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第17話:白き訪問者

 う〜ん…久しぶりに静かで平穏な朝だ。昨日までは李凛が起こしに来たり変な夢を見たりでいろいろ不自然極まりない朝を迎えていた。まぁそれが僕の日常だからって言えばそうなんだけど……。


(それにしてもやることがない。どうしたものか………)


 とりあえず朝食を済ませ、宿題をやるわけでもなく、おもむろに外に出てみた…。


「ッつぅ〜………」


 お空はご機嫌なようでどこまでも青く広がる快晴。あまりの明るさに目がやられてしまいそうだ…。大きくて強い光で照らす太陽の眼下には、朝にも関わらず陽炎(かげろう)が上るコンクリートの床にお似合いの暑さだ。


「…と外に出てはみたものの、これからどうしたものかな」


 そう呟いていると、何故か自然と足は学校の方へと向かっていた。




 学校に着いてみても、僕の足は止まらず…そのまま図書室へと足を運んだ。


 この学校の図書室……図書室というと結構日当たりが悪かったりなんとなく古紙のにおいが鼻を刺激するところだが…。


 ここはなんとも開放的な気分で満たされる仕組みになっている。日差しが入っている方向一面が見えない壁――ガラス張り――でほとんどが覆われている。この日差しで室内が熱せられているかと思えばそうでもなく、ちゃんとクーラーで読書に快適な温度に保たれている。


(さてと、何しに来たんだ僕は…?)


 そう思っているとふと考えついた。この前の勉強会で未来ちゃんが口にしていたこと……。


「たしか…日蝕(ひばみ)伝説…」


 その伝説に関係した書物を探してみることにした。みんなと話し合って決めた調査開始の予定日にはまだ日にちがあるが、まぁいいだろう。


 ………と言っても受付(カウンター)に立っている図書委員に訊いてみても「わかりません」、「調べてみるので少々お待ち下さい……」と、なんだか先行き不安な滑り出しになっている気がする。


「えぇっとですね…あちらの棚に1冊と…そちらの棚にも1冊あるようですけど……」


 と微妙な受け答えで迎えられてしまった。指示された棚の方を見ると、始めに指された棚には“歴史書・架空伝説”のコーナー、後の方には何故か“小説―モダン”と書かれた表示が…。


(………モダン?)


 有り得ないでしょ…。だって伝説だよ?仮にも…。結構昔のことなんじゃないの?こーゆーのって。文書タイプが現代風って事なのかな…?小説だし。


 あれこれ考えるのは後にして、とりあえず伝説のコーナーの本を机まで持ってきてパラッと流し読みしてみる。歴史書(伝説のまとめ本)にしては薄めな感じだ。


 パラッと見た感じだが、そこそこ見やすいレイアウトなので、この本の構成自体はすぐ飲み込めた。


 “日蝕伝説”…まるっきりドストレートなタイトルのこの本は、前半部分で伝説の詳細事項、後半部分では伝説とそれにまつわる人々の話についての著者の見解と意見をまとめたものだった。


 僕は更に前半部分をわりかし集中して流し読んでみた。そこには、長々(ながなが)と難しい言葉が(つづ)られていたものの、内容を要約するとこの間未来ちゃんが話してくれたものそのままだった。


 日蝕が起こると、世界が闇の世界に包まれ、妖怪達が人々を喰い散らす…。


 すごく簡単にまとめるとこんな感じ…。残酷な描写などがあったが…みんなより先に読んでおいて良かったかもしれない。李凛や未来ちゃんにこんな文章見せたら逃げ出してしまいそうだ…。


(それにしても…)


 こんな伝説を本にして出すなんて、物好きな人もいたもんだ…。そう思って著者の名前を見てみると…“諸葛(もろくず) (りょう)”。思った通り、聞いたこと無い文学者だ。ただ歴史上の人物と漢字が同姓同名ってのが気になっただけで…。


(あの天才軍師が…まさかね)




 気がつけばもう昼時を過ぎてすっかり陽が高くなっていた。僕は2冊の本を図書室から借りて、家に持ち帰ることにした。念のために持ってきた薄手のトートバッグに入れて。




「お腹すいたなぁ…」


 帰り道で呟いた。通学路となっている海沿いの歩道から坂道を上がり、半分山くらいのところに建つ自宅を目指していた。すると、こんな昼間からサッカーボールを1人で蹴って遊んでる男の子がいた。


 公園の中で無邪気に走り回っている。なんとも平和な光景だ。僕はそんな男の子に心を和まされながらも公園の横を通り過ぎようとしていた。


 すると、サッカーボールが僕の目の前を通り過ぎていくのが見えた。さっきの男の子のかな?そう思ったとき、僕の予想は当たり、男の子が僕の今いる道路の方に駆けてくる…。その刹那、平和はあっけなく…突然にぶちこわされた。


“パッパーーーーーッ!!”


 車のクラクション…車の目の前へと姿を現していく男の子…。僕の頭の中は真っ白になっていた。だが、ただ突っ立ていただけじゃない…僕はその男の子の方へと全力疾走していた。



 迫る車…!!立ちすくむ男の子…!!僕はその男の子の体を抱え込むと、公園の敷地の方向へとダイブした………。


“ズザザーーー”


 砂塵さじんと共に僕の体が横向きに地を這う………


「あっぶねーだろッ!!気を付けろッ!!」


 自分より小さな体を抱きしめて横たわる僕に、そんな怒声と遠ざかるエンジン音が響いた。


 僕がゆっくりと体を解放すると、男の子はじっと立ったまま僕を見つめ続けていた。その瞳にはうっすらと輝く膜が張っている。


「だいじょ…うぶ?」


 地面に体を寝かせたまま疲労感と脱力感から、苦しそうな声で呼びかける僕に…男の子はただ、コクッ、コクッとうなずくばかりだった。


「これからは道路に飛び出さないよう気を付けるんだよ…。わかったらお母さんのところに戻るんだ。いいね…?」


 コクッ。もう一度うなずいた男の子は、急いでその場から立ち去っていった。




 さて、どうしよう…。別に接触したわけでもないし死ぬ心配はないだろう。でも極端に体力がない状態であんな超反応能力なんか使ったらイヤでも眠い…。このままここで寝るのもみっともないしなぁ………。


 そんなことを思っていると、目の前に手が差しのべられていた………。


「こんなところで力尽きる気かい…?さぁ、立って」


 そんな優しくて透き通りそうな声が聞こえた後、僕は差しのべられた手に捕まり、なんとか立ち上がることができた。


「あ、ありがとうございます…」


 そう言って僕は声の主を見た。スラッとした足と細い体格。でも僕よりも陽泉よりも高い身長はいかにも理想的なモデル体型と言ったような出で立ちの男性だった。一番目についたのは髪…。一見まとまっているのか無造作なのかわからないようなフワッとした白髪(はくはつ)…。


 ニコッと優しく微笑む姿からは心の中をいくら読み取ろうとしても受けつけないような落ち着いた雰囲気と、穏やかなオーラをまとっていた。


「いやぁ見事だったね、驚いたよ…救ってしまうなんて」


 声色(こわいろ)は雰囲気に似合ったように穏やかで、さほど力も入れずに発音しているのか、まるで空間に溶けていってしまうかのような声だった。


「見てたのに助けなかったんですか…?」


 少し信じられなかった。目の前に消えかかっている命の灯火があったのになんの行動も起こすことの無かったこの人を。


「僕には君みたいな反応はできないよ。体力にはそんなに自信がないんだ」


「イヤ、それにしたって…」


 目の前の救える命を諦めるのは酷すぎる…そう言おうとしたとき、今度は自信満々そうな声で言われた。


「それに僕は、君があの子を助けられると信じていた…」


「え…?」


「君はあんな事どうって事無いはずだ。それに君自身の命がそう簡単にがれることもない…君は“迷える神子みこの剣”なのだから………」


 それってどういうこと………?


 問おうとしたとき、急に強風が僕の足下から吹き上げてくるように吹き付けた。それに驚いてしまい、思わず目を覆ってしまった。


 6秒ほど吹き続けていた風が凪ぎ、目を開けた頃にはさっきまで目の前に立っていた男性の姿が消えていた。


 ただ…風が吹き付ける中、僕には聞こえたような気がした……………




“焦ることはない…ゆっくりと答えを見つければいいんだよ。僕は亮…諸葛もろくず りょうだ、よろしく…。なに、そのうちまた会えるよ…それが僕達の運命さだめなのだから………”




 雲のように浮かんでは消え去るような…そんな穏やかで空に溶け込んでいってしまいそうな柔らかな声が………





 さぁさぁ謎の男性諸葛亮(もろくずりょう)の登場です!!

※尚、このキャラクターは三国志の蜀軍丞相『諸葛亮孔明』とは一切関係ございませんのでご了承下さい…。


 悩みました…。この新キャラをホントに登場させるべきか…。でもあえてこのキャラを出すことで物語が深みを増すと思うので、これからもよろしくお願いします!!


*次回予告*

 刹那の出逢い……。果たして諸葛亮とはどんな人物なのか…?次回、その謎に……せまりません。

 次回は海の家でのバイトです!作者の気分次第でお色気も出したいとは思いますが……どうなる事やら。


尚、感想、評価、誤字脱字の修正や辛口コメントまで…送って欲しいものです…。お願いします!!

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