第1話:いつもの友達
(もう朝か…)
ボーッとして、ベッドで横になったまま目をこすりながら瞳に光を差し込んだ。おぼろげな光がどんどん大きくなっていく…。
「遅い!」
「うわっ!?」
いきなり発せられた大声に驚き、勢いよくベッドから転げ落ちた。寝起き後の頭の中は真っ白だった。
そしてようやく頭が正常に働きだしたころに僕は言葉を発した。
「びっくりしたぁ…。いきなり驚かさないでよ李凛」
「だって月夜ってばいくら呼んでも叩いてもなかなか起きないんだもん」
この朝から元気で声の大きい少女は観籍 李凛。僕の幼なじみで随分と小さい頃からの友達…いわゆる幼馴染みだ。
僕の家の近くに住んでいて、昔から元気で言いたいことははっきり言うタイプだった。おかげで話していて退屈はしない。
彼女の家は神社の管理をしていて、彼女自身は神社の巫女として手伝っている。スタイルがいいため、彼女の巫女姿を一目見た男子は……まぁ、僕が知る限りお年頃世代は全員一発でオチた。僕がその男子の中に入るかどうかは……内緒にしとこう。
なんといっても目をひくのはその赤みがかった髪だ。彼女本人も困るほどの癖っ毛で、毛先のところどころがひょこひょこ跳ねている。
そんな偉そうな人物説明をしているのは、僕、緘森 月夜。両親はいつも仕事が忙しいらしく、正月すらまともに帰ってこない。それをかわいそうに思ったのか、毎朝のように李凛が僕の家まで起こしに来る。好意でやってくれてることだとはわかってるものの、たまに(今のように)ちょっと迷惑にも思ってしまう。
「それで、どうやって入ってきたの…?」
確かに昨日、玄関の扉には鍵をかけたはずだ。僕が知らない秘密の入り口でもない限り入れないはずだけど…。
「鍵ならあたしの家にあったよ。」
は?何を言ってるんだこの子は?僕の家の鍵が他の家にあるわけが…。
「結構前にあたしたちの両親同士が緊急用にって交換してたの。今までみたいに玄関や家の前からガンガン叫ばなくて済むでしょ?」
「なるほど、うちならありそうなことだね。で、今はその緊急時なわけ?」
親の行動、そして目の前にいる女の子の、法をかえりみない行為に半ば呆れつつ問いかけた。
「トーゼン!もうちょっと熟睡してたら遅刻するよ?これで先生に悪印象与えなくて済んだでしょ」
やはり感謝の念が絶えない。起こし方はともかくその気持ちは嬉しい。
「じゃあ支度するから居間ででも休んでてよ」
「正直に着替えを見られるのが恥ずかしいですって言ったら…?」
(そりゃまぁそうだけど…っていうかそれが普通なんじゃ?着替えを見られたい人なんていないだろうし)
…っとと、ほんとに遅刻しちゃう時間だ!急いで制服に着替え身支度を整え、李凛が焼いてくれたトーストをくわえて通学路をダッシュ!!
「「っはぁ……〜はぁぁ…はぁ〜…」」
僕と李凛は教室に着くなり机に突っ伏した。ヤバい、死ぬほど疲れた…。相変わらず李凛の足の速さは尋常じゃない。僕はついて行くのがやっとでここまで来た。ほんとに遅刻しそうな勢いで時間が迫ってきていたからなお必死だった。
「よぉ、相変わらず仲良く登校か?」
虫の息の僕たちにそんな生意気そうな声がそそがれた。間違いない、陽泉だな…。そんな事を考えているとその声の後ろからもう一つ声が聞こえた。
「大変だねぇ朝から…」
このチクリと刺すような声は永遠だ。
先に声をかけてきた男は青旦 陽泉。他人をからかうことが好きで、よくからかった李凛や永遠から拳を振るわれている。いい加減やめればいいのに…。身長は僕より少し大きいが、少々子供じみた感がある。
ちなみに、陽泉の両親も神社の管理をしている。李凛の神社とはもともとひとつだった。でもなぜ陽泉の“青旦神社”の方が本社なのに分社である李凛の“観籍神社”の方が大きいのかはわからない。
そして後から来た女の子は真札 永遠。基本、口調が悪い。それに自分が心の中で思ってることを素直に言えないタイプだ。黒髪のショートカットでいかにも活発そうなイメージを与える。
そんな2人に僕は息を整えながら返してあげた。
「それにしても、そっちも相変わらずだね」
そう、たいてい永遠と陽泉は僕らより早く登校していて、2人で話している。…まぁ話すといっても2人の場合は陽泉がからかい、永遠がそれにキツイ口調で突っ込む…といったようなものだ。
「ちょっと、こんなやつと『そっち』なんて言葉でひとくくりにしないでよね」
永遠がいつも通りの強い口調で言い放った。それに少々圧倒されながら、僕はまだ続けた。
「ごめんね、でもいつも2人とも楽しそうだから」
ちょっとからかい気味の口調になってたのかもしれない。でも、僕がそう返すと彼女は怒った……いや、慌てたのか顔を少し赤く染め、更に強い口調で訂正に移った。
「バカ!罵りあって楽しい人がどこにいるわけ!?」
「そこで慌てるから誤解されるんだよ。こっちとしても、誤解される相手がお前なのはちょっと困るからな。」
陽泉は冷えたからかい気味の声で永遠に言った。その言葉に反応し、さらに熱くなる永遠が大声で言い放つ。
「なんですって!!」
永遠が拳を交えながらマシンガンのようなスピードの罵声を浴びせると、陽泉は涼しい顔で、彼女をやり過ごしていた。
(ヘタしたら人間業じゃないよな…これ)
心の中で苦笑し、そのやり取りを見ていた李凛と不意に目が合い、一緒に微笑んだ。
朝からとりとめもない会話を続けていると、すぐに午前中は過ぎて行き、今日はテスト直前ということもあり、午前のみで放課となった。いつも通り帰路の同じ李凛に一緒に帰ろうかとこえをかけたが…。
「ごめん、今日はちょっと用事があるから…」
と言われたので、一人で帰ることにした。
学校を離れ、1人海岸線沿いの歩道を歩く。
(朝も通ったはずなのになんだか今日は初めて海を見たような…)
朝は周りの風景を楽しんでる暇なんてなかったためだ。ここまで晴れ渡っていると気持ちがいい。
「ちょっと、下りてみようかな」
僕はそう呟くと、歩道からコンクリートの土手の間にある階段を下って砂浜まで歩いて行き、しばらくその場に座り込んで海を眺めていた…。
何も言わず、何も思わず…。こんなのんびりした時間が好きだ。ボーッとしてる時間はただただ何も無い、素敵な時間…そう思う。そして何より、僕はこの色が好きだ。空の、海の、他の景色(太陽や雲、僕自身まで)まで染まってしまうかのようなこの瑠璃色が…。
ふと我に返ると、海岸線沿いにあるものがみえた。
(人……?何してるんだろう?あんなに波打ち際に突っ立って)
なぜか気になった。
僕が視点を合わせている髪の長い少女はただずっと、海(またはその向こう側)を見つめていた。
気がつくと、僕はその少女の方に歩き始めていた。
それは少女が夕陽できれいに見えたから…?知り合いだと思ったから…?それもあるかもしれない。でも少女はただ海だけを見ていた…そう、しばらくするとそのまま海に吸い込まれるように、海中へと歩み寄って行きそうだったからだ。
「何…してるの?」
歩いていたと思ったら、いつの間にか少女の近くまで来て語りかけていた。
いきなりの声に驚いた気配もなく、少女は、ゆっくりとこちらを振り向いた。
(あれ?うそ…まさか?)
僕の方が驚いてしまった。だってそれは、僕が話しかけたその子は…………
*次回、月夜が出会った少女の正体とは!?
…って調子乗ってみました…すいません。
長々となりました…。序章とえらい違いです。
短いのが好きな人はごめんなさい…。でもこれからはこんな感じで進めさせてもらいますんでどうぞよろしく…。
なお、感想や評価など、どんどんくれればうれしいです。辛口コメントや誤字脱字なども歓迎なのでそちらもお願いします!!