第2話:儚げな少女
海辺にたたずむ、儚げな少女……。
魅入られるようにその少女に引き込まれ、僕はとうとう少女のすぐ後ろまで来てしまっていた。
(あれ?うそ…まさか?)
「未来ちゃん…?」
その子は峰水 未来その人だった。でも半年ほど前にこの町から引っ越したはずなのに…その子は確かにそこにいた。
「帰って…来たの?」
そんな僕の質問に未来ちゃんはゆっくりとうなずき、答えた。
「帰って来ちゃいましたぁ」
にこー。
以前と変わらない。彼女のこの笑顔がいつも場を癒してくれた。なんだか懐かしい。心がゆったりと和んだ。
半年前に引っ越すとの報告が入った時…僕は別れる寂しさと共に何か喪失感を得た。男女の関係として付き合っていた訳じゃないけど大切な友人…みんなと一緒に盛り上がれる仲間だったんだ。小学生みたいな感想だけど、別れるのはやっぱり寂しい。
「今日こっちに…?」
「うん、これからはずっとこの町に居られるようになったんだよ」
前と同じ口調だ。落ち着きがあるものの、無邪気なそのしゃべり方にはどこかあどけなさが残っていた。ロリボイスって言うのかな…。
峰水未来─のんびりしていてどこか不思議な雰囲気をまとった、綺麗なほど透き通った肌のの少女だ。
特徴は一目見ただけで惹かれるその長い黒髪だ。あまり散髪はしないらしく、彼女の腰元まで伸びている。よく手入れされているのかそこまで長いのにサラサラで、指を絡ませてもスーッとほどけてしまう。
そう言えば李凛が嘆いてたっけな…。『どうしたらそんなにサラサラになるの?』…って遺伝は仕方がない…。
それから久しぶりに会った未来ちゃんといろんなことを話した。引っ越した先でのこと、李凛やみんなの様子などいろいろだ。
彼女と話しているとついつい時間を忘れてしまう。気がつけば、陽光はすっかり柔らかくなり、海には今にも沈んでいきそうな太陽があった。
「そろそろこの時間だと思って…」
フッと海を眺めていた彼女が呟いた。
「夕焼けのこと?」
僕が問いかけると未来ちゃんは夕陽を見ながら優しく微笑んだ。
この景色が好きなんだなぁ…。海の向こうにひまわりが咲いたようなこの幻想的な景色が…。確か、前にもこんなことが……
「ねぇ、そう言えばさ」
「えっ、あ…何?」
ついボーッとしてしまい、彼女の言葉に驚いて返した。
「あー、女の子を目の前にしてボーッとしたらチャンス逃すよ」
「チャンスって、何の…?」
彼女の思わせぶりな言葉に問いかけると、彼女は近寄ってきて唇を僕の耳元に届くように背伸びをした。そして、吐息のように消えそうな声でささやきかけてきた。
「その女の子を好きになるチャンス」
ドキッ!!
ほんとに男は単純な生き物です。こんな小さなひそひそ話でも僕の心臓は飛び出そうなくらい全身に鼓動を響かせた。単純に、僕がこんなことをされたら意識してしまう性格なのかもしれない…いや、男なら誰でもドキドキせずにはいられないだろう。
にこー。
こんなにかわいい笑顔を向けられながら耳元でささやかれたら……。僕はこの鼓動が彼女に聞こえでもしないか心配だった。
「ふふっ、月夜くんは単純だね。顔が紅いよ」
いたずらっぽい声で話す未来ちゃんに僕は平静を保つ努力をしながら言った。
「ゆ、夕陽で染まって紅く見えるんだよ、きっと…」
「へー、つまんない。こんな事しても心が動かないほど月夜くんが無神経だなんて知らなかった」
彼女はいかにも残念そうにうつむいて言った。今度はそう来たか…。甘く見ていた、引っ越した先でこれ程男の心を揺さぶるテクニックを身につけたなんて…。
でもこちらとしてはそんな揺さぶりに耐えられるメンタルも無いわけで…心は揺れに揺れる一方です…。
「いや、それは…だから……なんていうか…」
結果、自分でも情けないほどうろたえてしまった。女の子って自然に男の心を動かす手段を身につけていくもんなんだなぁ…。心の中でそう呟くと、なんだかずるいなと思った。
「ふふ、冗談だよ。月夜くん、変わらないね」
「未来ちゃんは冗談がきつくなったね…」
そんなとりとめもない世間話をしている間にもどんどん陽は沈んでいった。
僕はこの日、2つの色の海を見た。まだ陽は高く、その陽や雲の間に広がる瑠璃色の海…。そして遙か彼方に一輪のひまわりが宿った、黄金色に包まれた海…。
そしてそれは、永久に色褪せることのない、いつまでも綺麗な思い出になると心の中で思っていた……
結局あまり長くなかったです…
ほんとは前回のように長々書くのはあまり好きではないので…
前話までは李凛が恋愛対象最有力だと思っていた方、まだまだわかりませんよ?男の心はいつどこに揺れるかわかりませんからねぇ…。
*次回予告*
未来との再会を果たした月夜。仲間みんなで盛り上がってるときに今度はあの人といい感じに……!?
…なんてなるかどうかはわかりませんが期待に応えられるよう頑張ります…。
感想、評価、文章表現から誤字脱字の指摘までガンガン突っ込んでくれてかまいません!待ってます。