第18話:本音
「君たち〜…結構ヒマしてんじゃな〜い?」
………なんだ?急に。
総合学習の調べ物だったり、謎の人物だったりで頭の中がゴチャゴチャしたまま終わった昨日から一夜が明け…今日は朝から剣術に精を出す中、いきなり永遠が怪しげな口調で近寄ってきた。
「ど…どうしたのさ永遠……」
普段は絶対聞かない永遠の酔っぱらい口調がやけに耳に響いた…。いったい彼女に何があったんだ…。そう思って控えめに返事をしてみた。
「どうしたよ、朝から気色悪い声出しやがって…」
陽泉も同意見なようでストレ−トにつっこんでくれた。道場でそんな声を聞いたんじゃ練習にも試合にも集中できない。
「ウッ、うるさいなッ…あたしだって出したくてこんな声出したわけじゃない」
頬を赤く染めて言い放った永遠。なら出さなければいいのに…。
「じゃあなんなんだよ…」
いい加減本題に入って欲しいのか、陽泉はだんだんイラだったような口調に変わってくる…。
「あのさ…ウチでバイトしない?」
「「……はい?」」
…と言うことで、僕と陽泉は海に来ていた。ビーチには真夏のレジャーに胸躍っているカップルや家族連れで溢れかえっていた。
「いやぁ…悪いねぇ、こんな暑い中手伝ってもらっちゃって」
「いいっていいって父さん。 どーせ万年ヒマな2人なんだから」
「手伝わせといてそんな言い方無いでしょ永遠…」
「そーだぜ、男手がどうしても欲しいって言うから来てやったのに。こうなったらバイト代どこまでもふんだくってやるからな!!」
永遠曰く、『海の家を出すから力仕事の方を手伝って欲しい』そうだが…。陽泉は早くもやる気にさせられてしまったようだ…。
海の家『エターナル』…どうやら永遠(=エターナル:英)のことをイメージして永遠の父親がつけたらしい…。バイトとしての従業員の数は揃ってるらしく、僕と陽泉は倉庫から店へで荷物や商品の運び入れ&整理だそうだ。
「しっかし、こんなにみんなが楽しそうにレジャーしてるってのに…俺たちだけこうして仕事ってのも酷な話だよなぁ…?」
焼きそば用のキャベツを段ボールいっぱいに詰め込んでる陽泉が言った。見てるだけでも疲れる中腰の体勢で、もう疲れた風な顔をしていた。
「仕方ないよ。永遠だってなんだかんだ言いながらああやって手伝ってるじゃないか…」
僕が店の中の方を見やると、そこには明るく接客している永遠の姿があった。この暑い中人一倍忙しそうに動き回る彼女の頬には、大変さを表す光の雫が見えた。
ふと、陽泉の方に向き直ってみると、なんだか惚けた顔でボヤ〜ッとした目をしていた。視線の先には永遠の姿が見える…。見とれちゃってるのかな?
「どうしたの、陽泉…?」
すると陽泉は、呟くような小さな声で漏らした。
「アイツ、俺らより絶対金回りいいよな…?」
(お金の話かよ…………)
僕は呆れてものも言えず、黙々と運び込み作業を続けることにした。陽泉も僕より働いて多く収入を得ようと奮闘していた…。こんなにお金に執着するヤツだったっけ…?
(しかしこの倉庫…なんだってこんなにいろいろ置いてあるんだ?)
僕は改めて倉庫を見渡してみることにした。倉庫の中は暗くて狭い空間なのにいろいろなものが所狭しと並べられている。埃っぽくまではないが食品の他に鉄板やら真っ白な立て看板やら工具やら……鉈!?なんでこんな所に!?
よく磨かれてギラギラした金属特有の光沢。急に背中に寒気が走った。なんだか恐ろしい空間に入ってしまったようだ。
上を見上げて一層そう思った…。僕の身長の2倍足らずの付近に設けられた棚に多数置かれたペンキ缶…。まさか入ってたりしないよな、ペンキ…やけに見事なバランスで積み上げられてるけど。
そんな事に気を取られているうちに、
(…?急に静かになったと思ったら、陽泉はどこに行ったんだ?)
キョロキョロ見回すが姿はない。倉庫の中は暗いが、扉から多少なりとも光が入ってるので見える程度には視界が開けてる。扉を完全に閉めたら真っ暗になるんだろうな………。でも今倉庫の中は充分見える、中に陽泉がいたらわかるはずだ。中にいないってことは外かな…?
そう思ってるときに現れた人影は見覚えのあるショートカット…永遠だった。
「陽泉は…?」
僕が単刀直入に訊いてみる。
「今休んでる。月夜も休んだ方がいいよ、お昼になると混んでくるし、それまでには体力温存しといてもらわないと」
「そうか、わかった。じゃあここら辺の整理があらかたできたら休ませてもらうよ」
「じゃあ、あたしも手伝うよ。2人でやった方が早く終わるし」
「うん、ありがと…」
2人でやると早いもので、1時間近くかかると思われた整理が、ものの20分程度で終わった。
「ありがと、助かったよ永遠。おかげで全然早くできちゃった」
「ううん、あたしから誘っておいたんだからお礼を言うのはあたしの方だよ…」
僕の言葉を、永遠はにこやかな笑顔で返してくれた。そして、僕達はしばしの休憩を味わうため、店の休憩室へと向かおうと扉の方へ向かった。
ふと…何故か頭の中から消えかかっていたあの夜の光景が思い出された……。布団で横になる陽泉…それに添い寝するかのように陽泉の布団の横に寝そべって、陽泉の手を握る永遠…。僕はあれがどうも引っかかっていた。
彼らの様子を見る限り付き合うとかいう段階ではないようだが、何故かあの2人からは普通の友達や、男女とは違う何か…“運命”、“因果”…そんな言葉が似合うような雰囲気が感じられる。
そして、そう考える内にあの夜のことを永遠から聞き出したいと思っている自分に気がついた。僕が口を挟むことでもなにもない。好奇心?野次馬根性?…そんなものじゃない。でも確かに、僕は知りたいと思っていた。
「あのさ、永遠……」
永遠が倉庫から出て行こうと扉に手をかけたときに僕は永遠の名を呼んだ。
「ん?なに…?」
振り返る永遠、なんでもないいつもの風景。でもそれが一瞬、いつの間にか僕の手の届かないようなところにいた気がした。
「イヤ、あの…やっぱ…なんでも、ない………」
ハキハキとした永遠から見れば、あまり好きとは言えないであろう曖昧な返答をしてしまった。
「男なんだからはっきりしなさい…!何かやらかした?…ッて違うか、月夜ならそんな事したら正直に言うと思うしね」
疑ってるのか信頼してくれてるのか…。どっちだかよくわからない発言をした永遠は、僕をまっすぐ見つめていた。僕はそんなとをの視線に応えようとした。
「あの…さ、陽泉って良いヤツだよね……?」
「は…?」
自分自身で思う…“情けない”。彼女の心の内を明けられるのが恐かった。敢えて遠回しの言い方をしたのは、永遠の陽泉に対する想いを本当は認めたくなかったから?李凛にはあんなにあっさり想い合ってるだろうって言ってたのに…。
「ま、まぁいいヤツでしょ?陽泉も…。人のことからかってくるくせに真剣な場になると自分も必死に物事の解決に突っ走って行っちゃって…。その場の流れをコントロールするのが上手いって言うのかな…?」
そうつらつらと陽泉について話し出す永遠を、僕はどんな心境で見てた?無心でまっさらな心ではなかった。陽泉の正確を言う永遠の意見は正しいものだったし、じゃあ、僕の胸の内に潜むこのわだかまりはなんなんだろう?
そう自分自身に疑念を抱いたその瞬間………僕らの視界は闇に覆われ、気付けば地べたに倒れている状態になってしまっていた……………
全くバイトメインの話じゃありませんでした。基本的に倉庫の紹介と月夜の心境状況の説明だった気が…。まぁ、ややこしい感情が交じるのは恋愛ならではの…いわゆる、恋の病?それについて語る資格事態あまりないですけどね。
*次回予告*
月夜と永遠を襲ったのは闇の世界…。彼らに起こるのは悲劇か!?はたまたドタバタ劇か!?コメディ好きな人の期待はきれいに裏切る形になるかもしれません。ご覚悟を。
評価、感想、誤字脱字の指摘や辛口コメントまでどんどん下さい!!皆さんの意見なども聞いてみたいものです…。
これからも頑張りますのでよろしくお願いします!!