第22話:昼時の呼出
“諸葛亮”………その名前を聞いてつい大声をあげてしまった。
当然かもしれない、この間目の前に現れた人間が自分の捜してる人なら…。
「びっくりしたぁ…どうしたの?急に大声なんか出しちゃって。月夜らしくない…」
李凛が僕の大声に驚いていた。
そして僕のあげた言葉の内容(諸葛亮のこと)について未来ちゃんが尋ねてきた。
「月夜くん…もしかして知ってるの?この諸葛亮って人の事」
「うん、ついこの前…その人が僕の前に現れたんだ…」
そんな事実を口にした途端皆は唖然とした表情になった。
しばらくの間、みんな何を言っていいのかもわからないようで…目を丸くして僕の方を見ている。
このままの空気でも仕方ないので、この間のいきさつを話し始めることにした。
帰路の事故のことから諸葛亮との出会いまで。最後に言い残した言葉は意味不明なので打ち切らせていただきましたが…。
「そうだったのか…っていうか、危ないだろ!男の子を助けようとして自分が死んじゃったらどうするの!?」
…と、当然のごとく永遠先生に怒られました。なんだか本当に小学生みたいだな…。
その言葉の後に陽泉が入ってきた。なにやら神妙な雰囲気が漂っている。
「その男、本当に諸葛亮だったのか…?」
陽泉からは何か異様な感じがする…。
なんだろう…威圧?そんな物騒なものじゃないにしろ、表情はいつになく真剣そのものだった。
そんな陽泉の雰囲気に圧されて、少し戸惑いながら僕は答えた。
「う、うん…。最後にそう名乗って消えたし……」
「どうしたの陽泉、そんなに眉間にシワなんか寄せちゃって…?」
李凛も陽泉のことが気になったのか、恐る恐るといったように伺ってきた。
李凛の問いに、未だ崩れない表情で陽泉が続けた。
「イヤ、観光とかで来てるのならいいが……もしまだこの伝説について調査しているとしたらどうする…?」
伝説の調査…そのためにこの近くに?
もしこの地域でしか調べられないのなら、この伝説は…この地域で発祥地、または起こった原点という可能性が高い。
…でも、近所の誰からもそんな伝説があるなんて聞いたことがない。
「神社の巫女であるあたしでさえ知らないんだもん…もしこの地域で発祥したなら何か言い伝えぐらいあるはずだよ?」
確かに。この地域に詳しい李凛の家でなにも聞いていないのは不自然だ。
疑問が絶えない中、李凛は思い出したように手をポンッと叩いて続けた。
「あッ、でもこの地域で昔、村どうしの大きな対立があって…戦ってたっていうのは聞いたことがあるよ」
地域の特徴、戦乱の渦の中…とりあえず共通点はいくつかあるようだ。
だが、だからといって山や海に囲まれた地形なんて探せばいくつかあるだろうし…戦なんてそれこそどこでだって起こった時代だろう。
僕たちはこの調査テーマの難しさに改めて気付かされ、打ちのめされていた。
…これからどうしたらいいのか、そんな事を考えても何のアイディアも出てこない。
みんなの表情に影が差す中、未来ちゃんが口を開いた。
「でも、李凛ちゃんが聞かされてないだけで本当はあったのかもしれないよ…?」
皆の暗いムードに気を遣いながら話す未来ちゃんの言葉に、今度は永遠が加えてきた。
「そうだよ、李凛…神社の倉庫とかにもしかしたら資料かなんかあるかもしれない」
「お祭りの時なんかに使う祭具をしまう祭具殿にいろいろと押し込んだらしいから……調べていいか訊いてみるよ」
そんな李凛の言葉に陽泉も続く。
「じゃあ俺の方でも倉庫をあさってみるわ、本社といっても今じゃ衰退しまくってるからあまり期待はできないけどな…」
なんて言ってはいるものの…なんだかこの作業にも希望が見えてきたようで嬉しそうな目をしていた。
とりあえずこれからの調査の予定を立て、各に作業を分担している頃には、もう昼時になっていた。みんなお腹が減っている頃だろうというのは容易く予想できる事実だ。
僕が作るしかないんだろうな…。
そう思いながら、5人分の昼食を作るために居間とひとつづきになっているキッチンへと移動…何かパパッと作れるものがないかと冷蔵庫を覗き込むことにした。
………そう言えば、今朝はみんなが来ることを知らなくてなんの準備もしてないんだったんだっけな。まぁいいか、お早めに作って昼時を逃さないようにするのが先決だ。
…というわけで、本日のクッキングタ〜イム!!
今日のお手頃お昼ご飯はぁ〜…とろとろ卵とじ!!
さぁ材料は…卵3〜4個、濃縮麺つゆ大さじ3、水1.5カップ、三つ葉・水溶き片栗粉各適量です!
さぁてそれでは作り方でぇす!
1.三つ葉を2〜3センチメートルの長さにざく切りにする。
2.鍋に麺つゆと水を合わせて煮立て、水溶き片栗粉を少しずつ加えて混ぜ、煮立ててとろみをつける。
3.1を加え、溶き卵を流し入れて半熟に仕上げる。
ここまでたった10分!!簡単な材料でしかもお手軽にできちゃいましたぁ!!
………なんでこんなノリなんだ僕は?まぁできたからよしとしとこう…。
僕達は昼食をとることにした。とろとろ卵とじ…ほぼ卵しか使ってないけど…我ながら上手くできた。
僕達は頭と手を休めて台所のテーブルに着き、食事に取りかかった。
「ん〜おいひぃ〜」
口いっぱいに卵を詰めた未来ちゃんが幸せそうに微笑んだ。僕としてはこの笑顔が見られただけでも良かったかな…なんてね。…なんかちょっと調子乗ってるかな僕。
「やっぱり月夜の料理は絶品だね!」
「ホントだな、まったく習いたいくらいだよ」
「永遠は一見料理できなさそうだもんなぁ」
「な!?そんなことない!!あんただってこの間あたしが作ったオムライス食べてたじゃない!」
楽しんで食べてる李凛に、からかわれからかっている永遠と陽泉……追加、どつかれている陽泉…。
ホント平和だな………。しかしそんな平和は、一本の電話で一変させられた。
“ジリリリリリンッッッ”…“ジリリリリリンッ”……“ガチャッ”
今やほとんどのご家庭では無くなった黒電話の音が家中に鳴り響いた。僕が電話に出ると、受話器の向こうからは聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「もしもし、緘森ですけど…」
「月夜かぁ!!」
耳をつんざくようなその声は、師範のものだった…。なんだ?こんな昼下がりから…。
大声は出しているものの怒っているような口調ではない。逆に上機嫌な方だ。大体李凛ではなく師範から直々に電話が来る事なんて滅多にない。
「あの…なんですか?師範、こんなお昼から」
「いやな…今日やっと新しい竹刀や木刀を仕入れたからお前たちに見せたくてウズウズしてるんだよ!」
子供だ…。新しいおもちゃが手に入ったら他人に自慢したがるタイプの子供だ。永遠の親子間は意外だったのだが、あの李凛にこの父親ならなんとなく遺伝というものを感じる。
ああ…メンデルの実験から得られたものはやっぱり偉大だったんだなぁ…。そんな風に思ってしまうほど観籍父娘は似てる。
「…で、僕達に道場に来いと…そういうことですか?」
「まぁそんなところだ。忙しいなら無理はしなくてもいいが、早めに見ないと後悔するぞぉ?」
マジで子供だ。しかも自慢したくて仕方ないス○夫タイプだ………。
まぁ、承諾してしまったんだけどね。観籍神社の祭具殿にわざわざ行く手間も省けるし、僕の独断だけどみんなも理解してくれるだろうと思った。
「…とそんなわけで、これから道場に行くって事にさせられたんだけど……」
「いいじゃないか、一石二鳥だよ」
「うんうん、お父さんがしょげることもないし、調査もできる!月夜ナイス!!」
永遠も李凛も僕の意見を多いに歓迎してくれた。未来ちゃんも陽泉も同感なようで、昼食を済ませたらみんなで道場へ行こうということになった。
このとき、僕の体はまだ大丈夫だったはずだ。今朝の夢をすっかり忘れていた僕はこのとき、再び剣を握ることになんの躊躇もなかった…。
だがこの後、僕は改めて知った。剣が人に与える影響を…それは、斬られるものにも…斬るものにさえも………
さぁ、やっと道場です…。自身の作品のペースの遅さには呆れますが、できるだけ次回予告を裏切らぬよう努力したいです。
さて、今回はお料理コーナーを追加してみました!!
ホントはあまりいらないんですけどね…でも料理自体は結構いけるので、ぜひお試し下さい。
急ではありますが、現在このGLの番外編も検討中です。ぜひ見たいと思う人は意見下されば嬉しいです。どんどん下さい!!
GLの他にも作品を出す予定でもありますので、乞う御期待。(GLももちろんよろしくです)
*次回予告*
いよいよ一行は道場へ…そこで起こる月夜への異変とはなんぞや!?(なんぞやってなんだよ…)
感想、評価、訂正等々お待ちさせていただいております!!
できれば皆さんの意見も下さいな。