第16話:この歳になったら…
…うん?ここは……岩場?
前には砂浜…僕は比較的丸い岩にもたれかかって眠っていたらしい…イヤ、気絶してただけか…。
意識が覚め、完全に目が開いたところで僕は体を起こそうとした。すると、何か肩に重みがあることに気付いた、ふと見てみると…うっすら赤い癖のある髪、李凛の姿だった。
僕の肩にもたれかかってかわいげのある寝息をたてていた。起こしてしまうのも悪いので、このままの体勢で空と海を見つめていた…。
こんな風にしてると恋人みたいに見られるのかな…?でも、悪い気はしなかった。確かに李凛はかわいい部類に入ると思うし正確もきさくで話しやすい…こんな子が隣にいる毎日は楽しいものだ。
でも、好きという感情となると少し自分に疑念を抱いてしまう。
これを好きって言うのかな?まるで人間の感情を知らない人工知能ロボットのようなことを考えてしまう。意識したことがないというと少しずるい言い方になってしまうかもしれないけど…これまで僕は僕の気持ちをあまり深く考えようとしなかった。
「う、う〜ん…」
そう考え込んで下を向いていると、李凛が寝起きの一声を上げた。どうやら起きたみたいだ…。
「あ、月夜…気がついたんだ…良かったぁ」
「もしかして、僕をここまで運んでくれたの…?」
「大変だったんだよ…腰がつっちゃうかと思った…」
そんな愚痴をこぼす李凛に謝罪と感謝の一言を述べ、恥ずかしい体勢のままであることを認識…僕たちはそのままどうしていいかわからず、とりあえずそのままの姿勢で顔を赤く染めていた。
「月夜、もう少し…このままでもいい……?」
「う、うん…もちろんいいけど……」
なんだか甘えたような声で言う李凛は妙に新鮮で…変に意識してしまった。
………その後も僕達は特に話すこともなく、なんとなくギクシャクした雰囲気で座り込んでいた。別にそれほど時間が経っていなかったのかもしれないが、僕はおさまらない鼓動のせいかもう何時間もこのままのような気がして…息が詰まりそうだった。
「それよりもさぁ…」
李凛の声には妙な落ち着きが感じられた。なんだか僕と2人ッきりで話すときはいつもの元気な声とは違う雰囲気を出すような気がする。
「何…?」
僕が李凛の話を伺おうとして声を出すと、李凛は続けて話し出した。
「未来や永遠をあっちに放ってきて良かったのかなぁ…?」
途端にふざけた小悪魔のような声になる李凛に僕は首をかしげながら「何が…?」と再び問うてみた。
「陽泉なんかと一緒にしておいて良かったのかなぁ…ッて事だよ」
「…?どういう事?」
まだ李凛の話の意図がわからなかった…。陽泉と一緒にいるのは僕ら5人が集まっていれば普通のことだ。特別なことでもなんでもない。
「イヤ、急にこんな話するのもなんなんだけど…。陽泉って、どう見ても永遠のこと好きじゃない?」
僕は特に驚かなかった…。それどころか肯定の言葉が生まれる。
「そうだね、それに…きっと、永遠も…同じふうに想っていると思うよ。でも、2人とも素直じゃないから」
前からうすうす気付いてはいたことだ…でも、陽泉はなかなか他人にそんなところを見せるような人じゃない。
ただ…決定的だったのは………この間の夜、2人が手を握り合って陽泉は布団の中で、永遠は外で眠っていた光景だ。李凛にはこの事を言ってはいないが、確かに李凛も確信しているようだった。
「じゃあ、月夜君はどうなのかな〜?」
再びからみつくような声でからかったてくる李凛は、更に続けてきた…。
「あたし的にはぁ…未来か、永遠だと思ったんだけどな。もしも永遠だったら、ライバルが居ますよ?無二の親友がライバルとは…熾烈な闘いだねぇ」
「イヤ、でも…僕は…」
「いないとか言い出さないでよね…?この歳になったら、好きな人の1人や2人いて当然なんじゃない……?で、どっち?」
(僕は…どうなんだろう…李凛や永遠は昔からのつきあいであまりそういう形で意識したことがない…。なら未来ちゃんは…?
この前、彼女を抱きしめたときの僕は何を思ったのかな…?哀しみ?憐れみ?もしかして愛しいから…?
疑問点をあげたらキリがない…)
ま、まぁ難しいことは後で考えようかな…。
「勝手に人の想ってることを限定しないでよ…。じゃあ、李凛はどうなのさ…?」
僕は思わず質問で返すというずるい手段に出た。その反撃に驚いたのか、李凛は急にカァッと紅潮した頬に合わせて激しく慌て始める…が、それも無駄だと思ったのかおとなしくなって言った。
「あ、あたしは………」
「黙ってるってことは、いるって事………ですか?」
気になる。でも気にしないような素振りを見せて、落ち着いたふうを装いつつも茶化してみた。その後も僕は続ける…。
「この歳になったら好きな人の1人や2人…」
「……………」
こんなに追い込まれてうつむいてるばかりの李凛も珍しいと思ってついどこまでもからかってしまった。
「ははははは………」
ついおかしくて笑った…。人を茶化すことでそうなってしまうことにちょっと罪悪感もあるが、なんだか普段と違う一面を見ることで満足してしまったのかもしれない。
「つ〜く〜よ〜………!!」
僕の肩から軽い重量感がなくなったと思ったら、つい先ほどまで僕に委ねていた頭が今度は僕の顔のすぐ目と鼻の先まで接近していた。
「やば…」
そう呟いた僕は李凛の体をトンッと振り払い、全力疾走で海の方へ走り、ダイブした。なんとも我ながら速い。
「コラ待て〜〜〜!!」
まぁ自分に非があるのもわかってる、後ろから激しい怒声が聞こえてくるのもわかってる。でも止まらなかった。なんだろう…楽しかった。こんなに晴れ晴れした日に追いかけっこ。騒がしいもののとにかく楽しい思い出…。
まぁそんなにほのぼのしている間もなく、李凛に追いつかれないよう全力で海を泳ぎきって永遠達がいる浜辺にそのまま突き刺さって結局李凛にシメられた…。
「久々に思いっきり泳いだ〜」
全く疲れの色を見せない李凛が叫んだ。あの後、結局みんなで海に入りいろいろ泳いだりしたわけでみんなクタクタだというのに…。みんなが気がついた頃にはもうすっかり陽が沈みそうになっていた。1日中あの海で遊んでたことになる…。
「どこまで底無しの体力なんだお前…」
陽泉が軽くつっこんだ。もうさほど体力も残ってないらしい。
「でも、今日はホント楽しかった」
未来ちゃんがニコーッとした笑いでいたが、なんとなく疲れが見て取れた。
「全く、充分休んだくせに…見てやってた身にもなって欲しいよ」
呆れたように永遠が言う。あれからずっと陽泉と未来ちゃんが起きるまで黙って起きてたらしい。僕と李凛も寝ちゃってたわけだし…実際、一番疲れてるのは永遠なのだろうな。
(それにしても今日は…はしゃぎすぎたかな………)
まだまだ遊び足りないのか、李凛は波音が聞こえる海の方を見ていた。そして、僕も眼下の海へ視線を落とすと…
(誰だろう…?)
海辺には…ここに帰ってくるときには見ることはなかった人影があった。無造作に広がる、雲のような真っ白い髪色の…細長い影…。
僕には、そのシルエットさえ見るのがやっとな距離なのに、その人が…こちらをニコッと見ているのがわかった気がした…。何を考えているのかわからない…何か裏があるかもしれない、でもそれを読み取ることも悟ることもできない笑顔。ただ、不思議と気味が悪くない。
気になったがわからなかった…。一瞬目を離した隙になくなってしまった影が……なんだか、僕の運命をこれから大きく変えていってしまうような気がした………。
想い合い、すれ違う永遠と陽泉…。そして、月夜の気持ち、李凛の好きな相手とは誰なのか…なんといっても最後に見えた人影とは…。
いろいろ疑問点などを残してみました。最後に出てきた新キャラこそこの話のキーマンだと考えてます…多分。
*次回予告*
夏休みに入って何もない平穏な日が訪れた月夜…。
だが、そんな月夜に悲劇が…!?(どちらかといえば月夜に起こるわけではないですけど)
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