ、僕が原因で彼女が涙を流す結果になってしまっているのには変わりない。


 僕は彼女への感謝の気持ちと共に謝罪の気持ちも込めて、よりいっそうお互いの体を密着させた…。


 またしばらくそのまま…なわけにもいかない。なにしろ季節は夏…早朝ならまだわかるものの、だんだん日が昇るにつれて気温もどんどん上昇していくわけで…。その上体を密着させてるとなると汗も尋常じゃないほどかいていく。


 お互い相手にベタつくような不快感を味わっては欲しくなかったので…。


 僕は未だベッドの上で、未来ちゃんはベッドの横に持ってきた椅子にちょこんと腰を下ろしていた。


「あの、月夜くん…」


 涙も落ち着き、未来ちゃんが沈黙を破って話しかけてきた。僕も返事をして彼女の言葉に耳をかたむける。


「あの、さっきは恐い夢でも見てたの?」


「あぁ、そのこと…。恐くはなかったよ、それどころかとても幸せそうな光景だった…。でもね、僕はその幸せに押し潰されそうになったんだ。そこにあるのは僕の幸せじゃない。どこか遠い世界の、違う誰かの幸せなんだ…。


 じゃあ、僕の…僕自身の幸せはどこにあるんだろうって思った。夢の中では僕自身じゃない僕の周りにたくさんの仲間がいて、夢の中の僕も一緒になって笑ってた…。


 じゃあ、僕の仲間はどこにいるんだろうって思った。


 僕は、僕は…独りなのかななんて思っちゃって…そしたら、急に胸が苦しくなって…恐くなった」


 僕は夢の中で感じた何もかもを未来ちゃんにぶつけた。僕じゃない僕がいたこと、たくさんの仲間たちに囲まれていたこと、でもそれは僕自身の仲間ではないこと、そして…その幸せを見ることが辛くて苦しくて恐かったことを…。


「でも、未来ちゃんの声がしたんだ…。不安に駆られる中で僕に必死に呼びかけてくれてた…。だから、この世界から抜け出さなきゃなと思ったんだ。ありがとう………」


 そんな感謝の言葉を受け取った未来ちゃんは、顔を赤くするわけでもなくただ優しい顔を浮かべていた。


 そう、優しく…まるで聖母のような微笑みで僕を見つめていた。


「ご要望とあればいくらでも起こしてあげるよッ!あ、でも…李凛ちゃんがいるもんね…」


 快調な出だしだったものの…最終的に控えめになってしまった。いつも李凛が起こしに来ていることはもう公然の事実だ。僕としては恥ずかしいだけだからあまり広まって欲しくなかったんだけどな…。


「気にしなくてもいいよ。未来ちゃんが来てくれても気持ちよく起きられると思うから。…ッて、そう言えばなんで今日は起こしに来たの?」


「あ、そうだった…。あのね、実は…諸葛さんの家をつきとめちゃいましたぁッ!」


 ………なんですと?諸葛亮の自宅…?なんでそんなこと…いやそれ以前に、“それをつきとめたから僕の家に来た”とはまた話が合わへんのとちゃいます…?ッて、言葉おかしくなった…。


「あのね、諸葛さんの自宅がわかって行くのはいいけど、私1人じゃ心細いし…だからといって大勢で押しかけるのも悪いでしょ…?だから月夜くんにだけでも声をかけようかな〜ッて…思ったわけです…」


 なるほど。確かに知らない人の家に行くのは、できれば遠慮したいものがある。一人ぼっちなら尚更だ。


「わかったよ、僕も行く。どこかフワフワして何を考えてるかわからないような人だから、いるのかどうかもわからないけどね…。でも、いるとしたらいろいろと話を聞くこともできるだろうし。それに…夢から救ってくれた感謝も込めて…ね!」


 なんだかこの頃気障(キザ)ったらしくなってきた気がする…。でも…パァッと明るくなった未来ちゃんの顔を見ているとなんだか嬉しくなるもので…このままどんどん気障な言葉を言いたくもなってしまう…。それほど思い浮かばないけど。


 …というわけで、着替えた後に居間で待っていた未来ちゃんと合流して家を出た。そして、未来ちゃんに誘われるままに後をついて行く…。



 そしてこの日、僕はもう一度会うことになる…。


 成人男性では細すぎるほどの体つきに、モデルのように高い身長…白いフワフワとした髪にどこを見据えているかもわからないようなポーッとした眼。


 不思議な雰囲気を常に身にまとう風のような男…諸葛亮と………。




 先日李凛といい感じになったと思ったら今度は未来と…。

 羨ましいシチュエーションが続く中、2人は諸葛亮の自宅へと潜入…いや、お宅訪問。

 さて、ここのところ月夜の苦悩するところばかりでストーリー的な進展がありませんね。前回の次回予告での剣の話は一体どうなってるんだか…。

 バトルが楽しみの方はどうぞご安心下さい。後でしっかり入れますからね。次回ではちょっとキツイかもですけど…。


*次回予告*

未来と共に諸葛の自宅へと進む月夜…。しかしそこに人影はない…。

戸惑う2人に待つものとは…?

(本編では会うと言ってるのにここではなんだか違う感じになっちゃってますね…)


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