第24話:生きる者の責任
(ここは…どこだ?)
目を開くと、そこはひんやりとした空気で満たされていた空間だった。
僕は寝転がっていて、全身には一際ひんやりとした硬い感触があった。どうやら床に寝てるらしい。
屋内らしく、天窓からは、月の光が差し込まれていた。少し眩しい夜だな。
…?いや、あれは天窓じゃない…。普通の屋根だ。
しかし、ひどく破損していて、ぽっかりと穴が空いている。月光が僕を照らすのはその穴から来るものだった。
そして…あれ?僕は何に寝てる…?
肩から下にかけてはひんやりとしたフローリング調の板の間についているのに、頭だけは、温かくて柔らかいところに乗っかっていた。
僕の頭と床の間に収まるものにそっと触れてみた。
さわさわ、もみもみ………なんだか教育上にはあまりありがたくない表現だけど…まぁ、実際そんな効果音が出ていいほどの触りっぷりだった。
触れると…ぷにぷにしててやっぱり柔らかい。ぽかぽかしててやっぱり温かい。
「ゃんッ…。い、いきなりなにをなさいますか…神守?」
これまた教育上良くない艶っぽい声に不意打ちされた僕は、驚きながらも、仰向けに寝転んだまま真上を見上げた。
するとそこには、どこかの民族衣装のようなものに身を包んだ少女―――たしか…“宝水”―――がいた。
よく状況把握に努めてみると、僕は宝水にひざまくらされている状態だった。温度といい柔らかさといいすごく気持ちよくて寝心地よくて幸せです!!
「いや、あまりに気持ちよかったからつい…な。宝水を肌で確かめたくなった」
そんな風に僕の口がまたもや勝手に動き出す。自分の言葉とは思えないほど軽々しい口ぶりに、少々面食らいながらも、僕自身も僕の口が発した言葉に『同感だ』と思ってしまった。そこは男としての正直な感想です…。
だが、その場は茶目っ気満載の言葉や明るい雰囲気でおさまるような朗らかな空気ではなかった。
よく見ると、僕の服は、真っ赤に染まっていた。しかし、元々は白い生地だったのか…赤と言っても濃淡があり、僕は視線を色の濃い方へとゆっくり移動させていく…。
一番赤い左腕の肩あたりを見てみると、関節の部分から指先までの左腕がバッサリと無くなっていた。切り口の部分を自分の右腕で抑え、止血に取り組んでいた。
痛いという感覚がなかったので今まで気付かなかったが、見えた瞬間は驚きが絶えなかった。
しかし、僕の顔はなぜか緩んでいるのがわかった。左腕が切断されているのをわかっていて受け入れているのか、僕の体は穏やかな気持ちで横になっているようだった。
そして僕の口は無くなっている左腕のことに話題を移した。
「…ははッ!ざまぁねえな…お前を守ることができたとはいえ、こんな状態じゃあこれから先の人生は短いみたいだ。血が足りないよ…」
「何か…食べれば…血は足りますか…」
(ル○ンか僕は…)
そんなツッコミを頭の中で入れてはみたものの、彼女は瞳の周りにたくさんの涙を溜めて、その目の方は赤くなっていて…いや、瞳の色は元々淡い赤色なのだが、涙を拭うために目をこすっていたのか、白目の方までも充血していて赤かった。
とてもツッコミを口に出して言えるような雰囲気ではない。そもそも口にすら出せないし…。
「俺は、このまま死ぬのか…。まぁ、その方がいいのかな。戦の最中とはいえ、たくさんの人々を殺してきたんだ。そろそろ死んで償いでもしなきゃそのうち呪い殺されるってもんだ」
陽気に言い放つ神守に、宝水が注意を促すように言った。
「いいえ、あなたは死んではいけません。生きてください、どんなに怪我をしても大丈夫…あなたは死にません」
「いやいや、そんなに過大評価されても無理なものは無理だぞ…。こんなに盛大に切り落とされちまったらいくら俺でも出血多量であの世逝きだ。それに、そろそろ楽になりたいし、たくさんの命を殺めた責任は取らなきゃな…」
少し真剣で死を悟ったような顔で神守が言った後、更に優しく微笑む聖母のような表情になった宝水が語りかけた。
「あなたが死ぬことで、今まで失ってきた者たちへの償いになるのですか…?」
「え…?」
宝水の言葉は、いつも妙な重みがある。顔は微笑んでいるのに、優しくはなく…もしかしたら辛辣と言ってもいいかもしれないほどの言葉で、相手を諭すように語りかけてくる。
「あなたは確かに多くの人間を殺めてきたのかもしれません。そして、殺めた責任を取らなくてはいけないのかもしれません。
でも、死ぬことでは…冥府に逝くことではなんの償いにもなりません。死に逝く者への責任は生きることでしか果たせないのです。
死者の分まで生きること、それが死者に捧げることのできる精一杯の鎮魂になります。
あなたが死ぬことでは誰も喜びません。でも、あなたが生きることで救われる人はたくさんいるはずです…。だから、生きてください」
その言葉は、どこか…本などで散々見たことがある言葉だったかもしれない。みる度に、僕は読者を感動へ導こうと狙いすましている作者の心に呆れていた。
『あなたが死んでも、誰も喜ばない』とか、『生きてください』とか…物語の中では、そんな優しげに聞こえる言葉が、『ほら、感動のシーンですよ〜』とか、『皆さんハンカチご用意をして、存分に泣いちゃってくださ〜い』とかという作者の煽りにしか聞こえない。
そんな風になってしまっていた………。
どんなに感動的な話を見ても、どんなに壮大なスケールのお話を見ても、“所詮こんなことありえない、こんなに上手く話が進むわけがない”…そんな冷たい感想さえ浮かんでくる。
(かわいくないな………)
少し前まではどんなに子供だましのような話でも聞くと、夢を与えられたように目をキラキラさせて自分の脳内に話を詰め込んでいった。
いつからだろう…こんなつまらない大人びた感想を持つようになっていったのは………。
僕はつまらない人間になっていた。でも、そんな僕に…この人は、どうしてこんなにも優しく微笑みかけてくれるんだろう…。どうして“生きなさい”と言ってくれるんだろう…。
その言葉は、僕の心に大きく響いた。どこかの物語とは違う。真っ直ぐ僕の方を見つめて、真剣な表情で言ってくれている。僕(神守)のことを心の底から想ってくれている。
僕はいつの間にか、涙がこぼれ落ちそうなほど胸が熱くなっていた。彼女の気持ちがわかったから…。彼女の真の心が伝わったから…。
彼女の言葉からは表面上のものではない…しっかりと相手を思う心……“愛”が感じられた。
彼女の言葉から、“愛”というものがどういうものか…彼女を見てよくわかった。
まぁ…だから今すぐ誰かを愛するってことでもないけどね………。
そんな風に思っていると、なんだか急に眠気が襲ってきた…意識が飛びそうだ…。
彼女の言葉に…自分をここまで思ってくれる人がいることに安心したのだろうか、僕はゆっくり、心を闇の淵へと静めていった。
彼女の愛と、剣を握る者の責任がどういうことかに気付かされて…………。
え〜夢のみです…。
この場面こそがあまり意味わからないですよねぇ…皆さん。
“だって状況がまったくわからないもん!なんでボロ家にいるの!?なんで左腕無いの!?”
そんな読者の皆さんの声が聞こえてきそうです…。
でも私はそれで満足ですよ!!あくまで謎を残していくのが私のモットーですからッ!!
できればこんな私のこれからもお話にお付き合い下さい…。
安心してください。この夢の話は後でまとめて番外編などで載せる予定ですので…。(結構壮大な計画になってきてる気がするこの話…)
*次回予告*
何か大きなもの与えてくれた気がした夢…。
現実の世界に戻ってきた月夜は果たして再びその手に剣を握ることができるのか!?
“感想や評価、訂正などをたくさんくれないと死んでしまう病”に陥る気がしてきたのでお願いします…。(とりあえず、こんなしょ〜もないこと言うほど欲しいってことですんでよろしくです…)