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第26話:熱い親友

―一晩が明けた…―



 僕は道場に来ていた…。試しに竹刀を握ってはみたものの、未だ震えが止まらない。握力が思うようにコントロールできない。ちょっと振るだけで竹刀が手から抜けて飛んでいきそうだ。


 これじゃ試合や稽古で危険が伴う…。そう思って見学することにした。


 こうして稽古風景を外から眺めるのはこれが初めてな気がする。皆の目は真剣だ。李凛も、永遠も、陽泉も…。


 なんだか皆の表情が眩しい。青春を感じると言ったらオヤジくさくなるだろうか…。


 僕はしばらくみんなの稽古を見ていたが、見ていると…なぜか罪悪感がこみ上げてきた…。


 みんなが一所懸命頑張っているところで、僕(ひと)り…見ていることしかできない。自分の胸が圧迫されるような感覚だ。


 自責の念に押し潰される前に、(うずくま)っている場所から離れた僕は、弓術場に顔を出していた。ここに来るのはずいぶんと久しぶりな気がする。…ッと言ってもテスト期間中だから2週間半ぶりくらいだ…。


(眩しいな…)


 弓術場は天上が無く、吹き抜け…頭上には青空が広がっていて陽当たりがいい。ひなたぼっこ大好きな僕にとっては眠くなる暖かさだ。


 剣術場と弓術場は、顔の高さにガラスがはめ込まれてある引き戸1枚で仕切られているが、なかなか防音性に優れていて静かだ。この静けさならいくら隣で激しい闘いを繰り広げていようと的に集中できるだろう…。


(いや、集中云々(うんぬん)よりも、弓を持っても僕は平気なのか…?)


 弓を握った瞬間、剣の時みたいに震えがこないとも限らない。心配になって弓を手に取ってみると…震えがこない。


 どうやら弓は大丈夫のようだ。そうすると、やっぱり原因はあの夢かな…?


 確かめようがない疑問を、頭の中で繰り返しながら、とりあえず1度(はな)ってみることにした。


 所定の位置に着き、足を広げる。弓を持つ左手、矢を持つ右手を胸の前に持ってきて、弓の(つる)に矢をかける。そして、ゆっくりと深呼吸をしながら弓をさっきまで構えていた位置の真上まで持ってくる。


 …しばらく静止した後、再びゆっくりと右手で握る矢を弓から引きながら自分の目の高さまで持ってくる。ギリギリと弓をしならせる…。『会』と呼ばれる状態…。


 しなやかな流れでここまでの動作をこなしてきた。この状態が一番緊張、そして集中する瞬間だ。


 …心を落ち着かせて的を睨む。


“剣術が激の術なら、弓術は静の術だ”


 師範から教えられたそんな言葉を守りながら、僕はここまで集中してきたことによってためた力を思い切り解放した。


 解き放たれた矢は緩やかな弧を描いて的の方へ吸い寄せられていく…。


“ダンッ!!”


 矢は、突き抜けるような衝突するような音を出して的のど真ん中に突き立てられた。


(おぉ、すごっ………)


 頭の中でそんな感嘆の声が響いた。自分で言うのもなんだけど、いつも通り天才的な腕前だ。…とは言っても、実際は的に当てればいいだけの競技で、別にわざわざ真ん中を狙わなくてもいいんだけどね、ダーツじゃないんだから…。


「おぉ、すごっ………」


 いきなり剣術場との境界に位置する引き戸の方から声が聞こえた。僕は驚いて声のした方を見てみるると、李凛が立っていて、的の中心に突き立てられた矢を見て、驚嘆の声をあげていた。


 そしてこちらに向き直り、僕に近付きながら話しかけてきた。


「なんだか哀愁漂ってるね…」


 明るい口調の彼女からは、独りで違うことに打ち込んでる僕でも、なんだか元気がもらえそうな気がした。


「まぁ、剣ができないならこっちで弓をやってるしかないからね…独りで………」


 わざと寂しいような声で言ってみた。今の僕にも言葉に茶目っ気を含ませる余裕はあるようだ。


 …しばらく話し込んでいると、次第にある違和感が感じられるようになった。なんだか李凛まであまり元気がないようだった。発言自体は元気なのだ。…そう、不自然なほど元気だった。明らかに無理矢理テンションをあげているような空元気(からげんき)


 僕がそのことに気付いた瞬間、昨日李凛が言っていた言葉が思い出された。“幼馴染みを甘く見ないでよね”…確かにこれだけ長いこと一緒にいると、微妙な変化にも気付くものなんだな…。


 李凛の態度が心配にもなったが、…どう言っていいかわからず、結局はタイミングを逃してしまった。


 昼時が近付いてきた。いつもは静かな方が落ち着いて的に集中できるのだが、今日はなんだか、移動したり打ち込んだりするみんなの音が妙に心地よく聞こえた。


 …なので僕は、会の状態になりながらも剣術場へとつながる引き戸を開けっ放しにしていた。足が地面を蹴る音、竹刀と竹刀を激しく打ち合わせる音が響いている。


 そんな音の中、一際(ひときわ)大きい声が剣術場内外にこだました。


「李凛!!もっと集中しろ!でないとケガしちまうぞ!!」


 師範の声だった。怒鳴られているのは李凛…珍しいな。いつもは気を抜くことなんて無い師範から大きな声をくらうなんて…。


 師範は、自分の娘だからといって手を抜いて教え込む人じゃない。誰に対しても手加減はしないのだ。


 李凛の方はというと、いつもならこれくらいの声だったら更に気合いが入って燃えるところだけど…なんだかいっそう元気を無くしてしまったようにうつむいた………。


 僕は李凛の不調具合に気をとられながら練習をしていた。そんな空虚な気持ちでは練習に打ち込めるはずもなく、僕はというとしばらくはボーッとしていた。


 無心の状態だと、やけに時間が早く過ぎてしまうようで、もう帰る時間になっていた。僕と陽泉は早々と着替えを済ませ、もう帰る準備万端だったが、永遠は「やることがあるから」とかで、後から帰るそうだ。


 結局、僕と陽泉の男2人で帰宅…なんだか(むな)しい……。


「李凛…どうしたんだろうね」


 僕から振った話題は今日一日ずっと僕の頭の中を支配していた疑問だった。そんな案ずるような僕の声に合わせて、陽泉も静かに口を開いた。


李凛(あいつ)、今日ずっとお前のこと…ボーッと見つめてたぞ」


 その言葉からは、いつものような茶化している感覚はなかった。まるで、僕に何か…大事なことを伝えるような言葉のトーンだった。


「今日練習の合間、あいつと話していたようだけど、その時だってお前…あいつがどこかおかしいの感じ取ってただろ?」


 陽泉は、その場面をずっと遠くから見ていたように…そして、僕の心の中などお見通しのように言ってきた。僕はというと、事実を言われたことにただ黙ってうなずくしかなかった。


「うん、確かに今日の李凛はどこかおかしい気がしてた。でも、それがどうかしたの…?」


「月夜、お前一度でもあいつに“自分は大丈夫だ”って言ってやったか?」


「え…?昨日言ったじゃないか。僕は大丈夫だから謝らなくてもいいって…。」


「その“大丈夫”は“ケガの具合”や“もう謝らなくても”大丈夫って意味だろ?そうじゃない…お前は“精神的に大丈夫”なのか?ッてことだ」


 精神的…。僕は、もしかしたらあの夢のせいでどこか精神的に参ってしまってるのかもしれない。でも、でも………


「でも、李凛が今日調子悪いのとは直接関係ないじゃないか…」


「お前な…李凛の月夜を心配する気持ち、察してあげろよ。昨日のお前の心ここにあらずみたいな帰り際の背中を見たら、李凛だって月夜のことが心配になっち舞うだろ…?何年幼馴染みやってんだ?」


 李凛の心配する気持ち…。昨日は僕の肉体的異常をズバリ言い当てた彼女は、幼馴染みのことはなんでもわかると言っていた。なら余計な心配もしなくていいことには気付いてもいいんじゃないか?


「いいか、たとえ長年一緒にいる幼馴染みだとしてもだ…心や気持ちや相手の考えがわかるような相手だとしてもだ、言わなきゃ…直接言葉で言ってあげなきゃ伝わらないものだってあるんだよ」


 僕の心の中を(さと)ったように言う陽泉の目には、心の強い光が輝いていた。


「直接言ってあげろよ。じゃないとまだまだこんな日々が続くぞ…?李凛だってお前のことを心配してるんだ、心の底からな。まぁ、他にも心配してくれる人がいることを忘れないようにな…」




“李凛の月夜を心配する気持ち、察してあげろよ”


“直接言葉で言ってあげなきゃ伝わらないものだってあるんだよ”


“李凛だってお前のことを心配してるんだ、心の底からな”


 陽泉のそんな言葉が僕の胸に響き渡っていた…。この茜空の下、僕は陽泉に何か大事なものを気付かせてもらった気がした。




 陽泉の最後の部分はちょっとからかい気味の声だったけど、陽泉の言葉には確かな思いがあった。


「そうだね、陽泉や、永遠や未来ちゃんにも感謝しなくちゃね…」


「だが、李凛の気持ちは特殊だろ…」


 陽泉は、急に変な表現をした。特殊…?


「陽泉、特殊ってどういう意味…?」


 僕は言葉の真意を陽泉に尋ねてみた。すると、急に陽泉は「何を言ってるんだ?」と激しく問いかけてくるように、僕に向かって言葉を吐いた。


「なッ!?お前…気付いてないのかよ!?」


 信じられないと言ったような表情で…(いきどお)りすら感じられる口調で僕に激しく食いかかってきた。


「一番あいつの近くにいたのはお前だろ!?李凛の気持ちをわかってやれてなかったのかよッ!?」


 だんだん苛立(いらだ)たしさまで感じてきたのか、陽泉は僕の胸倉(むなぐら)を掴む勢いで接近してきた。僕はというとそんな陽泉をただ突っ立って見ているしかできなかった。どんなに陽泉が近付いてこようともその場から動くことはできなかった。


「李凛はな!!あいつは………ずっと…ずっとお前のこと………!?」




 陽泉の言葉が言い終わるまで、僕は彼が何を言いたいのかまったくわからなかった。


 陽泉が熱くなって僕に怒号した理由…李凛が異常なまでに僕を心配していた理由…陽泉の言葉を最後まで聞いた僕が戸惑いの気持ちでこの一日を過ごした理由…




 全ては、ある1つの気持ちから始まっていたことを………




………精一杯引っ張ってこの結果です。

この話もすごく長くなっちゃってますしね。

まぁでも、こういうときは熱いっていう陽泉の一面をお届けできて良かったと思ってます。


さて、急展開ですよ!!この続きは次話までのお楽しみです。


*次回予告*

月夜が陽泉から伝えられた李凛の気持ちとは…?

そのことに慌てた月夜は夜も眠れず…なんだかんだで次の日はお出かけ!?

次回!!「ハイキング日和に」…お楽しみに!!

(ふざけてなど…いませんよ、ハイ。そうなっちゃいますから。お出かけしちゃいますから……)


感想、意見、評価等々随時募集中ですのでどんどん送って下さいね〜。(前半漢字多いな…)

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