第27話:ハイキング日和に
熱いシャワーを浴びたのにスッキリしない…。居間でゆっくりしていようとも気分が落ち着かない…。
僕は1人、真っ暗な闇に包まれた居間の椅子にだらんと情けなく腰掛けていた。何も考える気さえ起きなかった。
(僕は…なんて……)
原因は別れ際の陽泉の言葉だった………。
「な!?お前……気付いてなかったのかよ…!?」
陽泉はいきなり声を荒げて僕ににじりよってきた。胸倉を掴む勢いで近づく陽泉の言葉を、僕はただ黙って聞いているしかなかった…。
「一番李凛の近くにいたのはお前だろッ!?李凛はなぁ、お前のことが…お前のことがずっと前から好きだったんだぞ!!」
え………。
僕はあまりの精神的な衝撃に固まるしかなかった…。
李凛の気持ちって…好きだってこと?僕を…?
そんな風に固まる僕に陽泉は被せて口を開く。
「李凛はお前のことが好きなんだよ!!友達としてでも、幼馴染みとしてでもない…1人の男であるお前のことがな!!」
陽泉の言葉は体中が熱くなるほど心に響いた。
ここまで声を大にして叫ぶ陽泉から言われていることをようやく理解する自分に…今まで李凛の気持ちを分かってやれなかった自分に腹が立つほどに情けなかった。
結局、あれだけ大きい声を出したのが急に恥ずかしくなったのか…それとも李凛自身の口から言わせたかったのか…陽泉は「やべ…」と言って別れの挨拶をし、去っていった。
僕は…考えたことはなかったか?
李凛のことを、李凛の気持ちを、僕は李凛をどう思っているのかを…。どうなんだ?
僕は…僕は………。
「はぁ〜…ため息しか出ないな」
いろいろ考えたって頭の中には自分を蔑む気持ちや自責の念のみだ…。このままここでうなだれていても不甲斐ない自分を更に追い込むだけだ…。
しかしなぜ僕はここまで気持ちが落ち込んでいるんだろう…。
普通女の子が自分のことを好きだと思っているのだと知ったら喜ぶのに…。
今まで李凛の気持ちに気付かなかったから…?陽泉の口から教えてもらったから…?……それとも他に好きな人がいるから…?
どれも当てはまってしまいそうで恐かった。自分の真意が自分でもわからない…そんな自分がただ恐いばかりだった。
寝よう…。こんなに暗いところで感傷に浸っていたら気が滅入る一方だ…。
そう思って寝室へ移動しようとすると………
“じりりりりりりりんッ”
黒電話がけたたましい音で暗闇を切り裂き、僕の耳へと響いた。
誰だこんな時に………。
少々苛立ちながらも今なお鳴り響く電話の元へ足を運び、受話器を取る。
「もしもし!月夜…!?」
こんなに夜遅くなのにすごく元気な声だ…。しかもその声の主は僕の脳内で今起こっている問題の中心人物だった。
「り、李凛…!?ど、どどどどうしたの、こんな夜中に…!?」
まさかの人物からのコールに驚きのあまり声が裏返る…。そんな僕の反応をよそに昼とは一変した態度の彼女からは、更に強力な驚愕を与えてくれた。
「明日さ、空いてる…?」
「明日…?う、うん…特に予定とかは入ってないけど…どうかしたの?」
「明日…ちょっと出かけない!?」
「………へ………?」
本当に驚きの一言だった。だって昼間あんなにローテンションだった少女が…結構時間が経つとはいえこんなにも声色が変わるものだろうか…。やっぱり女の子ってわかりません………。
というわけで来てしまいました…。山です…周りを360度見回しても緑、緑、緑…。木や草…大自然に囲まれた場所に降り立ってしまった………。
「明日、ハイキングに行こう!」
昨日の電話で李凛に目一杯元気な声で言われたらいつの間にか承諾してしまっていた。受話器をおいてからもしばらくキョトンとしていたけど…。
まぁいいか…。
ついついそんな気持ちにさせられてしまう。だってわざわざバスに乗って人里離れたような森まで来て澄んだ空気を吸ったら、悩みなど吹き飛ぶ。
「来てよかったでしょッ!?」
「うん、そうだね」
なによりも、李凛が笑顔でいてくれて良かった…。
バスから降りた僕たちはしばらくその野山を歩いていた。山と言っても斜面は穏やかで結構地面がしっかりしていて歩きやすい。
道の横には多くはないものの、木が立ち並んでいて、反対側には小川のせせらぎが心を和ませる。李凛も気持ちがいいのだろうか、僕の隣を歩きながら背伸びをして深呼吸を繰り返している。
そんな彼女を見てるだけでなんだか笑みがこぼれてしまった。
李凛との会話を楽しみながら、しばらく歩くと…いつの間にか小高い丘の上まで来ていた。
そこからは今まで僕たち2人が歩いてきた並木道が、そして…その奥に広がる雄大な自然が一望できて、これ以上登らなくても充分満足できるほどの見事さだった。
僕も李凛も、しばらくその絶景に圧倒され、魅入ってしまった。
「なんだか…壮大だねぇ……」
しみじみとした声で李凛が呟いた…。なんだか心が癒される気がした。この大きな自然の力に…。
どれくらい経っただろう…ただ黙ってこの景色を見つめる僕たち…。ただただずっと眺めていたが、ふと彼女の方を見るととても優しい笑顔で…まるですべてを見守る女神のような美しい微笑みがそこにあった。
一瞬、別人のような彼女の横顔にドキッとしてしまった…それからは大自然ではなく、李凛に魅入ってしまった。
「…ん、何?」
僕がうっとりと眺めていると、李凛が僕の視線に気付いた。
「え!?あ、いや…あの…さ、僕の不調のことなんだけどさ…」
僕は昨日、陽泉に言われたことを実行しようとした。その言葉を聞いた瞬間、李凛の顔には薄い影が差した。何を話してくるのか不安と言ったような表情。そんな彼女に一言、スパッと言ってのけた。
「僕は大丈夫だよ」
「へ…?」
あっけない僕の一言に拍子抜けしたのか、李凛は、目を真ん丸にしていた。
「原因はわからないけど、いろいろあるのかもしれない。知らない内に精神的な疲労がたまってたりしたのかもしれない…。でも、僕は大丈夫だよ。心配ないから…だから、李凛はいつもの李凛のままでいてよ。そうじゃないと、僕まで調子狂っちゃうから」
李凛を安心させようと、満面の笑みで言ってみた。
すると李凛は、少し赤らめた表情をして少し下を見ながら僕に言ってきた。
「そ、そっか…ごめんね?なんか気を遣わせちゃったみたいで…心配してる身が心配される身になっちゃってたもんね!……ありがと」
なんだか照れくさいな…。こんなところで2人して赤くなってしまっていた。どうやら僕たちは似た者どうしみたいだ。お互いに心配しちゃって謝り合ってお礼し合って…笑うしかないな…。
山の日の入りは早い…お昼を食べ終わってしばらく経ったらすぐに下山することにした。バス時間もあるし…。
しばらくは山を下りている感覚が僕たち2人を支配した。でも、なんだか妙な違和感があるような…。
…そういえば、さっきここ通ったっけ?そんな道がずいぶん続いている内に、李凛の声のトーンもだんだんと低くなっていった…。
「あのさ…すっごいこと言っちゃっていい?」
藪から棒に言葉を繰り出した彼女は、とんでもないことを口走っていった…。
「迷っちったッ…テへ!!」
なんともベタな展開ですねぇ後半は…
どちらかというと前半で突っ走りすぎました…後の方はどちらかというとコンパクトになっちゃいましたね。
気になるのは月夜の恋だけじゃありません!次話では命すら危ういかも…
*次回予告*
遭難状態の月夜と李凛…。
なんとかバス停にはたどり着くものの…バスが来るまで2時間!
冷え込んでくる夏の夕方に2人は耐えられるのか!?
(なんかほとんど流れ言っちゃってる気が…)
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