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第19話:暗闇の戦慄

 誰かこの状況を説明してください………。


 えーっと…永遠と話していて、そしたらいきなり建て付けの悪い倉庫の扉が“ガタンッ”とかいう不吉な音を出しながら完全に閉まってしまった…もしかして傾いてるのかなここ…。


 そして…扉が閉まった衝撃に反応したのか見事なバランスで積まれていたものがどんどん僕らのもとに降ってきた…幸い刃物とか缶とかは降ってこなかったから良かったものの…。


 僕と永遠はというと…あれ?なんでだろ…?なんで僕が仰向あおむけに倒れてるところにぴったり永遠の柔らかい体がうつぶせに重なってるんだろ………。


 どうしよう…。真っ暗なのにはっきりとわかる永遠の位置と輪郭線。なにも見えないのに伝わってくる永遠の感触…嬉しい状況のような地獄のような…。


「…ッつつ…あぁ…」


 黙ってると聞こえてくる永遠の息遣い…。その度に僕の顔に彼女の吐息がかかる…。それだけで彼女の口と僕の口が近い位置にあることがわかった。


 でもこの状況のままただ黙っているわけにもいかず、僕は彼女に呼びかけることにした。


「ね、ねぇ永遠…ど、どうする…?これから?」


 僕がそう言うと、彼女にも僕の位置がわかっているのか眼前からの声に驚くふうもなく、ただ冷静に言ってきた。


「ごめん、動けそうもないよこれ…」


「え…?」


 う、動けない…?何故ですか!?このままの状況ですといろいろまずい事態に陥るんじゃ…?また内なる自分の出現を抑えろと、そう言うことですか……。


「あのね、なんだか体の上に何か壁みたいにびくともしない棒がつっかかってて、起きあがれないの……」


 不安そうに震えた吐息が僕へとかかる。でも…起きあがれなくて体は密着してるのに顔は重なっていないと言うことは、彼女は海老反りのようなかなり疲れる体勢で横になっていることになる。


「永遠、その体勢結構疲れるんじゃない…?」


 素直にそう言ってみた。すると永遠は明らかに表情を赤らめたような口調で返してきた。


「イヤ、だってこのまま月夜に体を任せちゃったら大変なことになっちゃうじゃん………」


 彼女も僕と同意見だったようだ。でも永遠の体はさっきからしてみれば明らかにプルプルという震えが強まってきている。


(このままじゃ永遠が保たないな…)


 そう思った僕は自分の頭を少し横にずらし、永遠の背中を左手で押さえながら右手で頭をずらした僕の頭の隣に持ってこさせた。結局抱きしめるような形になっちゃったけど……。


「なッ!?えぇッ…!?」


 永遠は、僕の行動の意味が分からなかったのか、戸惑う声を上げた。それに僕が落ち着かせるように静かな声で言った。


「こうしてる方が楽でしょ?僕のことは気にしなくていいから体重かけてもいいよ…」


 僕の頭の隣でコクッと頷くのがわかった。彼女が理解してくれる心の広いお方で助かった。




 落ち着いた。ホントは大声で助けを呼べばいいんだろうけど…この2人重なった状況じゃなんか誤解されちゃいそうだしなぁ………まぁそんなこと言ってる場合じゃないのかも知れないけど。


(はぁ〜、これからどうしたらいいんだろう…)


 すると、永遠の震える声がした。


「ご、ごめんね…月夜までこんな目にあわせて…」


 僕は彼女を安心と落ち着かせるつもりで声をかけることにした。


「イヤ、逆に僕が一緒で良かった。永遠ひとりで、もしこんなことになってたら大変だろうから…」


「う゛、それは…一理ある…ありがと」


 こんな時は、やっぱり永遠も女の子なんだなぁと思ってしまう…不謹慎ですね…すいません………。


 こんなこと思ってるなんて永遠に知られたら殴られるだろうなぁ…そんな事を思ったとき立て掛けられていた結構重そうなものが金属の壁を“ズザザァァーッ”と、鈍く重い音をたてながらスライドし、床に倒れて僕の顔の横に来た。それが倒れた瞬間、更に薄い金属板が床に落ちたような甲高かんだかい音まで鳴り響いた。


 暗闇に慣れてきた僕の目はその倒れたものを捉えるなり…戦慄した。僕の顔の横に倒れたそれは………先程も目にしたなただった。さっき見た時より背中の寒気が増してる。


 更に上空からの落下物………これまたさっきのペンキ缶だ。“カンカラカン”と気持ちいいくらい響く音と共に、多少入っていたのか、赤色の塗料が僕の髪の一部や鉈の上へと飛び散る。


 その代物はまるで、ちょうど人殺し帰りの手土産てみやげのような仕上がりだった。見てるだけで恐怖感を覚える…。


 その凶器じみた出で立ちの刃物が視界に入ったのか、さっきまでおとなしかった永遠の体がワナワナと震えだした。そしてどんどん震えが強まっていく。


 それは、身震い程度でもガクガクでも無くなった…心の底からの恐怖。まるで刃物で斬られた人間が死を待つだけの状況のような大袈裟おおげさな震えだった…。


「い、いやぁぁぁぁぁッ!!」


 震えと共に耳をつんざくような永遠の悲鳴が聞こえた。彼女に何が起きたんだ…!?


「と、永遠!?どうしたの…お、落ち着いてよ永遠!!」


「やだ、やだ…死にたくないッ!!死にたくないよぉッ!!」


 永遠の目の焦点が合ってない。暗い中でもそれがわかった。今の彼女は異常な程取り乱していて確実に正気じゃない。


「いやだよぉ…いや、死にたくないッ!!」


 どうしたらいい…?僕はこんなに苦しそうに叫び続けている彼女に何ができる…?イヤ、そんなこと考えている場合じゃない…。とにかくどうにかしてあげなきゃ…!!


 僕は以前泣きわめく女の子にそうしたように、ギュッと抱きしめた。彼女の暴れる体を抑えながら…必死に心を落ち着かせようと抱きしめた。彼女がいつまでも暴れるつもりなら、それが落ち着くまででもずっと続けようと思いながら抱きしめた。


「大丈夫…君は死なない…だから…大丈夫」


 彼女が泣いている理由などさほど知らない、そして彼女が死ななければいけない理由も死なないという根拠もない。でも、イヤだから…誰かが死ぬのは、もう会えないという気持ちに陥るのだけはもうイヤだから…。


 別れる理由も聞かされていない、割り切れない思いを抱かなくてはならないのはもう…イヤだから。




「はぁ…………はぁ………」


 倉庫内には、彼女の静かな息遣いだけがこだました。どうやら落ち着いてくれたようだった。




 この後、あんまり僕らの帰りが遅いと思った陽泉が倉庫の扉を開けてくれた。その頃になると永遠はもう眠りについていて、僕は自力で永遠を地べたに横たわらせて僕達の動きを制限していた棒を退かすことに成功していた。おかげで変な誤解を招くことは…あまり…無かった…かな…。


 まぁ、後で陽泉に「あんな暗いとこでな〜にしてたのかなぁ…?」なんて言われたけど…。


 それにしても…。何が彼女をあんな状態にさせたんだ?やっぱりペンキが落ちてきた後だから凶器のような鉈を見たからかな…?でも“死にたくない”って……。いったい彼女は過去にどんなことがあったんだ?


 そんな疑問が僕の脳内に響いて離れなかった。




 当然僕は知らなかった。それは、どこかここじゃない遠い世界での…哀しく消えた命の灯火ともしびだったことを。




前半はほどほどなコメディー、後半は謎の残るミステリーテイストです。永遠の方にも謎は残るばかり…。最後の(あお)りも全くの意味不明なものになってしまいました。


でも悔いはありません。これからの展開で絶対に明らかにできますからね!イヤ、強がってないですよ…きっと、大丈夫ですから。皆さんも推理してみてください。月夜たちの過去、それに夢や、煽りの部分の意味について…。


*次回予告*

いよいよ全体での総合学習開始!!月夜の予習の成果は?ッというか、すっかり忘れてた方も多いでしょうが、あの本の著者は諸葛亮もろくずりょうですよ。


感想や意見、誤字脱字の訂正や辛口コメントも募集しています。


potato先生、感想ありがとうございました!!感激です!!

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