第29話:並行世界
茜色に揺らぐ空を背に、人の身長よりも少し高く組まれた舞台で舞う巫女…。美しく流れるように、しなやかな動きで魅了する彼女は、僕の視線を釘付けにしていた。
いつもは元気で、たまにオヤジくさいようなオバサンくさいような口調になるが、このように何かに集中して打ち込むとなると、凛とした態度になる。
彼女の舞う姿は綺麗だ。少々髪に癖があるところが玉に瑕だが…。本番の時は髪もしっかりと梳かして結び、また一段と綺麗な舞姫になる。(…てなんで知ってるんだ僕は…?)
しばらく見ていると…舞を終えたようで、彼女は僕を見つけるなり舞台から階段を“トントントン”と軽快なリズムで下り、敷き詰められた砂利の上を“ザッザッザッ”と心地よいリズムでかけてくる。
「精が出るな」
彼女が僕のもとへと着かないうちに声をかけた僕の口(神守)。そして、それに答えるように僕の目の前に来ていた彼女が発言する。
「来るなら言ってよ、いきなりいたから驚いちゃったでしょう…」
黙って見られていたのが恥ずかしかったのか、彼女は少々顔を赤くしながら言って、僕の肩の辺りを“バシッ”と叩いた。なかなかに体が揺れた気がする。
赤くはなっているものの、僕に向けられたその顔を見た瞬間、僕は驚きのあまり思考が数秒制止した。
(り、李凛…!?)
なんとその巫女服の少女は李凛そっくりの顔立ちだった。
(未来ちゃん、陽泉…今度は李凛か………このまま永遠まで出てきたら、たぶん並行世界かなんかの映像なんだろうなこれ…)
そんな気まで起こってきた。ここまで現実か夢かもわからない世界だ…もしかしたらあり得るかもしれない。僕の現実離れした思考などお構いなしに目の前の物語は続く…。
「いや、悪い悪い…。剣の稽古が長引いちまってな。こんな時間だから舞をしている頃だと思って…ほら!連絡いれなかったお詫びに差し入れだッ!!」
「わぁ〜玉子焼き!!気が利くねぇ〜…って、やっぱり最初から寄る気だったんじゃないのぉ!!」
僕の手に下がる包みを見るなり目を輝かせた彼女だったが、終わりの方は見事に推理が当たり、声を少し荒げて…怒っているわけではないが、僕につっこんできた。
そりゃそうだ。最初からここに来るつもりが無ければ料理など作って差し入れなど持ってこない。
「まぁそれはさておき…舞の練習はこれで終わりなのか、御石?」
(御石?彼女の名前かな…?)
そんな神守の問いに、御石と呼ばれた巫女が答えた。
「うん、もうおしまい!何?もしかしてもっと見たかった…?」
なんだか少しからかって楽しむような口調だな…。自分でも舞に自信があるのか、御石は誇らしげな顔をしている。
「そうだな…もっと見たかったな。舞ってる時のお前は綺麗だから」
からかい口調も受け流し、綺麗だとか恥ずかしくて本人を目の前にしても言えないようなことをサラッと言う辺り…神守という男、できる!!女たらしかな…。
御石も御石で、『舞ってる時』に反応したのか、素直に喜べないような顔をして…いや、いじけてふくれた顔で口をとがらせている。
「む…悪かったですねー普段は綺麗じゃなくて!!」
「そんなことは言ってないだろう?」
「そんな言い方してたもん…」
まるで子供のような言葉のかけあいが、妙に微笑ましかった。まぁ…結果、御石はちょっといじけちゃったけど。そんな暗い顔になった彼女に、神守が慌てながら言葉をかけた。
「ま、まぁまぁ…。いいから一緒に食おうぜ」
綺麗な花の咲く大きな木(御神木だろうか…)の下に座り込み、御石を誘った。御石はというと、未だ口をとがらせたままぶーぶー言ってる。そのまま僕の後をついてくるところはかわいいものだ。うーん、かわいい度75%!
しかし、僕が持っていた差し入れの包みを広げると、「わぁー」と言って目をキラキラさせ、弁当を覗き込んでくる。更にかわいい光景だ。本当に子供みたいな性格だ…。かわいい度100%!って、何やってんだ僕は…。
僕が箸を渡す、御石がワクワクした顔で箸を手に持つ…そして元気にごあいさつ。
「いただきまぁーす!」
よくできましたッ、どうぞ召し上がれ!ッて具合ににっこり微笑む神守のお言葉に甘えて勢いよく料理に手をつけようとすると…
「お!うまそーだなぁッ!!」
そう言って階段を今上り終えたのは…陽泉によく似た男性と、永遠によく似た女性だった。
(遂に永遠までご登場か…こりゃ完全に並行世界か…。はたまた全員奇跡的に輪廻転生する前の、いわゆる前世ってヤツか…。それにしても前世で一緒だった人たちがまた現世で再会するものかなぁ…?)
なんとも不思議なことを考えてるな僕は…。ただの夢にこんなに入れ込んじゃって…でも、だんだん感覚が現実と区別のつかない状態になってるのは確かだった。
女性…永遠擬きと、その数歩手前を歩く陽泉擬き(確か…聖壇)がこちらへ歩みながら話しかけてくる。
「俺も腹減ってんだ、少し分けてくれよ」
「えーヤダー…あたしだってお腹ペコペコだもん」
「独り占めするのはいけないよッて父さんから教わらなかったか…?」
「神守があたしのために作ってくれたものだからあげなーい」
またまた子供のやりとり…。どうやら精神年齢は限りなく幼いと見える…。
「まぁまぁ…どうせみんな来ると思って多めに作っておいたから。みんなの分あるって…」
「そうです、大人げないですよ聖壇…。もう少し公共の場では頭首らしくしていてくださらないと…」
神守の言葉に続き、永遠擬きが聖壇に叱るような口調で告げる。それに聖壇は、参ったような口調で答えた。
「いつもながら厳しいな真札…。もう少し肩の力抜かないと、いつまでも今みたいに眉間に皺が寄ったままだぞぉ?」
完全に茶化してる…。聖壇はそういるとにやにや笑いながら真札と呼ぶ彼女の方をポンポン叩く。
「なッ!?それとこれとは関係がありません!!」
顔を真っ赤にして真札は怒鳴る…。
その後は、結局聖壇も真札も加わり、みんなで談笑しながら暗くなるまでピクニック気分に弁当をつついていた。
なんだかどこかで見たことがあるような一場面だった…。確かに、どこにでもあるようなほのぼのとした景色ではあった…。でも、どこか…なんだか懐かしいような、こんな日常がすぐ近くでも繰り広げられていたような感覚だった。
神守や、御石や、聖壇や、真札が…なんとなく羨ましく思えた。こんなに平和そうに笑っていられる。こんなに和やかに楽しんでいられる。
僕も混じりたい、こんな日常に…こんな仲間たちに…。
───月夜くんっ!───
その時、叫んではいるもののかわいらしい声が僕の耳の奥から全身に響いた気がした。
この声は…なんだろう?聞いたことがある声なのに、そんな疑問さえ浮かんでくる…。
僕は…僕は誰なんだろう?記憶喪失でも無いのに、そんなことさえどうでもよくなってくる…。
僕はこの夢の世界に呼ばれている。だからここでこうして見ているんじゃないのか?この夢を…。
僕の居場所は…どこなんだろう?この世界が僕の居場所なのかもしれないと、考えてしまう。
───月夜くんってば!!───
だんだん僕を呼ぶ声が激しく、不安を帯びたような声色になってきた。
(未来…ちゃん?)
そうだ、この声…未来ちゃんのものだ。未来ちゃんが呼んでる………。
もういい、帰ろう…。
こんな未来ちゃんの声は、できればもう聞きたくなかった。
あの抱きしめた夜のような…独り孤立して不安に駆られ、僕に必死でしがみついてきた未来ちゃんの声…。
未来ちゃんは独りじゃない…そして僕も独りじゃない…。僕たちにはお互いが…そして李凛や、永遠や、陽泉もいる。
僕の…僕たちのかけがえのない仲間のもとへ…帰ろう。この世界へ別れを告げて…。
さて、今回も夢オチです。夢の話は僕自身も書いてて楽しいです。…が、皆さんはどうなんでしょう…?
夢の人物たちの意味がわからないからつまらないんでしょうか…?
そこんとこ聞きたいです。感想だけでもいいのでこの夢の話が好きかどうか送ってくれれば幸いです。
ほのぼの系が好きな方は結構気に入るかと…なんてポジティブに考えちゃってますけどね…。
*次回予告*
己の帰るべき場所…月夜は夢に気付かされた、自分の居場所に…。
剣を握る理由…それは相手を断つためではない…大事な自分の居場所を守るためなのだ………
(なんかかっこいいな…あ、もちろん月夜がですよ!?作者自身のことなんて全然そんな風に思ってませんからね!?)
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